救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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桜の下には希望が埋まっている③

 施設内は空気清浄機が備え付けられているらしく、美味しい空気が吸えた。まあ、流石に室内でもガスマスクしながら移動など、いろんな意味で怖すぎる。

 

「着きました!ここが《支部長室》です!」

「………14支部支部長って、どんな人なの?」

 

 霧切響子が尋ねると、先頭を歩いていた佐々苗は笑顔でクルリと振り向いた。

 

「ずっこく綺麗な人ですよ!今はもう無くなっちゃいましたけど、探偵図書館にも『900』で登録されてるぐらい頭が良いんです!」

「……ダブル……ならその人は、超高校級の探偵なの?」

 

 霧切と佐々苗の会話に首を傾げる朝日奈や桑田達。十神と苗木はああ、と思い出す。

 探偵図書館……文字通り探偵が登録されている図書館だ。最初の文字が〝9〟…と言うことは、『殺人事件』を得意分野にして、二番目の数字が〝0〟なので残りを総合的にこなせ、尚且つランクを示す最後の数字が〝0〟の実力者。

 確かに超高校級の探偵と当たりを付けるのが妥当だろう。が、霧切の言葉に佐々苗は微妙そうな顔をした。

 

「開けますね……あ、叫ばないでくださいね?」

 

 佐々苗はそう言って扉を開ける。そして、目に飛び込んできた光景は………

 

「ほねぇぇぇぇぇ!?」

「ボオォォォォン!?」

「きゃあぁぁぁ!」

 

 椅子に座る【骸骨】だった。

 確認するまでもなく、立派な死体がそこにはあった。

 

「やあ、よく来たね皆」

「キイィィィヤアァァァァ!シャベッタアァァァ!?」

「桑田クンうるさい」

 

 桑田の甲高い声に、苗木は耳を塞ぎ抗議する。と言うかその台詞は本来、山田一二三が言うべきでは?と思ったが、当の山田は既に気絶していた。

 

「……花美(はなび)支部長。客人で遊ばないでください」

「いやぁ、すまないね……人をからかうのは癖なんだ」

 

 佐々苗が咎めるように骸骨を睨むと、椅子の後ろからヌッと〝黒髪の女性〟が現れた。かなりの美人だ。だが青白くどこか儚げで、骨の傍にいるとまるで骨の持ち主……亡霊に見える。

 

「第14支部支部長『花美桜下(おうか)』だ。ちなみに74期生で、《元超高校級の死体愛好家(ネクロマニア)》でもある」

「……ネクロ……なに?」

「ネクロマニア……死体愛好家の事ね。謂わば死体が好きな狂人よ」

 

 霧切のキツめな言葉に、手厳しいなと肩を竦めて苦笑する花美。

 本来人の死の真相を解き明かすべき立場である探偵でありながら死体好きというのが気にくわないのか、あるいは死体を見るために探偵になった可能性を考えて納得できないのか……まあ、両方だろう。

 

「まあ別に、私は死体が好きという訳ではないよ。周りが勝手に勘違いしただけさ……」

「そ、そうなの………?」

「私は【死】を理解したいんだ」

「やっぱり変な人だ!?」

 

 朝日奈が恐る恐る尋ねると、花美は笑顔で異常な答えを返した。

 

「変かい?【死】とは、恐ろしいものだ。恐怖の対象だ。そして恐怖とは『未知』から来るもの。ならば当然理解すれば恐れなくて済む。もう、あんな思いはこりごりでね」

 

 まるで死んだことがあるような言い方に霧切が眉をひそめる。他の面々も理解できないのか首を傾げている。

 

「正確には死にかけた……かな。〝この傷〟でね」

 

 花美はそう言って前髪を持ち上げる。額には、大きな傷が刻まれていた。

 

「十神君。君は頭を刺されて生きてるはずがないと言っていたが、案外生きているものさ。下顎から頭頂部にかけて鉄筋棒が貫通したり、水中銃の銛が頭に刺さったても生きている人間がいるぐらいだ。何より、ここは右脳と左脳の中間にある隙間でね……まあ、『運』が良かったのさ」

「………………」

「…ふふ」

 

 苗木が花美と目が合うと無言で逸らし、花美は面白そうに笑う。

 

「邪魔するぞ」

 

 と、その時ノックもなく扉が開き、宗方と逆蔵が入ってくる。

 

「邪魔するなら帰ってくれ」

「すぐ終わるさ。……苗木誠、ついてこい」

「ここじゃダメなの?」

「良いからついてこい。てめぇは本当に自分の立場を理解してんのか?」

 

 苗木が宗方の言葉に嫌そうな顔をすると逆蔵が突っかかってくる。と、戦刃が苗木に近づき何やらこそこそ話す。

 

「え?……『ホモ』って、何?」

「───ッ!?」

「ごめん……知らない……盾子ちゃんがそう言ってたの聞いただけだから」

 

 基本的一般人(性格を除く)苗木の周りには当然異性愛者しかおらず、戦刃の教えた意味は分からなかった。戦刃も戦闘能力以外は残念なため、覚えていた単語を言っただけのようだ。

 

「ホモ?……何の話をしてるが知らんが、取りあえず取調室までついてこい。〝聞きたいこと〟がある」

「……希望ヶ峰学園には《モノクマフラワー》っていう、デッカい雑食の花があってさ……あれはすごいね。──死体が五分で骨になって、骨も数分で溶けた」

「……江ノ島盾子の『死体』が見当たらないのは、それが理由だと?」

 

 宗方は睨むように問い詰める。身長差から、見下す形になっている。苗木の額に青筋が浮かんだ。

 

「人類皆、縮めば良いんだ………」

「……は?」

「妬みはよくないぞ少年」

 

 苗木の言葉に宗方は首を傾げ、花美が呆れたようにため息を吐く。

 

「はぁ………じゃあまあ、正直に言うとたぶん映像が終わった、頭にナイフが刺さった時点では生きてたよ。運が良くてね……もっともどっちの運かは知らないけど……で

その後、江ノ島さんがもっとも嫌がるであろう【おしおき】をして……彼女を〝殺した〟」

「……それは確かか?」

「もちろん。嘘、つかない……ボク、江ノ島、この世から……消した」

「何で急に片言になってんだよ……」

「脳筋のボクサーにはこれぐらいがわかりやすいかと思って……」

 

 苗木の嫌味に逆蔵がビキリと青筋を浮かべる。そりゃそうだ。

 

「てめぇ……舐めてんのか!!」

「そっちこそ、いい加減ボクとキミの立場の違いに気づけよ……クロとシロを間違えたくせに……いや、間違えたんじゃないのか……『彼女の日記』には色々書かれてたよ?」

「………てめぇ………」

「別に否定はしないよ?誰が誰を好きになるかなんて、ボクが言えるような事じゃないしね」

「…………ッチ!」

 

 苗木の皮肉に、逆蔵は舌打ちして去っていった。

 

「宗方さんも色々気をつけなよ?カーテン閉めてる?歯ブラシ、すり替えられてない?鼻かんだティッシュは捨てるよりすぐ燃やした方がいいよ……」

「……よくわからんが気をつけておこう……それと、俺はお前が『絶望』だと確信したら容赦はしない」

「……ふーん………肝に銘じておくよ」

 

 苗木はそう言うと、去っていく宗方にバイバイと手を振った。

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