とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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復活のF:その十二 からの第六宇宙対抗試合10 お前がナンバーワンだ!ヒットVSベジータ

 ヒットの時とばしを見破った悟空が、ついにスーパーサイヤ人に変身して戦い始めたのだが……その決着がつくのは案外早かった。

 

 

 

 悟空負けたー。

 

 

 

 いや、ヒットの時とばしを見破る所までは良かったんだよ。でもありていに言えば、見破るまでに長く攻撃を受け過ぎたんだよな。

 

 ヒットはこの対抗試合のルールに則って、専門分野たる殺しの技は一切使っていない。しかしかといって、無暗に手加減しているわけでもなかったのだ。

 初撃を与えた後、悟空のしぶとさを見て取ってかヒットは「確実にダメージを体内に蓄積させる」ように攻撃を仕掛けていたっぽい。殺し屋なら人体についての知識も深いだろうし、どこをどう攻撃すればどういった結果が出るかってのも知り尽くしていてもおかしくない。

 だとすれば、これも経験を活かしたひとつの技術と言えるだろう。

 ひとつひとつの攻撃は大したことなくても、累積されたダメージが勝敗を決したって事だ。

 

 

 最初こそヒットの時とばしに適応、対応し次々と反撃を決めていった悟空だったが、戦いの最中でふいに悟空の膝から力が抜け、ガクンッと体勢を崩した。「あり?」な~んて言って悟空本人は不思議そうにしていたけど、これは悟空が鈍感だったんじゃなくて、あれだけ戦い慣れた悟空に気づかせずにダメージを溜めさせたヒットが凄いんだと思う。伊達に数百年だか千年だか殺し屋稼業やってないってか。

 あれなら殺しの技の中に、蓄積させたダメージによって時間差で殺す技とかありそう。毒も使わないで遅効性の殺しが出来るとか怖すぎるけどな。まあ、それは想像なので今はいい。

 

 それとまあ、あとは単純に悟空のスタミナが保たなかったのも敗因か。ヒットは時とばしという"特殊技"によって体力を使わず瞬時の攻撃ができるけど、対する悟空はその動きを予想出来てもどうしたって高速移動によって応じないといけないから根本的に運動量が違いすぎる。ありゃ疲れるわ。

 ……あれだけ鍛えてる悟空の体力がすぐに削れる攻防ってのが恐ろしいけど。

 

「へへっ、参った。オラの負けだ」

 

 悟空はぎりぎりまで頑張ったけど、最終的には自ら負けを認めた。それに対してビルス様が文句を言わないか心配だったけど、それは杞憂だったみたい。体力を削られダメージを受けながらも食らいついた悟空とヒットの攻防は泥臭いながらも素晴らしいもので、それに対してビルス様も何か思うところがあったんだろう。舌打ちを一つした他は何も言わなかった。

 ウイス様もなんとな~く、いつも浮かべている微笑とは違った……嬉しそうなほほ笑みを浮かべていたのは、気のせいではないと思う。あれかな。弟子の成長が嬉しい的な感情、あの方にもあるんだろうか。

 

 

「……久しぶりに、戦いに楽しさを見いだせた。礼を言おう」

 

 試合相手であるヒットも、本人の言葉通りどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

「はははっ、礼を言うのはこっちのほうだ。負けちまったのは悔しいけど、オラもオメェみたいな強い奴と戦えて凄く楽しかった! なあ、また今度やろうぜ! オラもっともっと強くなっからよ!」

「くっ、ハハハハハ! 懲りない男だな。それにつられて戦いを楽しんでしまった俺が言える事でもないが。……ああ。機会があれば、考えておこう」

「よっしゃ! 絶対だぞ!」

「あの無口なヒットが、あんな大声で笑ってる……」

「なんというか、あれが孫悟空という男じゃよ。不思議な奴でなぁ。なんせ、ビルス様と戦える事も喜んだくらいじゃわい」

「破壊神と!? な、なんて奴だ……」

 

 悟空とヒットのやり取りを見て呆然とつぶやいた第六宇宙側のぽっちゃり系界王神に、老界王神様が愉快そうに言っていた。

 

 ともあれ、こうして悟空が負けたとなれば……。

 

「さっさと舞台から下りろ、カカロット。俺の番だ」

「ああ。頼むぜベジータ。頑張れよ!」

「フンッ、言われるまでも無い」

 

 ようやく出番が来たからか、機嫌がよさそうなベジータが珍しく悟空が掲げた手にハイタッチをしていった。といっても、ハイタッチと言うにはすっげぇ音したけど。悟空が真っ赤になった手に「痛ちィ~ッ!!」と言いながらふーふー息を吹きかけていた。

 

 にしても、ベジータどうすんのかな……。悟空は体力的な問題でゴッドもブルーも出さないまま終わったからフリーザ様にはそのどちらともばれてないけど……。

 

「おい、貴様。カカロットが能力を先に見破ったのは癪だが、タネが割れているからと言って俺は油断も慢心も手加減もしないぞ。動きも大体見せてもらったが、まさか卑怯とは言うまいな?」

「まさか」

「ならばその時とばしとやらを存分に使って、全力でかかってこい! 全力だ! ……俺にはわかる。貴様、まだ本当の全力を見せていないだろう」

 

 ベジータの言葉に一瞬ヒットが言葉に詰まるが、ひと呼吸おいてから答える。

 

「ああ。今まで時とばしを使えば、たいていどうにかなってきたからな。ここ数百年、フルパワーなど出したことが無かった」

「ええ~! そりゃオラもそうじゃないかな~とは思ってたけど、ヒットオメェ本気じゃなかったんか!」

「それを言うならお前もだろう、孫悟空」

「え、あ~……まあ、そうなんだけどよ。でもオラの場合、オメェの能力に慣れるためと体力の問題でなれなかっただけさ。あとちょっと時間か体力があれば、今のオラの本気の本気を見せられたんだけどな」

「俺も似たようなものだ。本気中の本気を出せば、久しぶり過ぎて体力が持たん。時とばしを使うのも危うくなるだろう」

「おいコラヒット! お前までな~に余計な事喋ってるんだ! それ、わざわざ説明してやる必要ないだろ!?」

 

 ヒットの本気を引き出せなかった悟空が残念そうに会話に割って入れば、ヒットが先ほどの悟空に「手の内を明かすとは~」とか言ってた割に自分まで手の内を明かしてくる。それに対して文句を言うのはシャンパ様だが、ヒットは特に気にした風もなくこう言った。

 

「ククッ。少々、毒されたようだ」

 

 チラッと悟空を見て笑うヒット。対するベジータもまた、ニヤリと笑う。

 

「なら、最初から互いに全力中の全力中でいこうじゃないか。貴様の本気が長く保たないというのなら、俺も最初から全力を出して迎え撃ってやる。さあ、来い!! サイヤ人の王たるこの俺、スーパーキングベジータ様が相手だ!!」

 

 そう言って、ベジータがスーパーサイヤ人ブルーになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。

 

 ブルーになっちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああぁぁぁぁ!! 予想はしてたけどお前ぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 思わず地面に頭突きしたわ! ウイス様が「無暗に選手席を破壊しては駄目ですよ。あと、少々お静かに」とか言ってきたけど、無理! なんかこのうわあああって気持ちを何処かにぶつけないと、なんか無理!!

 

 そりゃあ、あの強いヒットがもっと本気を出したらヤバい事は分かるよ! 様子見はもう悟空との戦いで十分って事で、最初から全力を出してぶつかり合うのも分かるよ! それくらいお前がヒットを評価したのも理解するよ!! でも思わずにはいられない! そんなあっさりフリーザ様にネタバレしないでって、思わずにはいられない!!!! フリーザ様はゴールドの片鱗も見せないままノルマ達成して高みの見物してんだぞチックショウ!!

 

「ほう。これが、今のあなた達の最終形態というわけですか。先ほど孫悟空さんが見せた長髪の姿とは、またずいぶんと違った(おもむき)ですね」

「ああ! スーパーサイヤ人ブルーって言うんだぜ。最初はスーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人って言ってたんだけどよ。長くて舌噛んじまいそうだから、色の名前になったんだ」

「スーパーサイヤ人ゴッドスーパーサイヤ人? …………なるほど。聞く限り、どうやらこの一つ前の形態もありそうですね。予想するに、スーパーサイヤ人ゴッドってところですか? そうですね。色は青の反対で、赤とか」

「え!? あ、あ~……。それは……」

 

 意気揚々と説明していた悟空が、もうだいぶ取り返し付かないところで私をチラッと見てきた。

 いや遅ぇよ!! 出来るだけフリーザ様には隠しておこうって私が言ったのを覚えてたのは素直に褒めるけど、色々遅いよ!! フリーザ様さらっとゴッドの方まで見抜いたじゃねーか!!

 

「ホーッホッホ、サイヤ人の神ですか。大仰なネーミングですが、どうやらあのブルーというのを見る限りはったりではなさそうですね。私も探知可能になった、あなた達の言う"気"があの姿からは感じられない。……ビルスと一緒です。どうやら本当に神の領域に足を踏み入れたようですね。では、お手並み拝見といきましょうか」

「めぇったな……すっかりバレちまった。まあ、どっちにしろヒットに勝つにはブルーじゃなきゃ無理だろうしな。いずれバレてた事だって。な? 姉ちゃん」

「フッ!!」

「あっちぃ!? な、何すんだよ姉ちゃん!」

 

 ほがらかに開き直った悟空に、さっき覚えたばかりのヨガファイヤ……じゃなくてパイロキネシスによって攻撃をしかける。髪の毛の端っこが燃えた悟空が文句を言ってくるが、私は謝らないからな。お前が言ってることはもっともだし理解できるけど、こればっかりは心境の問題なんだよ!! 八つ当たりとでも何とでも言え!

 

「空梨。気持ちは分かるがカカロットに八つ当たりしてやるな」

 

 とか思ってたら即観客席の夫からつっこまれた件。なんとでも言えと思ったばかりだけど地味にダメージ受ける。……で、でも謝らないからな……!

 

 

 

 …………ち、ちょっとは悪いって思ったけど……。

 

 

 

 とかなんとか。外野の私たちがごちゃごちゃしてたわけだけど、いざ武舞台の上で向き合ったヒットとベジータはお互い以外の全てをシャットアウトしたかのように相手に向かって集中した。今は静かだけど、いざ試合が始まればきっと勝負は短い時間で決まるだろう。

 そして、試合開始の銅鑼が鳴った時。

 

 

 凄まじい力のぶつかり合いによって、その衝撃に空間が歪んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁああああああ!!」

「はあああああ!!」

 

 最初の一発で互いの拳がぶつかり、そこから生じた衝撃波が周囲を襲う。私たち選手席の人間はそれぞれ自分でそれを防いだけど、同時に少々焦りを覚えて観客席を見た。この衝撃、女性陣や子供たちなんかがまともに受けたら吹っ飛ばされる!! 他の面々がフォローしてくれるだろうとは思ったけど、流石に今のはちょっと心配だった。

 

 けど意外にも…………物凄く意外にも、なんとザマスが手をかざしてバリアっぽいものを作ってそれを防いでくれていた。それも界王神様達の観客席とみんながいる観客席の、二つ両方をいっぺんに。

 

「あ、ありがとうございました。ザマス殿」

「いえ。……あれを見たら、備えておいた方がいいような気がしたので。それにしても、このように神に肉薄する力を持った人間が居るのか? いや、あれはまさに神の気。やはり人間は危険な存在では……」

「ふふっ。これが彼らの研鑽の結果ですよ。凄いでしょう? 人の成長というものは。それに危険に思うなら、ザマス殿ももっと強くなればいい。また同じような大会が開かれたら、その時に参戦されたらよろしいでしょう。私は戦いが苦手なので、神としての威厳を取り戻す役目はあなたにお譲りします。期待していますね」

「……ふっ、違いない。シン殿には敵わないな。では、今は試合の観戦を楽しむとしましょう。私は戦いの腕を見込まれて界王神見習いとなった身ですので、彼らの試合には純粋に興味があるのです」

「ええ、そうしましょう!」

(あっぶね)

 

 界王神様がフォローしてくれたからいいものの、ザマスが人間を危険視してうっかりフラグ立つところだった。え、何? 不意打ち気味にフリーザ様以外にも私の胃に負担かけてくんのやめてくんない?

 

 けどそんな風によそ見してたら、武舞台からベジータの「ぐあっ」って声が聞こえて慌ててそちらを見た。ああ、見てる方も忙しいなぁ、もう!

 そして見てみれば、ヒットの攻撃を受けたっぽいベジータが武舞台にクレーターを作りながら身を沈めていた。しかしそこに追撃が来る事は無く、見ればヒットは大量の汗をかいて息を荒くしている。そこからは、確かな疲労が感じられた。

 

「はぁ……はぁ……。やはり、フルパワーで、時とばしは、少々クるな……」

「く、クク……。そんなザマでは、自分で言っていたように、何回も出来ないようだな」

 

 ベジータが身を起こして言うが、今くらった一発で結構ダメージを受けたようだ。何回も時とばしを使えないにしても、これを見る分にはどちらが勝ってもおかしくない状況に見える。

 

 

 ………………ん?

 

 どちらが勝っても、おかしくない状況?

 

 

 ………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

「キングベジータ頑張れぇぇぇぇぇーーーーーー!!!! 頑張れ、超頑張れ!」

「あれ、姉ちゃんがベジータの応援するなんて珍しいな」

「やっかましいわお前も応援しろ!」

「お、おう。ベジーター! 頑張れー! …………なあ。姉ちゃん。そんなにヒットと戦いたくねぇんか? ……楽しいぞ?」

「お前らと一緒にすんなし」

 

 

 頼むぞベジータ! もうここまで来たら実力隠せとかケチな事言わないから頑張れ!! 頼むから私まで順番を回してくれるなよ!!

 

 

 

 

 

「お前がナンバーワンだ!!」

 

 

 

 

 

 

 その数分後。

 

 私は何故か、武舞台の上に立っていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初の予定ではベジータに勝ってもらう予定でした(本当の話

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