救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

63 / 125
超高校級の不運が超高校級の殺人と超高校級の処刑と超高校級の絶望を引き寄せた理由③

 霧切に襟首を掴まれ、苗木は引きずられる。

 

「まったく、心配して損したわ」

「ちょっと霧切さん、ボク怪我人なんだから優しくしてよ……」

 

 苗木の抗議の声を無視して階段の近くまでやってくると、霧切は苗木を放り投げる。

 

「せっかくデスタムーアとオルゴデミーラとミルドラースを育ててたのに……」

「魔王を育ててたのね………それより、一つ聞きたいことがあるの」

「ん?」

「……この写真は………」

 

 霧切が歯切れの悪い様子で懐から一枚の写真を取り出す。そこには、〝幼い霧切と霧切を抱える男〟の姿が。

 

「……ああ、学園長の部屋で見つけたんだ」

 

 嘘ではない。

 学園長室とは一言も言っていないのだから。

 

「……こんなもの、今更見せられてどうしろと言うのよ……!」

「……………」

「あの人が私を忘れてなかったとしても、私があの人に置いていかれた事実は消えないの………なのに今更!本当に、どうしろって言うのよ!」

「………さあ?」

(相談する相手を間違えたー!)

 

 霧切の独白に首を傾げる苗木を見て、霧切はその場でうなだれる。

 そもそもよりによって何故苗木に相談してしまったのだ。狂人に見えてその実心優しく、それでも結局こんな場所で快適空間作ってくつろげる異常者に相談して何になると言うんだ。

 

「………何か失礼なことを考えられてる予感」

「…………………」

「あのね霧切さん。ボクはキミ達親子と違い、両親の二人ともずっと側にいてくれた。だから、キミの心情は理解できないし、学園長がキミをどれだけ思っていたかもわからない。………霧切さんの、周りから向けられる捨てられた子供っていう視線に晒され続けた苦しみもボクには想像できないし、子を置いてきてしまった事を後悔して、それでも繋がりを求めて写真を持っていた学園長がどんな思いをしていたのかもわからない。………多分霧切さんの恨みも、学園長の思いも、どっちも正しい。───だけどね、ボクはそういうのを見たら、取り敢えず『一番傷ついてる方の味方をする』って決めてるんだ……」

「……そう……じゃあ、今は私の味方なのね?」

「もちろん……」

「……ありがとう……少しだけ、元気になれたわ」

 

 霧切はそう言って、少しだけ微笑んでみせた。

 

「じゃ、鍵を開けてくれる?」

「ええ……」

 

 苗木が頼むと、霧切は頷いて懐からモノクマ模様のマスターキーを取り出し扉を開ける。その向こうは煙突上の縦のトンネル、上までかかる鉄製の梯子……苗木達はその梯子を登り始めた。

 長い梯子、天井が見えない。暫く登ると床も見えなくなった。

 

「結構深いね……」

「足を踏み外さないでよ。あなたが落ちて来ても、受け止められないから」

「片目のせいで距離感掴めないボクに無茶言うなぁ……」

 

 などと愚痴るが、苗木はゆっくりと確かに登っていく。時間はかかるが落ちる心配は少ないだろう。

 二人は無言のまま進み、漸く天井に扉が現れた。

 

「寄宿舎のトラッシュルームの床に、扉があったでしょう?あそこに繋がってるはずよ。前もって鍵は外しておいたから、問題なく開くはずだけど……」

「開いた……」

 

 天井の扉を開け外に出ると、そこはトラッシュルームだった。希望ヶ峰学園に戻ってこれたようだ。

 

「……!」

 

 苗木は〝監視カメラ〟に気づき手を振っていると、霧切も上がってくる。

 

「これからどうするの?」

「取り敢えず、お風呂入る。で、その後アイツと話してくるよ」

「そう………気をつけてね……」

 

 

 

 

 苗木は大浴場に来ると体を洗い、臭いを落とす。髪を洗うときは細心の注意を払った。何せ、左目は染みるでは済まないのだから。痛みに鈍くなってる苗木でも、かなりの痛みを感じるだろう。

 

「………さてと、行くか」

 

 新しいモノクマパーカーに着替えて脱衣場から出ると、苗木はまっすぐ体育館へと向かった。

 

 

 

 

「遅かったじゃーん!」

「待っててくれたの?……ごめんね、待たせて……」

 

 体育館に入った苗木を出迎えた【モノクマ】に、苗木は苦笑しながら謝る。と、モノクマは苗木の顔に巻かれた『包帯』に気づく。

 

「……何それ?」

「保健室の包帯だけど?」

「なんか怪我したの?」

「〝左目〟をね……」

「ふうん……うぷぷ。隻眼とかかっこいいじゃん!てか、包帯が微妙に赤くなって、まるでボクのよう!」

「この左目の代償はキミの左目に払ってもらうとして………そろそろ本題に入らない?」

 

 苗木の返答に笑っていたモノクマがピタリと動きを止める。そして、ゆっくりと顔をおろし苗木を見つめる。

 

「〝あの殺人〟はボクじゃない。でもキミは、ボクを犯人にする必要があった。何せ追い詰められてるからね。ここまできてボク達の誰も死んでない」

「キミが犯人じゃない《証拠》はあるの?」

「無いよ。だから用意する。でもさ、それだけじゃ『ツマラナイ』よね?」

「ん?」

 

 苗木のその言葉に、モノクマは首を傾げる。

 

「まだ二回目だけど、これで【最後】にしよう。……この生活も……」

「……ふうん……つまり、キミはこの学園生活を終わらせると?たった一人犯人を見つけただけで?」

「まさか。キチンと『この学園の謎』も解き明かすよ」

「………うぷぷぷ………アーハッハッハッハッハッ!面白い、実に面白いよ。そうだね、視聴者も誰も死なない平和なラブコメには飽き飽きしてるだろうし、ここらで打ち切っちゃった方が良いかもね」

「……乗るんだ?」

「乗った!」

 

 モノクマの合意を得て満足したのか、苗木は笑顔を浮かべて体育館から出て行こうとする。そして扉を開け、苗木は思い出したかのように振り返る。

 

「ああ、そうそう。それと言い忘れてたけど、絶望しかないって言うキミに言いたいことがあるんだ」

「はにゃ?」

「人生は『希望(プラス)』だ」

「………キミの声で言われると、スッゴい違和感」

「自覚してるよ……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。