第14支部に戻ってきた苗木は、舞園達に早速絡まれる。
「苗木君お帰りなさい!」
「待っていましたわ」
「怪我、してない…?」
「舞園さんセレスさん戦刃さん、ただいま。取り敢えず落ち着いて……」
相変わらずの三人に苗木は苦笑する。まあ朝から昼にかけて姿を消していたのだ。その事を報告され彼女達が冷静だったとは思えない。
「苗木君、お帰りなさい。やっぱり無事なようね」
「霧切さんは心配してくれなかったの?」
「心配するだけ無駄でしょう?あなたは〝オシオキ〟されても戻ってきたんだから」
霧切はそう言って、不敵な微笑みを浮かべる。
しかし、未来機関の職員の数名は知っている。彼女は苗木の無事の報告が来るまで、定期的に《苗木の盗撮写真》を見て落ち着いていたのを。
「もう何時でも出発できるわよ」
「あれ?もう準備してたの?」
「俺と霧切でな……感謝しろ、苗木」
「十神クン!役に立ったんだ!」
「おい、どういう意味だ?」
驚く苗木の言葉に、十神は口元をヒクつかせ青筋を浮かべる。
「ごめんごめん間違えた。役に立てるんだね」
「変わっていないだろ」
「冗談だよ。『人を纏める事』に関してじゃ、この中で十神クンの右にでる者はいないよね」
これは本心だ。それが伝わったのか、十神はふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「それじゃあ明日にでも出る?」
「それは良いが、何処に向かう気だ?拠点の場所に心当たりでもあるのか?」
「ん?ああ、『希望ヶ峰学園跡地』。取り敢えずそこに移動したら、他の支部にも連絡する予定」
「成る程な、あそこなら十分な設備が生き残っている。合理的ではあるな。……しかし、それなら先に連絡した方が良くないか?」
「無事なのは旧校舎だけだから、色々整備とかしておきたいんだよ。大勢が一気に住めるほど広くもないからね」
「一理あるか。わかった、ではまず俺達だけで行くとしよう」
「うん。取り敢えず疲れたから明日ね」
苗木は久し振りな気がするベッドで横になる。
「さて、それじゃあ話そうか聖原クン」
「はい」
苗木の呟きと同時に、ベッドの下から聖原がにゅ、と飛び出してくる。鍵は閉めていたのだが何処から入ったのだろうか?
「いよいよ教えてくれるんですね。【存在殺人】について」
「まあね」
苗木はベッドから起きあがると机を動かし、紅茶を二杯煎れる。
「時に聖原クン。《アルターエゴ》と話したことある?」
「?ええ、少し」
「あれは不二咲クンの思考を完全再現しているわけだけど……あれ、不二咲クンだと思う?」
「いえ、あれはデータの固まりですから、別物かと……」
「じゃあ例えば電脳世界に入ったとして、なんらかの事故で記憶と人格がプログラム化されたまま本体が起きて、同じ人間の人格がお互いに会ったら、どっちが偽物?」
苗木の質問に聖原は考え込む。どちらも同じ記憶を持ち、どちらも同じ人格。一見すればプログラムの方が偽物なのだろうが、しかし思い出も感情も持つ者を、果たして偽物と呼べるだろうか?
「まあ、つまり個人という存在は、『記憶と人格』がそろって初めて個人という存在になるとボクは思うんだ」
「………まさか、アナタは………!」
「そ、江ノ島さんから『記憶』を奪った。ああ、安心してよ、思い出すなんてあり得ないから。脳細胞直接いじった〝記憶破壊〟。記憶喪失とは訳が違うよ?…ついでに人格をちょこっと弄って、《希望》を求める性格にしてみた。あの江ノ島さんが、絶望を愛することも出来ず大嫌いな希望を求める。これって最高に絶望的な【お仕置き】じゃない?あの世で喜んでくれると良いんだけど」
苗木の解答に、聖原は俯きプルプル震え始める。殺人を愛する彼のことだ、認められなかったか?と多少警戒する苗木。まあ、予想ではこれは………
「なんて素晴らしい『殺し愛』だ!」
歓喜の震えだが。
「命を奪う以外にそんな殺人があったなんて!それも、相手を何処までも想いやった殺し方!殺しにかけた愛!素晴らしい!」
「……うわぁ」
予想通りとはいえ軽く引く。
聖原は目をキラキラさせていた。
「しかも今度は肉体的な殺人、二度目の殺人が行えるんですね!」
「え?別にボク〝脱け殻〟には興味ないけど?例えあのプログラムが中に入っても、江ノ島さんの半分ぐらいしか愛せないだろうし」
「………え?」
「ボクは江ノ島さんの『人格』が好きなんだ。肉体にはさほど興味ない。というか殆どない。そりゃ最初は容姿から惹かれたのは否定しないけど、最終的には中身で選んだからね………プログラムの方も江ノ島さんと同じ性格だけど、江ノ島さんの『記憶』は造れてから今まで体験していた事と言伝で聞いたことだけ……ならあれは、江ノ島さんに近い別人でしかない」
「成る程………つまり体には何の興味もないと?」
「全く興味が無くはないけど、江ノ島さんに比べるとね…【彼女】、今頃何処で何してるのかな?」