救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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オール・オール・アポロジーズ(非)日常編⑨

「……じゃ、今日は三人ともおとなしくしててね」

 

 昨日自分が気絶した後、朝日奈に襲いかかりそうだったと霧切から聞いた苗木は、舞園達におとなしく待機するように言って食堂に向かう。

 今回ばかりは止まらないかもしれないから、当然の処置だ。

 

「やっはろー。あれ?今度は集まりが悪いね……」

 

 苗木が食堂に顔を出すと、珍しく石丸達などが来ていない。まあ、あの馬鹿……もとい単純な奴らのことだ。桑田辺りが昨夜にサウナでリベンジだ!とでも言って、三人とも仲良くダウンしたのだろう。

 山田はまた寝坊だろうし、不二咲はおそらくアルターエゴの所に寄ってる。二年間生活した経験があれば、彼らの行動を先読みすることぐらい容易い。

 

「……………」

「ボクの顔に何か付いてる?」

「目と鼻と口……」

 

 朝日奈が睨んできたので笑みを向けるとふん、と投げやりな返答が帰ってくる。嫌われたものだ、当然だが。

 

「あ、集まりが悪いわね……」

 

 そして新たに、腐川がやってきた。

 これで現在食堂に居るのは、朝日奈と腐川と葉隠と苗木。来る順番とまだ始まっていないこと以外は前回と同じだ。

 

「と、当然よね。《裏切り者》が居るんだもの……朝日奈、あんたアイツと仲良かったんでしょ?気をつけなさいよ」

「…………………」

「む、無視してんじゃないわよ!こっちは忠告してやってるのに!」

「……………」

「そう、あくまで無視するのね……えひ、えひひ……ここまで無視されるとおかし──くないわよ!あ、あんたは良いわよね。大神と友達で………どうせ裏切られるんでしょうけど──」

「いい加減にしてよ!」

 

 腐川の嫌味に我慢の限界がきたのか、とうとう朝日奈が掴みかかる。そして……テーブルの上にあった胡椒が倒れる。

 

「ハッケヨ……ハクショーイ!パンパカパーン!何時も元気なジェノサイダー!何これどういう状況?アタシ襲われてる?いくらアタシがかわいいからって、女に襲われる趣味はねえっての!」

 

 ジェノサイダーはそう言って、太ももに括り付けていた鋏を抜き取り、朝日奈に切りかかる………が。

 

「はいそこまで………」

「ありゃん?」

 

 ジェノサイダーが振るった鋏は朝日奈ではなく、苗木の掌に突き刺さる。

 

「──えい」

「ッ!?ぎゃあああ!辛い!寧ろ熱い!」

 

 苗木がジェノサイダーに向かって小瓶を投げ、彼女が反射的にそれを切り裂くと、中の赤い粉末が長い舌にかかり、そのあまりの辛さに彼女はゴロゴロのたうち回る。

 

「そして胡椒」

「ぶえーくしょい!は!?口の中がものすごく辛い!もはや痛いぃぃぃぃぃ!?」

 

 腐川に戻った彼女はキッチンに駆けていく。水を飲みに行ったのだろう。

 

「……べ、別に助けてなんて頼んでないよ……」

「ボクも頼まれてないよ?勝手にやったことだもん」

「……ごめん、ムキになって……ありがと」

 

 意地を張る朝日奈に苗木が笑って返すと、流石に罪悪感を感じたのか、朝日奈は俯いて謝罪する。

 

「………保健室」

「ん?」

「保健室で看てあげる。それでチャラ……」

「………うん」

 

 

 

 

 苗木は保健室で朝日奈に消毒してもらい包帯を巻いてもらった。

 体育系の部活でも(当たり前だが)手が貫かれるような怪我をするなどあるはずもなく、彼女は治療に苦戦していた。

 

「……はい、これで貸し借りなしね」

「そうだね……ありがと……」

「うんうん。良かったべ、目の前で人が死んだら寝付きが悪くなっちまう。俺の安眠を邪魔しないで欲しいべ」

「くたばれ海栗頭……いや、そげぶ先輩に失礼だったね。というか海栗に失礼だった」

「俺に対しても失礼だべ」

 

 とその時、保健室のドアが開き《鬼》が……もとい大神が入ってくる。

 

「さくらちゃん……!?」

「……苗木よ、その傷は?」

「私を庇って……」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぅ……!!」

 

 大神と朝日奈を見て、あれ?折角溜めたヘイトが減ってる?と苗木は焦る。

 いやまあ、結局ジェノサイダーと取っ組み合いになってる時点で仕方ないかもしれないが。

 

「お…のれ……我のせいだ……我が不甲斐無いばかりに……なんて…事だ……なんて事だぁぁああああああッ!!」

「ひぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

 大神の嘆く声に葉隠は腰を抜かす。朝日奈の代わりに傷ついたというのに、これでは前回と同じではないか。

 

「葉隠よ…貴様等が憎いのは我の筈だ…狙うなら、何故我を狙わん!」

「お、お、俺は別に……オーガを憎んでる訳じゃ……」

「何故だぁぁぁあああああッ!!」

「この前も言ったじゃん。『親しい者が狙われる』って」

「苗木!もう、見直して損した!」

 

 苗木の言い様に、朝日奈が険しい顔で睨んだ。

 

「た、た、た、た、た、た……助けてぇえええー!」

 

 そして葉隠は足を縺れさながら、全速力で保健室から逃げ出して行った。さすが借金取りから逃げ延びてきただけあり、ものすごい逃げ足だ。

 

「…どうしたの?何の騒ぎ……?…………苗木君、暫く手袋をした方がいいわ。あの三人が、何をしでかすか…」

「そうさせてもらうよ……」

「苗木、どこ行くの?」

「風呂……」

 

 

 

 

『何とかならない、ご主人タマ……』

「うーん、流石にそれは──」

「やあ不二咲クン」

 

 苗木が脱衣場に入ると、不二咲がアルターエゴと話していた。

 

「な、苗木クン!?……びっくりしたぁー……」

「どうしたの?」

「あ、うん……アルターエゴが〝ネットワーク〟に接続したいって言うんだ。役に立ちたいって…その意志は尊重してあげたいけど、そんな場所──」

「─あるよ」

「………え?」

「ちょっと失礼」

 

 不二咲に退いてもらい、苗木はキーボードを打つ。

 

《ネットワークに繋げても良いけど、真っ先にどっかのサーバーか端末を乗っ取って、〝バックアップ〟する事を約束できる?》

『うん!ネットワークも監視されてるかもしれないもんね』

《良し、いい子だ》

『えへへ……』

 

 前回アルターエゴは破壊されてしまったが、アルターエゴはデータだ。バックアップを取っておけば、別の端末でも復活できたはずなのだ。ならばあらかじめ、バックアップデータを作らせておく。その約束をアルターエゴが了承すると、苗木はノートパソコンを折りたたんで服の中にしまう。

 

「じゃ、行ってくる」

「う、うん……気をつけてねぇ」




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