『いったいママは
ある日見つけたママの『秘密の花園』。どこまでも、どこまでもグルグルと潜っていく、夢へと続く階段を『
もしも、あの階段を最後まで
――私はまだママと一緒にいられたのかしら――
――ラヴィは私の側で笑い続けてくれたかしら――
――チェシャは私を愛してくれたのかしら――
ある日の夜、ママの寝室を訪ねてみると、部屋にママはいなかった。窓の外から、星一つない空に
『もう随分と遅い時間なのに、まだ
戻ってくるのを待とうとベッドに腰掛けていたら、
思わずベッドの下に隠れて様子を伺うと、そこから現れたのはやっぱりママだった。
ママは扉を閉めると、
ママは『小箱』に何かをしまうとまた、扉の向こうへと消えていった。誰もいなくなったのを確認すると、私はベッドの下から
鏡台の上の小箱は飾り気のない、地味なもの。鍵はない。私は箱を開けてみた。
どうしてだろう。これはママの物で、勝手に触ったら怒られるかもしれないのに、私は自然に『それ』を手に取っていた。
『それ』は、一本の鍵。
でも、その鍵を持っているとなんだか
それに、なんだか全身がフワフワと夢の中にいるような気分にもなったわ。
真っ暗な空の三日月がニヤニヤと見下ろしている。
三日月は私の背中を押すように『見知らぬ扉』を照らし、私はされるがままに扉の前に立ってみる。
するとそれは、とても背が低かった。12才の私の背丈と同じなのだから、大人のひとは皆、腰を曲げなきゃとてもとても中には入れない。
調べてみると、ドアノブはあっても鍵穴はなく、引けば簡単に開いた。
すると、私の中の好奇心が
『この鍵は何処の扉を開けてくれるんだろうね。』
もう私はこの鍵の正体が知りたくて、知りたくて仕方がなくなってしまったわ。覚悟なんて必要なの?いいえ、
振り返るとやっぱり夜空の中には三日月の微笑みだけが浮かんでいて、高みの見物とでも言うように私の様子を見守っているの。
私はハートの鍵を持って扉の向こうへと足を踏み入れる。
扉は底の見えない
階段の外壁にはアール・ヌーボーを意識したような細かい
一段、一段、端から端まで、足が
だからなんだか、新しい階段を踏む度にイイ気分になったわ。
でもそんな小さな遊びじゃあ、あっという間に飽きちゃうの。もっと面白そうなものがないか辺りを見回しながら進むのだけれど、これといって私の気を
ここにはあの月明かりも届かない。
2階の寝室から伸びていた階段は、もうすでに地下に潜っていてもおかしくない。それくらいグルグル、グルグルと下りていった。
どこまで下りても周りの照明は薄ボンヤリとしていて、見上げてみても見下ろしてみても、スッカリ暗闇に飲まれてしまっているの。入口も出口も見えない。だからちょっとだけ不安になってきちゃった。
なんだかその黒い、黒い闇の中から誰かが私を見て笑っているような気がしたの。
そう思った矢先だった。
『あら?』
階段の終りが見えてきた。そしてその先には妙な扉が待ち構えているのが見えた。
入口の『小さな』扉とはうって変わって、巨人でも通れちゃうような『大きな』縦長の扉。そして、扉の
私はやっぱり少しも警戒することなく扉に近づいてしまうの。まるでこの地下の
すると、扉の向こうから人の話し声と生温かい吐息が交互に聞こえてきた。穏やかなのに熱くて、
『さあ、お前も
私を見下ろすハートが、そう言っているような気がしたの。
私は
『ガチャリ』
響いた重い
そして始まる。止まらない
私は思わず目を
だって、扉の向こう側から
そして、そこにいたのは獣の群れ。
女王様は身を寄せ、快楽に身を
「アナタは誰なの?」
狗だか
私は、赤と黒の派手なドレスに身を包み、狗たちを
答えには、すぐに行き着いた。
それは、この
「……もしかして、ママなの?」
扉を隠していた鏡台に写り込んだ私の顔と
女王様は、私がそうであるように、私を見て放心している。
どうやって『あの娘』はここに入ってきたと言うの?
なぜ『私』は鍵をわざわざ箱に戻したのかしら?
どうして『私』はその箱を化粧台の上に置きっぱなしにしたのかしら?
そして……、私に
『……そうよ。全部、私がそう仕向けたこと。』
『……そうよ。私は
まったく。魔女なんて
「
これこそ私が望んだモノなのだわ。サックスブルーのエプロンドレスを着た、この子こそ
「さぁ、アリス。こちらにおいで。私の
純粋無垢な、この舞踏会を
さぁ、さぁ、面白可笑しく踊っておくれ!
ウソよ。ウソ、……ウソ。あの女王様はママと同じ顔の悪魔なんだわ。だって、ママはあんな
そうよ、これもその悪魔が見せている夢なんだわ。
『助けて、ママ!』
「お前たち、私のディナーを捕まえておくれ。」
走っても、走っても扉の外へ出られない。狗たちは私の背後にピッタリと張り付きながら囁きかけてくる。
「お待ちなさい。お待ちなさい。
「お待ちなさい。お待ちなさい。
「お待ちなさい。お待ちなさい。
「違う。止めて。それは私の名前じゃないわ!」
足を引っかけて、扉に
迫ってくる狗たちの愛撫。私はもう、抗えない。
『ガチャリ』
重たい響きとともに、暗闇の中から突然差し伸べられる紳士の手。
私は迷わずその手に
紳士はまるで魔法か何かのように、ひとっ飛びで長い螺旋階段を飛び越えた。
振り返る暇もなく、私は
鼻から上を『仮面』で
紳士は私の手から鍵を
『ガチャリ』
重たい響き。甘い、シトラスの香り。
「目が覚めたかい、エルシィ。」
彼は、あの三日月のような微笑みで私を見詰めていた。
彼の手には私の心を