とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

107 / 135
新年あけましておめでとうございます。
今年が皆様にとって良い年でありますように。



復活のF:その十四 からの第六宇宙対抗試合12 猛き雄叫びをあげよ!全力対全力

 第六宇宙最後の戦士、ヒットに勝つために私は今まで封印……ってほどでもないけど、見た目がまず嫌いだし使う場面とかも特に無かった"大猿化"を使用した。

 

 ふと第六宇宙のサイヤ人であるキャベくんの反応が気になってチラッと見てみたら、顎外れるんじゃないかってくらい大口開けて化け物でも見るような顔で見られてた。…………。気持ちは分かるが失礼な。これでもゴッド化の影響なのか、普通に大猿になるより体のフォルムはスッキリしてんだぞ。……多分。

 それにしてもあの反応を見る限り、やっぱり第六宇宙のサイヤ人は大猿になれないっぽいな。大猿はもともとサイヤ人の原初の姿、つまり本来は進化する前の姿だったって説が惑星ベジータ時代に勉強した中では有力だったけど……。察するに、こっちの宇宙より種族として進化してると思われる第六宇宙のサイヤ人は、尻尾と同時に大猿化の能力も失ったんだろうな。その分大猿化が必要ないくらいに強いというか、もともとの地力や、潜在能力が高いんだと思う。なんたって今まであれだけ修業してきたベジータ……素ベジータとならキャベくん互角だったからな。キャベくんも頑張って修業したんだろうけど、正直彼と同い年の時のベジータ相手だったらキャベくんベジータにワンパン勝利余裕じゃね? って思う。うわ第六宇宙サイヤ人こっわ。彼らの仕事が正義の味方的なものでよかった。

 

 にしてもそうなると、大猿姿のサイヤ人を見るのはキャベくん初めてか。……まあ、それなら驚いてもしょうがない。今回は許そう。

 ちなみにこっちの宇宙の子供たちには(私の子供四人は空の人工満月を見ないようにしつつ観戦中)大うけ、大人たちの反応はそれぞれだったけど、大猿の恐怖を味わった事のある面々はドン引いてた。スマン。

 

 

 

 

 

 

 大猿化。尻尾のあるサイヤ人が、満月を直視、又は満月が発するブルーツ派を一定以上浴びる事で変身できる姿である。その力は単純に考えて、通常時の十倍。ゴッドにそれを適応させたとなれば、正直今の私は戦闘力だけなら超強いと思う。

 

 パワーアップの方法として、初めはかつてブウのあれこれの時、バビディとセルの魔術でM奴隷と化していたベジータと戦った時に苦肉の策で試みようとしたスーパーサイヤ人界王拳のことを考えた。けどあれは戦いの後、珍しく……ほんっとうに珍しく、ちょっと心配した様子を滲ませたベジータに「アレは、やめておけ。死ぬぞ」と言われたので封印した代物だ。こっちは大猿化と違って本当に封印。正直自分でもアレは使用したが最後……ほぼ確実に死ぬと思うんだよね。ベジータの時は無理を承知で使おうとしてしまったが。

 

 今回の戦いは切羽詰まってると言えばそうだけど、そんな死ぬかもしれないリスクを冒してまでスーパーサイヤ人界王拳を使おうとは思わない。

 スーパーサイヤ人界王拳、話半分に悟空に話したら目をキラキラさせて何かこっそり練習してたけどな。つーか、たしか原作で悟空がやってたよな。ブルーで。…………無理無理無理。私には無理だわ。

 

 

 そんな時、ビルス様たちの尻尾を見て思い出したのだ。尻尾の残っている私には、十倍界王拳など使わずとも戦闘力を十倍にする方法が残されていると!!

 

 

 武舞台の大きさ的にこの巨体では場外負けを気にして動き回ることは出来ないし、同格、格上相手には多少でも通常時よりスピードダウンすればかなり致命的な弱点になるとは思うが、そもそも私に攻撃する気が無かったりする。あれよ。防御全振り。

 ヒットは勝つためにどうあっても攻撃してこなければならないわけで、私はそれをひたすら耐えて迎え撃つ。時とばし? 時をどうこうされようが、私はずっと防御の姿勢を崩さない。時を止めている間に攻撃されても、防御に徹すればそれに耐えきる自信はある。

 

 殺しの技が使えない今、何らかの小細工も使えまい。

 ただひたすら正面から攻撃してくるがいい! 息が切れ、その拳が砕けるまでなぁ!!

 

 

『さあ、来い!』

「姉ちゃん。それ、ちっとばかしかっこ悪くねぇか?」

「チィッ! やはり貴様はサイヤ王族の恥だな! 子供やキャベも見ている中で、恥ずかしいとは思わんのか!!」

『う、うるさい! いいの!』

 

 来いと言いながら攻撃で迎え撃つ体勢でなく、しゃがみこみ、膝と腕を体の前でガッチリあわせるという防御態勢をとる私。そんな私に悟空とベジータが煩い。

 いいじゃんいいじゃん! ビルス様は額に手を当てて天を仰ぐというポーズしながらも黙認してくれてるぞ! 「あちゃー」ってリアクションだけど、黙って見ててくれてるぞ! 勝てばいいんだよ勝てば! 人の作戦に文句つけんな! 

 

 

 

 私は散りかけた集中力を元に戻そうと、深く深呼吸する。しかしそこではたと違和感に気づく。

 

(あれ、おかしいな。ゴッドになってる時は心はそんなに乱れないのに)

 

 ふと、嫌な予感が脳裏をよぎる。

 

 いやいやいや、ゴッド大猿成功してたって。さっき体毛赤みがかってたもん。初ゴッドの後に出産した叶恵の髪の毛みたいな感じで。

 

 …………。

 

 ど、どうしよう。気になりだしたら急にソワソワしてきた。でもって私は、そこでうかつにもちょっとならいいよねと顔を上げてしまったのだ。

 あ、大丈夫だった。ちゃんと赤っぽい体m「は!!」「ごっふぅ!?」

 

 そしたら速攻で鼻の下にヒットさんの拳が入ってきました。きっちり人中にヒットだよチクショウ!

 

『クッ、で、でもたいして効かんなぁ!! ふはははははは! ま、まあ、ちょっとはビックリしたがな!』

 

 そう言うと、私は再び鉄壁の防御の体勢に入った。ヒットは攻撃を続けてくるけど、そう簡単に私の防御は崩せまい。何回か時とばしの空気も感じたが、時が止まっている間も私の防御は有効なようだ。つーか私も地味に超能力使って妨害してるからな! それがどれくらいの効果を発揮しているか分からないけど、超能力者……それも実力の近い相手となれば、ヒットもさぞやり辛かろう。いやらしいと言われようが、私は自分の長所を活かしているだけだ。シャンパ様が「これは格闘試合だぞー! ちゃんと戦え臆病者ー!」と騒いでるけど無視無視。防御だって立派な格闘だから。

 

 でも痛くないわけじゃないんだよなー。ヒットの奴早く疲れてくれないかなー。

 

 

 

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

 ……………………。

 

 

 

 

 あれ。

 

 

 あれ!?

 

 

 なんか痛ッ、痛いぞ? いたたっ、痛いって! ちょ、あれなんで!?

 

 

 

 

『ぐっはぁ!!』

 

 段々と受けるダメージが増してきたと思ったら、ついにはその構えを強制的に解かされ、合わせた腕にどぎつい威力の攻撃を受けた私はのけ反るようにして立ち上がった。

 な、何だとぉ!? わ、私の防御が破られた!? さっきみたいに隙を見せたわけじゃないのに何故!!

 

「おいハーベスト! 神の気が無くなっているぞ! すぐに変身し直せ!!」

『え!?』

 

 ビルス様の言葉に慌てて体を見下ろせば、赤みがかった毛並みは何処へやら。自分の体を覆うものが黒っぽい茶色の毛に戻っている。更にはその事で動揺した私は、対戦相手の視線の先に気づいてビクッと肩がはねた。

 

「………………」

『え、あの、ヒットさん? 攻撃もしてこないで、何を見ておいでで?』

 

 私の防御姿勢を打ち破ったにも関わらず、ヒットさんが追撃してこない。何かお空を見上げている。そしてその先にあるものに気づいた私は、ダラダラと冷や汗を流した。

 

「これ以上長引かせては、流石に俺もキツい。正面から打ち破って見たかったが、今攻撃した感触……浅い。どうやら赤っぽくなくなった今も、お前の防御力は相当なものらしい。大したものだ」

『あ、あはは。お褒め頂きどうも……と言いながらのキィィック!!』

 

 なにやら褒め言葉っぽモノを言ってくれているヒットに、焦った私は迂闊にも攻撃を仕掛けた。今ヒットがしようとしていることを、許すわけにはいかない! くっそ、凄く単純なデメリットを忘れてた!!

 

 しかし私の蹴りはすぐに時とばしによって対応され、逆にヒットのケリが足元を払い私の巨体を転ばせる。あ、足元がお留守だった……!

 が、私もタダでは転ばずに武舞台に片手をついて、そのままその手を軸にしてグルグルと体を回転させはじめた。そして回転に合わせて体の中心から爆発的に広げるイメージで、念力による竜巻を巻き起こす!!

 咄嗟な技だけど、案外いいんじゃないか? これ。超能力由来のこの技なら、さっき以上に時とばしの妨害になるはず! この念力の嵐の中で、ヒットが時とばしを容易に使えるとは思えない。今思いついたばっかりだけどサイキックハリケーンと名付けよう!! ヒットが時とばしを使う前に、空間そのものを念力による妨害電波的なものでぐっちゃぐちゃにかき回してやる!!

 

「クっ! …………ッ! はああああああ!!」

 

 しかしヒットは念力の嵐にもひるまず、果敢にも私に攻撃を仕掛けてくる。しかし、連戦でもう体力が底をつきかけているのかフラフラだ。これなら勝てるかも……!

 

『だりゃあッ』

「がっ」

 

 サイキックハリケーンの勢いのままに、回転の力を加えてヒットにキックを叩き込む。すると私の攻撃が初めてヒットにまともに決まった。ちょっと感動である。

 

 

 だがヒットは、なんとぶっ飛ばされたその勢いを利用して宙に……私が作った人工満月へ向かって跳んでいった!

 ば、馬鹿なぁぁぁぁ!! ぶっとばされる方向を、計算していたというのか!? サイキックハリケーンで疑似的なバリアも作っていたというのに、吹き飛ばされた勢いに加えてハリケーンに飛び込むことで念力の上昇気流すらも利用しやがった!! もうヒットのルートは人工満月へ向けて一直線! ちょい待って、待ってくださいお願いします!! 今大猿化が解けたら、もう私にパワーボールをもう一回作ったりスーパーサイヤ人に変身したり界王拳使う余力は残されてないよ!!

 

 ぬかった……! やっぱりゴッド化で大猿はぶっつけ本番だったし、不完全だったんだ! 体毛がゴッド時の髪の毛のように赤ではなく、ゴッド化しているにも関わらず気分の高揚などで感情が揺れ動いていた時点で気づくべきだった! 結果的に私、不完全ながらもゴッドの維持で必要以上に体力消耗しただけじゃん!? 失敗と気づいてすぐに満月を壊していれば、まだ体力も残っていたのに!!

 

 

 

 しかし、現実は非常である。

 

 

 

 私の心の叫びもろもろをよそに、ヒットの拳が人工満月を打ち砕いた。

 その後、多少粘ったのちしゅるしゅると通常体型に戻った私。………………うん。

 

 でっすよねー! そうですよねー! 変身のために人工満月作ってるの見てたら、変身にはそれは必要ってわかりますよねー! でもって当然壊しますよねぇぇぇ!!!! むしろ最初はそれを分かりつつ、自分の防御だけして満月ノーガードだった私に正面から向き合って攻撃してくれたヒットさんマジ武人っすわ。そしてそのヒットさんの格好良さによって際立つ自分の格好悪さに、穴があったら入りたい。間抜けにもほどがある。

 

 だけど、こうなったら私に残された手段はただ一つ。

 

 

 真正面から戦って、勝ってやる!!

 

 

「ええい、もうやけだ! 来いヒット! 決着をつけてやる!」

「望むところだ!!」

 

 互いに喉を潰さんばかりに猛々しく吠える。

 

 

 

 

 異能力者による異能無しの戦いが、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はゴッド化も大猿化も解けて、更にはごっそり体力が減った私と、ダメージ、体力共にギリギリなヒットとの泥試合だった。もうお互いに時とばしも、超能力も使う余力は無い。

 

 打って、打って、受けて、受けて、叩き込み、叩き込まれる。血と汗が宙を舞い、口から胃液と唾を吐く。

 悟空とベジータの戦いで引き出された武人としてのヒットの、ギラギラした視線とぶつかった。しかも口元に笑みまで浮かべてやがる。

 クールビューティーアサシンとしてのお前何処行ったし。いや、私も今似たような表情してるんだろうけど。

 

 視界は霞み、足はフラフラ。けど、倒れるわけにはいかない。

 こんな有様で無様極まりないが、今目の前に居る消耗したヒットは悟空とベジータが繋げてくれたものだ。勝ってくれなかった事に恨み言は言いたいが、今はそれを勝利に繋げなければ全てが無駄になる……!

 

 

 

 

 

 そして、勝負は決する。

 

 

 

 

 

「うああああああああ!!」

「なっ」

 

 気づけば武舞台ギリギリの端で戦っていた私たち。意図的に追い込んだものでも、追い込まれたものでもない。二人とも目の前の対戦者との攻防に精一杯で、そんな余裕は無かった。

 けど、先に気づいたのが私だった。だから私は残った力を全て振り絞って、ヒットに抱き着いてそのまま足にぐっと力を入れて武舞台を思いっきり蹴る!!

 

 

 

 宙に舞う私とヒットの体。そして…………。

 

 

 

『じょ、場外。場外です!! そして場外に先に背をつけたのは、ヒット選手!! よって、勝者。第七宇宙の孫空梨選手ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!』

『やったーーーーーー!!』

 

 レフェリーの言葉と共に、観客席からわっと歓声が沸く。だけどやっと勝利できたというのに、疲れ果てた私は声を発することも出来ない。ただ荒く息をつき、場外に一緒に落ちたがために押し倒す形になったヒットの体から上半身をおこした。そしてそのままヒットの横にバタンっと仰向けに倒れ込む。

 お、終わった。やっと。

 

「つ、疲れた……!」

「……同感だ」

 

 特大のため息とともに吐き出した言葉に、ヒットも同意する。しかしヒットの声色に悔しさはなく、どこか清々しさを含んでいた。

 

「こんなに疲労したのは、数百年ぶりだ」

「……ははっ、あんた凄いわ。悟空、ベジータ、私の三人と戦って、疲労ですんでるんだから」

「嫌味に聞こえたか? ならば、ここまで追い詰められたのは数百年ぶりだ、と言い直そう。俺もかなりダメージを受けた」

「……ヒットさんって、妙なところで律儀よね」

「そうか?」

「うん」

 

 お互いに倒れたまま、外野の喧騒をよそに会話する。あー、勝った勝った。これでビルス様にどやされなくてすむ。フリーザ様? 知らん。もうやる気満々なセミがなんとかしてくれるってぶん投げるわ。それ今考えたくない。

 

 ふいに、視界が陰った。見ればラディッツが覗き込んでおり、そのまま私の背と膝裏に腕を差し入れて、体を抱き起こしてくれる。

 それにお礼を言おうと思ったんだけど……。

 

 

 

「頑張ったな」

「!!!!」

 

 

 

 不意打ち……! やばいっ、今すっごいキュンと来た……! 短いねぎらいの言葉が、凄まじい破壊力だった……!

 

 なんだか急に恥ずかしくなって俯くと、ラディッツは何も言わずに私を抱き上げて運んでくれた。その行動に、修業の時とはまた違ったギリギリの戦いにささくれた心が癒される。…………いい旦那娶ったわ……。

 

 しかし勝利の余韻と夫の優しさに浸る間もなく……賑やかだった周囲が、急に静まり返った。

 

 

 

 

「「ぜ、全王様ぁぁ!?」」

 

 

 

 

 そんな中響いた破壊神兄弟の言葉に、もうこのまま気絶しちゃおっかなと思った私は許されていいと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。