Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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第六夜『魔京茨木縁起・海鳴の母』

 

 

 一か所に集まっていた僕たちは、早々に引き離されることになる。

 茨木の足元から噴き出した炎の奔流が僕たちのいた場所を焼き払ったのだ。

 それぞれ退避し、反撃に転じるが――やや相性が良くないか。

「合わせろ、総ちゃん!」

「は、はい!」

 紅閻魔が先んじ、そこに続く形で沖田が斬りこむ。

 しかしその刃を受けるほど、茨木も甘くはない。

 背負った炎が巨大な双剣の形を成し、実体を持って受け止める。

 清姫の操る炎の火力は茨木のそれに及ばない。

 それでも相殺する形で幾分かを消し去り――茨木への守りを薄くした。

「オラァ――――!」

 そこに飛び込む金時。

 薄くなった炎の壁を力ずくでぶち破り、雷を弾けさせる大斧を振り下ろす。

 ようやくそこで、茨木自身が動く。

 その小さな体からは想像もつかないような膂力で、骨刀で真っ向から斧を受け止めた。

「甘い! 甘いなぁ! その程度では吾には届かんわ!」

「チッ――!」

 茨木の周囲に吹き荒ぶ灼熱に、金時は後退を余儀なくされる。

 茨木本体もさることながら、あの炎がやはり問題だ。

 聖杯による膨大な魔力を受け規模と密度、威力を増したあれは、高ランク宝具にも匹敵する脅威だろう。

「……どうするかしらね」

「メルトの宝具で何処までいけるか……マケドニアの時の怪物と同じだと、かなり消耗させないと溶かし切れなさそうだけど」

「そうね。それに周囲の炎までアレの武器になるのだとしたら、流石に厳しいわ」

 都市一つを覆えるほどの規模を範囲とした真名解放ができない以上、メルトの宝具を有効に使うには相応の準備が必要だ。

 しかし、メルトは基本的に接近での戦いを得意とし、中距離以上の戦いとなると戦法がかなり制限される。

 試しに『踵の名は魔剣ジゼル』による斬撃を飛ばしてみるも、やはり茨木には届かない。

 どうにかしてあの炎を破り、本体に接近できなければ厳しいか。

「ふむ。どの道、あの炎をどうにかしないといけないネ。ミコちゃん、どうだい?」

「……アーチャーは準備しないと広範囲の殲滅には向かないわ。大砲とか持っていれば別だけど」

「生憎そんな大がかりな兵装には縁がなくてね。他を当たってくれ」

 言いながらも、アーチャーは両手の拳銃で茨木を牽制し、沖田たちの攻撃の機会を作っている。

 だがやはり、決定的な一撃には遠いのが現状だ。

「むぅ……これではアタシの本性も通らん。大口叩いたは良いがどうにもならんな、どうすればいい」

「お前は一体なんなんだ、本当に」

 キャットは……何を仕出かすか、全てが不明瞭な存在だ。

 彼女を戦略に含めるのは不可能だろう。恐らく、卓越した軍師でさえ。

「ではこのままだと打開は厳しいか……やるしかないと思うのだけど、セナちゃん、どうかな?」

「……やりたいならば、命じればいい。あと……私はそんな名前じゃない」

 ――何か、ピエールとアサシンに策があるのだろうか。

 得意げに笑ったピエールと正反対に、アサシンの表情は明るくない。

 しかし……これをどうにかできるならば、その選択に任せよう。

「では、許しておくれ。大丈夫サ、皆善良だ。キミの真実を知って何を言う者も、ここにはいない」

「……」

 アサシンを諭す声色は、まるで子供か孫かに向けられるものだった。

 右の手袋が外される。

 皺のある手に刻まれた、三画の令呪。

 その一画を、ピエールは躊躇わずに使用した。

「令呪をもって命ず。セナちゃん、宝具であの炎を撃滅しておくれ」

「何をしようと、無駄なことよ!」

 此方の様子を悟ったらしい茨木が、直線状の炎を射出してくる。

 僕はメルトに、ミコはアーチャーによって退避させられるが、アサシンとピエールはそれをしない。

 寧ろそれを迎えるように、アサシンは両手を広げる。

「え――」

 その手は、ただの人のものではなかった。

 掌から伸びている筈の指が、ただの一本も存在していない。

 透明な水の魔力が指を形作っているものの、そこにある筈の肉も骨もない。

 視界に映っているものに理解が追いつくより前に、アサシンは自身に向かってくる炎に対して宝具の真名を解いた。

 

「――『海獣母胎(ビースト・アドリブン)』」

 

 アサシンの眼前に広がった仄暗い大穴が、炎を呑み込んだ。

 防御宝具――ではない。

 炎を防ぎ切った直後、『海』が茨木に牙を剥いた。

 大穴から我先にと飛び出す、魔力で編まれた海獣たち。

 驚くべきは、その数だった。

「ぬぅ――!?」

 周囲の炎熱を押し潰し、更にそれを踏み越えて進撃する、海の群れ。

 肉体を持っていながら波の如く押し寄せ、火に立ち向かう。

「――愛する我が子たち。あれなる鬼は、我らの世界を脅かす侵略の徒。ゆえに、命ずる。悉く、滅ぼすべし」

 それまでと同じように、抑揚なく、しかし厳かに、アサシンは命ずる。

 その命令に従い、海獣たちは炎を押し返しつつ茨木に向かう。

「我が名は、セドナ。汝らの母なり。集いて進め、我が十指。母の愛に、今応えよ」

 宝具と共に己の真名も解き、アサシンは真髄を発揮する。

 ――セドナ。イヌイットの神話に伝わる、海の母。

 父に切り落とされた十指から産まれた海獣たちは真実、あのアサシンの子なのだろう。

 炎を喰らい、その分だけ更に増える貪食の化身。

「チィ……失せろ人間ども!」

 接近戦を仕掛けていたサーヴァントたちを炎の魔力を放出することで引き離す。

 その大海を、集中して対処すべきものと判断したらしい。

 であれば――僕たちはその先のための準備をする。

「メルト、行ける?」

「ええ、いつでも」

 アサシンの性質がこうしたものであったのは僥倖だった。

 聖杯を置き、海獣の群れに向けて徒手となった右手と左手の骨刀を突き付ける茨木。

 その意識の外にあるメルトは、腰を低く落とす。

「刮目せよ! 奸計にて断たれ、戻りし身の右腕は怪異となった!」

 海に対するは、茨木童子がサーヴァントとして有する宝具。

 それは、金時と同じ頼光四天王の一角、渡辺 綱に右腕を断たれた逸話を由来とするもの。

 周囲とは比較にならない、近付くだけで焼け落ちるだろう灼熱がその右手を覆う。

 正しく鬼火だった。

 まるでその手が怨嗟を吼えているような、不気味な金切声。

「走れ、叢原火! 『羅生門大怨起(らしょうもんだいえんぎ)』ッ!」

 真名解放と共に、茨木はその右手を自ら斬り落とした。

 その瞬間、右腕は走る炎の怪異と化した。

 茨木の身の丈を超え、更に規模を増しながら海を受け止める。

 圧倒的な熱量に、海獣たちは跡形もなく消滅していく。

 しかし、好機だ。

 魔力放出で周囲を覆っていた茨木だが、今、叢原火が走った部分は孔が開いている。

 メルトの敏捷と耐久を強化する。

 ここから茨木を狙えるのは、二人。

「メルト!」

「アーチャー、貴方も!」

「合わせろ、管理者!」

 アーチャーはいつの間にか、両手に持っていた筈の拳銃を一つにしていた。

 黒と白、対極が絶妙に合わさった一丁。

「ふっ――――!」

「地獄を往け、緋の猟犬!」

 彗星の如き矢となったメルトに続き、アーチャーの弾丸が放たれる。

 音速を優に超えるだろう赤塗りの弾丸は、メルトの横を通り抜け走る。

「ッッ――――!?」

 その一瞬の直感は、反射的に茨木を動かした。

 茨木の額があった場所を通り反対側を突き抜けていく。

 しかし、弾丸はもう一つ。

 二つを躱しきるのは、茨木には不可能だった。

「ガッ……!」

「――捉えたわ」

 メルトの棘が、茨木の腹を貫く。

 霊核は捉えていないが、確かな一撃だ。

 そこからメルトの毒は流れ込み、刻一刻と茨木を蝕んでいく。

 だがそれは有利には動こうが勝利が決定付いた訳ではない。

 メルトに一旦退避の指示を出そうとした時だった。

 

 ――メルトの肩から弾けるように、血が噴き出した。

 

「――――え?」

 ぐらりと体勢を崩したメルトを、茨木が蹴り飛ばす。

 咄嗟に受け止めはしたものの、状況が掴めない。

 メルトの肩に開いた穴は小さいものだ。茨木の攻撃によるものとは思えない。

 アサシンの宝具が収束し、相殺されたらしい茨木の右手は元に戻っている。

 その茨木の傷は――二つ。

 腹に二つ開いた穴。一つは、メルトのものではない。

「――アーチャー」

「損傷で言えば向こうが上だ。確実に重傷を与えられる数少ない手段ではないかね?」

 ――敵を穿つまで止まらない弾丸。

 それは茨木とメルトを貫通し、アーチャーの手元にまで飛んできていた。

 先の尖った弾丸は、宝具の如き神秘を有していた。

 役目を終えて消えていくそれが凶器であると、アーチャー自身が言外に告げていた。

「アーチャー、何してるのよ!」

「説教なら後にしろ。敵はまだ生きている」

 メルトを気に掛けた様子もなく、アーチャーはただ茨木に目を向けている。

「おのれ人間……! 汝から喰らうか……っ!」

 再び聖杯を手にし、覆う灼熱を取り戻した茨木。

 その目はより怒りに燃え、アーチャーを睨んでいる。

「ッ、アーチャー、命令よ。彼らの代わりに前に出て。傷つけた分、帳尻は合わせなさい」

「ふっ……弓兵に前に出ろ、とはね」

 銃を二つに分け、弾を放ちつつ接近するアーチャー。

 ――いや、今はそれどころではない。

 メルトの回復を。『慈愛の葛城』により、その一点を塞ぐのに集中する。

「……悪かったわね。手伝うわ」

「……」

 ミコの先程の怒りは、心からのものだった。

 これは彼女にとっても予想外のことだったのだろう。

 アーチャーに見向きもせず、メルトに回復術式を掛けてきた。

「マスター、大丈夫ですか!?」

「ッ、問題、ないわよ。貴女は、周囲を警戒して」

 走ってきた清姫に、メルトは指示を出す。

 回復にはそう時間は掛からないが……しかし、この時アーチャーのスタンスとの違いが大きく表れた。

 一つの悪を討つため、犠牲を許容する。

 メルトを躊躇いもせず巻き込んだアーチャーに、決して小さくない不信感が生まれた瞬間だった。

「効率としては悪くはないんだけどネ……セナちゃん、キミも頼むよ」

「ん……」

 アサシンは周囲に海獣を展開し、襲い来る炎を防ぐ。

 宝具の真名解放をせずとも、少数であれば召喚も可能らしい。

「メルト、ごめん。何も対処出来ずに……」

「あんな速度、対処できる訳ないでしょ。気にしなくて良いのよ。回復ありがと、ハク」

 強制回復の拘束を解き、メルトが離れる。

 恨みを今アーチャーに向けることは無いまでも、その怒りは明らかだった。

 あの弾丸の性質をすぐに把握できていれば、対処も決して不可能ではなかった。

 メルトが攻撃に集中していた以上、あの弾丸を躱せなかったのは、僕の責任だ。

「腹が立つけどアーチャーの言う通り。重傷は重傷よ。このまま攻め切れるほど単純とは思えないけど、好機なのは変わらないわ」

 聖杯の魔力を使っているため、あの炎の出力は減衰していない。

 だが、茨木がダメージを負っている以上少なからず判断に支障が現れるだろう。

 それにメルトの毒は健在だ。

 特異点の崩壊という時間制限より、メルトの毒の速度の方が早い。

 時間の有利は取れている。であれば、焦ることは無くなった。

「……よし、ここからだ。まずあの炎をどうにかする。それには――」

「聖杯を奪う。それが一番確実でしょうね」

 あの聖杯を奪い取れば、少なくともあの炎の規模は減る。

 どの道特異点の修正には聖杯の獲得は必須条件だ。それが最も正しい戦法だろう。

「なら話は早えな。オレっちがもう一回道切り拓くぜ!」

 ともかく今は近付くこともままならない。

 炎の障壁を打ち破るべく前に出たのは、眩いばかりに雷を輝かせる金時だった。

 それは晴明に使用した真名解放の際のそれを上回る。

 恐らくは金時の、もう一つの宝具。彼の切り札とも言うべき、あの斧の最大解放。

「よぅし、然らばアタシも参るぞ! 雷と呪い、斧とネコ! 相性抜群威力は四倍、金銀力を合わせるぞゴールデン!」

「アンタ銀色何処にあんだよ!?」

「無論爪だ! 銀に光る爪はインテリジェンスの証! フハハキャットの智慧が冴え渡るっ!」

「オーケー意味不明だ! ともかく合わせるならよろしく頼むぜ!」

 理解を諦めた金時は跳び上がり、相変わらず言葉が脳を介していないようなキャットが両手を振り上げる。

「これぞキャット七百七十七変化! マハリクマハリタ云々かんぬん! 玉藻地獄を今こそ披露して進ぜよう!」

 毛を逆立て、その呪詛を解放する。

 その言葉から発生する混乱こそが真髄ではなかろうかとさえ思える、不自然なまでに自然に流れる流暢な調べ。

 二人に対し、茨木も炎を渦巻かせる。

 ここに同時に解放されるのは、三つの宝具――!

「吹き飛べ、必殺――『黄金衝撃(ゴールデンスパーク)』!」

「『燦々日光午睡宮酒池肉林(さんさんにっこうひるやすみしゅちにくりん)』ッ!」

「焼き尽くせ! 『大江山大炎起(おおえやまだいえんぎ)』!」

 放出される稲妻が周囲を焼き払いながら進む。

 まるで絵画のような奇妙な猫(らしきモノ)に変化したキャットが爪を振るう。

 先程放ったような鬼火を一点に集中させた炎塊が火柱を立ち上らせる。

 その激突に危機を感じ、前方に盾を展開したと同時、激突地点を中心とした衝撃波が、地面を粉砕しながら拡散していった。




デミヤ「射線上に立つなって、言わなかったか?」

アサシンの真名が判明。日本に何も関係ない人でした。
戦闘は激化し、アーチャーは誤射り、キャットは相変わらず暴走します。
キャットの台詞考えてる時の、頭使ってるのか使ってないのかよくわからない感覚なんなんでしょうね。
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