「では、こちらへ……」
神城に案内されながら歩く第4支部の中は、さながら薬品工場と行ったところか。
ガラスの向こうでは、職員達が顕微鏡を覗いたり機械の操作をしていたりする。
「そういえば、神城さんは『超高校級の執事』なんですよね?……なんで薬を作る〝第4支部〟に?」
「それを言ったら花美支部長も広報活動に向いてないでしょう?どの支部でも同じような働きしか出来ない者や、才能を役立てようとしない者は適当な支部に送られるんです」
なるほど、と苗木は納得する。超高校級の執事。平和な時代ならともかく、世界を立て直そうとしている今の時代なら、どの支部で栄えるという事はないだろう。基本的に役立つ才能ではあるのだが…。
「着きました」
「ここが支部長室……」
苗木は《支部長室》と書かれたプレートのある扉を見つめる。第4支部の支部長と言うことは、医療に精通した人間と言うことになる。どんな人物なのだろう?やはりつぎはぎが顔にあり、黒い髪なのに一部白髪メッシュがあるのだろうか?
「……いらっしゃい……」
件の支部長の姿を目にした瞬間、苗木の中の支部長像がガラガラ音を立てて崩れた。
想像と違う。いやまあ薬剤師なのだから、想像通りだと違和感だらけなのだが……。図書室の資料にもう少し詳しく書いてもらいたいものだ。
「……………」
「?」
第4支部支部長はジロリと〝戦刃〟を見つめた。戦刃は首を傾げたが、この支部長は絶望を受け入れない派……以前あった宗方と同じタイプなのだろうか?まあ、あの男ほどではないか……と苗木は考える。
「……それ」
「ん?」
苗木が第4支部支部長を観察していると、向こうから唐突に話しかけられた。それと指さしているのは苗木の顔……ではなく、包帯下の中身のなくなった『左の眼孔』だ。
「………痛みは?」
「ないですよ?あ、でも時折鈍く痛みます」
完全な無痛症ならともかく精神面の問題。江ノ島を殺した日からはさらに痛みを感じ難くなってしまっている。それでも包帯を取ったとき、風呂の時には微妙に痛くなる。
すると第4支部支部長は、支部長席の後ろにあった棚から薬の入った瓶を取り出し、苗木に渡す。
「痛み止め……つらくなったら、使って……」
「……どうも……」
苗木に痛み止めを渡すと、第4支部支部長は席に戻る。
「私は、第4支部支部長…『忌村静子』…」
「あ、ども。78期生超高校級の幸運、苗木誠です」
「朝日奈葵でーす!」
「大和田紋土だ」
「大神さくらだ……」
「……戦刃むくろ」
苗木に続いて、他の皆も自己紹介する。
「じゃあ、ついてきて……記憶再生薬と……それに、あなた達が二年前と体型が変わってない理由、調べるために『採血』するから……」
「さくらちゃん。採血って?」
「血を採ることだ」
「ええ!?私、注射苦手だよ……!」
「え……じゃあこれ……刺す前に飲めば痛くなくなるから」
朝日奈の言葉に、忌村は慌てて朝日奈に薬を渡す。
「ありがとう忌村さん!頼りになるね!」
「あ、うん……」
朝日奈は忌村の手を取って感謝をする。そこまで注射が嫌いか。やはり精神年齢は幼いようだ。
「苗木、なんか失礼なこと考えてない?」
「気のせいじゃない?」
「早くしてくれる……あの子待たせてるから……」
忌村はそう言って歩き出し、7人はその後について行く。
「ここよ……」
暫く歩き、《第5薬品室》と書かれた部屋に来る。忌村が扉を開けると、中で薬品を整理している〝女子〟がいた。
「薬師寺……」
「ん?あ!師匠!どしたんです?」
「記憶再生薬……取りに来た」
「おお!てことは、苗木誠さん来たんか……どの人?」
「ボクだよ」
「本物だ!…あ、わたす、『薬師寺薬師』言います!」
「…………………」
なまった喋り方をする『薬師寺』と言う女性は、苗木の手を掴みブンブン振り回してくる。
変わった女性だ。瓶底メガネに抹茶色のスーパーロングの髪に襤褸白衣を纏っている。見るからに『やぶ医者』といった風貌である。
「元77期生の、超高校級の医学者だす!」
「77期生?」
薬師寺の発言に苗木はピクリと反応した。
無意識に〝包帯〟に手をおく。
「はい!……あ、そだ…記憶再生薬!」
ドタドタと薬棚の奥に引っ込んだ薬師寺は、数秒後に薬の入った箱を持ってきて……転んだ。
投げ出された箱は、忌村が間一髪キャッチしたが。
「気を……つけて!作るの、大変なんだから!」
「す、すんません!」
忌村に叱られ落ち込む薬師寺。箱の中の瓶は5人分。
「戦刃には、必要ないわね……」
「……あ、うん……」
まあ正確には苗木も必要ないのだが、言うと面倒なことになるから言わないで置こう。
「そう言えば、77期生達は『全滅した』って聞いてたけど?」
「それ、雪染先生のクラスのこどだすよ」
「……なる程……」
薬師寺の言葉に、苗木は納得したように頷く。
「ところで採血は?」
「あ、この部屋の奥にあるすよ」
薬棚の奥を進んでいくとまた扉があった。朝日奈は急いで薬を飲む。
「ささ、どうぞ……」
薬師寺が扉を開けると、献血室のような部屋の中身が見える。薬師寺は戸棚から、硝子の棒を五本持ってくる。
「ほい、腕だして……」
「ん?……ああ、はい」
苗木が腕を出すと、薬師寺は硝子棒の先端についている針をキチンと血管に刺す。中が真空になってるのか、苗木の血液が吸い込まれていった。
「ほら、皆も……」
「………うん」
苗木が言うと戦刃も腕を出し血を採らせる。他の皆も腕を出す。大神から血を採る時は大変そうだったが……。
「っ!」
「い、痛がった?」
「痛くは無いけど、怖かったぁ……」
シュンと落ち込む朝日奈。大神がよく頑張ったなと頭を撫でてやる。
「くそ。やっぱ注射は何時まで経っても慣れねーぜ」
大和田も注射は得意じゃないらしい。
「ところでさ、薬師寺さん」
「なんだべ?」
「医学者ってことは、『移植手術』も出来る?」
「でぎるよ……あ、その〝左目〟のごとが?なら、わたすにまがせて!あ、でもドナーが……」
「それなら大丈夫だよ。あの学園出る時に、何時か立体視に戻れるように持ってきてるから」
「?ああ、そう言えば……あそこには、あなたの両親の遺体があったわね………先を見据えるのは美点だと思うけど………薄情ね」
「両親が死んでショック受けてないわけじゃないよ?」
「あ、ご……ごめんなさい……!」
苗木の言葉に忌村は慌てて謝る。気にしないでと苗木は手を振り、薬師寺に向き直る。
「それじゃあ、お願い出来るかな?」
「まがせてぐださい!」
「あ、うっかり毒とか勘弁してよ。キミ、うっかりしてそうだし……」
「大丈夫よ。その子は……治療や手術の時はキチンとしてるから」
「じゃあお願いね」