未来機関から差し出された手紙を読み、花美桜下は頭を抱える。
第4支部で起きた騒動は既に花美の耳にも入っている。召集があるのも予想していた。だが、よりによって『苗木誠を連れてこい』とは………
「上は何を考えているんだ」
いや、考えていることはわかる。重要な会議だからこそ苗木を参加させて、苗木誠は未来機関の一員だと世間に思わせるためだろう。苗木に発言させなくとも、苗木が参加した事実があるだけで世間はその会議を重要視するだろう………が、出来ることなら花美は苗木を参加させたくない。
「……が、そういう訳にも行かないんだよなぁ」
大人達の……というか、この絶望的な世界で生きてきた者達の腹の探り合いは出来ることなら見せたくない。
とは言え、上からの命令に逆らえるほどの発言権も持っていない。
「佐々苗、取り敢えずお前がついてこい。『信用できる者同伴』となっているからな……」
ようはお前が信用している者が信用に値するか、こちらで判断すると言われているのだ。観能は広報活動で手が放せないだろうから、もう1人信用に値する佐々苗を連れて行くことにした。苗木と年も近いというのもあるが……。
「りょーかいです!苗木先輩に伝えてきますね!」
「ああ、頼む……」
佐々苗は満面の笑みを浮かべて元気な返事をした。まだ第14支部に来たばかりだが、不思議と彼女は信用できる。あの明るい性格のおかげだろう、人に好かれる立派な才能だ。
「苗木せんぱーい!………何これ!?」
佐々苗が苗木の部屋の扉を勢いよく開けると、大量の本の山に座る苗木がいた。本は格闘技指南から物理学、生物図鑑に翻訳など様々な部類に分かれている。
「……ん?ああ、佐々苗さん。どうしたの?」
「こ、この本の山は一体………」
「最近頭がすっきりしてね。今なら色々覚えられそうだったから勉強をね……」
苗木は本の山から降りると、佐々苗の前まで歩いてくる。青と緑の瞳が佐々苗を映し、苗木は何時ものように微笑む。
「それで、何か用?」
「あ、はい……実は今度の支部長会談に、苗木先輩も召集がかけられてて……」
「…………ふぅん」
苗木は興味なさそうに相槌を打つ。
「あ、それと信用できる者を1人連れてきてほしいそうです……ちなみに、花美支部長はわたしを連れて行ってくれます!」
ドヤッと無い胸を張る佐々苗に、苗木はへぇ、と今度は興味深そうに反応する。
てっきり副支部長である観能が付き添いになるかと思っていたが……。
「意外だね。観能さんじゃないんだ……」
「観能さんは仕事が入ったらしくて……」
「……ふぅん。佐々苗さん、ツイてるんだね」
「まあ超高校級の幸運予定でしたからね!」
苗木と同じ幸運枠だが、苗木より優れた幸運らしい。
「ところで苗木先輩は誰を連れて行くんですか?」
「もちろん私ですよね!?」
「ひ!?」
佐々苗が苗木に誰を連れて行くか尋ねた瞬間、どこからともなく〝舞園〟が現れる。どっから現れどこで聞いていたのだろう?
「苗木君が一番信頼しているのは私ですよね!」
「舞園さんは何かあったら危ないから留守番してて」
「…………え」
苗木の言葉に舞園はピキリと固まる。よほど苗木と行きたかったのだろう。なにせ、苗木に選ばれれば他の奴らよりリードしているという事なのだから……。
「聖原クン、お願いできる?無事帰れたら《存在殺人》について教えてあげるから」
「よろこんで!」
苗木の言葉にクローゼットから、聖原がものすごい笑顔で出てきた。
「この聖原、先生の御身を守るために粉骨砕身でお供します!」
「守りたいのはボクじゃなくて、ボクが持つ『存在殺人の知識』でしょ?」
「はい!」
舞園は暫く聖原を睨んだが、男なら良いかと諦め大人しく部屋から出て行った。
夜になり、苗木の部屋には聖原と苗木と戦刃の3人がダイヤモンドゲームをしていた。
既に苗木がリードしている。
「先生は俺を信用してないんですか?」
「?……信用してるから、苗木君はアナタを選んだんじゃ……」
「俺は本来〝第6支部の人間〟だ。だから俺が『絶望』だったとしても、それは第6支部の支部長である………さ、逆蔵?の責任になる」
「自分の上司ぐらい覚えておきなよ……」
苗木は1抜けしながら呆れたように言う。聖原は猟奇殺人鬼に会うために第6支部に居るのだ。上司は普段話す相手を覚えるだけで十分だったのだろう。
「信用してるよ。殺人方法を知るためなら、キミは何でもするって……ああ、引きこもり仲間もかな?」
「いまだ出会えてませんがね……」
そう言って聖原も上がった。残ったのは戦刃1人………。
「私の負け………」
「そりゃそんな先を見ない置き方をすればな」
「戦刃さん、こういうゲーム弱いね……」
苗木の言葉にションボリ落ち込む戦刃。苗木が頭を撫でてやると、戦刃は嬉しそうに微笑んだ。
「……戦刃むくろも信用しすぎでは?……そいつ、俺には何の興味も湧かない仕事としての殺人を行ってきた軍人ですが、『絶望の残党』でもあったんですよ」
「…………」
聖原の言葉にムッとする戦刃。が、苗木に撫でられ、へにゃっと笑みを浮かべる。
「そりゃ、世間が絶望も更正できるって事を実例がなく受け入れるなら必要ないけど」
「必要必要」
「第4支部でも助けてもらってるし」
「何度でも助ける!」
「この先も必要不可欠なのは実証済みだよ」
「不可欠不可欠!」
苗木の弁護に嬉しそうに復唱する戦刃。聖原も確かにと納得する。
「自分で拾ったんだからちゃんと面倒は見るよ。犬みたいで結構かわいいし」
「わんわん!わんわんわんわん!!」
「戦刃さんうるさい、静かにして!」
「きゃん!」
苗木に注意され落ち込む戦刃を見て、こりゃ確かに裏切らなさそうだと聖原は確信した。