続いて苗木が来たのは、植物庭園。
その場所には、大和田と桑田が居た。
「おう苗木、無事だったか」
「まあね。それが〝被害者〟?」
「おう……」
早速苗木は死体に近づき状況を確認する。前回同様悪趣味なマスクを被っていたかどうかは、既に上半身が燃やされているので言伝でしか知らない。
『上半身だけが濡れ下半身が濡れていない』のは前回同様だ。焼け焦げた皮膚の上から触ると肋は折れていない。しっかり肋の隙間から心臓に向かって刺さっている。両親を殺したのは人体の構造を把握していない素人による、こっちは『人殺しに慣れた者による殺害』なのだろう。しかしこの死体、何故両手を固定されてるのだろうか?
《植物庭園の死体の状況》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。
次に確認したのは、刺さっているナイフ。
これに指紋は………残っていない。そしてこのナイフは前回同様、苗木が『十神に持たされたナイフ』だ。
《植物庭園のナイフ》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。
「あ、そうだ。〝指紋〟を確認しとくか」
苗木はそう言って死体の手に近づいた。いざ指を見ようとすると、鉄の棒のせいで手が持ち上げられないのに気が付いた。
なので仕方ないから、指をヘし折る。
「うおっ!?」
「な、苗木……オメー、何やってんの……?」
「指紋を採ってる……」
苗木は指から指紋を採って、先程学園長室で採取した指紋と照合する。一致した。つまり『この男が苗木の両親を殺した』のだろう。
学級裁判を乗り切れたら、肉塊になるまで蹴り潰そう。
《指紋》を更新しました。言弾メニューで確認できます。
「なあ、苗木……学園長室にあった死体は……」
「ボクの両親だよ。……正真正銘の……」
「………そうか」
苗木の答えに大和田は顔を顰め、桑田も俯く。
「二人とも優しいんだね。一番の容疑者は『ボク』なのに……」
「「……は?」」
二人とも、本気で心配してくれたのだろう。
前回もこれぐらいの信頼が築けていれば………。
「昨日〝丸1日アリバイが無い〟のはボクだけだもん。ま、だからこそ今回の犯人はその時間に犯行に及んだんだろうけど」
「苗木の両親殺した罪を苗木に被せようってか……クソ野郎め……ぶん殴ってやる!」
「女だったら?」
「………そんときゃそん時だ」
なんとも頼り甲斐のある言葉だ。
まあ取り敢えず、ここの状況は前回と同じようだ。爆弾の破片もあるし……まあ、こっちでは苗木は爆弾を見つけていないことになってるが。
「そりゃ『爆弾の破片』だな。体育館で解体したモノクマの中にも同じやつがあったんだよ」
「……ふ~ん」
《死体付近に落ちていた破片》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。
次に苗木は物置へと向かう。そこにはやはり『片面が泥で汚れたビニールシート』が置いてあった。
《ビニールシート》を手帳に記入しました。言弾メニューで確認できます。
調べたいことも終わり、苗木が次の場所に向かおうとした時……。
『キーン、コーン…カーン、コーン』
自由時間終了を報せるチャイムが鳴り、モニターにモノクマが映る。他の皆は経験が無いからわからないだろうが、何度も経験した苗木にはわかる。
自由時間の終了が早すぎる。モノクマは、よほど苗木に情報を持たせたくないと見える。
(ま、そもそもが邪魔なボクを〝殺すため〟の学級裁判だろうし)
最悪前回同様、途中で学級裁判を切り上げてくるかもしれない。
そうなれば、確実に一人死ぬわけだが………。
(前回の知識があるとは言え、ここまでよくやった方か……)
苗木はその一人の枠には当然自分を組み込む気だ。志半ばで散る気はないが、かといって誰かをみすみす殺させるつもりもない。
(それに、なんだかんだで助かりそうな予感がするんだよね~)
苗木はコキリと首を鳴らして一階に向かう。目指すは赤い扉。………学級裁判場。
「あ、霧切さん……」
「……苗木君」
苗木が階段を下りていると霧切に遭遇した。しかも運の良いことに、ちょうどカメラの死角になる位置だ。
「霧切さん。はいこれ……」
「……?これは……?」
苗木がポケットから取り出した物を霧切に差し出すと、霧切は首を傾げながらも律儀に受け取ってくれた。
「『脱衣場』の鍵だよ?」
「それはわかるわよ。どうしてこれを私に渡すのか訊きたいの」
「保険。ボクが死んだ時はよろしくね♪探偵の霧切さんなら、うまく使ってくれるだろうし」
「……あなた、それがどういう意味を持つかわかってるの?」
霧切は苗木を睨むように言い放つ。いや、睨んでいるのだろう。
なにせ苗木が死んでも霧切達が生きているような言い方は、自分がクロだと言っているようなものだ。
「この学級裁判はね。必ず一人しか死なないんだ」
元々本物の犯人を指摘できない状況にした黒幕が、これで全員を皆殺しにすることは出来ない。嘘で希望に勝っても世界はその勝利を認めない。
「例えば誰かをクロということにして、もし指摘されずに他の全員を処刑しても、最後に残った奴が自分はクロじゃないと言い続けたらバレるからね」
「それって……あなたまさか、この殺人が〝黒幕の仕業〟と確信してるの?」
「それは───ッ!」
「んむ!?」
苗木は突然霧切の鍵を持つ手を握り、彼女を引き寄せ『唇』を奪う。
「……カメラの死角からなかなか出ずに何をしてるかと思えば……マジで何してんの?」
霧切が顔を赤くして固まっていると、角からヒョッコリとモノクマが顔を出し、キスをしている二人を見てツマラナそうに言う。
「まったくもう!こっちは時間がおしてんの!早く移動しなさい!」
モノクマはプンプンと擬音を立ててその場から去っていく。
苗木がモノクマの姿が見えなくなったのを確認して唇を離すと、霧切は壁にもたれかかりズルズルと腰を落とす。
「ごめんごめん。その鍵、モノクマに気づかれるわけにはいかな───」
「──!!」
まだ途中だが、霧切は始めから苗木の謝罪など聞かず顔を赤くして口元を抑えながら走り去った。てっきり、叩かれるぐらいは覚悟していたのだが。
「さて、ボクも向かうか」
「おまたせー」
「っ!」
「遅いぞ苗木くん!」
「ごめん、ちょっとトイレ行ってた」
苗木が赤い扉の部屋に入ると、霧切が目を逸らし石丸が叱ってきた。
「んじゃ、役者も揃ったことだしそろそろ始めよっか!」
「うわ!何時の間にボクの背中に!?」
「気づかなかったの!?」
モノクマが苗木の肩からヒョッコリ顔を出し、それに驚いた苗木にむしろ皆が驚いた。
「それじゃみんな。エレベーターに乗り込んで乗り込んで!」
「わかったわかった………」
苗木達が全員乗ると、エレベーターはゴウンゴウンと音を立てゆっくりと降りていく。
そして始まる。命がけの裁判、命がけの騙し合い、命がけの裏切り、命がけの謎解き、命がけの言い訳、命がけの信頼、命がけの……【学級裁判】。