とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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復活のF:その九 からの第六宇宙対抗試合7 マゲッタVS孫悟空

 棄権。

 

 第六宇宙第三の戦士、ぱっと見機械みたいな姿のオッタ・マゲッタを前にフリーザ様が口にしたセリフに、両陣営がざわざわとにわかに騒がしくなる。かく言う私も内心穏やかではなく、正座に痺れる脚をこっそりお尻を浮かせてほぐしながらフリーザ様を見た。

 

「自分が何を言っているのか、分かっているのか?」

「ええ、もちろんですとも」

 

 シャンパ様と言い合っていた時とは打って変わって、不気味なほどに静かに問いかけたビルス様。しかしフリーザ様はビルス様に臆すことなく、それどころか優雅に一礼して見せた。

 

「私なりに、この大会について考えた結果の棄権でございます」

「大会の事を考えて、だと? ではその考え、聞かせてもらおうか。……場合によっては、分かっているな」

「ホッホッホ。もちろん、承知していますとも」

「フンッ、いい度胸だ。伊達に帝王と呼ばれてはいなかったって事かい?」

「お褒めにあずかり光栄です」

「嫌味だ」

「おや、それは残念」

 

 どうしよう。別にビルス様と対面してるフリーザ様当人じゃないし、むしろこのままビルス様の反感を買ってフリーザ様が破壊されるなら後で戦わなくていいから楽なんだけど、何故かこの空気にお腹が痛くなってきた。あいたたた。

 

 しかし周囲の反応など気にも留めず、フリーザ様は人差し指を立てながら説明し始める。

 

「まあ、そう難しい事ではありません。単純にこのまま私だけで勝ち進めてしまったら、つまらないと思ったまでのことです」

「つまらない? この破壊神主催の宇宙の名誉を賭けた選抜戦を、つまらないとお前は言い切るのか」

 

 いや、いつ宇宙の名誉なんて賭けたんスかビルス様。もとはあんたらの兄弟喧嘩でしょこれ。

 

「ああ、勘違いなさらないでください。大会そのものではなく、今の展開がつまらないと言ったのですよ」

「ほう。お前が言う、つまらない今の展開とは何だ」

「もちろんそれは先ほど申し上げたように、私がこのまま一人で第六宇宙の選手の皆さんを倒してしまう事です」

 

 自信たっぷりに言い切ったフリーザ様に、第六宇宙サイドから反感の目が向けられる。……フロストと、未だに目をつむったまま悠然と腕を組んでいる紫カラーの男を除いてではあるが。

 当然シャンパ様も黙ってはいない。

 

「おい、最初から思ってたけど、お前生意気すぎるぞ!」

「これは失礼。ですが私は素直な感想と、自分なりの考察でもって申し上げているだけです。……第六宇宙の選手は、私の敵ではありません」

「な、なにぃ!?」

 

 再びシャンパ様がいきり立ったように前のめりになるが、そこでフリーザ様は別の人物達に意識を向けた。悟空とベジータだ。うわ、別の宇宙のとはいえ破壊神無視したぞあの人。

 

「ところで、孫悟空さん。ベジータさん」

「い!? お、オラか? ……なんかフリーザにさん付けされるの、気色悪いなぁ……」

「…………何だ」

「あなた達サイヤ人は、戦う事が大好きなんですよね? このまま私が全て倒してしまって、戦えないのはつまらないのではありませんか」

「え? そ、そりゃあそうだけどよぉ……。でもフリーザ。流石にあからさますぎて、オラにもオメェが考えてる事わかっぞ」

「ほう」

「おめぇ、実力隠したままオラ達の力だけ見る気だな?」

「フンッ、流石に貴様でも気づいたか」

「まあな! へへっ、でもそう言ったって、戦いたいことに違いねぇけどよ。オメェはどうだ? ベジータ」

「……奴の思惑に乗ってやるのは癪だが、別に実力を見せたところで大した問題ではない。奴が実力を隠しているなら、戦う時はそれをさらに超えればいいだけのことだ」

「おいベジータ、忘れるなよ! 試合後にフリーザと戦うのは私なんだからな!」

「セル、わかってっから途中で口挟まねぇでくれよ。……っちゅーわけでビルス様ー! オラ達で後の試合は絶対に勝つからよ! フリーザの棄権は認めてくれねぇか!?」

 

 うおおおおい悟空! それじゃまんまとフリーザ様が望む流れになるだろうが!

 クッソ、こっちはまだフリーザ様の真の実力の断片すら把握できていないんだぞ? このまま勝ち進んでくださいよフリーザ様! 悟空とベジータもフリーザ様の思惑が分かってるならその棄権を受け入れるなよ!!

 くッ、せめてフロストがもっと強くて、最低でもフリーザ様のゴールデンを引き出すくらいの奴なら……!

 

 私がそんな風に内心グルグル考えていると、ふいに肩がぽんっと叩かれた。叩いた腕を視線で辿れば、そこにはホワイト&パープルのオサレ上級者カラーの元上司。

 あれ? 何故だかデジャヴ。

 

「残念でしたねぇ、ハーベストさん。あなたも私の実力を見たかったのでしょう? ですが幸いなことに、私の棄権は認めていただけました。あとは心ゆくまで、試合を観戦させていただくとしましょう」

「え、いつの間に!?」

「あなたが考え込んでいる間にですよ。フフッ、破壊神も案外間抜けというか、詰めが甘いですね。モナカという選手を引き合いに出して説得したら、案外すんなりと受け入れてもらえました。そんなにモナカが雑魚だと周囲に知られたくないんですかねぇ」

「ふ、フリーザ様気づいて……」

「あたりまえでしょう。まあ最初に会った時から強いかどうか疑わしかったですが、決定打はあなたがビルスの星で彼を孫悟空から庇った事ですかね。知っていたのでしょう? 彼が弱いと」

「うぐっ」

 

 モナカが一般人だってことフリーザ様にバレてたのか。くっ、あんな些細な事でバレるだなんて……。…………いや、私じゃなくて主にその後のビルス様のリアクションが原因だきっと。そうに違いない。

 それにしてもビルス様、フリーザ様の棄権を認めちゃうほどバレたくないならそもそもモナカを連れて来るのやめれば良かったんじゃないかな!? わざわざ架空の宇宙最強を用意して発破をかけなくたって、悟空とベジータはやる気満々だったよ!! 他に選ぶにしても、わりと厚い選手層でしたよ!?

 ホントなんでわざわざ連れてきたし。

 

 

 でもいくら悔しがろうが、残念なことにフリーザ様の棄権はすでに受理されてしまったようだ。

 ……これで完全にこの試合中にフリーザ様の実力を計る機会が失われたな。やられた。まさかビルス様に真正面から棄権を申し出るとか思わんかったわ。ひそかにこの対抗試合の裏ルールに設定していた情報戦では、ひとまずフリーザ様の勝利と言ったところか。チッ。

 

 でもそれならそれで、悟空たちが事前に言っておいた通り……出来るだけ実力を隠して戦ってくれたらいいんだけど……。

 

「よっし、やっと出番だ! くぅ~っ! オラわくわくしてきたぞ!」

(あ、無理だこれ)

 

 

『では色々ありましたが、気を取り直して! お次は第六宇宙オッタ・マゲッタ選手対、第七宇宙、孫悟空選手の戦いです!』

 

 

 私はとりあえず実力探りだの何だのは置いておくことにして、いつも持っている手に馴染んだ電子機器をすっと取り出す。

 

 

 

 …………もう日記に愚痴でも書いてよっと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++

 

 

 

 

 

 

 

Σ月∵日 続き

 

 

 

 

 

 フリーザ様棄権宣言にちょっとドッキリさせられたが、受理されたからにはその後はフリーザ様を除いた選手で試合は続く。

 でもって悟空対メタルマンのマゲッタという選手の戦いになったのだが、意外や意外。

 

 

 マゲッタ超強ぇ。

 

 

 悟空でも持ち上げられない重さと攻撃が効かないレベルの硬さって何だよ。悟空あいついつも私の作った念力の疑似的な重力室で修業してんだぞ。

 おいおい、第六宇宙の選手、防御力特化多すぎだろ。かといって攻撃が苦手なわけでもないというね。蒸気(頭から出ているけど、時々オナラも出しているらしい。一回それに引火して凄い大爆発が起きた)やマグマの唾による攻撃などに加えて、接近戦もこなせるとあって手数が豊富。

 ……え? こいつら宇宙に乗り出してたら、初期フリーザ様とか初期サイヤ人とかなら目じゃ無くないか。観客席で話していた両宇宙の界王神様達の会話を聞く限り第七宇宙にもマゲッタと同じ種族は居るらしいけど、第七宇宙のメタルマンって今どうしてるんだろう……。なんか悪口が弱点だった気がするけど、メンタル面鍛えれば大体の宇宙人やっつけられそうなんだけど。

 

 

 ちなみにさっきシャンパ様がルールを追加したせいで、武舞台はヴァドス様が作った四角いバリアで覆われている。新ルールではそれに触れても負けらしい。つまり空中場外負けも追加されたから、舞空術を使ってもさっきより自由には動けないという地味に嫌な仕様となっている。それはこのマゲッタという選手相手だと、悟空に結構刺さってくるルールだ。

 

 シャンパ様は、結構(こす)い。

 

 

 

 

 

 まあ、悟空が勝ったけどな!

 

 

 

 

 

 悪口で勝つっていうのもやっと戦える悟空のモチベーション下がりそうだから黙ってたけど、そんなアドバイスが無くても問題なく悟空は勝ってくれた。

 

 マゲッタはバリアで閉鎖された空間を利用して自身が発する熱と蒸気で悟空の体力を奪ったけど、あいにくまだ戦ってない上にさっきのランチタイムでばっちり補給していた悟空は体力、気力共に万全だ。そう簡単にはやられない。

 そして少々の攻防を挟んだ後、決定打は悟空の瞬間移動だった。マゲッタごと場外近くまで移動して、あとは一気にスーパーサイヤ人3まで変身してかめはめ波を放ち、あとわずかの距離だった場外までマゲッタを押し出したのである。

 でもって、勢い余ってバリアをかめはめ波と押し出されたマゲッタの体で壊していた。余波で武舞台が三分の一くらい吹っ飛んだけど……それでも無事なマゲッタの頑丈さよ。ゴッドやブルーに比べるとパワーで劣る3だけど、そもそも最近の悟空は前より遥かに地力が上がってるから、今のスーパーサイヤ人の強さも結構ヤバいはずなんだけど。

 

 ……にしても、悟空。試合の後に「いや~、オメェ強ぇな! オラの攻撃にビクともしないのにはおどれぇたぞ! でも頭からオナラ出すのは、ちょっと汚ねぇな。あははっ」とか言うのはやめてやれよ。ちょっとした冗談のつもりだったんだろうけど、マゲッタ落ち込んじゃっただろ。さっきまで超強かったのに、泣いてるぞ。

 なんというか、落ち込む姿が妙に可愛いもんだから可哀そうになってくる。しかも悟空の奴「種族それぞれで体の構造は違うんですから、それを笑うなんて失礼ですよ!」ってキャベくんに怒られてるし。……ふっふっふ。でも悪いかなーと思いつつ、それを見るのはちょっと楽しい。年下からの本気説教はこたえるだろう? 悟空。その気持ちよくわかるぞ。

 

 それにしてもゴッドやブルーにまでならなくていいと判断したんだろうけど、3で留めるとは悟空ナイス。

 フリーザ様も初めて見る3の姿に「ほう、あれが彼らの新しい変身ですか」とか言ってたしな。このままうまく騙されてくれたらいいんだけど。

 

 

 とまあ、それはいったん置いておいて。

 次はいよいよ第六宇宙のサイヤ人ことキャベくんの登場か。これは日記を実況風に書くにあたって私のタイピング力が試されるな。さっきのマゲッタとの試合は端折っちゃったから、今度はもっとちゃんと書いておこう。

 

 …………にしても、なんかベジータが妙にそわそわしてるな。まあ、あいつとしてはこっちのサイヤ人の王として、母星が残っている第六宇宙のサイヤ人が気になるのだろう。さっきランチタイム中での会話でキャベくんがスーパーサイヤ人の存在すら知らなかった事を聞いたからこそ、余計に。多分、出来れば自分が戦いたかったんじゃないかなあいつ。

 

 しかしキャベくんがスーパーサイヤ人になれないのを知るのは、悟空も同じだ。さて、悟空はどう出るか。もし試合をより楽しむためにキャベくんをスーパーサイヤ人に導くなら、どうやって最初のきっかけである「怒り」を引き出す?

 

 

 

 …………今、唐突にまだまだ先の予定の、ウーブと悟空が戦った天下一武道会の話を思い出したのは何故だろうか。

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 破壊神選抜対抗試合。しかしその内容は、実質的には負けが一つもない第七宇宙がリードしていた。そんな中回ってきた出番に、キャベはごくりとつばを飲み込む。

 強い相手と戦える高揚感以上に、選手としての責任感がプレッシャーとしてのしかかってきているのだ。キャベは元々責任感が強い方なので、なおさらである。

 先ほどはマゲッタを落ち込ませた対戦相手、孫悟空に勢いで文句を言ってしまったが……。

 

 相手は自分と同じサイヤ人だ。しかしその在り方は決定的に違う。……自分たちは、スーパーサイヤ人などという姿に変身出来ない。それどころか、その存在すら知らなかったのだから。

 

 マゲッタを吹き飛ばした孫悟空の姿は、彼の姉が変身して見せたスーパーサイヤ人よりもさらに上の変身だと思われた。そんな相手に、自分はどこまで対抗できるのだろうか。

 

(でも、やるしかない!)

 

 キャベは迷う心を振り払うように、孫悟空を見つめた。すると先ほどはキャベに責められてたじたじだった悟空が、好戦的な表情で笑う。それを見てキャベもまた、自身を奮い立たせるように笑った。

 

 

 

 そして互いに構え、試合が始まった。

 

 

 

 試合では最初、孫悟空はスーパーサイヤ人に変身しなかった。しかし攻防がいくつか交わされた後、キャベは改めてこのままでは勝つことが出来ないと悟る。幸い現状で負けてはいないが、それは相手が切り札を出していないからに他ならない。

 

 そのことに思い当たったキャベの口からは、自然と「スーパーサイヤ人になる方法を教えてほしい」と、教えを乞う言葉が出ていた。

 おそらくこの機会を逃せば、キャベは一生スーパーサイヤ人について知らぬまま過ごすことになる。

 試合中の相手に教えを乞うなど、失礼だろう。だけどキャベはどうしても、スーパーサイヤ人について知りたかった。そしてその理由は、試合などより大切なもののため。

 

 

 

 キャベはこの試合で勝つことよりも、今よりさらに強くなって故郷に帰り、平和に貢献することを選んだのだ。

 

 

 

 しかしそんなキャベにもたらされた言葉は"ふたつ"。

 

 

「お、おめぇのかーちゃんでーべそっ!」

 

「貴様、それでもサイヤ人かぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

「………………えっと。………え?」

 

 

 突然の対戦相手からの悪口と場外からの怒声に、キャベはただただ困惑するのであった。

 

 

 

 

 

 

 


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