救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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地獄の中心で愛を叫ぶマモノ①

「お……とと……」

「きゃあああ!」

 

 二度目でしかも恐怖心もなくなったとなれば冷静に対応できるようで、こまるは着地と同時に足を動かし数歩前に歩く。結果として彼女はパラシュートに覆われることなく、後方では音無が布の中でもがいていた。

 

「……おーい、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」

「そ、じゃあ後は1人で頑張って~」

「え!?ま、待って!大丈夫じゃない、大丈夫じゃないです!おいてかないで!」

 

 屋上の出口に向かって歩き出したこまるの腰にしがみつき涙目で縋る音無を見てはぁ、と面倒くさそうに顔をしかめるこまる。

 面倒だがきっと離れてくれないだろう。まあ一応彼女もハッキング銃を持っている。役立たずになることはないだろう。と、そこまで考えた時こまるは唐突にハッキング銃を構え引き金を引く。

 

『さよーならー!』

 

 放たれたコトダマはフェンスをよじ登ろうとしていたモノクマを破壊して、下で壁を上っていたモノクマも巻き込んだのかガシャガシャン!と音を立てながら堕ちて数秒後に複数の爆音が聞こえてきた。

 

「こ、こまるちゃん!これなんか、残弾数が出てるんだけど、前まで無かったのに……」

「ああ、そういえばそんな機能付けられてたね。どうしよっか、まだ来るよ?」

「落ち着いている場合じゃないよ!」

 

 音無が慌てていると不意に飛来した鋏がモノクマの額に突き刺さり爆発する。

 

「……へ?」

「………」

 

 呆然とする音無、振り返るこまる。そこにはユラリと幽鬼のように佇むセーラー服の少女が佇んでいた。

 

「ウヒヒヒヒ!」

 

 少女は2人の間を駆け抜け残りのモノクマを鋏で切り裂く。

 

「ゲラゲラゲラゲラ!こんなのやっても全然萌えねー!ゲラゲラゲラゲラ!!」

「え、だ、誰……?」

「ああん?」

 

 音無が思わず呟くと少女は長い舌を突き出して振り返る。倒れたモノクマが爆発し、少女は爆煙の中から飛び出してこまるの目の前で止まる。

 

「ねえあんた苗木こまるっしょ!そーっしょ?ね?ね?そーっしょ?」

「そうだよ。苗木こまる。おまるでもでこまる無いからそこんとこよろしくね」

「ああん?でこまるで十分っしょ……」

「………ま、いっか」

 

 こまるがはぁ、と納得していると屋上に再びモノクマが集まってきていた。数は先程の倍近くいる。

 

「ゲラゲラゲラ!あーめんどくせ………」

 

 少女はそういうとこまると音無の手をガシリと掴む。

 

「ラァァァァンデブゥゥゥゥゥゥ!」

 

 そして走り出す少女。当然腕を捕まれた2人も引っ張られながら彼女の後をついて行く形になり、室外機の後ろに隠れた。

 

「あ、あの……助けてくれたんですか?」

「おん?誰だお前」

「あ、私は音無涼子っていいます」

「ふむへむ。んー?どっかで見たことあるよーなー………ま、いっか!ゲラゲラゲラ!」

 

 少女は陽気に笑うと急に無表情になり音無に鋏を突きつける。

 

「ひっ!?」

「ねぇ、白夜様はどこー?もちろん知っているんでしょー?」

「…え?」

「だってー、トナッチが持ってる銃からー、白夜様の匂いがプンプンするもーん」

 

 こまるは持ち歩くのを死んだ構成員から取った方にして正解だったかと顔を青くして震える音無を見て思う。

 

「おい、隠して、無駄に生存率下げるような真似すんじゃねーぞ」

「白夜さんとは別れたっきりだよ。その後は知らない。捕まってんじゃないかな?」

「はー!?まじかよ捕まえた奴うらやまし!あたしも今すぐ白夜様の元に駆けつけて監き……きん……か、かかかか!」

 

 こまるの言葉に叫びだした少女はしかし突然壊れた機械のようにガクガク揺れはじめ、目がスロットのようにグルグルに回る。やがて不気味に赤く光っていた瞳から灰色の瞳に変わる。

 

「……あ、あれ………」

 

 そして少女は鋏を落とすと戸惑うように音無とこまるを交互に見る。

 

「あ、あんたら……誰よ!?」

「へ!?」

「あっ、さては!あんた……苗木こまるねっ!そっちは知らないけど……」

「さっき……音無涼子って自己紹介したけど?」

「あ、そうなの……?」

「…二重人格なんだね」

「そ、そうよ!さっきまではジェノサイダー翔とか名乗っちゃってる痛い殺人鬼で、今のあたしは腐川冬子……希望ヶ峰経理課所属……ま、まあ一応は貴方達の味方、かしら……」

 

 やっぱり彼女も所属している組織が違うのか。まあ、彼にベタぼれしているのだから彼について行くのは当然か。

 

「じゃあよろしくね冬子ちゃん」

「とととと、冬子ちゃん!?あ、あたしは年上よ!タメ口聞かずに“さん”しなさいよ!」

「えー?良いじゃん。私と冬子ちゃんは友達でしょ?」

「と、ともとももも友達ぃ!?」

「こまるちゃん、私は?」

「ストーカー女」

 

 落ち込む音無を可哀想に見つめる腐川。こまるはしかし落ち込んでいる音無を無視して首を傾げた。

 

「ねぇ、なんかおかしくない?」

「な、何がよ……」

「音……モノクマ達の音がしない………ん、歌?」

 

 確かにモノクマ達の音が消えた。三人が見つからず立ち去ったのだとしたら早すぎる。何か異常が起きている、そう周囲を警戒する三人の耳に何やらヒーロー番組のような音楽が聞こえてきた。しかし歌詞はない。

 

「やっほー!」

「っ!?」

「んな!?」

「……」

 

 そして室外機の上にダン!と飛び降りてくる影があった。その影は膝を曲げ姿勢を低くして下にいるこまる達を覗き込んで手を降っていた。

 

「………モノクマ?」

 

 その顔は、確かにモノクマだった。ただし仮面だ。彼、あるいは彼女は明らかに人間だ。ダボダボのモノクマを模したパーカーを羽織りフードで髪を隠し顔をモノクマを模した仮面で隠しているため性別はわからない。声もボイスレコンジャーでも使っているのか明らかに地声ではない。

 

「ま、また変なのが……誰よあんた!」

「ボク?ボクはモノクマ仮面!モノクマ達の、王様なのだ!」

 

 腐川が指差し怒鳴ると両手を広げながら立ち上がるモノクマ仮面。何時の間にか現れたモノクマキッズが左右から黒と白の紙吹雪を投げている。

 

「モ、モノクマ仮面……?あのガキ共の仲間かしら?」

「だから!王様なの!一番偉いの!子供に従うわけ無いでしょ全くもう……てか、ボクがようあるのはその子だよ………」

「………私?」

 

 指さされたこまるは今度は何なんだと思っているとモノクマ仮面の後ろから箱を持った三体のモノクマが現れた。モノクマ仮面はその箱を開けていく。

 

「貴方が落としたのはこの制限が付けられる前のハッキング装置ですか?それともこのたまに喋り出すハッキング装置ですか?それともこの威力は半分、残弾数はどれも1のハッキング装置ですか?」

「………?」

「なんだよもー!樵の泉も知らないの!正直者には全部上げる心優しい女神様のリスペクトだよ!ハッ!言ってしまった………」

「私が落としたのは十神白夜さんのハッキング装置だよ」

「仕方ないなぁ。ボクが口を滑らせたんだからオマケは一つだけだよ。はい、制限なしのハッキング銃とたまに喋り出すハッキング銃」

 

 と、こまるにハッキング銃を二つ渡してくる。片方はヤケに腐川が凝視してくることから考えて十神から受け取り茂みに隠していたあのハッキング銃だろう。

 

「ま、待ちなさいよ!あんた、敵なの、味方なの……?」

「ボクが敵か味方かって?うぷぷぷ。そんなの自分達で考えなよ、何のための脳みそさ。人間は脳みそから滲み出る悪意でボクたち罪のないクマから住処を奪い続けた生き物だろ?」

 

 と、言い残したモノクマ仮面が三人の頭上を飛び越えフェンスの向こうまで跳ぶ。そこには何時の間にか複数のモノクマ達による塔が築かれていた。

 

「完全な味方でもないからただで良いことはしてあげないとだけ言っておこう。というわけではい、これ……」

「んー!んー!」

「へ、げ、月光ヶ原……何してんの?」

 

 モノクマ仮面が手を上に向けて動かすとモノクマの塔をモノクマが上ってきた。二体のモノクマは縛られ猿轡をギャグボールを噛ませられた女性を抱えていた。後からやってきたモノクマは車椅子を持っている。

 

「実は彼女を拉致って来てね。とはいえ彼女をずっと持ってるわけにも行かない。あげる。きっと役に立つよ!」

「むぅー!」

 

 ジタバタ暴れる女性にモノクマ仮面は耳元で何やら呟く。すると女性はピタリと止まりキッとモノクマ仮面を睨む。

 

「ボクの正体が知りたいなら彼女に聞けば解るよー。彼女が教えてくれたらね?ゴーモノクマ!」

 

 モノクマの塔がゆっくり下がっていき、加湿器の上に残っていたモノクマキッズもピョンピョン跳びモノクマ仮面を追いかける。後にはヒーロー番組のような音楽を流すラジカセと『歌詞募集中!』と書かれた紙だけが残された。

 

「あー……えっと、大丈夫?」

 

 こまるは先程腐川が落とした鋏を拾うと拘束を切り裂く。女性は大丈夫、というように片手をあげると車椅子に向かってズルズル歩く。

 

「あ、手伝うよ!」

 

 そんな女性を慌ててこまるが支える。車椅子に座った月光ヶ原が何やらカチカチ弄ると車椅子に備え付けてあったディスプレイにウサギのぬいぐるみが移った。

 

『助かりまちた。ありがとうございます!わたちはウサミと言いまちゅ』

「う、ウサミ?」

「そ、そいつは月光ヶ原美彩……そのウサミっていうキャラクターを通してじゃないと人と話せないコミュ症よ……」

「冬子ちゃんより酷いねそれは」

「あ、あたしはそもそもコミュ症なんかじゃないわよ!」

「えー……」

 

 腐川の主張にあきれたような声を出すこまるは、そういえばさっきからおとなしかった音無に目を向ける。

 

「何だろ、この気持ち………これが、恋?そんな、私にはこまるちゃんがいるのにー!」

『人それぞれだとは思いまちゅよ………』

「ま、いいか。じゃあ行こっか」

「い、行くってどこによ……」

「十神さん助けたいんでしょ~。良いよ~、手伝ったげる。あたしと冬子ちゃんは友達だもんね~(棒)」

「な、なんなのよ……別に友達扱いされて嬉しいなんて思ってないんだからね!」

 

 こまるは三人をつれてビルから出ることにした。何気に仕切っているが文句を言う者は居なかった。

 

「そういえば月光ヶ原さん、さっきのモノクマ仮面って、誰なの?なんか妙に親近感があるんだけど……」

『この世界で間違いなく絶対に世界一性格の悪い男でちゅ』

「じゃ、違うか。お兄ちゃんだと思ったんだけどな……お兄ちゃん性格お人好しだし」

『──!?』

 

 

 

「ここって、病院?」

 

 音無は周囲をキョロキョロ見回しながら言う。確かに病院のようだ。

 

「ここから降りれるみたいだけど、シャッターが降りてるね。電源も入ってない」

『病院には非常時における発電器もあるはずでちゅから、電源盤を探しまちょう』

 

 月光ヶ原の提案に電源盤を探しに行くこまる。案外すぐに見つかったので『ウゴケ』で電源を入れて下に向かう。

 

「あ、そうだ月光ヶ原さんは……」

『問題ありまちぇん』

 

 月光ヶ原が車椅子を操作すると車輪から歯車のように四つの小さな車輪が現れ段差にそってゆっくりと下降を始めた。

 

「わー!すごいですね!」

 

 車椅子の機能を見て目をきらきらさせる音無。月光ヶ原も無表情ながら満更でもなさそうだ。 

 

 

 

 

『ぐへへへへへ!』

「『コワレロ』」

『さよーならー』

「………うん。流石機能そのまま。威力が全然違うなぁ」

 

 こまるはモノクマ仮面から受け取ったハッキング銃をくるくる回す。本当はこの後探しに行くつもりだったがモノクマ仮面のおかげで手間が省けた。

 

「でもプログラムを電波で飛ばすなんて、これ作った人すごいなー」

『えへへ』

 

 こまるの言葉にたまに喋り出すハッキング銃が何故か嬉しそうな顔をした。

 

「あ、ゴミ箱!ちょっと待ってて、ガム捨ててくる」

 

 音無はそういうとガムを廊下のゴミ箱に捨てる。ガムと言えばこまるも噛んでいたはずだが今はもう噛んでいない。

 

 

 しばらく進んでいるとモノクマキッズが箱の横でたたずむ部屋についた。

 

『ま、またあの野郎の部下でちゅか!』

「……んー、たぶん違うかなぁ。あれはモノクマ仮面さんの配下じゃないよ」

「……………」

 

 モノクマキッズはプレゼントボックスを渡そうとしてきたがこまるは受け取らず先に進んだ。モノクマキッズは落ち込むと走り去っていった。

 

 

 

「うわ、何この部屋!?」

「ガキ共が作った遊び場みたいよ……」

 

 そこは白黒のタイルが床に敷き詰められ、赤いカーテンが周囲を包む部屋だった。音無が驚き腐川が呟く。よく見ると部屋にゲーム機が置かれていた。

 

「こ、これは多分『ウゴ──』」

「『コワレロ』」

「ひ、人の話を聞きなさいよぉ!」

「えー?だって面倒だし。全部壊せば同じだよ。はい、月光ヶ原さん。月光ヶ原さんにもハッキング銃……それは威力が低いけどたぶん大丈夫だよ」

 

 

 

 エントランスにいたモノクマ達を全滅させた後、外に出る。空気清浄機が壊れた影響か、空はすっかり赤い血のような色に染まっていた。

 

「それで、十神さんを助けるにしてもどうやって?何処にいるんですか?」

「さぁ?RPGみたいに適当に歩いてたらいいんじゃない?」

「て、適当すぎるでしょ……」

『…………あのや……モノクマ仮面は一人一人倒していったらきっと何か見つかりゅって伝えておいて、とか言ってまちた』

「じゃ、地下鉄とか橋を探ってみよっか。彼らのゲームが私たちを狩ることなら、私達が行くであろう場所で待ち伏せしてるだろうしね~」

 

 と、歩き出すこまる。

 

「それに、順調に進んでから壊された方が、クソガキも涙目になりそうだしね~」

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