「……お腹減ったな」
その夜、苗木は空腹を感じて立ち上がる。
昼に桑田とキャッチボールしたため、カロリーを消費したのだろう。
「……何かないかな」
苗木は外に出て軽く摘まめるものを探しに行く。
「あら、こんばんは」
「……セレスさん、何してるの?」
ちょうど同じく外を出歩いていたらしいセレスと鉢合わせた。
夜時間の外出禁止は彼女も提案しようとしたことだ、夜時間になるまでの暇つぶしだろうか?
「何という訳では……少々、夜の散歩をしていただけですわ。苗木君も、お暇でしたらどうです?」
「いや、ボクは夜食を取りに来ただけだから」
「そうですか?……では、ごきげんよう」
セレスはそう言って笑顔で去っていった。
苗木はセレスと別れ、食堂に着くと………。
「……………」
そこには、睨み合う石丸と大和田の姿が。
苗木は無言で引き返そうとするが………。
「おおっ、苗木くん!いいところに来たな!!」
石丸に見つかってしまった。
「苗木…!オメェによぉ、頼みがあんだけどよぉ……!」
「………頼み?」
「おうっ、苗木よぉ…ちっと立会人になれや……」
どうやら前回と同じように、どちらが根性のある男か決めるため、サウナで我慢対決をする立会人にされるようだ。
これは良い機会かもしれない。苗木は、この二人が仲良くなった経緯を二年間の記憶にも前回でも全く知らないのだ。サウナで仲良く……汗塗れの男が………いや、これ以上考えるのはやめよう。
「じゃ、ルールはボクが決めるね?まず大丈夫だろうけど妨害行為は禁止。公平にするため、どちらかが服を着るというのも無しね……危ないし。温度の調整はボクの判断でするよ」
サウナの前で腰にタオルを巻いた苗木の説明に、石丸と大和田は頷く。
「………ん?待ちたまえ、苗木くんもサウナに入るのかね?」
「そうだよ?ああ、心配しなくても大丈夫。最近痛覚が鈍くてね、掌貫かれてもチクッとした程度で済んでるんだ。火傷の時も本当はそこまで痛みを感じてなかったんだ。サウナにとどまるぐらいなら出来るよ」
「痛みに鈍い?何かの病気か?」
「………精神的なものだと思うけど………」
苗木はそう言ってサウナの中に入る。暑いとは感じるが……まあ入ったばかりはこんなものだろう。
そして一時間後。
苗木は自分の身体の調子を確認する。汗は出ている。だが、苦しいとは感じない。
ある意味では限界を判断できず危険かもしれない………。
「オイオイ、優等生さんには限界なんじゃねーかぁ……?苗木の方がまだ涼しそうにしてるぜ」
「ふん、僕だって、寒いくらいだ……」
「お…おー……!オレも同意見だゴラ」
「じゃ、温度上げるね……」
苗木はそう言って積まれた石に水をかける。すぐに蒸気があがり湿度と温度も上昇する。
「ふん……まだまだ涼しいぜ」
「負け犬ほど……よく吠える…」
「あ!?」
「いい加減妙な格好で暴力に身を任せたり珍走したりするのは根性がない証拠だと認めたまえ!」
「……聞き捨てならねーなぁ……」
何か始まった。
と、苗木は石丸と大和田を見る。この二人はあれだろうか?言い合いをして仲を深めるのだろうか?
「自分の物差しで語ってんじゃねーぞゴルァ…オレにはチームを引っ張ってく責任があんだ……死んだ兄貴から引き継いだ大事なチームをよぉ………正直、オレんちは自慢できるような家庭じゃねぇ。そんな中でも、兄貴は頼れる、憧れの存在だった…」
「そうか……キミは兄を……」
「オレの肩には『チームの存続』っつー責任があるんだ!生半可な根性でできるかよ!」
石丸は大和田の主張を聞き、感心したように目を見開く。
「オレだって苦労して、考えて、今を選んでる……ま、〝天才さま〟にゃわからねー悩みかもな」
「そんなモノと一緒にするのはやめてくれ!」
大和田の言葉に石丸は立ち上がり反論する。急に立ったからか、鼻血を垂らしていた。
「僕は天才なんかじゃない……天才なんてこっちから御免被る!」
「意味が分かんねーな……」
「……石丸クンのお祖父さんってさ、もしかして石丸寅之助?総理大臣の……」
苗木は今気づいたように、石丸からかつて聞いた事を言うと、石丸は驚いたように苗木を見て、大和田はそんな石丸を見る。
「……その通りだ」
「す、スゲーじゃねーか…」
「彼は天才だった……それゆえ挫折を知らず、世の中を舐めていたのだろう……汚職事件を起こし、それを口火に一気に転落していったよ……彼の残した借金は、今でも僕ら家族を苦しめる!」
「……………」
「わかったか!だから天才などという努力知らずの怠け者と一緒にしないでくれ!僕は必ず、努力した者が報われる国を築いてみせる!」
その宣言を聞き、大和田が涙を流しながら石丸の肩を力強くたたく。
「テメーも大変だったんだな!」
「!君は僕のために泣いてくれているのか!」
なるほど、二人はこのような経緯で仲良くなったのか。
暑苦しいが……二人の強い絆を見た気がする。
「……苗木、オメーも過去を聞かせ……おい、どうした!?」
何時の間に過去の暴露会になったのか、大和田が苗木から過去の話を聞こうと振り向くと、当の苗木は床に伏していた。
「……苦しくはないよ……だけど、なんか身体が動かなくてさ……」
「痛みや苦しさは身体の危険信号だ!それを感じないという事は、こういう事態に繋がる危険性があるという事……すまない!僕が未熟なばかりに……」
「オメェは悪くねえ!無理言って手伝わせたオレの責任だ………」
「……二人の…せいじゃない……よ……」
「苗木くん………苗木くん!?」
「苗木ぃぃぃぃぃ!」
「落ち着け!まずは水だ!シャワー室はともかく、ここなら流れるはずだ!」
「おう!」
石丸の指示に大和田は苗木を抱え、シャワーを水にして苗木の火照った身体にかける。
「………だいぶ、楽になった……部屋に戻るよ」
「待ちたまえ苗木くん!まだアンテナがしなびているぞ!もう少し休憩していきたまえ!」
「…………水に濡れてるんだから当然だよ」