苗木と相対したカムクラは、はぁ、とため息を吐きパソコンの電源を切る。
「作業中?なら続けても構わないけど」
「気にしないでください。終わりました……」
「……ちなみに、何をしてたの?」
「考え無しに動いている『絶望達』が僕の都合の悪い時に捕まったりしては困ります。なので、情報の操作を……まあ、それともう一つ……これは〝アナタ〟が来たから必要ないかもしれませんね」
ほほう、と苗木は感心したように呟く。
「つまりカムクラ先輩には、捕まるタイミングが同じでなければ困る理由があると」
「ええ。僕はともかく、彼等は才能単一特化ですから、捕まえようと思えば捕まえられるんですよ」
「ダメな部下を持つと苦労するんだね」
「部下ではありません。会ったことはありますが記憶を消してますから」
「知識があると行動が解りすぎちゃうから?」
「ええ、ある程度解るぐらいがちょうど良いんですよ。全部わかったらツマラナイじゃないですか」
カムクラの言葉に、苗木はよく解らないというように上半身を30°ほど傾げ、さらに首を傾げる。
「ツマラナイ?ボクは面白いけど、全部思い通りに進むのって」
「いずれツマラナくなりますよ………いえ、どうでしょうね」
「情報があれば分析できるのがキミたちじゃないの?」
「アナタの場合、ボク達では?………いえ単純に、アナタは見えないんですよ。確かにそこにいるのに、ここにはいない……そんな感じです………質問ですが、アナタは〝どこから来た〟んですか?」
「………っ」
カムクラの質問に、苗木は返答に詰まる。
どこから来た、と聞かれれば、苗木は未来から来た…いや、今となっては過去だが。もしかしてカムクラが自分を分析できないのは、それも理由の一つなのだろうか?
「アナタはただでさえ不規則な波の『幸運』を持ってますから……それでも、昔の方が分析しやすかった……」
「……う~ん……【理】から外れたからかな?」
なんてね、と笑った苗木に、カムクラは無表情で見つめる。
「それで、話をしましょうと言ってましたが何を話すんですか?……絶望の残党である僕に、自首でも勧めるんですか?」
「……カムクラ先輩ってさ、本当に『絶望』なの?……なんか臭わないんだよね」
「臭い?……ああ、アナタ〝共感覚〟を………」
カムクラは苗木の言葉に一瞬だけ首を傾げたがそれも一瞬。超高校級のあらゆる知識を持ってして、苗木の言っている意味を理解した。
「ならアナタは、この場に集った絶望の3人についても把握してるのですね」
「……〝1人〟だよ」
「いえ、確かに3人ですよ?」
「あはは!笑わせないでよ。それって、あの2人の事?……あの『絶望ぶってる連中』が?」
苗木はカムクラの言葉にケラケラおかしそうに笑う。が、その声音は明らかに苛立っていた。
「ああ、アナタは江ノ島盾子と愛し合っていましたね……なるほど、彼女と同じ思考回路を持たされた者達はともかく、名乗っているだけの者は認めないと……まあ、確かに彼女達は……」
「うんうん。わかってくれれば良いんだよ………ところで、この後暇なら〝4人〟で話さない?」
「4人ですか?………1人はキラーキラーとして、後1人は?」
「教え子のお姉ちゃん……」
「教え子?……『あの5人』なら、今は塔和シティに行けば会えますよ?」
「そんなこと分かってるよ。ボクは妹の居場所を聞きたいんじゃなくて、姉と話したいんだから」
カムクラはそうですかと呟き考える。そして考えがまとまり、解りましたと言うと再び変装する。しかしあの長髪を何処に隠しているのだろうか?
超高校級の演劇部かはたまた俳優か、まるで別人のような気配を纏ったカムクラが歩き出したので、苗木も扉の前からどいて廊下に出る。
「それにしても、全く人が寄りつかないね」
「《超高校級の人気者》の才能を応用し、逆に何故か近付きたくない気配を出していたんですよ。アナタが来ましたがね」
「『運任せ』でカムクラ先輩を探してたからね」
「幸運ですか……アナタの所の小娘は簡単に分析で上回れるんですが……」
苗木の幸運は読みにくいと先ほど言っていた。逆に佐々苗の幸運は読みやすいらしい。となると規則があるのだろう。
「まあ彼女もある意味ツイてはいるんでしょうね。何せ彼女は僕と会いたくないでしょうから」
「何かしたの?」
「〝返り討ち〟にしただけです」
「へえ……ただツイてるだけの……なんて言うか、身の程知らずだね」
「ツマラナイ戦い……いえ、作業でした」
カムクラはそう言ってため息を吐いた。戦いですらなかったようだ。
暫く歩いていると客室に着く。苗木は部屋に入ると早速、備え付けのメモ用紙に何やら書いて手紙を作る。
そしてベッドの下を見ると、カムクラが言っていた『キラーキラー』………聖原と目が合う。
「聖原クン。これちょっと〝ある人〟の部屋の扉に挟んできてほしいんだ」
「はい。任せてください!」
「……従順ですね」
暫くすると聖原が戻ってきた。苗木は早速テーブルの上に《人生ゲーム》を置く。これから来る4人目とやらの為に、4人でも遊べるゲームを選んだのだろう。
苗木達が駒を用意していると不意に扉がノックされる。聖原が扉を開けると、車椅子に座り白衣を纏い赤いマフラーを首に巻き顔の下半分を隠した女性が現れる。
『こんな手紙で呼び出ちて何のようでちゅか?』
やってきたのは第7支部支部長にして、元超高校級のセラピスト『月光ヶ原美彩』だった。月光ヶ原はカムクラを見ると不思議そうに見つめる。ここに一般の職員が居ることを疑問に思ったのだろう。
「んー、ちょっとね。このゲーム、どうせなら4人でやろうと思って……」
月光ヶ原が机の上に置かれた人生ゲームを見ると、ディスプレイに映ったウサギがため息を吐いた。呆れているのだろうか……。
『そんなことでいちいちあちしを呼ぶんじゃありましぇん!』
「それに、月光ヶ原さんに聞きたいことがあるんだよね」
「!?」
車椅子を回転させて出ようとする月光ヶ原だったが、その前に何時の間にか移動した苗木が扉を閉め、月光ヶ原の前に立ち塞がった。
『な、なんでちゅか……?』
「月光ヶ原さんの〝声〟、一度で良いから聞いてみたいんだよね」
『そ、そんなのあなたには関係ありまちぇん!』
「……ふうん……じゃ、こうする」
苗木はそう言うと、月光ヶ原のマフラーを掴み引き寄せ『唇』を奪った。
「………!?な、なにを……!」
数秒固まった月光ヶ原は顔を真っ赤にして苗木を押し退ける。そして慌てて口を押さえる。
「──ッ!」
顔を赤くしたまま苗木を睨むが、苗木は月光ヶ原がとっさに噛んできたせいで切れた唇の血を舐めながら笑っていた。
「その声、本当に妹さんにそっくりだね……やっぱり両方とも母親似だからかな?」
「………………」
「改めて自己紹介させてもらうよ。ボクは苗木誠。一時期は、
「……モナカ……の……?」
「やっぱり自分の声が嫌いなんだね。『妹』を思い出しちゃうから」
目を見開き固まる月光ヶ原に、苗木は取り敢えず人生ゲームでもやろっかと言いながら机まで車椅子を動かした。