救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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イキキル(非)日常⑩

 戦刃むくろにとって、世界とは絶望を振りまく場所。

 そう妹から教わった。だから自分もそういうものだと認識して、今まで生きてきた。妹の盾子はむくろにとって、汚れ無き太陽。

 外の世界の希望に縋っている連中は、江ノ島盾子を邪悪な精神の持ち主と言うが、むくろは知っている。江ノ島盾子に邪気など無い、無邪気そのものだ。

 子供が蜻蛉の羽を毟り蜘蛛の巣に放るように、蟻の巣を見つければ周辺の蟻を潰し巣を埋めるように、意味も主張も目的もなく破壊する。

 そんな白い絶望でも家族だから、むくろはずっと信じて、彼女だけを見てついていった。

 他に目を向け始めたのは、今でも思い出せる。二年前、学園の入学式。

 戦場の癖で学園の構造を把握しようと歩き回っていたむくろは、単に学園内を歩いている内に迷ったという間抜けな理由で彷徨っていた苗木に出会った。

 一番最初に出会ったクラスメートというのもあるのか、苗木はそれからよく自分に絡んできた。

 軍人という肩書きで関わってくる者は、手合わせを願う大神だけだったが、苗木はまるで普通の女子高生に接するように接してきた。

 苗木を通して、他のクラスメートとも話す機会が増えた。苗木が居なければ、そんな生活をしていなかったと思う。だから苗木を観察して、ある時気づいた。

 苗木は、江ノ島とまるで真逆の存在だ。

 困ってる人に手を差し伸べ、頼まれていないことに手を貸す。見返りも打算も報酬も無く、人のために行動する。

 人の害となることをする江ノ島とは面白いくらい正反対。そのくせ彼は、江ノ島といる時が一番楽しそうだった。

 むくろにはその光景が、二つの太陽が存在しているように見えた。

 本来ならどれほど求めても届かない太陽。その片方は自分のそばに居てくれた。でも、もう突き放された………。

 

 

「江ノ島さん?」

 

 と、感傷に浸っていると、苗木が下から覗き込むように首を傾げていた。身長差からどうしてもこうなる。

 普段は身長が低いことを気にしているため、相手を気遣っている時にしか見れない行動だ。

 

「……何でも、ないよ……さっきは助けてくれてありがとね」

「別に良いよ。ボクにもボクの〝目的〟があって、そのためにやってることだから」

「……目的?」

 

 それはまた、むくろが知る苗木には、なんとも似つかわしくない単語だ。

 先程述べたよう彼は、見返りも打算も報酬も求めない……悪く言えば、何も考えずに行動する。いや、多少は考えているのだろうが、それは相手の助けとなることばかりで、自分自身のことはほとんど考えることはない。つまり、目的というのも誰かの為?

 誰かを外に出す手伝いとか?いや、それなら自分を助けた理由は?舞園はともかく、自分は外に出たいと彼に縋った記憶はない。

 

「それにほら、誰にも殺させないって言ったし……」

「……ああ」

 

 相変わらず律儀な性格だ。

 あんな口約束のために、下手したら自分自身が貫かれていたかもしれないのに。

 

「……ところで………目的って?」

「ん?ああ、今回の事件の黒幕を『絶望』させるの」

「………え?」

 

──絶望……?

──苗木君は、盾子ちゃんを絶望させられるの?

 

 苗木の答えに顔を上げ反応するむくろ。苗木は何時ものように優しげな笑みを浮かべていた。

 

「希望ヶ峰学園を乗っ取って、ボクらを閉じ込め、ボクらの友人家族を同時に人質にするような奴だよ?それはもう、相当念入りに準備したと思うんだよね」

 

 閉じ込めたのは苗木達自身だが、記憶を奪ったり、人質になる人間を予め襲っておいたり、全員の動機になりそうなことを調べたりと、妹は念入りに準備していた。

 

「だからさ、そんな準備も全て無駄になって、誰1人死なずに逆に殺されたら、それって相当な絶望だと思うんだ」

「……こ、殺すって……そこまでしなくても………」

「いや殺すよ?だって、死っていうのは『絶望』だからね」

「………絶望?」

「死んだらその先は存在しない。希望を抱くことも絶望することも出来ない……ボクらの絶望も見れず、この先の絶望も見ることが出来ないって言うのは、相当絶望的だよね」

「……絶望……」

「ボクは絶望するなんて持ってのほかだけどね………だから、ボクらに絶望を与えようとしている黒幕を、より深い絶望に沈める。ボクらの希望の為にね……」

 

──ああ……羨ましいな…

 

 妹のことを誰よりも理解しているのは、自分だけだと思ってた。

 自分が妹の理解者だと思ってた。絶望を与えられるのは自分だけだと思ってた。

 でも苗木は、記憶を失っても江ノ島盾子の事を自分以上に、おそらく世界の誰よりも理解している。

 世界の誰にも与えられなかった絶望を、与えようとしている。

 羨ましい。妹を理解してあげられる苗木が。苗木に理解してもらえる妹が……。

 それに比べ、二つの太陽(希望と絶望)が互いを呑み込み合う事を知りながら、見ていることしか出来ない自分が酷く情けない。

 

「だからさ、江ノ島さん。……手伝ってくれないかな?」

「…………え?」

 

 だから、その言葉に耳を疑った。

 手の届くはずのない太陽が、再び手を差し伸べてくれた……。それは妹ではないけれど、むくろにとって同じくらい暖かな太陽が……。

 

「黒幕がどれほど強大な存在かわからないからさ、ボク1人じゃ不安なんだよね……だから、手を貸してくれないかな?」

「い、いいの………私が手伝って……?」

「うん。……お願い……」

「うん!やる!私、やるよ!……苗木の望みを、じゅん……黒幕を絶望させるよ!私に出来ることなら何でも言って……何でもするから!」

「……う、うん………よろしくね」

「うん!頑張る!」

 

 むくろは苗木が示した、まだ妹に絶望を与えることが、妹のために動くことが出来るという希望に縋る。

 その『希望』が暗く、昏く、真っ黒に染まっていることに気付かず。苗木の笑みが、自分の知らない笑みになっていることに気付かずに………。

 

 

 

 

 

「………そろそろ夜時間か」

 

 苗木は自室で、時計を確認する。

 チラリと下を見ると、膝に頭を乗せた江ノ島が気持ちよさそうに眠っている。苗木がウィッグ越しに頭を撫でてやると、身を捩らせた。

 

「江ノ島さん、そろそろ自分の部屋に戻って」

「……わかった」

 

 苗木の声に、江ノ島はムクリと起き上がり部屋を出て行った。そして、タイミングを見計らったかのようにモノクマが現れる。

 

「たってますね!」

「……フラグが?」

「うん!ビンビンにたってるね!………ところで苗木クン、彼女からいろいろ聞き出さなくて良いの?」

 

 そう、苗木は江ノ島……むくろが、このコロシアイ生活の秘密を話そうとしたのを断っている。理由は知っているからと言うのもあるし……

 

「ボク達の力で勝つことに、意味があると思うんだ」

「………ふうん」

 

 外で見ている連中にも、絶望の裏切り者の情報があったから勝てただけと思わせないためだ。

 実際、苗木は霧切さえ残っていれば、皆がこの学園の秘密にたどり着けると確信している。

 

「ま、いいや。ほいプレゼント!」

「プレゼント?」

「この動機じゃ殺人が起きそうにないからね。止めた苗木クンに特別賞!あ、残念ながらお金じゃないよ、モノクマメダルだよ!」

 

 中身を確認すると、確かにモノクマメダルが百枚ほど入っていた。

 時計を確認する。夜時間まで後10分。

 

「じゃ、そう言うことで」

 

 モノクマが消えた後、苗木は購買に向かう。

 何か役立つものが出て来れば良いのだが…………。例えば、脱出スイッチを隠せる金庫などが。

 

浮き輪ドーナツ×50。

 

「……だぶりすぎ」

 

 苗木は大量の浮き輪ドーナツを、どこに捨てるか考えることにした。

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