救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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おいでよ動物の国②

「お疲れ戦刃さん。最初はどもってたけど、最後はキチンと〝台本通り〟言えたね。偉い偉い」

「……………」

 

 苗木が頭を撫でると、戦刃は嬉しそうな顔をする。

 苗木が観能に出した条件は、『戦刃の反省をプロデュースさせる』と言うもの。とはいえ、戦刃は残念ながら罪悪感がない。なにせ戦場で育ったのだ。人を殺すことに罪悪感はないし、妹の願いが間違っているのかも知らない。

 なので、苗木が台本を考えてやったのだ。だが、世界を戻すという戦刃の言葉は、決して偽りのものではない。

 

「あの、でも……最初全然言えてなくて……」

「あれはむしろあれでよかったかもね……」

「………戦刃くん!」

 

 第14支部に戻ると、78期生のみんなが勢揃いしていた。

 

「さっきの演説見てたぞ!素晴らしい!」

「おう!心に染み渡ったぜ!」

「……え……あ、えっと……ありがとう?」

 

 石丸と大和田が戦刃に駆け寄り褒め称える。そういうことに慣れていない戦刃は当然戸惑い、苗木はそんな戦刃を優しく見守る。

 

「……戦刃さんだけ、随分と特別扱いするのですね」

 

 と、不意に苗木の後ろからセレスがジト目で睨んできた。セレスだけではない、舞園も不機嫌そうな顔をしていた。

 

「そりゃ、彼女だけ皆とは〝立場〟が違うからね。それだけだよ……」

「「…………」」

 

 確かに、戦刃だけは78期生の中で唯一『元超高校級の絶望』だ。早めに彼女に集まった敵意や不満を減らしたかったのだろう。理解はしたが、やはり特別扱いされている事実に納得しづらい。

 

「あ、苗木せんぱーい!帰ってきたんですね?」

「……何か用?」

「実は、先輩達に『班分け』してほしくて……」

 

 セレス達が嫉妬していると、佐々苗がパタパタと走りながらやってきた。そして、苗木はデジャヴを感じて走り出す。と、案の定佐々苗が何もない所で躓き倒れるが、床に激突する前に苗木にポフっと抱き止められる。 

 

「佐々苗さんは、走らないほうが良いかもね……」

「別にしょっちゅう転ぶ訳じゃありません!転びかけて、フラグも建てられました!」

「ごめんボク好きな人がいるから、ハニートラップなら別の人にやって」

「やだなぁ苗木先輩。それじゃあわたし、〝色香〟で人を騙そうとしてるみたいじゃないですか……」

「………色香?」

 

 苗木は佐々苗の平ぼ──慎ましやかの体型を見て不思議そうに首を傾げる。ビキっと佐々苗の額に青筋が浮かんだ気がしたが、直ぐにショックを受けたような顔をする。

 

「もー!苗木先輩はデリカシーがないんですか!?」

「……あざといね……それより、何か用があったんじゃないの?……班分け、とか言ってたけど……」

「あ、そうでした!苗木先輩達って汚染された大気に満ちた外に出て数日じゃないですか?それに、『二年前と姿が変わらない』って不思議現象も…なので〝第4支部〟…ああ、新規医療の最前線の支部なんですけど、そこで看てもらうことになって…」

「………ふうん?」

 

 そう言えば図書室を借りた資料にあった各支部の役割で、第4支部はそんな事が書かれていたなと苗木は思い出す。

 医療技術、ねえ……超高校級なら感染病も思いのままだろうなぁ、などと考えながら見ていたものだ。

 確か支部長は《元超高校級の薬剤師》、どんな怪我でも一瞬で治る薬とか作ってそうだ。果たして身体に良いのかは知らんが。

 

「ついでに、君達の『記憶を戻す薬品』も完成したそうだ」

 

 苗木が考え込んでいると花美がやってきた。花美が何気なく放った言葉は、皆を動揺させるには十分だった。

 

「き、記憶を戻す?」

「ああ、以前少年が持ってきた『記憶を取り戻すスイッチ』があったろ?それを解析して作ったんだ。電気信号を送る必要はないらしいが、飲んだその日は記憶のフラッシュバックで〝知恵熱〟を出す可能性があるそうだ」

 

 花美の丁寧な説明に、苗木は自分が飲んだらどうなるのだろうと首を傾げる。苗木は既に記憶を取り戻しているのだ。記憶のフラッシュバックによる知恵熱は出さないだろう。

 

「とはいえ、だ……第14支部(ウチ)と違って第4支部は忙しい。15名も同時に送れば迷惑になるだろう。と言うわけで、一班5人の三班に分け、順に行ってもらうことにしたんだ」

「わたくしは苗木君と行きますわ」

「私も苗木君と行きます!」

「……わ、私も苗木君とがいい」

「苗木君。仮にだけど事件が起こった時、洞察力が優れた助手となる人物が1人いると良いのよ。ここまで言えばわかるわね?」

「ぼ、ボクも苗木クンとがいいなぁ…なんて…」

「あ、オレ舞園ちゃんとがいいでーす!」

「えー!私も早く記憶取り戻したい!」

「………まあ、そうなるよなぁ……」

 

 次々と名乗り出る彼らに、花美は呆れたように笑う。

 なかなか複雑な人間関係のようだ。苗木誠に好意を寄せる者も多く、また、その内の1人である舞園に好意(と言っても良いのか微妙)を持つ桑田が舞園と行きたいと言い出す。

 十神は後で腐川冬子とは別の班にしろと言ってくるだろうし、腐川は逆に十神と同じ班にしろと言うに違いない。

 

「……じゃあ、これで決めようよ」

 

 苗木はそう言って、何処からともなく取り出した〝紙〟と、何時も何処かに隠し持っているモノモノマシーンの景品の一つであろう〝色鉛筆〟を出した。紙を15枚に細くカットし、5枚ずつ、その端に異なる三色を塗っていく。

 

「『籤引き』。ああ、ちなみに赤が一番、黄色が二番、青が三番ね……」

 

 なんともわかりやすい。誰一人文句言うことなく引いた。結果……

 

赤班 苗木、大和田、大神、戦刃、朝日奈

黄班 十神、セレス、桑田、山田、舞園

青班 葉隠、不二咲、石丸、腐川、霧切

 

 となった。

 喜ぶ者、悔しがる者と反応は様々だったが、苗木はふと、不安に思う。〝運動能力に特化した者達〟と同じ班になったのは、幸運なのだろうか?だとしたら、かなり厄介ごとになる予感がする……と。

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