苗木が小学生達に懐かれるのは早かった。
元々人当たりがよく、本当の意味で優しく、理不尽な期待はせず、誉めてくれて、気味悪がらず、どんな生まれも気にしない。
彼等の中で大きくなりすぎて、失った時に大きな穴をあけた。
「……え?終わり?」
「ああ、急にすまないな」
学園長室で、超小学生級達の教員係は終わりだと告げられ、苗木は思わず固まる。
彼等との時間は、思いの外楽しかったのだが。
「……わかりました。何時からですか?」
「………今日だ」
「じゃあ、最後の授業に──」
「違う、そうじゃない……もう、〝終わり〟なんだ」
霧切仁のその言葉に、苗木はようやく察した。
今日で終わりなのではなく、今日から終わり。もう、行くなと言われていることを。
「悪いとは思っている。だが、《パレード》が激化してきてね」
「………予備学科生達の暴動……ですか」
「そうだ。特に彼等は苗木君達を、自分たちと同じく才能を持ってないくせに本科に通っている奴……と認識しているからね」
「……実際、ボクには何の才能もありませんよ」
「いや、君の『幸運』は僕らが保護すべき希望なんだ。わかってくれ…」
「………はい」
霧切仁の頼みに、苗木はしぶしぶ頷いた。
せめて、お別れの挨拶ぐらいしたかったなと思いながら………。
「ほら早くしろよ!」
「ま、待ってよ大門くん!」
先頭を走る大門と、それを追いかけるクラスメート達。
苗木が来てから見るようになった光景だ。彼らは、苗木に早く会いたくて走っている。
「いっちばーん!………あれ?苗木の奴来てねえぞ?」
「はぁはぁ………ほ、本当だね」
「遅刻でしょうか?」
「珍しいな……」
「じゃ、久し振りに罠を仕掛けるのじゃ~!」
普段なら生徒達より早く来ている苗木だが、その日は何故か来ていなかった。不思議に思いながらもどうせ来てないならと、彼が初めて来た時と同じ罠を仕掛ける。
しばらくしてドアが開き──
「くぶ!?」
「おっしゃあ!」
「………おい待て、苗木さんじゃないぞ?」
見事に引っかかり大門が喜びの声を上げるが、新月が入ってきた男が苗木より高身長の別人だと気づく。
「…っぐ、クソガキどもめ」
「………苗木お兄さんは?」
「もう来ない。今日からオレがお前等の担任だ。甘やかされると思うなよ……」
その日の放課後、五人はまだ帰らず教室で話していた。
「………苗木、何で来ないんだよ」
「ぼ、ボクちん達のこと、嫌いになっちゃったのかな?」
「んなことあるわけねえだろ!」
「あの人に限ってそれはないだろ……それに、何も言わずに来なくなったのも不自然だ」
「……来ないんじゃなくて、〝来れない〟のかも」
「「「「……………!」」」」
モナカの推測に、全員がモナカを見て固まる。
「……どうして大人達はモナカ達に酷いことするんだろ?やっと会えた大切な人からも引き離して……」
「……お、オレっちが悪いから……だから、苗木も……」
「期待に、応えられなかったから?苗木さんと会わせることで、何か変化を期待して、それが出来なかったから……」
「ぼ、ボクちんのせいなんだよ……やっぱり………」
「酷いこと……やさしい……やさしいのだけは……」
顔を青くして震える4人を見て、モナカは呟く。奪われた怒りを晴らすための、ただの八つ当たりの言弾を……
「こんな世界から、バイバイしたいよね?」
──うぷぷ──
「…ッ!?」
パキーンと音を立て、苗木は持っていた物を落として割ってしまう。
「苗木君、大丈夫ですか!?」
「あ、うん……あぁ、割れちゃってる」
「それは…〝バッチ〟ですか?」
「うん。……《希望の戦士の証》なんだって」
苗木はそう言いながら、割れてしまった超小学生級達とお揃いのバッチを眺めた。