とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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復活のF:その十一 からの第六宇宙対抗試合9 ヒットVS孫悟空

 武舞台を、二人の男が踏みしめる。片やコートのポケットに手を突っ込みつつも隙のない佇まいで。片や好戦的な笑みを浮かべつつ力強く。

 

 

 第六宇宙ヒットVS第七宇宙孫悟空の試合が、もうすぐ始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 いよいよ第六宇宙最後の戦士が出てきたわけだが、だからといってこいつを倒せば勝ちだぜひゃっはー! と浮かれてばかりはいられない。何故なら赤い瞳に紫の肌を持つあの男こそ、第六宇宙サイド最大の強者かつ、この試合きっての曲者だからだ。

 

 たしかあいつだよな、時間操る奴。ここで私が悟空にサクッとアドバイスするのは流石に不自然すぎるからやらないけど、どうかなー悟空。あいつ戦い関係のセンスはずば抜けてるし戦闘における頭の回転も速いけど、真正面から戦うのが好きだから搦め手はどっちかと言えば苦手な方だからなぁ……。いや、ちょいちょい私が超能力やら使うから逆に慣れてるか? う~ん、でもどうだろう……。時間操るとか苦手だ得意だ以前の問題な気がする。

 そういや時間を操ると言えばグルドを思い出すけど、グルドと違って明らかに能力以外も強いよなあの紫。

 う、うわぁ……引くわ。強すぎて引くわ。

 

 そんな風に私がヒットの能力に関して考えている時だった。

 

「ホッホッホ。やっと少しはマシな選手が出てきたみたいですねぇ。この試合は楽しめそうです」

「ああ、まったくだ。ここまでの座興もそこそこ楽しめたが、それにしたって暇だったぞ」

「あなた何故私の横に居るんですか。離れなさい」

「いいじゃあないか。この後戦う相手だぞ? ちょっとは親交を深めてもよかろう」

「おい待てちょっとそこのセミ野郎」

 

 なんかいつの間にか暇を持て余したセルがフリーザ様にちょっかいだしてた。(´ω`♪) オイヤメロ。基本お前含めたこっちサイドのもろもろの責任は全部私に来るんだからヤメロこの虫野郎。

 そして予想にたがわず、眉間に皺を寄せたフリーザ様の鋭い眼光は私に突き刺さってきた。

 

「ハーベストさん、管理がなっていませんねぇ! この不愉快な虫野郎を観客席に返品してきなさい!!」

「はい!」

 

 ほらぁぁぁぁぁぁ!! やっぱりな! つーか虫野郎って表現かぶっちゃったよ! いや見たまんまだからかぶるもなにも無いけど!

 つーか中間管理職のスターたるベジータが居るのに何で私に全部言うんだよフリーザ様! 正座の状態で浮遊してセルひっつかんで観客席まで行ったから、なんか見た目ほぼダルシムだよ私!! あぐらじゃなくて正座だけども!! 一応こっちの世界にもストリートファイターあるんだからな! トランクスと悟天ちゃんに「わぁ! おばさんおばさん! ヨガファイアやってよ!」とか言われちゃっただろ!! ノリがいいのは良い事だけど、おばさんで遊ぶんじゃありません。餃子師範も「あ、そういえばパイロキネシスってボク達試したことなかったよね。これを機にやってみる?」とか言わないでくださ……やべぇ冗談半分ヤケ半分でやったら口から火が吹けた。マジか。え、何これ気弾の応用的な?

 

「おばさんスゲー! 本当に火ぃ吹いた!」

「すごいすごい! やっぱり空梨おばさんって面白いや!」

「お前、また妙な宴会芸を身に着けたな……」

「わぁ、見て見て空梨! ボクも出来たよ! ボク達ってこれまでずっと超能力の訓練してきたし、案外出来ることが多いのかもね! 帰ったら弟子たちと色々検証しなくっちゃ!」

 

 トランクスと悟天ちゃんには大うけ、天津飯には何故か呆れたように見られ、そして超能力者の大御所餃子師範の探求心は流石です……何やってんだろ私。

 

 とりあえずもうすぐ試合が始まりそうなので、私はそのまますごすごと選手席に去っていった。視界の隅で枝にマシュマロを刺したブウ子とエシャロットが残念そうにしてるのなんて見えてないんだからな。

 焼かねぇから!!

 

 

 

『それでは、続きましては第六宇宙ヒット選手VS第七宇宙孫悟空選手の試合となります! 第六宇宙追い詰められておりますが、しかし次の選手は生きる伝説とも言われた殺し屋ヒット! 第七宇宙も、そう簡単に勝利をおさめる事は出来ないでしょう。果たしてこの試合の行方はどうなるのでしょうか! ますます注目の一戦です! …………それでは、試合開始!』

 

 レフェリーの合図と共に、悟空の闘気が高まった。しかし対するヒットは、まるで波の立たない湖面のように静かな構え。その様は両者対照的ではあるが、双方ともに隙が無い点では共通している。

 その達人の風格漂う二人による緊張感に、会場の空気までもが張り詰めた。

 

 しかしそんな空気の中、隙を作らないながらもほがらかな口調で言葉を発したのは悟空だ。

 

「オメェ、強ぇな。戦う前からそれがビリビリ伝わってくる」

「そうか。……ところで、変身しなくていいのか?」

「ああ、スーパーサイヤ人か? あれは体力の消耗が激しいから、もっと後でな。なんだかんだで、オラ結構な連戦だしよ。……それにな~んかオメェからは、ただ強いってだけじゃない雰囲気を感じるんだ。まずは様子見で、出来るだけ時間を稼ぎてぇ」

「ほう……。その慎重さは、褒めておこう。だが自分で手の内をあかすとは、若いな」

「そっか? 手の内ってほどでもねぇさ。その気になりゃ一瞬で変身できる」

「その一瞬が命取りになるかもしれんぞ」

「へへっ、おめぇほどの相手だったら、そうかもな。でもオラにだって、今言った以外にも色々考えがあんのさ。あ、それとよぉ。若いっちゅうけど、オラこれでもけっこう歳いってんだぜ? 姉ちゃんなら若いって言われて喜ぶかもしんねぇけどな! ははっ!」

 

 あ゛?

 

「……今一瞬、物凄い殺気と闘気が場外から叩き付けられたようだが?」

「おっと、いっけね。最近歳の事言うと姉ちゃんもチチもブルマも怒るんだよなー。18号は気にしてないっぽいのに」

「やはり若いな。女とは、そういうものだ」

「そうなんか?」

「ああ」

 

 頷くヒットに加えて、何故か第六宇宙サイドではボタモくんやマゲッタが頷いている。……ボタモくんは何となく哺乳類っぽいから種族に女の子が居るのは分かるんだけど、マゲッタのメタルマン族にも女の子居るのか。そしてあれか、へそ曲げられた事あるのか。

 

「う~ん、宇宙が別でもそういうところは変わらねぇんだな。そういやヒット、おめぇは嫁さんいんのか?」

 

 おい、思い付きのままにそのまま世間話に移行すんなよ! 自由か!

 

「…………。いや、居ない」

「そっか。年上っぽいし妙に女の事分かってそうだから居ると思ったんだけど。でもなんかオメェ、もてそうだな! オメェみたいなのをクールでかっこいいとか言うんだろ? 前に姪っ子がヒットみたいな雰囲気の奴をテレビで見てキャーキャー言ってたんだ。あ、そういやオメェさ。オラの事若いって言うけど何歳なんだ?」

「おしゃべりな奴だ。……俺は一千歳を超えている」

「!? どっひゃ~! 一千歳!? オラよりずっと年上じゃねぇか! え~っと、じゃあちょっと改めて、言い直すな。……ゴホン。よろしくお願いします!」

「…………」

 

 自分のペースで話を進めた上に突然改まって礼儀正しく頭を下げて挨拶した悟空に、表情は変わらないけど、どこかヒットの纏う空気が呆れを含んだものになっている気がした。

 

 

 

 ちなみにその悟空の一連の発言によって、こっちの選手席の空気はある意味最悪である。主に私やモナカにとって。

 

 

 

 ……いや、モナカはいつの間にか目を開けたまま気絶してたっぽいからノーカンか。

 

「チッ、さっさと始めやがれ」

「チッ、イライラしますねぇ。孫悟空さんのあの態度。余裕のつもりですか?」

「チッ、喋ってないで早く倒したらどうなんだ。この試合勝てばこっちの勝ちなんだぞ」

 

 ちょっと空気が変わったヒットに対して味方サイドたる第七宇宙選手席の空気がどんどん張り詰めていくのはどういう事だってばよ。ベジータ、フリーザ様、ビルス様の舌打ち三重奏聞いちゃっただろうが。

 ウイス様はホホホと優雅に笑ってないでこれどうにかしてくれませんかね。試合の前にこっちの胃がやられそうなんですが。

 

 かと思えば、なんかいつの間にかまた選手席近くに来ていたセルとブウ子はしったかぶったような顔で頷いている。

 

「ククッ、相変わらずだな孫悟空は」

「不真面目とか相手を舐めてるってわけじゃないんだけど、な~んか変に気が抜けるのよね、悟空ちゃんって。前はそれにすっごく腹が立ってめちゃめちゃイライラしたもんだけど、見てる分には楽しいわ~ぁ」

「私やお前と戦った時でさえ、奴は根底では戦いを楽しんでいたからな。破壊神同士のいざこざがあるとはいえ、特にしがらみもなく未知の強敵と戦える事が嬉しくて仕方が無いんだろう。前より子供っぽく見えるくらいだ」

「あらやだ、そう聞くとなんだか可愛いわ! 悟空ちゃんったらはしゃいじゃってるのね!」

「ふははははは! 可愛いときたか! これは傑作だ! よかったな孫悟空、褒められて!」

「いやんっ! ブウ子褒め言葉を褒められちゃった☆ ホホホホホ!」

「フハハハハハハ!」

「ホホホホホホホ!」

 

 

 

「……あのよぉ。流石にちょっと気が散るから、静かにしてくんねぇかな?」

「「じゃあさっさと試合を始め(ろ)(たら?)」」

 

 

 

 変なところで結託して「ヘーイヘーイ」とばかりに外野で姦しく囃し立てるセルとブウ子には、流石の悟空もなんか嫌そうにしている。……まあ、あれだ。ビルス様も苛々してる事だし、早く試合始めとけよ。

 

「そろそろ、いいか?」

 

 ほら見ろ、こっちがグダグダしてるばっかりにヒットさんがなんか気を遣ってきただろ! 無表情だけど、確実に気を遣わせたことは分かったよ!!

 

「ああ、待たせてすまねぇな。じゃ、はじめっか!」

 

 

 

 こうして、ようやく試合は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ……」

 

 グダった空気の後に始まった試合であったが、その内容にはグダグダさなど微塵も混じりはしなかった。お互いに一瞬で集中するや否や、まず悟空から仕掛ける。しかしその拳がヒットを捉える事は無く、気づけば攻撃を受けてよろめいたのは悟空の方。

 

 ……そう、"気づけば"悟空はダメージを受けていたのだ。

 

 視認できる空間の中で時間を操る能力が発動すると、こうも違和感を生むものか。攻撃の過程がまったく見えないという違和感は、多分初見では時を操ったとは気づかれまい。超スピードかテレポートか何かかと、まずは疑うはずだ。

 さっきまでピリピリしていたベジータとフリーザ様も、今はその違和感の正体に気づこうと苛立った雰囲気を鎮めて試合を静観している。

 しかし自分の攻撃が当たらない上に一方的に攻撃を受けているというのに、悟空はといえば何故かニヤリと笑って何処かに余裕を感じさせる表情。……試合前にあいつは何でかヒットの強さ以外の要素に気づいていたふしがあったっぽいし、何か考えがあるのかもしれない。

 

 かと思えば、試合を見る者の中で最初にヒットの能力について気づいたのはギニュー隊長だった。ジャコが連れてきた緑色のタコみたいな銀河王って宇宙人が「あれはもしや時とば」と言いかけた時に、そのセリフにかぶるようにこう言ったのだ。「この違和感、グルドが超能力を使った時の雰囲気に似ているな。もしや時間を操る能力か?」と。

 ああ、やっぱり仲間内に似た能力者が居たとなれば気づくもんなのか。でも残念ながら観客席と選手席と違って武舞台はちょっと離れている上に、戦いの最中だから悟空には聞こえてないっぽい。

 

 ……で、そのギニュー隊長の台詞の後に銀河王が「私が今言おうと思ってたのに……」と、ちょっといじけながらヒットの「時とばし」について詳しく教えてくれた。

 

 時とばし。それは0.1秒だけ、その名前の通り時間をとばせる能力だとか。

 

 私も時間を操れるって事以外は知らなかったから、その内容は初めて知った。あれか。The Worldとかスタープラチナとかキングクリムゾン的な能力って事か。なにそれつおい。0.1秒って、おま。そりゃ殺すだけなら十分な時間だよ。

 …………。でもそれを考えると、グルドって肺活量と持久力を鍛えてもっと修業すれば宇宙最強になれた可能性もあったんだよな。この世界って単純な強さだけじゃ測れない能力とかがあるから怖いわ。

 

 

 

 そして試合は続くが、今のところ悟空は防戦一方だ。

 が、徐々にその視線に含まれた色が変わってきていることに気づく者が、私含めてちらほら。

 

「カカロットの奴、何かタイミングを見計らってやがるな」

「な。でもヒットも、それに気づいてるっぽいけど」

 

 ベジータの言葉に頷いていると、そこでやっと悟空にアクションがあった。……いや、でもアクションっつーかあれは……。

 

「目を瞑った!?」

 

 第六宇宙の選手席で、キャベくんが驚愕の声をあげて席から思わずといった感じで立ち上がる。

 そう。彼が言う通り、悟空は目を瞑っていたのだ。

 

 だが、驚くのはここからだった。なんと悟空は、目をつむったままでヒットの攻撃を防いで見せたのだ!

 

「へへっ、や~っと捕まえたぜ!」

「何?」

 

 次いでヒットが再度の攻撃を仕掛けるが、これも防がれる。二度もあれば偶然じゃないと感じたのか、ヒットはそこでいったん距離をおいた。悟空はそれを追撃しようとしたけど、少々攻撃を受け過ぎたのか、体をよろめかせる。するとヒットが、そんな悟空に静かな声色でもって問いかけた。

 

「……今、捕まえたと言ったな。何をだ?」

「何をって? そりゃもちろん、オメェの攻撃をさ!」

 

 得意げに笑った悟空は、言うなりやっとスーパーサイヤ人に変身した。といってもゴッドやブルーではなく、ましてや2や3でもない。……通常のスーパーサイヤ人だ。

 

「オメェの気と攻撃なんだけどさ、試合前に感じた気配といい、なんとなく雰囲気に覚えがあったんだ。それが何かと思ったら、まず思い出したのは餃子とオラの姉ちゃんだった!」

「は?」

 

 思わず声が出た。

 師範と私? まさかここで名前が出されるとは。

 

「ヒットオメェ、ようは超能力者みてぇなもんだろ? 姉ちゃんたちも超能力で色々やってくるんだけどさ、最近ちょっと気づいたんだ。超能力って、使う前に空間の気がほんのちょっと歪む」

「空間の気、だと?」

「ああ! だからオメェ自身に隙が無くても、オメェが影響を出した空間の気から攻撃がくる場所を予想した。なんか、あれだろ? オメェの能力って時間関係だろ。その気の歪みも覚えがあるな~と思ってよく考えてみたら、それをもっと濃くすると、オラ達の星にある"精神と時の部屋"って場所の空気になるんだ。……多分」

 

 おいおい、なんか何も知らないはずの悟空が色々ドンピシャ当ててくるんだけど。つーか空間の気ってなんぞ。超能力者の空間への影響力をもっと濃くすると精神と時の部屋の空気? そんなん初めて知ったわ! 餃子師範も驚いていて、思わず顔を見合わせてしまった。

 悟空は感覚的な部分で話してるから所々分かりにくいけど、実は物凄い新発見の可能性が……いや、今はいいか。面倒くさいし……。

 

「オメェの能力が時間だっていうんなら、攻撃が見えなくなる間の時間さえどんくらいかわかれば、空間の歪みに加えて直前の動作からある程度攻撃の予想は出来るってわけだ。受けてみた感じ、オメェがどうこう出来る時間は0.1秒ってとこか。あと、その長い服やポケットに手ぇ入れたりしてんのは、動作を出来るだけ悟られないため。……どうだ?」

「ククッ」

 

 そこで、ヒットが初めて笑った。

 

「事前知識なしに、俺の時とばしを見抜いた奴は久しぶりだ。いや、もしかしたら初めてかもな?」

「ほへー! 時とばしっちゅうんか。なんかカッコイイな! ……でよ、スーパーサイヤ人に変身しちまうと自分の気でそれも分かりにくくなるから、変身無しで攻撃受けてたんだ。空間の気の歪みって、言うのは簡単だけどさ。すっごい分かり辛いんだぜ? ま、慣れてきたからこれからちょっとずつ変身させてもらうけどな!」

 

 そこまで饒舌に喋ると、悟空はちらっとこちら……選手席を見てきた。

 

「へっへ~ん! どうだ、オラだってちゃんと考えてるんだからなー!」

 

 …………。妙に解説するなーと思ったら、得意げに言われてしまったな。ブウ子じゃないけど、久しぶりに弟が可愛く見えた。

 

 

 

 

 

 

「さあ、ヒット! ここからが本当の勝負だ!」

 

 

 

 

 一つの試合内の、第二幕が始まろうとしていていた。

 

 

 

 

 

 


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