「───やめ、離れろって!………夢か。変な夢見たな……まったく、こまるやモナカちゃんに抱きつかれる夢なんて、どうかしてるよ」
自分には妹萌とロリコン属性など無いはずなのに。
「………いや、彼女も一応妹だし、妹萌はあるのか?」
などと真面目に考え込む苗木だったが、直ぐに飽きて現状の把握に移ることにした。そこは不快な悪臭が立ち込める薄暗い空間。
そして地面には〝大量のゴミの山〟
「ふむふむなるほどなるほど。つまりここはあれか、地下のゴミ捨て場……」
何か使えそうな物がないかと、苗木は適当にゴミ山を漁り始めた。
「あ、これは魔法使いモノクマ!?こっちにはイケてるモノクマまで……っと、このムキムキなモノクマは……キモイな。ていうか、ボクたちもそりゃあ、マトモなのは作れなかったよ?でも捨てるなんてあんまりじゃないか……」
と、愛着があるように言いながらも、《モノクマスペア達》を破壊していく苗木。すると………
「!お、あったあった……」
『塔和グループ』のマークが刻まれた〝チップ〟を見つけた。
苗木の記憶が確かなら、あらゆる電化製品に使える万能アイテムだとか……。
「これに不二咲クンのプログラム付け足せば、そりゃあモノクマもあんな複雑な動きができるよなぁ。さて、ひとまず使えそうな家電でも探───」
と、そこで苗木は固まった。
嘗て周りに超高校級のパシリなどと言われていただけあり、様々な同輩先輩教員の手伝いしてきた。もちろん、機械の製作や修理をよくしている先輩の手伝いもした。だが、それは道具を渡すぐらいで……。
「………直せないじゃん………そういや、モノクマスペアを作る時も、ある程度できてた奴にパーツを加工して嵌め込むだけだったな……まあゼロから作れる才能持ってる人いないからね、ボクも含めて………」
と、その時、苗木は漸く視界の違和感に気づいた。『左側』がよく見えないのだ。左目を触ろうとすると何かに触れ奥がジクジクと痛む。
精神的ショックにより、後天的な無痛症になりかけている苗木が痛いと感じるのだ。常人ならのたうち回っていただろう。
「……鉛筆?」
手に当たった何かを引き抜くと、涙と血が混じってできたヌルリとした液体が糸を引く。
苗木はプレゼントの中にあった《新品サラシ》を包帯代わりに巻き、保健室や科学室でとっておいた『止血剤』を飲んだ。
「取り敢えず、モノモノマシーンの景品で何とかしていくしかないか……」
苗木は《スモールライト》(マッチ箱サイズの小さな懐中電灯)を使い周囲を探索していると、扉にたどり着く。
「鍵がかかってる………でもボクにはこれがある。そう、『マスター…………あれ?」
扉に鍵がかかっていたが、苗木は得意げな顔でポケットに手を突っ込み、固まる。無いのだ、マスターキーが……。
「あ、そう言えば脱衣場のロッカーに置いてきてた………」
その頃地上では。
「取り敢えず、戦刃さんは常に大神さんと行動してくれるかしら?」
「うん……わかった……」
「それと、苗木君の『救出』に向かうわ」
「ちょ、霧切ちゃん!カメラカメラ!」
霧切の発言に、朝日奈が慌ててカメラを指差し口元に人差し指を立てるが、霧切はふぅ、とため息を吐くだけだった。
「平気よ。校則には、クロを助けちゃダメなんて書かれてないわ」
「だが、どうする?どうやって苗木のいる場所まで………」
「《トラッシュルーム》から地下に行くわ」
「しかし、出口はどうするのだ?そうだ、戦刃くん。何か知らないか?」
「……地下には、トラッシュルームに繋がる『梯子』があったと思う」
「決まりね……」
霧切のその言葉に反対する者は居なかった。戦刃は殺されかけている時点で、黒幕とは切れていると判断されているからだ。
「じゃあ、私が行きますね!」
「いや、ここは霧切。お前が行け」
「ちょ!?何を勝手に決めてるんですか、かませ眼鏡!」
「…………この書類も、マスターキーも、託されたのは霧切でお前じゃない。『苗木の意志』を尊重しただけだ」
苗木の意志、という言葉に舞園も押し黙る。
舞園は苗木の特別になろうとは思わない。傍に居たいだけだ。だが、だからこそ信頼されているのが他の人間だというのは、少し気に入らない……が、苗木が無事に戻ってくるならどうでもいい。
「わかりました。苗木君を頼みましたよ、霧切さん」
「ええ、必ず連れ戻してみせるわ……」
霧切はそう言ってプロフィールを集め、自室に置いていこうとした時……。
「……?」
プロフィールの間に挟まっていたのだろう。〝小さな紙〟が落ちる。
霧切はその紙を拾い……
「!?」
目を見開いて固まった。
「ど…どうして……?」
「?どうした霧切……」
「………何でもないわ………少し、苗木君に聞きたいことが増えただけ」
78期生のプロフィールを部屋に置いてきた霧切は、トラッシュルームの床の扉の鍵を開けておき、そして、地下に向かって迷わず飛び込んだ。
「───ッ!」
ドサ!と大きな音を立て落ちたが、怪我をしていないことを確認すると立ち上がる。周囲はゴミだらけで、だからこそクッションになったのだろう。で、あるならば苗木も同じように助かっている筈……。
「……?何かしら、この匂い……」
霧切が苗木を探すために歩き出そうとした時、不意に悪臭とは別のにおいを感じ取った。やけに強い、まるで香水の中身をぶちまけて消臭剤代わりに使ったかのようだ。
「……………」
霧切はその匂いを頼りに歩き始める。
暫く歩くと、ぼんやりと明かりが見えてきた。
「よっし!やっと倒した……いや~、さすが四天王最後の一体。強敵だったなぁ……むぐむぐ……にしても、使えるテレビとゲーム機とカセット、ついでにバッテリーまで見つけられるなんてツイてたなぁ」
「…………………」
そこにはビニールシートを敷き、その上にぬいぐるみやクッションを敷き詰め、さらにその上に寝転がり油芋と虹色の乾パン、華麗な王子さまを食べる【苗木】の姿が……。
「……………」
「ん?あ、霧切さんやっほ~………どうしたの?」
「何でもないわ……」
「イヤでもなんか怒って……」
「ナン・デモ・ナイ!」
「ああ!まだセーブしてないのにぃぃ!?」
霧切がバッテリーからコードを全て拭き抜くと、テレビの画面が真っ暗になり、苗木は悲痛な叫びを上げた。