救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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週刊少年ゼツボウマガジン(非)日常④

「……眠い」

 

 アイドルに見つめ続けられる中で寝れるほど図太い神経をしているわけではない苗木は、結局寝不足になりながら食堂へと向かう。

 

「あ、苗木!おっはー!!昨日はドーナツありがとね。また頂戴!」

「……あれ食べ切ったんだ……」

「おいっーす舞園ちゃん!今日もかわいいね!」

「朝日奈さんたら食いしん坊なんですね」

「ええ!そんなことないよー」

「……あ、あの~……舞園ちゃん?」

「うるさいですね」

「アポ?」

「…挨拶」

「おはようございます桑田君♪」

 

 舞園は桑田を不快そうに睨むが、苗木の命令で笑顔を作り挨拶した。その笑顔に、桑田はあっさり悩殺された。

 

「……舞園さん、そんなに桑田クンが嫌いなの?」

「大嫌いです。華があるってだけで、芸能界に入ってやっていけるつもりのあんな男……」

「………桑田クンも、悪い人じゃないんだけどね」

 

 舞園の言い分もあるのだろうが、二年間共に過ごし彼の本心を知る苗木としては、彼を擁護してあげたい気分になる。

 

「あれ?十神クンはともかく……石丸クンがいないね?」

「石丸君でしたら、遅刻魔の十神君を呼びに部屋まで迎えに行きましたわ」

「すぐに戻ってくるはずだ。我らは、ここで待つとしよう」

 

 苗木の疑問に、律儀に説明してくれる安……セレス。

 そして大神の言葉に、前回を思い出した苗木は厨房に向かう。

 

「………モノクマ」

「はいはい」

「アッサムってある?」

「そこにあるよ」

「ありがと」

 

 苗木は茶葉の棚からアッサムの瓶をとり、牛乳を温める。その間にお湯も沸かす。

 お湯が沸騰してきたら、茶葉をヒタヒタになるまでお湯に浸す。

 ミルクにはカゼインが含まれていて、直接ミルクで茶葉を開かせると完全に開き切らないため、熱湯で完全に開いておくのが最良である。

 

「おや、苗木誠殿?……おお、ミルクティーを作っておいでか。良ければ手伝いますぞ」

「………別に必要ないからいいよ。休んでて」

「ふむ。……ならお言葉に甘えて」

 

 二年間の記憶があるならともかく、それがない今の山田に手伝ってもらっても、正直邪魔にしかならないのでお帰りいただいた。

 

「何で何もせず戻ってきてやがるこのブタがぁぁ!」

「えーーーー!?」

「……………これくらいで良いかな」

 

 牛乳は沸騰させると匂いが強くなり、紅茶の匂いを消してしまう。そのため、沸騰前に開かせておいた紅茶を入れ蓋を閉める。だいたい三分から四分程置いて、蓋を開ける。

 匂いを確認してスプーンで軽くかき混ぜてから、暖めておいたカップに茶こしを使って注ぎ込む。

 

「……お待たせ」

「ほ、ほら!苗木誠殿が淹れてくれたんですよ!」

「舞園、チャーシューって作れる?」

「前にテレビの企画で、一度だけですけど」

「ちょっと豚狩ってくる」

「ぶひ!?」

「二人とも落ち着いて。ボクが勝手にやったことだから」

「「そういうことなら………」」

 

 苗木が宥めると大人しくなる2人。山田は、心から安堵の吐息をはいた。

 セレスはカップを受け取り、一口飲む。

 

「……おいしい」

 

 それは、思わず出てしまった一言のようだ。彼女は口元をおさえ目を見開いた後、苗木に向かってニッコリ微笑む。

 

「なかなかの腕前ですわね。ますます欲しくなりましたわ。どうでしょう、『Bランク騎士』としてわたくしの下に来ませんか?」

「Bランク?……それは…光栄だけど遠慮しておくよ」

「そうですか……」

 

 セレスは不満そうな顔をしたが、それ以上は言わなかった。

 苗木が残りのカップを皆に配っていると、慌てた様子の石丸がやってきた。

 

「おい、諸君!──妙なことになったぞ!」

「へ?どうしたん?」

 

 その様子に全員に緊張が走り、石丸の話を聞く。

 遅刻している十神を呼びに行ったのだが何の反応も無かったそうだ。最悪の事態になっているかもしれないので、全員で散策することになった。

 

「……苗木君、紅茶持って行くんですか?」

「うん」

 

 彼の居場所ならわかっているし。

 苗木は紅茶をこぼさぬように、二階の図書室に向かった。

 

 

 

「おはよう十神クン」

「………お前か、何のようだ?」

「朝は集まって朝食って約束だから、呼びにきたよ」

 

 図書室で本を読んでいた十神に、苗木はそう言って笑いかける。舞園と江ノ島は別の場所を探させている。十神の態度を見て殺しにかかるかもしれないから。

 

「まったく、ゆっくり読書も出来ないのか…」

「ま、黒幕暴くのも諦めて思惑通り踊ってる十神クンには、馴れ合いすら我慢できないか」

「………なんだと?」

「事実でしょ?キミは黒幕の提示したゲームに大人しく従おうとしている。キミが蹴落としてきた〝兄弟姉妹〟が見たらなんて言うんだろうね」

「ッ!貴様……!十神について多少知っているようだがあまり調子に……いや、やめておこう。たかが蟻にいちいち怒りを向けることこそ道理に合わん」

 

 十神はふん、と鼻を鳴らして苗木が持っている紅茶に気づくと、奪い取るようにして受け取り飲む。

 

「……ほう、なかなか美味いじゃないか」

「毒が入ってるかも、って考えないの?」

「そんな真似をするなら、俺が飲まなくなる可能性も出てくる挑発などするものか」

 

 まあそれもそうか。

 それに、十神なら俺が死ぬはずがないと思っている=俺が飲むものに毒が入っているはずがない……とか、考えいてもおかしくないんだよなあ。

 

「しかしお前、誰かに習ったのか?」

「友達のお金持ちと西洋かぶれに何度も淹れさせられてね。ムキになって淹れ方をマスターしちゃった」

「ふん。お前みたいな平凡な奴がいた学校に通うような小金持ちにも、味の違いがわかる奴がいるのか」

 

 素直に人を認めることは出来ないんだろうか?

 出来ないんだろうなぁ。性格上……本当、よく二年でこの性格が僅かとはいえ丸くなったものだ。

 苗木は素直に感心しながら食堂に戻った。

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