「……じゃ、今日は三人ともおとなしくしててね」
昨日自分が気絶した後、朝日奈に襲いかかりそうだったと霧切から聞いた苗木は、舞園達におとなしく待機するように言って食堂に向かう。
今回ばかりは止まらないかもしれないから、当然の処置だ。
「やっはろー。あれ?今度は集まりが悪いね……」
苗木が食堂に顔を出すと、珍しく石丸達などが来ていない。まあ、あの馬鹿……もとい単純な奴らのことだ。桑田辺りが昨夜にサウナでリベンジだ!とでも言って、三人とも仲良くダウンしたのだろう。
山田はまた寝坊だろうし、不二咲はおそらくアルターエゴの所に寄ってる。二年間生活した経験があれば、彼らの行動を先読みすることぐらい容易い。
「……………」
「ボクの顔に何か付いてる?」
「目と鼻と口……」
朝日奈が睨んできたので笑みを向けるとふん、と投げやりな返答が帰ってくる。嫌われたものだ、当然だが。
「あ、集まりが悪いわね……」
そして新たに、腐川がやってきた。
これで現在食堂に居るのは、朝日奈と腐川と葉隠と苗木。来る順番とまだ始まっていないこと以外は前回と同じだ。
「と、当然よね。《裏切り者》が居るんだもの……朝日奈、あんたアイツと仲良かったんでしょ?気をつけなさいよ」
「…………………」
「む、無視してんじゃないわよ!こっちは忠告してやってるのに!」
「……………」
「そう、あくまで無視するのね……えひ、えひひ……ここまで無視されるとおかし──くないわよ!あ、あんたは良いわよね。大神と友達で………どうせ裏切られるんでしょうけど──」
「いい加減にしてよ!」
腐川の嫌味に我慢の限界がきたのか、とうとう朝日奈が掴みかかる。そして……テーブルの上にあった胡椒が倒れる。
「ハッケヨ……ハクショーイ!パンパカパーン!何時も元気なジェノサイダー!何これどういう状況?アタシ襲われてる?いくらアタシがかわいいからって、女に襲われる趣味はねえっての!」
ジェノサイダーはそう言って、太ももに括り付けていた鋏を抜き取り、朝日奈に切りかかる………が。
「はいそこまで………」
「ありゃん?」
ジェノサイダーが振るった鋏は朝日奈ではなく、苗木の掌に突き刺さる。
「──えい」
「ッ!?ぎゃあああ!辛い!寧ろ熱い!」
苗木がジェノサイダーに向かって小瓶を投げ、彼女が反射的にそれを切り裂くと、中の赤い粉末が長い舌にかかり、そのあまりの辛さに彼女はゴロゴロのたうち回る。
「そして胡椒」
「ぶえーくしょい!は!?口の中がものすごく辛い!もはや痛いぃぃぃぃぃ!?」
腐川に戻った彼女はキッチンに駆けていく。水を飲みに行ったのだろう。
「……べ、別に助けてなんて頼んでないよ……」
「ボクも頼まれてないよ?勝手にやったことだもん」
「……ごめん、ムキになって……ありがと」
意地を張る朝日奈に苗木が笑って返すと、流石に罪悪感を感じたのか、朝日奈は俯いて謝罪する。
「………保健室」
「ん?」
「保健室で看てあげる。それでチャラ……」
「………うん」
苗木は保健室で朝日奈に消毒してもらい包帯を巻いてもらった。
体育系の部活でも(当たり前だが)手が貫かれるような怪我をするなどあるはずもなく、彼女は治療に苦戦していた。
「……はい、これで貸し借りなしね」
「そうだね……ありがと……」
「うんうん。良かったべ、目の前で人が死んだら寝付きが悪くなっちまう。俺の安眠を邪魔しないで欲しいべ」
「くたばれ海栗頭……いや、そげぶ先輩に失礼だったね。というか海栗に失礼だった」
「俺に対しても失礼だべ」
とその時、保健室のドアが開き《鬼》が……もとい大神が入ってくる。
「さくらちゃん……!?」
「……苗木よ、その傷は?」
「私を庇って……」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぅ……!!」
大神と朝日奈を見て、あれ?折角溜めたヘイトが減ってる?と苗木は焦る。
いやまあ、結局ジェノサイダーと取っ組み合いになってる時点で仕方ないかもしれないが。
「お…のれ……我のせいだ……我が不甲斐無いばかりに……なんて…事だ……なんて事だぁぁああああああッ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃッ!!」
大神の嘆く声に葉隠は腰を抜かす。朝日奈の代わりに傷ついたというのに、これでは前回と同じではないか。
「葉隠よ…貴様等が憎いのは我の筈だ…狙うなら、何故我を狙わん!」
「お、お、俺は別に……オーガを憎んでる訳じゃ……」
「何故だぁぁぁあああああッ!!」
「この前も言ったじゃん。『親しい者が狙われる』って」
「苗木!もう、見直して損した!」
苗木の言い様に、朝日奈が険しい顔で睨んだ。
「た、た、た、た、た、た……助けてぇえええー!」
そして葉隠は足を縺れさながら、全速力で保健室から逃げ出して行った。さすが借金取りから逃げ延びてきただけあり、ものすごい逃げ足だ。
「…どうしたの?何の騒ぎ……?…………苗木君、暫く手袋をした方がいいわ。あの三人が、何をしでかすか…」
「そうさせてもらうよ……」
「苗木、どこ行くの?」
「風呂……」
『何とかならない、ご主人タマ……』
「うーん、流石にそれは──」
「やあ不二咲クン」
苗木が脱衣場に入ると、不二咲がアルターエゴと話していた。
「な、苗木クン!?……びっくりしたぁー……」
「どうしたの?」
「あ、うん……アルターエゴが〝ネットワーク〟に接続したいって言うんだ。役に立ちたいって…その意志は尊重してあげたいけど、そんな場所──」
「─あるよ」
「………え?」
「ちょっと失礼」
不二咲に退いてもらい、苗木はキーボードを打つ。
《ネットワークに繋げても良いけど、真っ先にどっかのサーバーか端末を乗っ取って、〝バックアップ〟する事を約束できる?》
『うん!ネットワークも監視されてるかもしれないもんね』
《良し、いい子だ》
『えへへ……』
前回アルターエゴは破壊されてしまったが、アルターエゴはデータだ。バックアップを取っておけば、別の端末でも復活できたはずなのだ。ならばあらかじめ、バックアップデータを作らせておく。その約束をアルターエゴが了承すると、苗木はノートパソコンを折りたたんで服の中にしまう。
「じゃ、行ってくる」
「う、うん……気をつけてねぇ」
ランキングに五十人も投稿してくれた。この調子でどしどし送ってください