想像以上に簡単に挑発に乗ってくれたセレス。おかげでせっかく色々考えていたセリフがまさかの一つだけで終わってしまった。
まあ、余計な時間を食わなくて済んだと前向きに捉えよう。前向きなのが唯一の取り柄なのだから。
「それで、どういった勝負をなさいますの?」
「─神経衰弱」
「………は?ギャンブラーのわたくしに、運だけの苗木君が運と記憶力の勝負を?」
「そうだけど?」
「話になりませんわ。その下らない勝負に見合った報酬があるなら別ですけど……」
「じゃあ、『命』を賭けよう」
セレスが退屈そうに言うと、苗木は何でもないことかのように命を賭けると言いだした。これにはセレスもポーカーフェイスを崩し目を見開いていた。
「正確には命も視野に入れた……かな。勝者は敗者に何でも命令できる」
「………ですが、敗者が勝者を殺してクロになれば関係ないことですわ」
「それもそっか………お~い、モノクマ」
「はいはいなんでしょう?」
セレスの言葉に同意した苗木は、顎に手を当て数秒考えるとモノクマを呼ぶ。モノクマは何処からともなく現れ、それを見たセレスが飼い慣らされてると呟いた。
「ボクたち二人に、新ルールをつけてくれない?」
「はにゃ?」
「この勝負に勝った者が出した命令を破った時点で、敗者は問答無用でオシオキされるって……」
「………おもしろそうだからいいよ~!」
「だってさ?」
モノクマの了承に苗木が微笑むと、セレスは胡散臭げに苗木達を見たが、ため息を吐き勝負を受けることにした。
「それじゃあ、ルールについて説明するね」
「そんなもの知ってますわ」
「いやいや、ボクたちは超高校級だよ?普通の神経衰弱なわけないよ……」
苗木はそう言って、二つのトランプデッキからカードを無造作に置く。セレスは104枚のカードが並べられたテーブルと苗木を交互に見る。ルールを説明しろと促しているのだろう。
「じゃ、よく聞いてね。ちょっと複雑で、馬鹿にはわかんねーと思うから」
「…………」
ビキリと、セレスの額に青筋が浮かぶ。
だが、我慢した。賭事において相手の挑発に乗るなど馬鹿のすることだ。ゲームに出てる時点で挑発には乗っているが、セレスはあえてその部分は忘れることにした。
「①この神経衰弱にはトランプデッキを二つ使う。
②カードを手に入れるには数とマークで揃える………例えば──」
苗木は無造作に一枚のカードを取る。カードをひっくり返すとクローバーの8だった。苗木はさらにもう一枚取るとそれはハートの8。
「普通の神経衰弱ならこれで手に入れるけど、これは得点にならない。得点にするためには………もう一つ、クローバーの8を取るんだ」
「…………」
もう一枚のクローバーの8を引いた苗木を見て、セレスは薄ら寒さを感じる。
ハートの8を引く時も、クローバーの8の2枚目を引く時も苗木は一発で引き当てていた。これが超高校級の幸運なのだろうか?
「③得点は引いたカードの数ではなく、揃えたカード自体の数。
④エースは14点。つまりは合計416点になるわけだね。
⑤ジョーカーは一枚だけ引いたら残ったカードの位置をシャッフル。
⑥ジョーカー二枚で手持ちのカードをシャッフル。二人だけだから入れ替えるわけだよ。
⑦イカサマはバレた時点でアウト。
⑧連続で引けるのは五回まで。これまでで質問は?」
「………ありませんわ」
「ルールを守って楽しくゲーム!それじゃあ、ジャッジはボクがやりましょーう!……あ、ところでお二人は相手に何を命令するの?」
元気に手を挙げたモノクマはふと気になったのか、首を傾げながら二人に尋ねてくる。
「ボクは内緒」
「わたくしは別に内緒にするような事ではありません。苗木君には『奴隷』になってもらいます」
「奴隷!?はあはあ、そんな年からハードなプレイを──」
「そういう意味ではありませんわ。わたくしが殺せと言えばその命と引き替えにしても敵を殺し、服従の姿勢を示せと言えば跪いて足を舐める。そういう、本物の奴隷になれと言っているのです」
「いいよ」
苗木のあっさりとした承諾に、セレスはまた動揺していた。
勝つ自信があるのか、自分の命などどうとも思っていないのか………。
「それじゃあ!レディファーストでセレスさんから引いてね~」
「では遠慮なく……」
セレスは一枚のカードをめくる。ハートのジャックだった。ジャックの格好をしたモノクマが腹立たしい。
「………こちら、でしょうか?」
ジャックはジャックだったが、クローバーのジャックだった。
「じゃ、ボクの番だね」
苗木がめくったカードは、ハートのジャック。
「確か、こっちだっけ?」
「っ!」
苗木、ポイント11。先制点を取られたがまだ勝負は始まったばかりだ。
一時間半後。
セレスの持ち札エース×2、キング×3、クイーン×1、ジャック×3、10×2、9×2、8×3、7×0、6×2、5×2、4×0、3×1、2×2
合計点203点。
苗木の持ち札エース×1、キング×0、クイーン×2、ジャック×1、10×1、9×2、8×1、7×4、6×1、5×2、4×4、3×3、2×2
合計点156点。
「……杞憂でしたわね」
残りのカード10枚。
すでに半分近くの得点を手に入れている。
「苗木君、足を舐めるときはキチンと歯磨きをしてからにしてくださいね?」
「やだなセレスさん、まだ終わってないよ」
苗木はそう言ってエースとキングを引く。
+0=156
「往生際が悪いですわね」
+14+13=220。
残りカード6枚。
「だってまだ、〝ジョーカー〟は出てないよ?」
「ッ!?」
その言葉に動揺し、セレスは6とクイーンを引く。再び苗木のターンだ。
もし苗木がここでジョーカーを引けば……いやいや、待て。そんな都合のいい幸運……『幸運』?
「お、早速〝ジョーカー〟」
「な!?」
苗木はタイミングよくジョーカーを引き、セレスは冷や汗を流す。
苗木がジョーカーを引く確率は5分の1、その確率でセレスは負ける。負けたら……必ず苗木の命令を一つ聞かなくてはならない。それが自分と同じ奴隷になれというものでも。
「……苗木君、提案があります」
「断る」
「この勝負引き分けって事にしませんか?もう毎朝ミルクティーを作れなんて言いませんから」
「嫌だ」
「できる範囲で何でもしますから許してください、舐められるところは全部舐めますから許してください」
「もう遅い」
「堪忍してください……わたくしが悪かったです」
「ボクは悪くない」
顔を青くするセレスとは対照に、モノクマはワックワクドッキドキの先の展開を楽しみにしている。
「まあ、ボクの命令はそんなに身構えるものじゃないよ。『人を殺すな』、それだけだから……」
そう言って苗木が引いた2枚目のカードは、ゲラゲラ大口を開けて嗤うモノクマのイラスト………〝ジョーカー〟だった。
カードの数に違和感を覚えた人もいるかも知れませんが、それはわざとですので指摘しなくて結構です。