Fate/Meltout -Epic:Last Twilight-   作:けっぺん

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紆余曲折ありましたが水着BBちゃんが宝具マになりました。
第三スキル面白いです。


第六夜『魔京茨木縁起・誠の旗』

 

 

 暗闇の外へと飛び出す。

 すぐにメルトの姿が見えた。

 だが――この空間(セカイ)自体、限界が近い。

 隣と隣が繋がらない断絶空間。

『ハクトさん!』

「ハク!」

 空間は罅割れ、地面と空の境界すら曖昧になっている。

 キャットが足を付けた場所は、炎の巨人の頭部と同じ高さ。

 素早くアーチャーと沖田は離れ、茨木への攻撃を開始する。

「キャット! ハクをこっちに!」

「フハハ欲しけりゃ奪い取れ! 全てをそこに置いてきた! アタシはここよ、捕まえて御覧なさい!」

「刺すわよ」

「キャッチアンドリリース。七泊八日は絶対である。延滞料金は払わんぞ」

 ……なんというか、この特異点では妙に投げられたりすることが多い。

 メルトの聖骸布に絡め捕られる。

 次の瞬間、茨木の手がキャットに襲い掛かった。

「キャットの逃げ足舐めるなワン!」

「ぬぅ、相も変わらず意味の分からぬ奴よ!」

「キャットを理解しようとしてみよ。多分頭がおかしくなるぞ」

「自分で言うのか汝! ええい避けるな鬱陶しい!」

 腕が振るわれたことにより発生する余波も含めて全て躱すキャット。

 茨木を挑発しつつ、その注目をうまく集中させている。

 それが故意か偶然かは分からないが……ともかく好機か。

 この空間の不安定さは、危険ではあるが同時に武器でもある。

「カズラ、この先、足場として使える?」

『はい。数値が確立している場所をマークします!』

「これならば私も行けます。紫藤さん、補助を!」

「ああ。分かった!」

 カズラから送られた地点を沖田に指示する。

 沖田は速度とその剣技に特化したサーヴァントだ。

 それゆえ、白兵戦以外ではその真価を発揮できない。

 だが、この巨人相手に、この中の誰より有効な手札を、彼女は持っていた。

 心臓部まで届く足場があるならば、彼女はこの戦況を打破できる。

「メルト、沖田に合わせて接近して!」

「よく分からないけど――了解よ」

「行きます!」

 隙だらけの茨木に、沖田が接近を開始する。

 隣と隣が繋がっていないこの戦場、心臓部を狙えるのは、恐らく今僕たちがいる場所のみ。

 であれば、僕たちのみが、決着に手を伸ばすことが出来る。

「――一歩音越え」

 茨木に迫るのに、沖田は何歩も歩む必要はない。

 縮地によりその姿を消し、瞬間的に距離を詰める。

「――二歩無間」

 そして更に一つ。

 残る距離の半分を詰め、僅か、剣を持つ手に力を込める。

 無駄な力は必要ない。必要なのは、事象の先へと手を伸ばせる規格外の技術、そして速度だけ。

「――三歩絶刀!」

 それは沖田が修めた、剣技の一つの究極。

 事象を超え、一瞬に複数を重ね合わせる秘剣。

 果たしてそこに手が届くまで、どれだけの日数を、どれだけの才を必要とするのか。

 三歩目で茨木の心臓部に辿り着く。

 炎熱はそこにいるだけで消耗する。

 ゆえに、決着はごく短く。

 キャットに気を取られていた茨木が沖田に気付いた時には、剣は突き出されていた。

「――無明三段突き――――!」

「ッッ――――!」

 一の突き、二の突き、三の突き。

 本来、そう名付けられるからには一つ一つに順序がなければならない。

 だが、沖田のその三つはまったく同時に放たれる。

 一つの刀から放たれる三つが同時に引き起こされる。

 例えば、最初の一を防いだとする。

 その場合においても、二の突き、三の突きは既に敵を貫いている。

 最初の一で相手を貫いたとする。

 それでも二の突き、三の突きが相手を貫くという事象も確定している。

 どうあっても、この秘剣を使用した時点で発生する矛盾を、世界はどう判断し、解釈するか。

「――――ォ、ォォオオオオオオオオオッ!?」

 ――事象飽和。

 その部分がごっそりと世界から抜け落ち、破壊される。

 胸部に大きく、穴が開く。

 だが――届かない。

 聖杯のあるだろう中心に刀は届かず、しかし霊核の損傷による罅は体中に広がっていく。

 予想の範囲内だ。僕の役目は、それが世界の破壊に繋がらないようにすること。

「はっ!」

 先程、天国から受け取った刀――『豊葦原天国』。

 それを振るえば、茨木と世界との因果は断たれ、世界の罅は繋がっていく。

 崩壊が作用するのは茨木のみとなった。

 これが天国の刀――世界の崩壊さえ止めるその一振りに驚愕するも、それに思考を奪われている場合ではない。

 空いた穴にアーチャーが追撃する。

 見えた――その輝きは、紛れもなく聖杯のもの。

「行きなさい!」

「承知!」

 更なる深奥に迫る沖田に、メルトが水の膜を被せる。

 聖杯を取り巻く炎を破壊し、切り離すための再度の秘剣。

 茨木の反撃の炎を、水膜は通さない。

 防壁のように展開された炎熱をも突き抜け、広がっていく罅の中心点に今一度、刀を突き立てる。

 それが決着となる。その確信は――――

 

 

「――ッ」

「……なっ」

 

 

 ――沖田の口から零れた血によって、消えた。

 

 

 +

 

 

 ――また、なのか。

 その瞬間、私を襲ったのは、そんなやりきれない悔しさだった。

 喉を通り体の外へと流れていく熱いもの。

 最後の魔剣を仕掛けるべく踏み込んだ足から抜けていく力。

 剣を伸ばすことすらままならず、その場に膝をつく。

 剣が手から離れる前に、腹に強い衝撃が走った。

 あの鬼の炎による反撃。

 紫藤さんのサーヴァントによる守りがなければ、骨の髄まで焼け落ちていたか。

 吹き飛ばされ、空間の歪みに拾われることもなく、地面に転がる。

 途中で離れた剣は、すぐ傍に落ちた。

 手を伸ばせば、届く。

 だが、それもままならない程の苦しさが、私から力を奪い呼吸を乱していた。

「沖田っ!」

「ああ、もう――!」

 紫藤さんと、そのサーヴァントが駆けてくる。

 回復の術式が私を包むも、それが効果を発揮することは殆どない。

 癒えていくのは生傷と火傷だけ。気管が狭くなったような苦しみは、一切消えることがない。

 当たり前か。これは傷ではない。

 私が元から持っていた病であり、決して切り離すことのできない業だ。

「沖田、大丈夫!?」

「っ――――」

 ――ああ。

 この人に、今生剣を預けると誓ったのも、これが原因だったか。

 結果としてこの人は片腕を失った。

 問題ないと、この人は言っていた。この時代の異変を取り払えば、体も元に戻る、と。

 しかし――そうだとしても、腕が一つないことによる不都合など山ほどある。

 この人に両腕が健在であれば、これまでの窮地のうち幾つかは回避できたかもしれない。

 そんな可能性を奪い、そして今回もまた、あと一歩のところで私は仕損じた。

 やりきれない。何故、私は、こんなにも――

「……ク、ハ。肝が冷えたぞ人斬り。いや人間も侮れんわ。だが、運も実力のうちよなぁ?」

 鬼の嘲笑が聞こえた。

 何も言い返すことが出来ない。

 そうだ。運が悪かった。いつもいつも、私は運に見放されていた。

 生前から、そうだ。

 この病は私に、最後まで戦うことを決して許さない。

 ゆえに、近藤さんを、土方さんを――皆を、私は見送ることしかできなかった。

 勿論、病のせいだけではない。

 そういう時流でもあった。

 様々な因果の果てに、私は皆が誠に生きて、死ぬ中で、病に眠るしか出来なかった。

 最後まで共に在りたかったという願いは叶うことは無く。

「それで? 策は終いか? 汝ら以外の者らは心の臓にまで届かぬ――であれば、今度こそ皆纏めて焼き尽くしてやろう」

「ッ、メルト、防げる?」

「……さて、どうだか。全力出してみるけど……!」

 またも私は、足手まといなのか。

 私を含めて防御する手段を整えている二人を見て、歯を食いしばる。

 どうにか立ち上がろうとするも、力が入らない。

「沖田、無理はしないで。まだ、どうにか……」

 この状況で、紫藤さんは、尚も何か策を考えている。

 無理をしても、何の意味もない。そう、私を諭す。

 こうして力を抜いて、気を楽にしていれば、苦痛は少ない。

 このままであれば、最後まで痛みなく焼かれ死ぬことが出来るだろう。

 けれど――けれど。

「……っ」

「沖田!」

 そんなこと、私は求めていない。

 たとえその先が、無意味な死であろうとも。どんな成果を残すことも出来ずとも。

 私は戦いたかった。

 剣に生きたかった。

 最後の時、軒先のあたたかな光に包まれ、空を仰ぎたくなどなかった。

「……まだ、やれます」

 私は最後まで、誠の一字と共に在りたかった。

 共に生き、共に剣を誓ったあの人たちのように。

 穏やかに眠ることが出来ずとも、私は誠の下で生き、誠の下で死にたかった。

「……無理はしないで。調子が良くなるまで、凌いでみせる」

「……大丈夫。ご心配なく。まだ、まだ……私は、戦えます」

 このザマを見て、生前の知己であれば何を思うだろう。

 誰かは、笑うと思う。

 誰かは、やめろと諭してくるかもしれない。

 誰かは、縛り付けてでも布団から出さないだろうか。

 ――そして、きっと、あの人ならば、この自分を肯定してくれる。

 あの人のように、止まらない。決して歩みを止めることなく、進み続ける。

 私にとって、その在り方は酷く眩しいものだった。

 だから――私は、あの人のように。

「……私の、誠は、折れていません。ゆえに――ゆえ、に――!」

 ……私はサーヴァント。少しくらいなら、無理は通る。

 剣に手を伸ばそうとして、やめた。

 今はまず、立つことだ。

 拠点としていたあの小屋を離れるとき、それは持ってきていた。

 手に出現させる。

 そう――それこそが、私の、私たちの証。

 私はただ、この下で生きていれば、それでよかった。

 ただ、最後まで誠の一字とともにある。それだけでよかった。

 生前は、それが出来なかった。

 ゆえに――今がその時なのだ。

「――ここ、に――旗を立てる――!」

 使い方など分からない、私の宝具。

 誠の一字を掲げた旗。それを杖替わりにして立ち上がる。

「……何も起こらぬではないか。それが奥の手か?」

「……いいえ。これは、私の決意。私が生きるべき、誠。この一字ある限り、私は、止まらない!」

 分かっている。分かっているとも。

 私はハンパ者だ。最後まで皆と一緒に戦うことが出来なかったのだから。

 本来私は隊士と名乗れるほどの者でもない。

 一番隊隊長として、この旗を掲げる資格もない。

 だけど――皆と共に心に刻んだのだ。

 この誠の一字を。

「クハハハハハハハハ――――ッ! よく吼えた! ではその旗と共に燃え尽きるがいい! 案ずるな、どちらも一瞬よ!」

「そうであっても、私たちの誠は消えない。私が、私たちが、いる限り――!」

 喉の痛みを堪え、心の限り、叫ぶ。

 壊れた世界のその果てにまでも届くように。

「――ここが、新選組だ――――!」

 

 

「――――そうだ。よく言った」

 

 

 ――肩に、手が置かれた。

 その硬い、しっかりとした手は、何処か懐かしかった。

「よく踏ん張ったのう、総司。それでこそよ」

 旗を握っていた手の片方を引き離され、剣を押し付けられる。

「さあ斬れ。進め。ただ斬れ。斬って戦え」

「――近藤、さん。土方さん……?」

 そこにある筈のない声だった。

 そこにいる筈のない人たちだった。

 顔を上げれば、私が最も知っている二人の姿が、そこにあった。

「これは――」

「召喚宝具、ね――」

 ――ようやく、わかった。私の知らなかった、この旗の力。

 この誠の下に集った者たちを、召喚する宝具。

 気付くと、後ろに何人も、親しい気配があった。

「何をぼさっとしてやがる。とっとと行くぞ。そこまで啖呵切ったんだ。無理だ、なんて言わせねえ」

「――――はい。勿論です」

 驚く紫藤さんたちの顔が、なんだか面白かった。

 そして同時に、誇らしかった。

 私がいた場所。私が共に生きた隊士たち。

 彼らの中に私がいることに、改めて喜びを感じる。

 そうだ――今度こそ、私も彼らと共に、最後まで戦うのだ。

「任せてください。新選組一番隊隊長、沖田 総司! 参ります!」

 旗に加え、もう一つ持った宝具を出現させる。

 新選組の証。誓いを示す浅葱の羽織。

 それを私が纏うのを確認し、近藤さんが剣を抜く。

 土方さんが腰に下げた銃を手に取る。

 永倉さんが、斎藤さんが、原田さんが、構える。

 隊士の皆が今か今かと号令を待つ。

 さあ、不覚を拭おう。あの鬼は、ここで倒す。

 ――いつしか、苦痛はなくなっていた。

 それが気のせいであっても、今は構わない。

 戦うことが出来るならば、そんなことは些事なのだから!

 

「新選組――突撃!」




誠の旗発動。主人公って誰でしたっけ。
という訳で復活土方さん。存分に暴れてください。

描写していないゴールデンたちですが、それぞれ別たれた空間にいます。
攻撃は出来ても、他の場所との意思疎通や心臓部への攻撃は出来ない状況。
全員を書き切れないための言い訳? 知りません。

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