救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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週刊少年ゼツボウマガジン(非)日常①

 朝。

 その日は何時もより早く起きたので目を開けると、満面の笑みを浮かべる舞園の顔があった。

 

「おはよう舞園さん」

「おはようございます苗木君♪」

 

 相変わらず近い。

 苗木はくぁ、と欠伸して舞園に挨拶すると、舞園も笑顔で挨拶を返す。

 

「おっはー苗木……あれ?舞園?」

「江ノ島さん?」

 

 苗木がぐしぐし目元を擦っていると今度は江ノ島が部屋の中に入ってくる。江ノ島と舞園は数秒相手を見つめ、どちらも笑顔になる。

 

「おはよう舞園。何朝っぱらから男の部屋に上がり込んでんの?スキャンダルとか大丈夫?」

「ふふ。江ノ島さんったら……そっちこそ、ノックもせず何です?欲求不満なら別の相手にしてください……」

「「あぁ?」」

 

 互いを挑発しあった後、ナイフと包丁を抜き構える。

 舞園がダンスで鍛えた足に、江ノ島が軍人として鍛えた全身に力を込めた。が……

 

「…………お座り」

「「わん」」

 

 主人の命令に、二匹の犬はあっさり臨戦態勢を解いて、その場に座り込んだ。

 そんな残念な二人に、苗木は冷めた視線を送った後、自分のせいかと頭を抱える。その間、二人は再び見つめ合い何か悟ったのか、今度は仲間に向けるような笑みを浮かべ合っていた。

 

「ところで苗木、これ何?」

「私が今日の一時に来たときには、もうこの状況でしたね」

 

 江ノ島が周囲を見渡しながら尋ねると、舞園も思い出したかのように部屋を見回す。

 ……今、何か聞き捨てならない言葉を聞いたような?

 

「……浮き輪ドーナツ……」

 

 二人が見ている先………というか部屋全体には、大量の浮き輪サイズのドーナツが置かれていた。

 その名も、浮き輪ドーナツ。

 ドーナツでありながら浮き輪として使える不思議なドーナツ。水に浸かっても味が落ちない。

 

「それはわかるんですけど………」

「ま、その話は置いといてさ。朝食にしようよ」

「はい」

「うん」

 

 部屋に出た苗木は自分の匂いを確かめる。大量のドーナツが置かれた部屋で一晩過ごしたせいか、身体から甘い匂いがする。

 

「あれ?誰もいませんね」

「めずらしい」

「ま、昨日あんなことがあればね……」

 

 人こそ死んでないものの、だからといって、凶器を振り回した不審者がいるのと同じような場所で落ち着けるわけもない。皆の心境は、『外界と隔離された』から『殺人鬼の紛れた空間に閉じこめられた』に変わったのだ。

 

「おはよう!遅れてすまない!」

 

 そして暫くすると、石丸がやってきた。

 

「……早いな、君達は。それに比べ僕は……!」

「まあ仕方ないよ。あの後じゃ、誰かが殺されないために自分を殺すかもしれないって考えちゃうし、昨日はなかなか寝付けなかったんじゃない?」

「その通りだ……苗木くんは、よく寝付けたな」

「ボクは、皆がそんなことしないって信じてるからね」

 

 どの口が言う?

 散々『犯人は君なんだ』と言ったこの口ですが?と、内心問答を押し殺し笑顔で言うと、石丸が突然泣き始めた。

 

「苗木くん!僕は、僕は自分が恥ずかしい!そうだ、皆を信じなければ皆から信じられない!疑心暗鬼は不安を呼ぶ!互いに信頼しあうことが第一だったのだ!君に一つ、教えられたよ」

「………あ~、うん」

 

 熱く語る石丸に若干引きながらも、苗木は石丸の言葉に同意する。実際、お互いを信じ合えた二年間の記憶があれば、コロシアイなど起きなかったのだろうし。

 

「おふぁよう~」

「すまぬ。朝日奈を起こすのに手間取った」

 

 と、継いで大神と朝日奈も現れる。先ほどの言い方からして、また同じ部屋に泊まったのだろう。朝日奈はまだ眠そうに目元を擦っている。

 

「………ん?……んん?」

 

 不意に、朝日奈は寝ぼけ眼のまま鼻をヒクヒク、まるで犬のように動かし始めた。

 クンクン匂いを嗅ぎながらフラフラと……苗木の下までやってくる。

 

「……えっと……朝日奈さん、何か用?」

「………かぷ」

 

 苗木が戸惑っていると、頬にプニッとした柔らかいもの、継いで硬いものが当たる感覚がした。柔らかいものが朝日奈の唇、硬いものが歯だと気づいたのは数瞬遅れて………。

 

「なああああ!?何苗木君に羨ま──いやらしいことしてるんですか!?」

「そこ代わって……今すぐ」

「……んあ?……あれ、苗木?」

 

 二人の殺気に反応して目が覚めたのか、それでもマイペースにん~と伸びをして苗木を見る。そして、自分が何をしたのか思い出したのか、顔を赤くして距離をとった。

 

「ご、ごご、ごめん!その、寝ぼけてて……苗木から、美味しそうなドーナツの匂いもしてさ……悪気はないんだホントごめん!」

「ボクはドーナツでも、ましてや食べ物でもないんだけどね……」

「あ、あはは……あ、でも柔らかくてツルツルでモチモチしてて、白玉みたいで美味しかったよ!」

「そんな感想求めてないよ」

「ご、ごめん……」

 

 苗木に一蹴されシュンとする朝日奈。苗木の両隣では、江ノ島と舞園がジッと苗木の頬を見つめていた。

 

「……あの、一回噛ませ─」

「やだ」

「舐めるだけでも」

「断る」

 

 二人の言動に、苗木は朝から頭が痛くなった。

 と、暫く朝日奈が俯いていると、他の生徒も集まりだした。十神は………言わずもがな。

 

「皆、昨日見た事の心の整理はついたかね?モノクマは、本気で僕らを殺そうとしている!故に、一致団結する必要が──!」

『キーン、コーン……カーン、コーン…』

 

 石丸が話を始めようとした瞬間、放送が流れる。皆一気に緊張した面持ちになりモニターを眺めると、モノクマの顔が映った。

 

『えー、ミナサン。体育館に集まってくださ~い。大切なお話がありま~す!』

 

 それだけ言うと放送が終わった。

 一同顔を見合わせ、行かなければ何が起こるかわからないという理由で、体育館に向かうことにした。

 

 

 

「……で、大切な話ってラジオ体操?」

「そんなわけ無いでしょ、白玉クン」

「誰が白玉だ!」

 

 ラジオ体操を終え、苗木がモノクマに尋ねると、いきなり人を白玉呼ばわりしてきた。

 見ていたようだ、苗木が朝日奈に(物理的に)食べられるところを。

 まあ前にも(性的に)食べられたことはあるが……というかあれ、まさかそれも見られてた?

 

「オマエラに、〝世界が広がったこと〟を教えてやろうと思ったんだよ」

「……世界が広がった?」

「うぷぷぷ。本当は学級裁判の後に広げるつもりだったんだけどね?どっかの誰かさんが邪魔ばっかりするから、範囲を広げれば邪魔しきれなくなるかな~ってね!」

「へえ、どこの誰だろうね?お礼言わなきゃ」

「白々しいね、白玉だけに!」

 

 モノクマはそう言って、壇上の中に消えていった。

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