救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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桜の下には希望が埋まっている⑩

『苗木君、起きてる?』

「………ん、あぁ……おはよう霧切さん……」

 

 朝の7時、インターホンの音の後に、通話機能があったのか霧切の声が聞こえてくる。

 苗木は寝ぼけ眼を擦りながら起き上がり、扉を開ける。

 

「おはよう苗木君。よく眠れたかしら?」

「まあね……」

「昨日の生き埋め殺人だけど、犯人が分かったわ…」

「………へぇ」

 

 苗木は数秒遅れて驚いたような顔をする。寝起きなので反応が遅れたのだと、霧切は特に気にしなかった。

 

「被害者の部屋の机に置かれていた手紙。その筆跡が花美さんの祖母……花美桜と一致したのよ。でも彼女は今何処にもいない……代わりに〝厄介な物〟を見つけたわ」

「厄介なもの?」

「『人骨』よ……少なくとも数年以上の月日、地面に埋められていた。今、花美さんが調べているわ」

 

 霧切の説明に、あぁ、と苗木は思い出す。

 昨晩……いや、もはや今日の夜だが、苗木の合図で聖原が掘り返した土には、過去花美桜が埋めたであろう〝花美真の遺骨〟が紛れていたのだ。

 それはたまたま木の枝に引っかかり再び土の中に戻ることなく、たまたま帰ろうとした苗木の背に落ちてきたのだ。

 

「じゃあ、人骨の調査は花美さんに任せて、ボクは花美桜の捜索に当たれば良いの?」

「花美さんの話だと、狡猾な性格らしいわ。もう、遠くに逃げてるんじゃないかしら……今日は……昨日は手伝ってくれたでしょう?『お礼』をしに来たのよ」

 

 霧切はそう言って後ろに回していた手を前に持ってくる。箱の中から微かな甘い香り……ケーキだ。

 

「……意外、死体の調査するかと思ったのに」

「死んでから数日までならともかく、数年は私の専門外よ。そういうのは、専門家に任せましょう」

「で、ケーキと……」

「良いですね。おいしそうです!」

 

 苗木がケーキの箱を見つめていると、背後から馴染みのある声が聞こえてくる。そう、背後……苗木の部屋の中からだ。

 振り向けば、〝舞園〟がお茶の準備をしていた。

 

「………聖原クン?」

「隠し扉は発見できませんでした」

 

 苗木の呼びかけに、クローゼットから〝聖原〟が姿を現す。霧切はギョッと驚き、反対に聖原は興味も示さず勝手に席に座る。

 

「………ケーキは2人分しか無いわよ」

「大丈夫、持ってきた…」

 

 と、今度は〝戦刃〟がやってきた。ちゃんと通路から。唐突に現れたのに何故か安心してしまったのは、今回の突然の登場で唯一まともだったからだろう。

 

「待って……どうしてケーキを用意できたの?」

「葉隠君の占いで、ケーキを〝4人分〟持って行くと良いって」

「…4人?」

 

 霧切は自分と苗木の分のケーキを用意している。後は聖原と舞園、戦刃の三人だけだが……。

 

「おや、ケーキかい?私も混ぜてもらって良いかな?」

「………葉隠君、当たるときは当たるのね」

 

 そこへ〝花美〟がやってきた。これで人数分のケーキが揃ったことになる。

 

「そういえば葉隠クンとも話しながら観察してたら、長い間考えられる『長考』と、水晶玉覗いたらなんか見える『水晶玉占い』を覚えられたよ」

「………………」

 

 苗木の言葉に呆れた顔をする霧切。実はもう、自分の才能も覚えられているのではないかと不安になる。

 

「苗木君あーん♡」

「あむ……」

「苗木君……はい」

「はむ」

「少年、これも一口どうだ?」

「むぐ」

 

 苗木は差し出される度に口を開け雛鳥のような反応をするので、苗木に好意を寄せている舞園と戦刃はもちろん、年上の花美も自分たちのケーキを差し出していく。その度に苗木はあーんと口を大きく開けていた。

 

「……っ!」

 

 霧切も思わずあげそうになったが、なんとか我慢して花美に『例の件』について尋ねた。

 

「……あの人骨、身元は分かったのかしら?」

「……〝妹〟だったよ」

「え……?」

「………………」

 

 花美の返答に、霧切が凍り付く。

 花美はふっと寂しげな笑みを浮かべた。

 

「……人類史上最大最悪の絶望的事件が起こる三年ほど前、唐突に姿を消してな。お世辞にも出来た子とは言えなかった。両親にも、祖母にも、冷たく当たられていた。だから〝逃げた〟と思っていた。〝逃げてくれた〟だけだと思っていた……でも違った。『殺されていた』んだ」

 

 ギュッと両手を強く握りしめる花美。

 逃げてくれた……と言うことから、彼女自身花美家には良い思いがなさそうだ。

 

「埋めたのは……きっと祖母だろうね。真が居なくなった時期に、桜が綺麗だ、などと言っていたからね。あの人は………あの人達は、桜の下に『死体』を埋めれば綺麗に咲くと本気で信じて、動物の死骸を埋めていたから……」

「そして〝人間〟まで……と言うことね」

 

 苗木は自分の分のケーキを、フォークでぐしゃぐしゃと崩していく。

 

「滑稽な話だろう?私は知らず知らず、心の底から家族と思っていた妹を殺した、血の繋がり以外絆など感じなかった相手を守っていたんだ……」

「……………ていっ」

 

 苗木は唐突に花美の額を指で弾く。突然のデコピンにポカンとする花美。

 

「『自分を責めないで』……って、妹さんなら言うんじゃない?」

「…………そう思う根拠を聞かせてもらっても?」

「特に無いけど?」

「………え?」

「死人に口なし。こまるじゃないんだから……でもね、ボクは誰かに殺されたとして、こまるが何も知らずその人を守っていたとしても、ボクはこまるを責めないよ。だって、〝誰かを守ろうとすること〟自体は、間違った事じゃないもの……」

「…………………」

 

 苗木の答えに、花美はキョトンと苗木を見つめる。そして、クスリと笑った。

 

「やはり似てるな……昔から、空気を読まず正直なことばかり言って、こういうときだけ空気を読んで慰めてくれる……」

「……♪」

 

 花美はそう言って苗木の頭を撫でる。年上から撫でられるのは久し振りで、苗木は目を細めた。

 

「そうだね……アイツは、きっと怒らない……ありがとう。少しだけ元気が出たよ」

 

 花美はそう言うと部屋から出て行った。妹の遺骨を埋葬しに行くのだろう。

 苗木は花美の背を見ながら考える。聖原に死体偽装の犯人の部屋を調べさせたところ、花美桜とは〝別の筆跡による手紙〟があった。

 内容は『穴を掘れ』と言うもの。そこに戦刃むくろを追い出す方法が埋まっていると、かなり怪しい手紙だ。誰が、何のために……?

 色々気になったが、取りあえず今は皿にこびりついたケーキの残骸を頂くことにした。




桜の下には希望が埋まっている編で追加のオリキャラ

超高校級の幸運(79期生予定)佐々苗七希

超高校級の死体愛好家(ネクロマニア)(74期生)花美桜下

超高校級のプロデューサー 観能示恵




この世界におけるスキルの扱い。
苗木が友人を観察している内に覚える対象の特技。ただし基盤は苗木の肉体なので運動部系は鍛え始めたばかりでは不完全。
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