「ねえ……本当に出るの?外の世界にさぁ、夢を叶えられるとも限んないんだよ?」
江ノ島が挑発するが、揺らぐ者はいない。
その事に気持ち悪がると同時に絶望し、興奮する江ノ島。苗木は江ノ島のそんな態度に気付きながらも、言葉を吐き続けた。
「ボクはエリートでもないし」
「外には絶望だけだ」
希望、絶望……
「希望なんて言われる大それた存在でもないかもしれない」
「気持ち悪ーい!」
コインの裏表、切っても切り離せない2つ。
「それでも、ボクは諦めたりしない」
「絶望に犯されろ!」
だが、どちらかに傾く。
「飽きたりしない、捨てたりしない、絶望なんてしない」
「ふざけろ希望!」
現在の世界では、それは絶望に傾き………。
「だって、どんな時も希望を捨てないのが」
「死にたいのですか?」
そして今、残った希望がこの学園で傾き始めていた。
「ボクの取り柄だから」
「大っ嫌いクマー!」
二人の希望と絶望の戦いは終着に向かう。
希望と絶望の戦いの序章を終わらせるために……。
「何があろうと、ボクらは〝ここから出る〟」
「……うぷ……うぷぷ……胸くそ悪い希望振りかざしてんじゃねー!絶望的だ!絶望的に気持ち悪ーんだよ!前向きなオマエと違って、揺らいだそいつ等が絶望に染まらないって言い切れんのか!?あした、どうなってるかわかんのか!?──『明日』に絶望しろ!『未知』に絶望しろ!『思い出』に絶望しろ!」
「絶望なんかしない…《希望》は前に進むんだ!」
嘗て苗木を揃えたスロットマシンが動き出す。この学園の生徒から何故かモノクマまでディフォルメされた顔が描かれていて、最後に【江ノ島】で揃い止まった………。
「…………は?……なにこれ?………え?なにこれ………?」
江ノ島は無表情でスロットに出揃った目を眺める。何度みても、それは自分の顔だ。断じて変装した姉ではない。
「江ノ島さん……『
「……負け?アタシの……負け?……二年も準備して、結局誰一人死ぬことなく……だから、逆に有利な条件になったのに……〝負け〟?」
全員が生き残り1人でも絶望すれば勝てるはずの投票で、1人も絶望しなかった。認めるしかない、絶望が希望に〝負けた〟。
「こんなの………こんなのってぇぇ………」
しかし絶望を絶望的に盲信する彼女には、敗北が認められない。でも、それでも認めるしかないのだ。そんな絶望、彼女にとって……
「───『最高』じゃない!」
歓喜以外のなにものでもない。
「これが、これが『絶望』なのね!圧倒的な敗北!その後に待つ【死】という絶望!ああ、この絶望の百分の1でも世界に届けたかった………」
うっとりと語る彼女の横に、スイッチが現れる。
苗木を処刑した時のスイッチだ。苗木は、なんとなく助かるんじゃないかと楽観的な希望的観測をしていたが、江ノ島は違う。死ぬために、自らスイッチを押そうとしている。
「……念のため聞くけど苗木。今度は変えてないよね?」
「うん」
「オッケー、じゃ……張り切って!【おしおきターイ────」
──ムと、言い切る前に江ノ島の動きが止まる。おしおきスイッチに何処からともなく飛来した『ナイフ』が刺さったからだ。見覚えのあるナイフだ。〝モノモノマシーン〟に入れていた、超高校級の研ぎ師が研いだナイフ。
そしてこんな物を持っているのは、1人しかいない。
「苗木!何のつも──!」
ナイフを投げたであろう苗木に文句を言ってやろうとして、再び止まる。トン、という音と同時に額に軽い衝撃が走る。目を上げてみればまたナイフだ。額から生えて、いや、額に〝突き刺さって〟いた。
「ボクが、キミの望む『死に方』を与える訳ないじゃないか」
「………アハ………」
ツゥ、と彼女の顔を分けるように刻まれた赤い線は鼻で曲がり、笑みを浮かべた彼女の口の中に入る。
「……絶望……的ィ……」
江ノ島は笑みを浮かべたまま、力なく倒れた。
「……な、苗木くん。何を!?」
「落ち着け兄弟……どっちにしろ同じだ。あいつは死ぬ気だったんだから」
「………そうか、背負わせてしまってすまない」
石丸は済まなそうな顔で謝る。投票結果で死ぬならそれは全員の責任になる。だから苗木が背負わせないために殺したと思っているのだろう。
「……ほ、本当に死んだのか?」
「お前は頭を刺されて生きていられるのか?………だが、確かに妙だな。空調が止まった気配が………」
と、十神が呟いた時、〝不二咲の電子生徒手帳〟が震える。他の皆は震えていない……。
『───ご主人タマ!』
「アルターエゴ!?……どうして……?」
『ついさっき、この学園のサーバーを〝完全にハッキング〟したんだ。空調も電気も水道もカメラも掌握したよ!これで黒幕とも………あれ?』
「………ごめん、もう終わってた」
『そ、そんなぁ……』
不二咲の言葉にションボリ落ち込む。苗木は一瞬だけホッとしていた。
「…でも、丁度いいや」
「ん?」
「何時でも出れる。なら、今日は使えそうな物を探して良く休んでから、『明日』出ようよ」
「………うむ!確かに休息は必要だな。よし、探索後休むとしよう」
「……ま、いろいろあったしな」
「苗木もさ、休んだ方がいいよ?その……〝人を殺す〟って事は、スッゴく精神に来ると思うし」
「うん。ありがとう……少し、1人にしてくれるかな?」
苗木の言葉に全員顔を見合わせ、エレベーターに乗り込んでいく。
「あ、戦刃さんは残ってくれるかな?」
「……え?……うん……」
戦刃は江ノ島の姉だ。だから、彼女も残してやったのだろう。皆特に不思議に思わなかった。
各々、使えそうな物を見つけ、次の日の朝十時に玄関ホールを前に集まる一同。
「どうよ!このバット、なかなか頑丈そうじゃね?外で誰に襲われても撃退できるぜ!」
「拙者は紙とペン!暇になったときは言ってくだされ、何か書きますから!」
と、各々の才能にあったモノを見つけてきた一同。苗木は何を見つけたかというと……。
「じゃーん!《キャンピングバス》!」
どこから見つけてきたのか、またどうやって運んだのか、キャンピングバスを持ってきていた。元はモノクマカラーだったので塗り直したそうだ。
戦刃曰わく、一応〝防弾仕様〟らしい。
「それと外の大気は汚染されてるから。はい《ガスマスク》!」
バスには小型の空気清浄機も備え付けられているがバスを出るときは必要だろうと、モノモノマシーンで当てておいた。ちなみに他にも大量の食料を手に入れている。
「……皆、準備はいい?」
『何時でもいいからねー』
ちなみに運転手はアルターエゴが乗っ取った『モノクマ』だ。こっちも、ペンキで完全なるシロクマ化されている。
「しょーじき、やっぱり少し、不安だぜ……」
「……外には絶望が待っている、か。……大丈夫だよ。世界は広いんだから、希望だって探せば見つかるって」
「じゃ、行こうか……取りあえず、全員《卒業》おめでとう」
苗木はそう言って【スイッチ】を押す。喧しいサイレンが鳴り響き、扉が開く。次のステージに進む扉が……。
救えなかった苗木の逆行物語 END___■
「うわ、赤い空なんて始めてみたべ」
「マジで滅んでんだな世界」
窓の外から景色を眺めて呟く葉隠と桑田。2人だけでなく、皆もやはり戸惑っていた。
戸惑っていないのは2人、苗木と戦刃だ。
「……苗木君。これから……どうするの?」
「そうだね……取り敢えず、〝これ〟を量産できる場所に保護される」
苗木はそう言って取り出した『脱出スイッチ』の角を指に乗せ、器用にクルクルと回す。これが記憶を取り戻す装置なのは戦刃も苗木も知っている。手っ取り早く量産させれば、皆の記憶を取り戻させることが出来るだろう。
「それと、〝目の移植〟かな……折角移植用の目を手に入れたんだから」
「……でもその……拒絶反応とか、大丈夫かな……?」
「多分、大丈夫な気がするんだ………」
瓶の中に浮かんだ〝青い瞳の眼球〟を見つめながら、苗木はそう呟いた。
希望ヶ峰学園地下、学級裁判会場……床に投げ出された『モノクマ』があった。
「クックック………」
本来、操る者はいないそれは動くはずが無いが、しかし声を出す。
「面白いよ…面白くなってきたクマ……うぷぷ……うぷぷぷぷぷぷぷぷぅ~!」
その特徴的な笑い声は、まるで自分が本物だと言っているかのようだ。
「そう…ヌイグルミじゃないんだよ……ボクは、モノクマなんだよ……オマエラの、この学園の………〝学園長〟なのだ!」
モノクマはそう言って顔を勢いよく上げた。
「まだ、終わってないんだよ~」
「ここから、漸く始まるんだよね~」
苗木は1人、窓の外を眺めがら呟く。
「絶望した世界と、世界に希望を振りまく彼ら」
「希望と絶望の戦いは」
「漸く始まる」
「「END?……いやいや、終わりじゃない………〝TO BE CONTINUED〟」」