「《カムクライズルプロジェクト》、ねえ……」
苗木は視聴覚室から帰ってくると、以前図書室で見つけた『希望育成計画』の書類を開き、その別名を呟く。
人工的に作る万能の天才……。あの〝長髪赤眼の男〟はまず間違いなく、このプロジェクトの被験者だろう。
「人から気づかれない印象操作に、人一人を壁際まで吹き飛ばす格闘技術……」
まあこれだけなら格闘技もこなせる諜報員の可能性もなくはないが、苗木は何となく確信していた。
「……そういえば霧切さん。今回は鍵取られてなかったなあ」
まあ前回と違い、死体の前で平気な顔しているという場面がないわけだから、そこまで警戒されていないのだろう。
いやいや、警戒しろよ十神。まあ、苗木という明らかに怪しすぎる奴がいれば、霧切に対する警戒心も薄れるか………。
「さてと、おーい雌い……セレスさ~ん」
「呼びましたか?」
苗木が本を閉じ廊下に出て脱衣場に入り名を呼ぶと、セレスが唐突に現れる。
「……舞園さんと江ノ島さん誘ってさ、麻雀でもしてモノクマから〝モノクマメダル〟取れるだけ取っといて」
「?別にそれぐらい構いませんが……」
「じゃ、九時までにお願いね」
「にしても……ボクが言えた義理でもないけど、前回の霧切さんって本当に怪しかったよなぁ……」
苗木はただ一人寄宿舎の階段前に立ち、シャッターを見ながらそう呟く。時刻は9時15分。ちょうど良い頃合いだろう。
この先は苗木にも未知の領域。ある者は人は未知に恐怖するといい、ある者は絶望こそ未知という。だが苗木には、そのどちらも当てはまらない。
未知とは無限の可能性だ。それを『希望』と呼ばずに何と呼ぶ?
「さあて、それじゃあ行くとしますか……」
苗木はシャッターの鍵を開け持ち上げると、二階へと上がっていった。
「……うわ」
二階はまるで廃墟のような有様だった。確かここで、『人類最強決定戦』が行われたのを苗木は見ている。
あれは凄かった。炎のような闘気を纏った大神と底冷えするような殺意を纏った戦刃の闘い。ぶっちゃけあれを観戦した唯一の存在である苗木は、まあある意味運が良かったのだろう。
ちなみにここ、〝本来の苗木達の部屋〟である。
「江ノ島さんの部屋は~………うわ、通路が瓦礫に埋まってる。ま、いっか。とりあえず掘り起こせば………」
数時間後、漸く人が通れる程度の隙間が出来たのでその隙間を通る。運良く瓦礫の山が崩れることはなかった。
部屋の中に入るとワリと中は無事だった。まあ葉隠なんかはすぐに部屋を駄目にして、真っ先に一階に部屋を移していたが、ああいうのは稀有な例だろう。
「何かないかな~、具体的には日記とか………ん?『音無涼子の記憶ノート』?……あれ?これ〝松田さん〟?」
ページをめくっていくと、とある男の顔が描かれたページを見つける。確か江ノ島盾子の初恋の人物だったはず。なんかムカついてきたな、髭でも描いてやろうか……。
と、その前にもう少し探しておくかと引き出しなどを開けていくと、もう一つ〝ノート〟を見つけた。
「……なる程、これを使ったのね」
それは『記憶の制御』に関するレポート。だが、飽きっぽい彼女のことだ。どうせ必要な部分以外は読んでいないだろう。
とはいえ運頼りで、だからこそ《幸運》である苗木はそれを見つけることが出来た。
超高校級の神経学者・松田夜助の最終目標を。
「あったあった。良かった、これでキミに最高の『絶望』を与えてあげられる。キミの望みを叶えてあげられる」
誰よりも愛しい少女の絶望という名の幸福を、他でもない自分で与えられることに、苗木は確かな希望を感じた。
「さてと、次は〝学園長〟を探さなきゃね」
苗木はノートを懐にしまい、瓦礫の隙間を通り、学園長の個室を目指す。
学園長の現状は二つの可能性がある。一つは生かされ、この学園で起きるコロシアイ生活を見せられてること。まあ、今回は苗木の尽力で起きていないが、前回は相当絶望していただろう。特に霧切が死んだシーンを見せられてれば。次は、普通に殺されている場合だ。
「おっじゃましま~す………居ないね」
苗木は学園長の個室に入って辺りを見回すが、誰もいない。
「学園長~?居ないの~?返事しなきゃ秘蔵のお酒飲んじゃうよ~……」
当然、誰かが苗木の声に応答するはずもなく、苗木は酒瓶を一つ取ると中身を口に含み……。
「ぺっ!まず~……大人ってなんでこんなの平気な顔して飲めるのかな?」
直ぐに吐き出して口元を拭った。
そして学園長を探してゴミ箱やベッドの下を探し、最後に壁をコンコン叩いていくと、不意に隙間のある壁を見つける。
叩くと他の壁と音が違う。……見つけた。
押しても引いてもビクともしない。なので再び部屋を探索。するとパソコンの画面にそれらしいプログラムを見つけた。どうやらパスワード式だ。
「……希望ヶ峰……は、違うか……じゃあ、黄桜公一……も違う。大穴狙いで年下サイコー……うん。開かないね。というかあの人、妻一筋とか言ってたし……んじゃ、霧切さんの名前を……あ、開いた。本当に娘好きだなあの人……」
苗木は呆れ半分嬉しさ半分といった顔で隠し部屋に入る。やはり家族は仲が良いのが一番だ。
「ここにも居ないか。まさか、本当に殺されたのかな?……ん?」
不意に苗木は楽しげな包装が施された『プレゼントボックス』を見つける。
パカッと蓋を開けると中の人物と目が合った。まあ、目玉、無いんだけど。
「白骨死体?」
苗木は前回のコロシアイ生活で、実は超高校級の
「……男性の骨だよね……それも成人をとっくに越えた……」
霧切曰く、当たるも八卦当たらぬも八卦程度の、葉隠の占いよりマシ程度の的中率だが、この状況から考えて間違いなく〝学園長の遺骨〟だろう。
「……花でも添えてあげるべきか」
引きこもり生活……外界と隔離してまだ数ヶ月の間、苗木は割と学園長と話していた。
そこそこ交友もあった訳だし、花でも添えた方が良いのだろうか?
「まあ、いっか……死因は……頭蓋に罅が入ってるけど、そこまで酷くない。ま、死因なんてどうでも良いか。ボクは探偵じゃないんだし」
骨を放るとカラカラ小気味の良い音が立つ。そして苗木はふと、『ある写真』を見つけた……。
「なる程、学園長はロリコンだったのか………」
カラン!と苗木の発言に抗議するように、重なり合っていた骨が崩れ床に当たる。
「冗談冗談………ロリ切さんと学園長の写真か……ちょうど良いから持って帰ろう」
再びカランと音が立つ。これは抗議なのか感謝なのか………。
「はあ……こんな時に、こまるが居ればな……」
霧切仁の骨をプレゼントボックスに戻しながら、苗木はため息を吐く。
「あれ?なんか入りにくいな……」
ぐいぐい押し込みながら漸く蓋を閉じると、先程呟いた妹の名をもう一度呟く。
苗木こまる。彼女は〝本物〟を見る事が出来るのだ。何を?……『幽霊』を。
彼女がここにいれば、あるいは学園長から色々聞けたかもしれないのに。
「…………ありゃ?」
不意に苗木はバタリと倒れる。身体にうまく力が入らない……。
「そ、そういえば……前回も熱だしたっけ………」
床を這いながらベッドに向かう苗木。苦しみを感じなくなってしまった分、身体の変調にも気づけなかったようだ。
何とか起き上がってベッドの上によじ登り、苗木は静かに目を閉じた。
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