救えなかった苗木の逆行物語   作:超高校級の切望

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機械少女は希望の夢を見るか①

 苗木達が第4支部に来て一週間。

 漸く職員が実務に戻れるぐらいは落ち着き、苗木達も第14支部に戻ることになった。

 

「いろいろ手伝ってくれて、ありがとう……」

「いいってことよ。どうせ暇だったしな」

「大和田の言う通り、感謝されるほどの事ではない」

 

 朝日奈や戦刃はもちろん、大和田や大神も手伝えることは手伝っていた。唯一手伝いをしていなかった苗木は、現在熱を出して先に車に乗っている。本人曰く、脳をいきなり酷使しすぎたらしい。

 

「うえ……まだ頭の中がグラグラする……よくこんな感覚に慣れたなあの女………」

「苗木君……体に異変を感じたら、すぐウチにきてね」

「……はい……」

 

 忌村が心配そうに言うのは訳がある。騒動の後、在庫などを調べているうちに〝苗木の血液サンプル〟が盗まれていたことが分かったのだ。超高校級の医学者である薬師寺なら、血液から特定の遺伝子にしか効かないウイルスを作ることも可能だそうだ。逆もまたしかりだが……。

 そして、神城の運転する車に全員が乗り込み発車した………。

 

「大丈夫?ドーナツ食べる?」

「食べる」

 

 苗木は差し出されたドーナツを朝日奈の指ごと口に含む。朝日奈は真っ赤になって指を引っこ抜いたが、流石に病人は叩けず、振り上げた手は数秒宙をさまよった。

 

「にしても何でオメェ熱出したんだ?知恵熱に今頃かかったのか?」

「知恵熱は〝かかる〟もんじゃないよ………」

「そうだったんだ……」

「知らなかった……」

「マジか……」

「ほう……」

「…………………」

 

 苗木ははぁ、とため息を吐くと目をつぶった。脳を完全に休めた方が回復も早いだろうと判断したのだ……。

 

 

 

 『旗印』というのは、かなり高い影響力がある。

 黄天の為に国に逆らった黄巾党、聖女と言われるジャンヌに付き従った兵士達……国に逆らう、特別な存在。そんな普通とは違い、異質でありながら民意の体言者は特に優れた旗印となる。

 

「………………」

「つまり、何が言いたい……?」

【苗木誠君は束縛するのではなく、引き入れるべき……と、我は言いたいのだよ】

 

 宗方の問いに帽子を深くかぶった男、超高校級のスタッフ『俸我渉』はPDAを操作して応える。元々は執筆でコミュニケーションを取っていたが、現在はPDAを使っている。紙がもったいないからだ。

 

「………苗木誠は身の内の爆弾になる」

【だがその爆弾の力を求めて人は集まる。前回、戦刃むくろの放送で減って、もしくは緩くなっているが、絶望を恨む者は絶えない。早い内に苗木誠を象徴とすれば、もはや天願さんでも止められない流れとなる】

「それはわかっている。だが、その流れを苗木誠に取らせるのが危険なんだ」

 

 二人の会話は平行している。どちらも目的は絶望の殲滅。そのために多少の危険を犯すつもりの俸我と、苗木誠が流れを掌握することを危険視する宗方。

 

【そんなにかな?確かに苗木君は放送でみる限りかなり頭のいい子だけど、超高校級の才能を持たなかったからこその《幸運枠》だろう……?】

「全く、世間は何を見てきたのか……あれの何処が特出した才能を持たない平凡な高校生の枠に入っているんだ………」

 

 宗方は苗木と出会った当初を思い出す。

 こちらの全てを見透かすような目に、呑まれかけた。正直言うと、宗方が話を終わらせたのはあれ以上苗木の側に居たくなかったからだ。

 しかも恐ろしいのは、その奇妙な気配は話を切る頃には消えていたことだ。それこそ勘違いだったと思うほど……。

 

【我は見たわけでないからわからんね……そうだ!第4支部に絶望の残党が潜んでいた事で各支部長を集めるだろ?その時、苗木君を呼んでみよう】

「どの道呼ぶしかないだろう。《支部長会談》は未来機関の総意を決める会談だ。そこに苗木誠が呼ばれなかったと信者どもが知ったらどうなるか……」

 

 全く絶望の残党も余計なことをしてくれた。苗木誠がせめて第4支部に居なければ、呼ばなくとも言い訳は通ったのだがツイていない……。いや、ある意味苗木にとってツイていたのだろうか?

 

【じゃ、準備は我がしておくけど、場所はどうする?】

「………第6支部だ……あそこなら仮に支部長に絶望の残党が紛れていても対処できる」

【………逆蔵君は?】

「あいつは高校時代からのつき合いだぞ。あいつの事は俺が良く知っている」

【そうか、わかった………じゃ、我は仕事に移るとするよ…】

 

 

 

 

 苗木は氷の入ったビニール袋を頭に乗せるという古典的な方法で熱を冷ます。

 

「はい苗木君、あ~ん♡」

「あ~ん……あむ」

 

 そんな苗木に、舞園はすりおろした林檎を食べさせる。現在、舞園は苗木の看病をしていた。

 一週間苗木に会えなかった舞園は、看病にかこつけて苗木に構ったり出来てだいぶご満悦のようだ。

 ちなみに使用したスプーンとタオルは舞園がいただいたりして………。

 

「美味しいですか苗木君?」

「……ん……」

 

 苗木はボーッとした頭で舞園の質問に答えながらふわぁ、と欠伸する。眠くなったのだろう。舞園はそっとシーツを掛けてあげる。

 正直弱っている苗木はかなりレアなので写真に収めたいが、流石に迷惑になるだろうと思い、名残惜しいが自重した。

 

「それじゃ、早くよくなってくださいね……」

 

 舞園はそう言うと部屋から出て行き、残された苗木は天井を見つめた。戦刃から聞いていた江ノ島の『分析力』……。

 自分が何気に人の才能を身につけていることに気づいた苗木は、なんとか使えないかと二年間江ノ島と過ごしていた記憶をなんとか探り、取り敢えず会得することが出来たのだが、早速使ってみたら知恵熱を出してしまった。

 

「………第6支部ねぇ………内部犯による事件は起きないと思うけど………ま、それより仲良く出来そうな支部長探してみるか……」

 

 分析の結果出た未来予想が当たると良いなと願いながら、苗木は眠りについた。




捧我渉(ほうが わたる) 68期生 超高校級のスタッフ

 宗方派の未来機関構成員。
 声を発することが出来ないのでPDAで打ち込んでいる。
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