救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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おいでよ動物の国⑦

 その後忌村と別れて数分、苗木はようやく自分が迷子になっているのを思い出した。

 が、適当に歩いている内に、見覚えのある廊下についた。

 

「………む?苗木、早いな」

 

 部屋に戻ろうとすると丁度、そのタイミングで〝大神〟と鉢合わせた。

 

「丁度いい、少し付き合ってくれぬか?」

「え、大神さんの修行に?無理無理、戦刃さんとの訓練でも手一杯なのに……」

「なに、『精神統一』だけだ」

「…………それなら良いけど」

 

 まだ朝食のために食堂が開くまで時間もあることだし、苗木は大神についてくことにした。

 

 

 

 

「そういえば、大神さん熱は?」

「少し身体が怠いな。一晩で二年分の記憶を見たので、少し気分も悪い……」

 

 庭で座禅を組む大神に、その隣で大神を真似て座禅を組んだ苗木が尋ねると、大神は素直に答えてくれる。

 

「体調は悪くとも、せめて精神統一はな………『明鏡止水』の心得。これを常に忘れるな」

「……………」

 

 大神の言う通りに、苗木は心を澄み渡らせる。

 自分自身を客観的に眺め、自分の周囲に意識を広げていく。

 

「……そういえばさ、大神さん」

「………む?」

「大神さんって、人を殺したことはあるの?パンチ一発で出来そうだけど……」

 

 聞きようによってはかなり失礼な質問だが、大神はふむ、と真剣に考える。

 

「………苗木よ、それは我にとっての〝死の定義〟を聞いておるのか?」

「んー……そうかな。よく漫画で彼は武道家として死んだ……とか、彼の教えを引き継いでいる自分がいる限り彼は死なぬ………なんて台詞を見つけるから………」

「ほう……良い言葉だな。覚えておくとしよう。では、例に我の考えを教えよう………死とは、その人物の『本質』が変わってしまうことだと、我は思っている」

「………………」

「我がまだ未熟で、力に溺れていた頃の話だ。ただ己が力を誇示したいために、多くの道場を回った……ケンイチロウに止められたがな。ケンイチロウに諭され、我は目が覚めた。迷惑をかけた道場の謝罪に行ったのだが……その内一つの道場の師範は、我との戦闘の怪我が原因で二度と武を嗜むことが出来なくなってしまった。武を失った彼は、まるで別人であった……なるほど、奴は確かに〝武道家として死んだ〟のだろうな……」

 

 大神は空を見上げながら呟く。彼女にとっても恥ずべき事なのだろう。だがそれでも話してくれた……。

 

「しかし、何故その様なことを?」

「………ボクが江ノ島さんを『殺した』ってことの再確認、かな……」

「………そうか」

 

 苗木の返答に、大神はただ優しげな目で苗木を見つめた。

 

「……さて、ではそろそろ出てきてはどうだ?」

 

 苗木が何も言わずにいると話は終わったと判断したのか、大神はギロリと木の陰を睨む。苗木もつられてその木を見つめると、パチパチと拍手の音とともに〝男〟が現れる。

 

「我輩の気配に気づくとは、流石は超高校級の格闘家と言うところか……」

 

 木の陰から出てきたのは、紫がかった黒髪を短めのウルフカットで整え、タレ目。左目の下の泣き黒子が特徴的な美青年だった。

 

「…………あ、春夏秋冬(ひととせ)先輩だ」

「………!」

 

 苗木は見覚えのある人物の名を呼ぶと、男は突然感極まったように破顔する。

 

「ああ、主君!我輩の事を覚えていて下さったのですね!この春夏秋冬四季、感激でございます!」

「…………悪化してるし」

「苗木よ……知り合いなのか?」

「………学園時代のストーカー」

 

 苗木はそう答えて、呆れたように頭を掻く。

 彼の名は『春夏秋冬四季』。苗木の二年先輩、つまり76期生で《元超高校級の工作員》でもある。

 希望ヶ峰学園に入学する前に一度だけ公園で会い、何の間違いか内密の話を聞いてしまい、彼から崇拝されるようになった。以来、学園では常につき纏われていた。

 学業を疎かにしていた為『退学』になったが……。あの時点で希望ヶ峰学園にいたら、他の本科の生徒のように死んでいたかもしれない。苗木にとってはむしろそちらがよかった。

 平和時代の苗木がそう思ったほどウザいのだ…。

 

「ああ主君、やはりアナタは我輩が見込んだ通りの男だった。かの江ノ島盾子に打ち勝ち、この世界を救うにたる人物だった!」

「……鬱陶しいっつの!」

「あふ!」

「な、苗木が人を蹴った!?」

 

 苗木は、直ぐ前で跪き顔を上げ褒め讃える春夏秋冬の顎を蹴り上げる。己の知る苗木らしからぬ行動に、大神は目を見開いて驚いた。

 

「……ふ、ふふ……ふひへへ……あはは!蹴った!主君が、蹴ってくれた!ボクの為にわざわざ労力を裂いてくれた!」

「……あー………ダメだこりゃ」

 

 ビクビクと悦に浸っている春夏秋冬に、苗木は完全に引いていた。それはもう物凄く。

 そして苗木に蹴られた快感が限界を超えたのか、気絶した春夏秋冬を見て苗木はうんと頷く。

 

「部屋に戻ろっか大神さん。この変態、いつ目覚めるかわかんないし」

「い、いいのか?」

「大丈夫。それ、仮にも超高校級だから平気だよ………」

「そ、そうか………」

 

 

 

 

 さて、昼頃になり、苗木は鏡を前に〝包帯〟に手をかけていた。

 いよいよ包帯を取るつもりだ。

 

「ほいっと………」

 

 何の躊躇もなく包帯を解き左目を露わにする。手術痕はまるでない。腕がよほど良いのだろう。『青い瞳』が鏡に映し出されていた。

 

「〝色〟に疑問を持たれたら………まあ、劣性遺伝で青い目を持つ日本人もいるし、その話題でも話せば誤魔化せるか………そういえば、《記憶転移》はどうなるんだろ?」

 

 茶色の瞳はメラニン色素が多い証拠。虹彩の色を濃い順にすると、大まかに茶色、緑、青となっている。薄い者同士の親の間からは濃い瞳の者は生まれないが、濃い者同士だと薄い瞳の者が生まれることがある。緑は約18%、青でも約6%と言われている。知り合いの肉親にいても何ら不思議ではない。

 ちなみに記憶転移とは『提供者(ドナー)の記憶の一部が受給者(レシピエント)に移ること』である。

 

「………本質の死が本人の死を意味するなら………ボクはまだ、〝キミ〟に取り殺される可能性があるのかな?………ならそれはきっと絶ぼ………しまった、気持ちを知れるとまた思っちゃった」

 

 我ながら難儀な性格だな、と思いながらため息を吐き、洗面所から出て窓の外を眺める。

 この位置からなら丁度肉食の動物達が見えた。左目の視界はまだぼやけているが……。

 

「……ん?」

 

 ふと苗木は別の棟の屋上を見つめ、固まる。そこには〝人影〟があった。

 皺一つ無い白衣をまとった人影が。これだけなら良い。苗木も直ぐに気にせずベッドに戻っただろう。問題はその人物が、『モノクマを象ったマスクを被っている』と言うことだ。

 

『………あー、あー、マイクテスッ、マイクテスッ……大丈夫?聞こえてるよね?……えー、ではでは…』

 

 聞き覚えのある台詞に、変声機を使っているのか聞き覚えのない声……。

 だが滲み出る濃密な、人が思わず忌避してしまう嫌な気配、絶望の気配はあの時と同じように感じる。

 

『皆さん。今まで、ホントーに頑張ったね!こういう場所は、何度も絶望に襲撃されるから、戦闘員も集めてずーっと守って来たよね!お疲れ様です………でも、もうお終ーい!うぷぷ、最高に絶望的なこーけいを、皆でみよー!ポチッとな……』

 

 遠目で、モノクマDr.(苗木命名)がスイッチらしき物を押す。途端に〝スプリンクラー〟が作動した。

 

「薬品!?」

 

 だとしたらかなり危険だが、どうやら『ただの水』だ。何のつもりだろうか?取り敢えず、他のメンバーの容体でも見に行こうと扉を開けると、そこにはモノクマDr.の言うとおり【絶望的な光景】が広がっていた。

 

「………映画だけにしてほしいよ、こういう光景……」

 

 人が人を喰らう光景。ゾンビ映画のようなその光景に、苗木は顔を引き攣らせていた。




春夏秋冬四季(ひととせ しき) 76期生 元超高校級の工作員 忌村静子に惚れ苗木を崇拝している。性格は男版罪木絶望ver。ドM 元フェンリル

予測不可能の奇人さんの作品
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