午前0時、それはドレスコードで理性を縛る
今夜もまた
女たちは店のための
女も男もそういう生き物。
だから、私にも
アイツはいつもそう。余裕のある『微笑み』なんて見せられたら
あの
あの日の『歌』と『私』を添えて――――
あの日の出来事は触れるだけで
でも、そうじゃないとオカシイでしょ?薄情でしょ?
でも、安っぽい女のようには泣かないわ。アイツが気に掛けてくれるようにしなきゃ『意味』がないもの。
「エルシィ、今夜もイイ声だったよ。」
「ありがとう。」
安っぽい男たちは気づかない。
「これ、前に君が欲しがっていたドレスだよ。」
「ありがとう。」
行き着く言葉はいつも
「僕のも受け取ってくれないか?」
「ありがとう。」
これだから
だけど、こうして可愛らしくソファに座ってれば、その男たちが
だけど、私が沢山の男に囲まれていたって、アイツは
でも、まあいいわ。『
「エルシィ、まだ上がらないの?」
「ママ、今日はもう少し飲みたい気分なの。ダメ?」
ママが引退してから、私の他に5人がステージに立つようになったけれど、実質、その中で私がNo.1。客の半分以上が『私の客』。
だからママも、私の
ただの給仕だった頃、掃除中に歌ってるとよくママに怒られてた。あの頃のママは私が店の顔になるなんて思わなかったのよね。でも、
だから店を奪おうなんて思わない。『ママの店で歌う女』で十分。ただ、同じ舞台に立つ女が、私の上にいるのが気に入らないだけ。
「しょうがないわね。チェシャに片付けを頼んでるけど、鍵だけはキチンと閉めておいてね。」
分かってるわ。むしろ、
そして今は二人きり。それなのにアイツは私に見向きもしない。
「ねえ、チェシャ。こっちに来て一杯付き合ってくれない?」
店を閉める準備ができたらと、アイツは掃除を続ける。
「……そう。」
言いながら
そういうつもりじゃないのに。ただの口実がいつも彼の逃げ場になってしまう。
それでも私は言われた通りに待つ。
待つのって退屈。
チェシャは真面目で
だからチェシャのことを詳しく知ってる人は誰もいない。私もそう。5年以上一緒に働いてるのに。
たまに彼が、実体のない幽霊なんじゃないかって疑ってしまう時があるの。ふと、彼の顔を思い出そうとすると、あの
分かってるのは身寄りがないことと、恋人がいないことくらい。ママと『噂』になったことがあるけれど、『噂』を聞いた時のママの笑い方で
チェシャは、私たちがこの店で働き始めてから間もなく、男の人に連れられてやって来た。
その人も父親じゃないこと以外は何も知らない。
何も知らないのに、いつの間にか私はチェシャにくっついて回るようになっていた。
初めは何となく、不思議な子だと見守っていただけ。
だけど、何でもソツなく
彼も彼で、私がそばにいることに何も言ってこないから、それに甘えていたのかもしれない。
本当にそれだけ。他意はなかった。
だから何も起こらなかった。期待もしなかったし、『
でも、
いつも
まるで針のない時計のように、巻いても、巻いても時間の分からない不安が付きまとうの。
どうしてだかは分からない。それでも、私はその『声』に抗えないの。
モップを持った彼が私のそばを通ったから言ってやった。
「ねぇ、私を愛して欲しいの。」
ここまでハッキリした告白をすれば、彼だって少しは私に目を向けてくれると思った。
それなのに、彼は新しいカクテルを寄越して微笑むだけ。
どういうつもりなの?冗談だと思ってるの?遊びだと思ってるの?バカにしないでよ!
飲めば飲むほどに『気持ち』は強くなっていくのに、それが彼に届く気がしない。しょせん、夢の中でしか叶わないのかしら。
グラスから立ち上る
「チェシャは誰かを愛したりしないの?」
「私はチェシャから見てどういう女?」
「私に合う男はどんなだと思う?」
何を聞いても返ってくるのは新しいカクテルと変わらない微笑みだけ。
どうして?何を考えているの?そう聞いてもどうせアナタは笑うだけなのよね?だったら私はどうすればいいの?
身体が熱い。このままじゃ、酔い潰れちゃう。その前に『決着』をつけなきゃ。
もしも今夜も
彼が望むのなら、私は『
私は勢いに任せてカウンターに身を乗り出した。
「ママみたいなオバさんとじゃ物足りないでしょ?私が相手になってあげるわよ。」
彼の
でも、彼は私が思う以上に冷酷な人だった。そこまで乱暴に扱われるなんて思ってもみなかった。
「……どうして?」
彼は私の手を力任せに振り払うと、私を
どういうこと?私の何がそんなに気に食わないの?アナタの言いたいことがサッパリ分からないわ!
打ち
やっぱりダメ。忘れられない!あの子も、貴方も!!
デビューの時に、初めてチェスに贈ってもらった
その気がないなら、どうしてこんなものをくれたの?何が本当の貴方なのか分からない。
胸が痛くて、痛くて堪らないわ。
私は三日月との賭けに負けて、眠りに落ちる。
『
男たちは奴隷のように、されるがまま。
夢中だったのかもしれない。視線が合うまで、彼女の愛撫はネットリと続いた。
視線が
「アリス、こちらへおいで。」
そう。この、独善的な喋り方をしているのも私。
女王様は、
私はずっと、夢の中にいたんだわ。だったら私はまだ処女のままなのね。
ラヴィの蜜蜂に遊ばれた時も、こうして狗たちに囲まれている今も。私は処女のまま溺れていたんだわ。
『犯されもせず、穢れもせず。』
デビューの舞台でスポットが落ちてきた時も、幾つものチェリーを口にして悶々としていたついさっきまでも。私は二人に
『殺されることもなく、絶頂を覚えることもなく。』
私はずっと、ずっとこの
独り、
その快楽の
そしてまた、三日月の猫と青目の兎の夢へと
自分の知識が至らなかったために解釈が追い付かなかった原作の歌詞も多々ありますが、自分の中ではこんな感じのお話ではないかと頑張って書いてみました。
出来上がった話が多少、自己満足的で、難解な点もあるかもしれませんが、どうぞご容赦ください。
順番が逆になりましたが、登場人物の紹介をして終わりたいと思います。
少女、女王の成長前『メアリー』愛称『ポリー』
女王、少女の成長後『アリス』愛称『エルシィ』
メアリーの親友、女王の白兎『ラヴィ』
メアリーの初恋相手、タキシードの紳士、女王の猫『チェスニー』愛称『チェシャ』
ラヴィの蜜蜂、女王の帽子屋『マット』
Bar『Masquerade』の主人、チェシャの飼い主『マルガレーテ』
※メアリーとアリスの愛称は英語圏特有の法則でそう呼ばれるみたいです。
最後までお付き合いくださってありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。