PROLOG希望の妹と希望の戦士
燃えていく世界を見て、彼女は何も思わなかった。
ソファーに座り世界を眺める少女に抱きつくのはより幼い緑の髪の少女。
少女は自分の髪を金髪に染めさせ、伸ばさせ、二つに纏めるように頼み込んできた少女の頭を撫でる。
「うぷぷぷ。絶望的な状況だよねお姉ちゃん」
「そーだねー」
「もうお姉ちゃん!今のお姉ちゃんは超高校級の絶望なんだよ?もっと今を楽しまなきゃだめだよ!」
「……………」
緑髪の少女の言葉に少女ははぁ、とため息をはく。気怠そうに、どうでも良さそうに。
「絶望なんて言っても所詮象徴じゃん。その本物の江ノ島盾子さん……だっけ?みたいに容姿も頭脳も戦闘力も先導力も求められてもねー。ほらー、私って絶望的に無能だもん」
やる気も何も感じない少女の態度に緑髪の少女はむーとむくれる。
「無能、か。御輿がそれなのは余計に質が悪い」
「…………誰?」
唐突にかけられた声に振り返ればそこには白スーツを着た男が赤く光る日本刀を持ちたっていた。その目にはありありと殺気が宿っている。
「未来機関、宗方京助だ……」
「未来……?ああ、冬子ちゃんの……あれ、そういえば冬子ちゃん、何時からいなくなったっけ?」
殺気を向けてくる男を前にしても崩れぬ無表情。宗方は僅かに目を細める。
「哀れだな、希望を失い、絶望に堕ち、しかし本人はただの象徴か。世界に唯一貢献できたことと言えば
「世界にコーケン?あはは、変なこと言うね。貴方への貢献でしょ?絶望の殲滅、ねぇ………絶望的に無能な私でも解るよ。それ、その先に希望なんてない。この舞台を用意した先代さんの思惑通り……ふふ……あ、間違えた。うぷぷ、哀れだね」
「そうそうそんな感じ」
笑い方を直した少女に緑髪の少女は嬉しそうにうんうん頷く。
「くだらん戯れ言だ」
「戯れ言かなぁ?人なんて簡単に絶望するよ。希望を前に絶望した私が言うんだから間違いない。貴方も、貴方の大切な人も、切っ掛けさえあれば絶望する………絶望して世界を巻き込もうとする。外の連中みたいにね……あ、子供殺した私もそうかな?」
「俺は絶望などしない。俺の仲間も、誰1人絶望させたりしない」
「…………そ、無理だと思うけど頑張れ~。絶望的に応援してるから」
「貴様の賛辞などいらん。最期に言い残しておくことはあるか?」
「わお、やさしねー。アレかな、お前もあくまで絶望の被害者の1人なんだ、と思ってるから自分は使命のために心を削るヒーローだーとでも思いたいのかな?んー、言い残しておきたいことねー」
少女は顎に指を当てうんうんと唸り、数分経つとよし、と頷く。
「この子供だけは必ず殺してね。あの世では可愛がらず、永遠にいじめ抜くから」
「えー!お姉ちゃん酷い!」
「大丈夫大丈夫。地獄もきっといろいろあるから───」
と、そこまで言って少女の胸に日本刀が突き刺さる。その日本刀を熱を発しており、肺の中の酸素を焼き少女の口から血とともに火の粉がチロチロと、溢れる。
「安心しろ。絶望は、誰1人残さず地獄に送ってやる」
「……わー……じゃあ、いずれ……貴方も、ぐるんだ…ぁ……」
ザン!と日本刀を振り上げると胸から頭にかけて切り裂かれる。少女の死体は焼け焦げた跡を残し床に転がった。緑髪の少女は少女の死体をみた後チェ、と呟く。
「あーあ、二代目も死んじゃったのじゃ。絶望は負ける運命なのかなー?」
「当然だ」
「ふーん。でも、さ……」
緑髪の少女は笑みを浮かべ見上げるような形で、しかし見下すような瞳を向ける。
「絶望が幾ら死んだところで、勝者を決めなきゃ勝負はつかないのじゃー。絶望の負けは希望の勝ちとは限らないにゃんおじさん」
「流石絶望。こんな子供まで戯れ言を言うか」
そういって宗方は日本刀を上段に構える。それを見ても緑髪の少女の笑みは崩れない。
「そういえばおじさん元超高校級の生徒会長だっけ?よくわからない才能だね。そんな貴方に、かま
少女はそういうとトン、と後ろに飛ぶ。そして懐から取り出した白と黒のスイッチを押すと爆音とともに床が崩れる。
「モナカを殺して良いのは本物希望だけなのじゃー。希望(笑)は頑張って正義(失笑)のために人を殺しまくってねー」
と、落ちながら残した声を言い終え緑髪の少女は目を瞑る。数秒後グシャリと何かが潰れるような音が小さく聞こえた。
聞いたところによると、地球は丸いらしい。でも、それって本当に?もうしかしたら地球は金平糖のような形をしているのかもしれない。おばあちゃんがティッシュに包んでくれる、あのトゲトゲした砂糖の塊のような、色による味の変化なんていっさいないあれだ……。
まあ実際に地球の形を見たことがない私には解らない。世の中なんて実際に見たことがないモノばっかりだ。でも世界はそんな常識で成り立っている。
皆疑問に思わず世界が言ったことを信じて、考えることを殆ど放棄している。何でそうなるかなんて、誰も考えない。何で重力があるのか?何でモノは重力に引き寄せられるのか、どうして磁石は反発したり引き寄せたりするのか。
当たり前は所詮当たり前で、そうだからそう、何て考えだらけ。何でそうなったのか何て詳しく考えない。何で炎が光を放つのか、何で熱を出すのか、誰も考えないだろう。世界とはなんと不確かなことか。
「……ま、そんな事私には関係ないか」
ストレッチをして筋肉を解す少女、苗木こまるは呟く。彼女は今、監禁されている。
2LDKの部屋が、今彼女の世界の全てで、しかしそれは先程の言葉には関係がない。例え世界を出歩けたとしても関係ないと心の底から思っている。
「そろそろかなー?まだかなー?そろそろだった気もするけど、まだまだな気もする。どっちだっけ?」
などと呟きながら朝の食事の食器を洗い扉の近くの小さな窓においておく。後で監禁している何者かが取りに来るだろう。と、その時だった。ガタガタと音がして扉が揺れる。
それを見たこまるはああ、と思い出す。
「そういえばあの時もこんな事考えたっけ?そっかぁ、今日だったか~」
後ろでジャキン!と音がして鉄の扉を突き破り爪が出て来るのを無視してリビングにある椅子を持つと再び扉の前まで歩き、椅子を掲げるように持ち上げる。
扉は歪み剥がされ外から白と黒で左右を分けたクマのぬいぐるみのようなモノが入ってきて、それと同時にこまるは「えい」と椅子を振り下ろした。
ゴシャ!と音を立て白黒のクマは椅子に破壊される。椅子も原形をと殆ど失いかけていたがもう使わないので関係ないだろう。
「さてさてお兄ちゃんは島に来てるかなー?」
バチバチと千切れたコードから火花を散らせるクマを跨いで部屋の外にでるこまる。
部屋の外、廊下は現在火の海だった。しかしこまるは冷静に周囲を観察する。
「へー、よく見ると全部の窓にとっても硬そうな鉄格子。私以外にも監禁されてる人いたのかな?いたんだろうね。十六人分の人質が」
熱にやられて脆くなったのだろう、崩れた壁から適度な大きさの瓦礫を持って歩くこまる。と、その時炎の中から先程のクマと同じ色合いのクマが現れる。が、赤い左目に石を投げつけられバタリと床に倒れる。
こまるは自分の手にある壁の破片を見てあれ?と首を傾げる。
投げるつもりなどない。だって絶望的に無能な自分にそんなコントロールも運も無いのだから。とがった部分を叩きつけるつもりだった。では誰が石を投げた?
「だ、大丈夫!?」
「…………誰?」
振り返るとそこには見知らぬ少女がいた。年は自分より上。大人の一歩手前。赤い髪を長くのばしており、体型は……かなりグラマラスだ。こまるもグラマラスといえばグラマラスだが向こうは背筋もしっかりしていて何だかモデルみたいだ。顔は余り化粧をしていないが。しかしあの左目の眼帯は何だろう?
「───っ!」
「……?」
不意に赤髪の少女は目を見開きこまるを凝視する。そして、いきなりこまるの両手を掴んできた。
「あ、あの!私、音無涼子っていいます!お名前教えていただけませんか!?」
「……苗木、こまるだけど……」
「一目惚れしましたこまるちゃん!結婚してください、私がネコでもこまるちゃんがネコでも良いので!」
「無理です嫌ですごめんなさい、勘弁してください、それから死んでください。可及的速やかに」
こまるの言葉にズーンとうなだれる涼子。こまるは前回こんなのいたっけ?と首を傾げる。
「……えーっと……音無、さん?貴方は何でこんな所に?」
「涼子でいいよぉ。此処に来たのは直感だよ。此処にくれば何かに出会える気がしたの!」
「そうですか。あ、気持ち悪いんで近づかないでください」
スススと距離を取るこまる。と、その時チーンと音がしてエレベーターが開く。エレベーターの中には眼鏡をかけた金髪とサングラスをかけた男たちが黒スーツで経っていた。
「な、誰、あれ?」
「逃走中のハンターじゃない?すいませーん、エレベーター使いたいんでどいてくださーい」
と、こまるが近付いていくと戸惑うような反応をする黒スーツ達。しかし金髪眼鏡だけはこまるをジッと眺めていた。
「苗木こまる、だな?希望ヶ峰理事会第7席、経理課課長十神白夜だ。勘違いして喚くなよ、俺はお前を閉じこめた連中とは違うぞ。お前を助けに来てやったんだ」
「……はあ……あの、未来機関じゃないんですか?」
「………ある程度の情報は与えられていたというわけか。だが違うぞ。しかしこの落ち着きよう……流石は彼奴の妹だ」
と、十神は頭痛でもするかのように頭を押さえる。
「俺はお前の兄苗木誠が理事会を勤める希望ヶ峰の幹部の1人だ。念の為聞くが苗木誠を見てないか?」
「部屋から出てきたばかりなので。兄がどうかしたんですか?」
「どうしたも何も、唐突に仕事を残らず数日先の分まで終わらせたと思ったら残った雑務を理事長を押しつけた七海に押し付け、希望ヶ峰のコンピューター制御を行うアルターエゴと共に行方をくらました。昔から先の読めん奴だったが今回の行動も意味不明だ」
こまるは
「しかし、そっち女は誰だ?要救助民ではなさそうだが」
「あ、お、音無涼子です!」
音無は十神に視線向けられ慌ててお辞儀をする。十神はふん、と鼻を鳴らした後、白黒のクマを見る。
「……何故此処にモノクマが。それにこのタイミングの暴動……もしやあの情報自体が俺達をおびき寄せる罠……?」
「あのー、私そろそろ行ってもいいですかー」
他人の考えなどに興味のないこまるはさっさと去ろうとすると十神は舌打ちをする。
そして非常口と通気行からモノクマが大量に現れた。
「きゃー、こわーい。何か武器くださーい」
「何処までも神経を逆撫でする兄妹だなお前達は………希望ヶ峰が開発したハッキング装置だ、受け取れ」
十神はそういうとメガホンを投げ渡してくる。
「拳銃型で───」
「はいはい使い方は見ればわかりまーす」
「………このマンションの向かいにあるファミレスに希望ヶ峰の人間が待機している。さっさとい──」
「音無さんもいるからもう一つちょーだい」
「え?こまるちゃん、私を心配して!?」
「…………」
十神はもう一つのメガホン型のハッキング装置を音無に投げつけ、今度こそさっさと行けと言おうとしたがチン!と言う音と共にエレベーターのドアが閉まった。
「きゃあああ!こまるちゃん、モノクマ!モノクマがたくさん!」
「はいはい。早くPig★Boyに行くよ」
モノクマに人が襲われ悲鳴が聞こえる中こまるは一心不乱にハッキング銃を撃ちまくる音無を後目に近付いてくるモノクマだけを破壊しながら進む。その様子に音無はますます目をキラキラさせていた。
「……普通怯えるべきだと思うんだけどな……ああ、コイツ普通じゃないんだ」
結論づけるとそのままファミレスに入る。ファミレスの中はまだ騒ぎに気づいてないようだ。
「いらっしゃいませー。お二人様ですか?」
「すいませんトイレ貸してもらっていいですか?」
「あ、はい、此方になります」
こまるの言葉に店員は慌ててトイレの場所を案内する。
「こまるちゃん漏れそうだったの?」
「べっつにー……そろそろかな?」
と、こまるが呟いた瞬間ガシャーンという音と悲鳴が聞こえてきた。音無が目を見開き振り向く。音は暫くして消えた。
「………んー、死んでるね」
恐らくモノクマが襲撃して、生存者がいなくなり去ったのだろう。こまるは死体の中から黒いスーツを着た死体を見つけるとゴソゴソまさぐる。
「こ、こまるちゃん怖くないの……?」
「んー、今の所お兄ちゃんが生き残ってたらそれでいいかなー。あ、後冬子ちゃんにも会いたいかも……あ、あったあった」
そういって取り出したのはハッキング銃とメモ帳。
ついでにファミレスにあるお菓子売場からガムを幾つか取る。
「この人これ持っててやられたのか。不意をつかれたのか無能だったのか……ま、いっか。ん?」
『……クスッ』
不意に何処からか笑い声が聞こえてきて音無が怯えたように周囲を見回す。声の発生源はテレビだ。テレビにはニュースキャスター死体が映っており、机にもたれ掛かった死体が唐突に起きあがる。もちろん生き返ったわけでも死んでなかった訳でも、ましてやゾンビになった訳でもない。
『ジャジャジャジャーン!俺ッチはゾンビだーい!ガオガオガオー!食べちゃうんだぞー!』
赤い髪のマスクを被った少年が死体を持ち上げ人形遊びをしているのだ。それを桃色の髪の少女が笑ってみる。
『いやーん、食べないでくださーい』
『あのさぁ、大門くん……ゾンビってガオーって言うのかな?僕チン、それが気になって集中できないよ』
と、死体で遊んでいるとは思えない無邪気な様子で遊ぶ三人。そこに青い髪の少年も加わり三人を諫める。
「こ、この子達死体で何してるの……?」
「………ゾンビごっこ?」
「そ、そういう事じゃなくて!」
音無がこまるをガクガク揺さぶっていると画面に車椅子に乗った緑の髪の少女が現れる。
それ以上は現れる様子はない。
『塔和シティの皆さん、初めまして。私達は希望の戦士。モノクマちゃん達のご主人様なのです』
「………じゃ、行こっか」
「え、行くの?」
と、戸惑う音無にこまるは知ってるから良い、と返す。
「………って、そもそも一緒に行動する必要ないか。はい、これあげるから森へおかえり」
「へ?メモ……集合場所?って、まってよ!」
非常口に向かって歩き出したこまるを慌てて追いかける音無。外に出たこまるは周囲を見渡した後、手頃な茂みの中にハッキング銃の片方を隠す。
「こ、これから何処行くの?」
「どの道一度はお城に呼ばれるわけだろうし、メモの場所。ついてこなくても良いよー」
「い、行くよ!」
街にたむろするモノクマ達は生きている人間を追いかけたり執拗に死体を爪で引き裂いたり。冷静に見ればまるでこまる達……厳密にはこまるを誘導するように無視していた。
「やっぱり私に向かって欲しいわけか……此処は素直に従っておくべきかな」
「へ?」
「あ、ほらついたよ」
公園に着くとヘリとその前に立つ黒スーツの男女を見つけた。音無はさっそくこまるの腕をつかんで走り出した。
「あ、あの!希望ヶ峰の人達ですか?えっと、此処にくれば助かるって十神白夜って人に言われたんですけど」
音無の言葉に言ってたっけ?と首を傾げるこまる。黒スーツの男女はアイコンタクトをすると頷きこまる達をみる。
「君達の名前は?」
「わ、私は音無涼子。こっちは苗木こまるちゃんです!」
「どうやら、この街に要救助民がいるって情報は確かだったみたいね……でも、音無の方には聞き覚えが……」
「俺、聞いたあります。前に苗木副理事長が探してるって……」
ん?お兄ちゃんが?この人何となくお兄ちゃんのタイプじゃなさそうだけど、と音無を見つめるこまる。まあ趣味が変わったのだろうと気にしないことにした。
「それで、十神白夜は何処だ?無事なのか?」
「私達は先に逃げろって言われて、それっきり何で……」
「そう…連絡も取れないしちょっと心配だけど、まぁ、彼の事だしよっぽどの事がない限り大丈夫でしょう」
「あれが?よっぽどの事じゃなくても大丈夫じゃない気がするんだけどなぁ……」
女黒スーツの言葉にぼそりと呟くこまる。誰にも聞こえなかったようだ。
「……ん?」
「「「ほら楽しく殺しましょう 大人なんて要らない~♪」」」
不意に耳を澄ませると複数の子供達による音楽が聞こえてきた。誰かがあそこだ!と叫び指差した方向を見ると遊具の上にメタリックなモノクママスクを被った子供がおり、その背後から複数のモノクマが現れる。その内一体が死体を加えていた。
「来たぞ!……うぐ、ぐわぁぁぁ!」
そして野性的なモノクマが飛び出してきて黒スーツの1人に食らいつく。
「に、逃げろ!こっちだ……」
「だってさ音無さん。あ、もうちょい積めたほうがいい?」
「冷静すぎるよこまるちゃん!でもそこが素敵!」
「………落とした方がいいかな、身の危険を感じるよ」
こまると音無が乗り込み黒スーツの1人も乗り込もうとしたがモノクマに襲われる。音無が顔を青くして扉を閉めホッと一息をつくと壁についているグリップを握りまるで衝撃に備えるようにしているこまるを見て、それからコックピットのモノクマを見て慌てて反対のグリップを掴む。
同時にヘリを上昇を始めた。
コックピットでガチャガチャハンドルを弄くるモノクマ。やがてハンドルがバキリと折れ、ヘリは落下を始める。
「いやああああ!」
「…………」
握っていたグリップを手放しこまるに抱きつきその放漫な胸で窒息させようとしてくる音無が涙目で叫び、ズドォォォン!とヘリが地面に落下した。コックピットから落下したためコックピットにいたモノクマは完全に砕け散った。
「………うぷ、胃の中がシェイクされて気持ち悪い……朝ご飯抜いておけば良かった」
「だ、だから……冷静すぎるよこまるちゃん……」
フラフラとふらつきながらも目立った怪我はない2人。そんな二人を囲むように大量のモノクマが二人の周囲を取り囲む。こまるはそんなモノクマを見ながらゆっくりと意識を手放した。
「……………ねぇ………聞こえる……?」
意識が戻りかけ、周りの音を認識し始める。はじめに聞こえたのは兄によく似た、それでいてねっとりと粘つくような声。
「………ねぇ………大丈夫?」
「……………」
こまるが目を覚ますと何処かの部屋にいた。近くには音無もおり、此方はまだ寝ている。
「だいぶ参っているみた……」
「音無さーん、起きてー」
「ん、んぅ……そんなこまるちゃんこんな所で…………」
「起きろつってんでしょ変態レズビアン」
「げふ!?」
腹を蹴られ飛び起きる音無。キョロキョロと状況が解らないのか周囲を見回す音無。壁により掛かっていた男はしばし目を丸くしてこまるを見つめる。
「起きた?あ、ガムいる?」
「え、あ、ありがとう……」
音無は戸惑いながらも差し出されたガムを受け取る。こまるも音無に渡した後包み紙からガムを取り出し噛み始めた。
「……そうでもなさそう、だね。流石彼の妹。そうじゃなくちゃね」
「………?」
「えっと、こまるちゃん……この人、誰?」
「覚える必要なんてなさそうだからどうでもいい……」
「そうだね、覚える必要なんてないよ。僕はただの召使いだからね。この街なら安全だってき──」
「あ、身の内話には興味ありません。召使いってことはご主人様いるんでしょ?案内して」
こまるの言葉に何がおもしろいのかアハハハと笑う召使い。
「冷静だね。うん……現実逃避をする様子もない。まさかたった一晩で起きるなんて、君は強い子だね。うん、予想外ではあるけど合格だね。きっと彼等だってそうだろうね。ま、一応テストは受けてもらうけど………はい」
召使いはそういうと二人にハッキング銃を2つ渡す。
「勝手に借りてごめんね?でも、個人的にどうしても解析しておきたかったんだ。いやー、それにしても素晴らしい機械だね。電波でプログラムを飛ばして強制的にハッキングする装置なんて……ただ、ちょっと強すぎるから制御しといたよ。ゲームバランス的にね」
「解った解った。で、テストは何時始まるの?」
「うん。じゃあここからスタートして、無事“みんな”の元まで辿り着けたら合格だよ」
召使いはそういって扉を開ける。こまるはさっそく後をついて行った。
「音無さん、その銃は隠しといてねー。あのクソガキはともかく残りのバカガキ達がうるさいだろうから」
「え、う、うん……」
「あ、まってまって……コトダマ『ウゴケ』をアップデートしてって」
廊下にいるモノクマを破壊しながら進と階段のある通路にでる。すると鉄格子が下がってきたがこまるは壁のランプに『ウゴケ』を当てる。階段の鉄格子だけが下がる途中で止まり、上に戻っていった。
「こまるちゃん……怖くないの?」
「うん」
階段を上ると扉があった。扉を開けるとかなり広い部屋に出る。そこには、先程テレビに映っていた子供達の内緑の髪の少女を除いた四人が揃っていた。
「あ、貴方達さっきテレビに映ってた……!」
「あちゃー、俺ッチてば有名人だなー。背中にサインなら、何時でも書──」
「いらない」
「僕チン、彫刻刀でしか字を書けないんだけど、それでよければ背中に──」
「いらない」
「プレゼントも受け付けていますよ。甘いものなら大歓迎で──」
「あげない」
四人の内三人が落ち込む中、駆動音を響かせ車椅子が近付いてくる。その上に乗るのはやはり先程の少女。
「おねーちゃんいらっしゃーい。来てくれて嬉しいにゃん」
「うん来たよ。よろしくね、私は苗木こまる」
「………あ、うん。私はモナカだよー♪魔法使いなんだー。それとね、小学生に通ってた時は超小学生級の学活の時間って呼ばれてたんだー。学活はぁ……お姉ちゃんにも馴染みのある言葉で言うと、ホームルームかな?ほらほら皆、自己紹介のお時間ですぞー」
と、モナカが言うと他の四人も自己紹介を始めた。
元超小学生級の体育の時間で勇者で希望の戦士のリーダー『
元超小学生級の社会の時間で賢者で副リーダーの『
元超小学生級の図工の時間で僧侶の『
元超小学生級の学芸会の時間で戦士の『
五人合わせて希望の戦士で、本当は後1人いるのだが今は何処にいるのは解らないらしい。
「えーっと、モナカちゃんに大君に渚君に蛇太郎君、それと言子ちゃんね。うん、覚えた」
こまるはそういうとそれじゃあと言おうとして、音無が急に前に飛び出してくる。
「ちょ、ちょっと待って!もうしかしてだけどさ、この騒動は君達の仕業なの!?」
「そーどー?ああ、モノクマちゃん達のこと?うん。そうだよー、すごいでしょ!」
「うんうん凄いよね。ねぇモナカちゃん、モノクマちゃん達を使って私のお兄ちゃんを探してくれないかな?」
「んーっと………どうしよかっかなー?」
「お前も召使いになりたいって土下座するなら考えてやっても良いぜー!」
迷う素振りを見せるモナカだが大はニカッ!と笑って言う。
「え、本当?ところで土下座ってなーに?」
「そんな事も知らねーの?だっせーな。良いか、土下座ってのは座って地面に手をついて……」
「ごめーん。解らないからやってみてくれる。1人だけのを見ても解らなそうだから全員でお手本見せて?希望の戦士だもん、それぐらい簡単だよね?」
「へっへーん!当たり前だろ!」
「こ、こうやるんだよ……」
「仕方ありませんわね……」
「全く、無知な女だ……」
と、四人揃って土下座するとこまるはチラリと横目でモナカを見る。表情は笑顔のままだが、目が完全にあきれていた。此処に人がいなければきっと頭を押さえていることだろう。
「仕方ないなー。お姉さんもそこまでお願いされたら召使いになってあげるよー」
「やったー!可愛い召使いをゲットですわー!」
「やりー!流石俺ッチの土下座!」
「や、やったね皆……」
「…………あれ?」
「って、そうじゃないでしょこまるちゃん!」
キーンと耳鳴りがするほどの大声を耳元で叫ばれおぉ……と耳を押さえるこまる。
「この子達変だよ!何言ってるのかわかんない!」
「むー…」
「あー……」
流れを持ってこさせないつもりだが、思わぬ伏兵によりそれも崩された。やっぱり置いてくれば良かったかなぁ、と後悔するこまるの前でモナカはだだをこね始める。
そんなモナカを慌てて慰めそうとする希望の戦士達。こまるははぁ、とため息を吐いてモナカを指さす。
「「もーこうなったら赤毛のお姉ちゃんを連れてきたお姉ちゃんも同罪なんだから!マモノ登録しちゃうんだからねー!」」
「……ほぇ?」
言葉を被され呆けるモナカ。こまるが薄く笑うと一瞬だけ表情を歪めるが即座に取り繕う。
「わー、お姉ちゃんすごい!モナカの言いたいことが解るんだ!」
「解るよ?
「………………」
ニコリとわざとらしい笑みを浮かべるこまるとモナカ。お互い笑顔なのに何故か音無にはにらみ合っているように見えた。
「じゃーマモノ登録受けるからさ、マモノ証明だしてよ」
「はいはい。この腕輪だよ」
と、そこへ不意に現れた召使いが二つの腕輪を持ってやってくる。こまるはそれを受け取ると腕に自ら填める。音無は召使いに填められていた。
「はい。それとこれ。キチンと二人とも背負ってね」
と、こまると音無にリュックのようなモノを差し出す召使い。二人がそれを背負ったのを確認すると召使いは距離を取った。
「じゃあ…これで準備完了だね」
「よっしゃー!さっそく一狩りいこうぜー!」
こまるはやる気を出している希望の戦士達を無視して渡されたリュックのようなモノの留め具をしっかりと確認する。
「音無さん、そっちはどう?」
「う、うん。ちゃんとついてるよ……」
「…………そっかー」
「何で残念そうなの?」
「じゃあ音無さん、急に飛びついてこないように離れて離れて……」
「へ?え?どういうこと………」
と、音無が戸惑っているとパカッと床が開く。こまると音無はその穴の中に吸い込まれるように落ちていった。
「いやああああ!高い!高いぃぃぃ!」
「………………」
パラシュートが開いても地上との距離があるためか涙目て叫ぶ音無。こまるはパラシュートが絡まないようにうまく距離を取りながら見覚えのあるビルの屋上に向かっていた。
「………うーん、これって強くてニューゲームって奴なのかな?さて、どうしよっか。あのクソガキを虐めるには最後のスイッチを選ばなければ良いだけだしなー。バカガキ達は……まぁ、倒せば勝手にお仕置きされるか」
同時刻、地上を闊歩するモノクマの群があった。その群の中央のモノクマ達は板を持ち上げておりその板の上に胡座をかくのはモノクマの仮面を付けモノクマ柄のパーカーを着た人物。
後ろでは気絶しているのかぐったりと横たわる赤いマフラーをつけた少女。後列のモノクマ達は車椅子を運んでいた。
「もしもしせんぱーい?そっちはどうですかー?」
『また変わった喋り方をしていますね』
「今のボクはモノクマ仮面ですぜ、こんなしゃべり方にもなりますとも!」
と陽気な声色で笑うモノクマ仮面。
『ツマラナイほど予定通りですよ。ある人物達のそれぞれの反応と、介入を除けば』
「そりゃそういう計画らしいですからな。予定通りに進って………でも彼女を混ぜるなんて意外っすか?」
『ええ、良く付いてきましたね』
「え?普通に拉致ってきたよ?」
『……………』