苗木はふんふんと鼻歌を歌いながら通路を歩く。
メモリースティックについたモノクマのキーホルダーの紐に指を通しクルクル回しながら、廃棄物置き場まで向かう。
モノクマのキーホルダーなど持っていたらまず間違いなく見咎められるだろうが、幸いなことに誰ともすれ違っていない。
「えっと………この分かれ道どっちだっけ?」
と、苗木は二手に分かれた道を見て固まる。確か右……?いや、左か?と唸っていると足音が聞こえてきたので、慌ててメモリースティックをしまう。
足音は複数だ。と、右の通路から団体で現れる。
よく見ると、〝外国人〟も混じった団体だ。
「ん?あ、苗木誠!」
「Oh!」
「え、ちょ………!」
1人の日本人が苗木に気づくと、ほかの面々も苗木に駆け寄ってきて、様々な国の感謝の言葉を次々に送ってくる。
江ノ島を倒した苗木にお礼を言っているのだろうが、苗木はせいぜいサンキューと謝謝ぐらいしか理解できなかった。
『皆さん、苗木さんが困ってますよ』
「……ん?」
その『音』を聞いた瞬間、それは言葉となって苗木の脳裏に伝わる。
「…大文字さん?」
「こんにちは苗木君。彼らを悪く思わないでくれ」
手を振りながら去っていく集団を後目に、大文字は苗木に謝罪する。
「今、何したんです?」
「ミーの編み出した《汎用言語》サ!」
会議の時と違いテンションが高い。これが素なのだろうか?しかし、汎用言語とは何だろうか?あいにく苗木には聞き覚えがない。
「どんな国の人間にも母国語として聞こえる言葉サ。ミーはこれで、全世界の言語統一を目指してた」
「敬語に聞こえたのは、ボクの脳が勝手にそう翻訳したからか………ん?『してた』?」
「これはどうも使い勝手が悪くてね。下手したら洗脳や精神の汚染になるかもしれないのサ」
「………洗脳、ねえ………」
大文字の説明に、苗木は興味深そうに呟く。
暫く何かを考えた後、苗木は大文字に手を差し出す。
「まあおかげで助かりました。一応英雄だって自覚はありましたが、思ったより人気だったんですね、ボク。……えっと、大文字さん。差し支えなければ、ボクと『友達』になってくれませんか?」
「構わないよ。ミーとキミは今日からフレンドだ」
「うん。ところで、廃棄物置き場ってどっちだっけ?」
花美は、佐々苗を探して第13支部を歩き回っていた。
「全く何処に行ったんだ。そろそろ帰る準備をしなくてはならないというのに。それに、少年も何処に行った?」
「誰か探してるの?良かったら力になるよ?」
「ん?そうか、すまな………」
手伝いを申し出た人物にお礼を言おうとして、花美はビシリと固まる。そこにいたのは人ではなかった。
丸い体型、丸い耳、熊のような………というか熊のぬいぐるみそのものの見た目で、右半身はかわいらしい白い熊、左半身は白に近い灰色の邪悪な熊。しかし、包帯で隠されている。
「も、モノクマ!?」
「はじめまして、ボク『シロクマ』!苗木クンに作られた熊型ロボットなのだ!」
「し………シロクマ?」
「えっへん!」
名前を呼ばれて胸を張るシロクマ。というか今、苗木に作られたと言わなかっただろうか?
「なら、少年が何処にいるか知ってるか?」
「うん!知ってるよ!こっちこっち………」
花美が苗木の居場所を尋ねると、シロクマは花美の手を持って歩き出す。フェルト地の、中には綿が入っている感触だ。恐らく骨組みのみがロボットなのだろう。
しかし、こんなモノ作れたのか彼………。
「少年は、超高校級の幸運だったと記憶していたんだが…………」
シロクマに連れられ歩くこと数分。
屋上の入り口が見えてきた。どうやら苗木は屋上に居るようだ。ここの屋上なんて………精々電波が良く通る程度しかメリットはないが、誰かに電話しているのだろうか?
「はい、そうです。はい……──を、その日に………お願いしますね──先輩……」
屋上の扉を開けると苗木の声が聞こえてきた。あいにく風で良く聞き取れなかったが、やはり誰かに電話していたらしい。
「おーい!苗木ク~ン!」
「あ、シロクマ………ん?花美さん」
「やあ少年。誰と話していたんだい?」
「はい、ちょっと昔の先輩と……どうやら生きてたらしくて、番号も変わってなくて良かったです」
「そうか。ところで、私達も何時までもここに長居する訳にも行かない。明後日には帰るから、準備をしてくれないか?」
「はーい………あ」
苗木は花美の言葉に了解し、思い出したように呟く。
「明日、時間空いてます?ちょっと、『今後の方針』について色々な人たちと話したいので」
「ん?あ、ああ……わかった」