とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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祝映画公開記念ということで、一部の歴代映画ボス+@が同窓会する感じのお話です。後編は出来れば年内に書きあげ……られたらいいなぁ

ちなみに主人公はほとんど出てきません。


残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 1

 その場所はとても暗く、終わりの見えない深い深い闇に満たされていた。しかし同時に無数にちりばめられた星々がその命を燃やして輝く、恐ろしくも美しい……音のない広大な黒い海。

 宇宙という名のその大海原を、ひとつの丸い宇宙船が航行していた。

 

「姉さんと兄さん、元気だろうか。……いや、あの人たちは間違いなく元気だな」

 

 宇宙船内でひとりごちるのは、つんつんとがった黒髪の幼い顔立ちの青年だ。逆立っている髪の中で少しだけ垂れた前髪が、彼の童顔をより若く見せている。

 青年の尻には猿のような尻尾が生えており、彼がサイヤ人という戦闘民族であることを示していた。

 

 かつては帝王フリーザの傘下で宇宙の地上げ屋として猛威を振るったサイヤ人であるが、現在は青年を含めてその生業を行っている者はいない。そもそもサイヤ人自体の生き残りが、もう宇宙中で彼と、地球で暮らす彼の姉兄を含めた少数のみとなっている。

 そして青年……ターブルは、その姉兄達に会うためにこうして宇宙船に乗って宇宙を旅していた。

 

 

 

「ふふっ、驚くだろうなぁ。僕も、ようやくパパだ!」

 

 どこか浮かれ調子の独り言。青年の顔もまた、嬉しそうににやけている。

 

 ターブルはサイヤ人の王族として生まれたが、戦闘に向かない性格だと実の父であるベジータ王に幼いころ辺境の星へと送られた。そのまま好戦的なサイヤ人とは思えないほど穏やかに長じた彼は、送られた星で己を鍛えながらも生活を続け、星の原住民であった女性を妻に迎え今に至る。

 

 そしてある時……ターブルはひょんなことから旅先で出会ったナメック星人に、自分の姉兄のその後を聞く機会に恵まれた。その内容というのが、自分達サイヤ人を支配していた宇宙の帝王フリーザが彼らによって倒されたというから驚きだ。

 辺境の惑星に暮らしていたターブルは、てっきり田舎だからフリーザ軍からも忘れられているのだと……だから放っておかれ、なんの指令も連絡もないのだと思い込んでいた。戦いに向かない性格のターブルはそれ幸いと自分から連絡をとろうと思う事も無かったため、余計に情報が入ってくるのが遅れたのである。母星である惑星ベジータが滅びたと知ったのもかなり後だった。

 そのためターブルが受けた衝撃と驚きはひとしおだったが、彼は驚くと同時に「流石はベジータ兄さんとハーベスト姉さんだ!」と、幼いころ以来会っていない兄と姉を誇らしく思ったものである。

 

 

 サイヤ人(地球人がどうとも言っていたが)に恩を受け、穏やかな気質のターブルを気に入ったのかナメック星人はフリーザを倒したサイヤ人達のその後も教えてくれた。その情報によれば、何でも今は地球という星で暮らしているらしい。

 

 

 しかしそれを知っても、なかなか機会が無くターブルは兄と姉を訪ねることが出来ず時は過ぎた。

 

 いつか会いに行こう。そう考えながらも、平穏だとしても日々の暮らしは何だかんだで忙しい。

 そんなターブルの穏やかな日々は、そのまま続くと思われたが……。

 

 

 ある日、アボとカドというフリーザ軍の残党兄弟がターブルの住む星を襲い、暴れ放題しはじめたのだ。

 ターブルも健闘するも、高い戦闘力を持つアボとカドには敵わず……そんな時、地球に住む兄と姉に助けを求めることを思いついた。妻であるグレと共に地球へ旅立ったターブルを、いたぶってやろうと面白がったアボとカドが追いかけてきたのは誤算だったが、結果的には幸いだった。辺境の星まで出向いてもらう手間がはぶけたからだ。

 

 

 なにしろ地球まで追いかけてきたアボとカドは、そこであっさり倒されてしまったのだから。

 

 

 しかもアボとカドを倒した相手というのが、あてにしていた兄と姉ではないのだから驚きである。ターブルは地球で、数えるのも馬鹿らしいほどに驚きを繰り返した。

 

 訪ねていった時に何か祝い事をしていたのか、兄と姉は家族と仲間達で集まっていた。中でも孫悟空、と呼ばれる見知らぬサイヤ人にはその高まる戦闘力によってスカウターを壊され初っ端から驚かされた。あとで聞いた話だが、血こそつながっていないものの彼はターブルの姉であるハーベストと共に地球で育った、義理とはいえ弟だというから不思議な感覚だ。なにせその事によって地球に住むサイヤ人とその家族全てがターブルとつながりが出来たことになり、いきなり親戚が増えてしまったターブルとしては困惑するなという方が無理な話である。

 

 そしてアボとカドと戦ったのは、熾烈……ではないが、賑やかな大根くじ引き勝負の果てに勝利を収めた兄ベジータの息子トランクス。ターブルの甥っ子だ。

 

 さらに相手が二人という事で、早い者勝ちとばかりに意気揚々と戦いに加わった孫悟空の息子、孫悟天。……同じく戦いたかったらしい姉の娘、姪っ子エシャロットが、他の兄弟に宥められつつも盛大なブーイングをとばしていたのが印象的だった。それよりも姉がいつの間にか四人の子持ちになっていたことに、まず驚いたが。義兄のラディッツとは、どうやら良い夫婦関係を築いているらしい。

 

 姉といえば訪ねて行った時、ターブルの顔を見るなり「あ……! おお、ああ! ターブル、ターブルじゃない! ひ、久しぶりね! 元気にしてた!? 大きくなったね! うんうん立派! びっくりしたー! いやぁ、私もなかなか忙しくてさー! いつか会いに行こうと思ってたんだけど、ほらまだ子育ての途中だし? 他にも色々と忙しくて、機会が無くって! うん! あのね? お姉ちゃん、ターブルのこと忘れてたわけじゃないのよ! だって可愛い弟だもの! ベジータと違って本当に昔からターブルは可愛かったわよね! 離れる時は寂しかった! 今でも覚えてる! うんうん、可愛い奥さんまでもらって立派になった! だから本当、忘れてたわけじゃないから!! 断じて!!」と、物凄く必死な様子でまくし立てられた。

 

 ……あまり姉を疑いたくはないが、けして鈍くないターブルは「これは僕、忘れられていたんだな……」と悟り言い知れない寂しさに襲われたものである。そしてその後、何故か初めて会うはずの相手なのに翼が生えた緑の昆虫のような宇宙人とピンク色でぷよぷよした肌の女性型宇宙人に「フフフッ、私はちゃんと覚えていたぞ。お目にかかれて光栄だ。ふむ、あの姉弟の弟にしてはなかなか愛嬌があるじゃないか」「わたしも覚えてたわん! どんまい、ターブルちゃん! 空梨ちゃん、ちょっとうっかりやさんだから」と妙に馴れ馴れしく肩を叩かれた。……聞き忘れてしまったが、彼らは誰だったのだろうか。

 

 そして甥っ子たちと戦ったアボとカドだが、その後我慢できなくなったエシャロットと妹を案じた兄弟、空龍と龍成までもが参戦しアボ&カドVS子供たちという様相と相成った。子供たちはターブルが驚くほどの実力を秘めていたが、力こそ強いが夢中になるとそこはやはり子供なのか……乱戦になり、戦いの余波を処理するのが大人側の役割となる。

 

 しかし何故か、その場にいる者達はみな一様に楽しそうだった。

 

 戦いの果て……最終的に、敵だったはずのアボとカドまで交えて宴会の続きとなったのだから、気づけばターブルも笑っていた。

 何て強くて、楽しい人たちだろうかと。

 

 

 その後アボとカドは心を入れ替えたのか、今では暴れることなくターブルの住む星で共に暮らしている。よほど気にいったのか、今では宴会で振る舞われた「でぇこん」という野菜の栽培に夢中だ。夢は宇宙一のでぇこん農家になることらしく、ターブルも自分の住む星の名産品になるのではないかと、その夢を応援している。

 

 

 

 

 

 そしてそんな事があってから、はや数年。めでたい事に、ターブルと妻グレの間にも子供が出来た。

 

 

 

 

 

 今回ターブルはその報告をするため、久しぶりに地球の親戚たちを訪ねようと宇宙に出てきたのだ。

 

 

「あの子がもう少し成長したら、今度は地球へ家族旅行もいいな! うん、それがいい。親戚がたくさんいるし、食べ物もおいしいからきっとあの子もグレも喜ぶだろうなー!」

 

 今後の未来に想いを馳せて、楽し気にターブルは笑う。

 

 

 しかし、その時だ。

 

 

「……? 通信?」

 

 ガガガっと、通信機にノイズ音が発生した後。宇宙のど真ん中で、何者かから通信が入る。

 ターブルは訝しみながらも通信ボタンを押した。

 

「はい、どちらさまですか?」

『ククク……。まさかこんな場所でアタックボールを見ることになるとはな』

「! ……あなた、誰です?」

 

 アタックボールとはターブルが乗っている宇宙船の名前だ。そしてその固有名詞を知っているという事は、もしやアボとカドのようなフリーザ軍の残党かとターブルは身構える。

 

 

 ターブルの予想は、ある意味では当たり。ある意味で外れだった。

 

 

「!? あれは……!」

 

 ふと宇宙船の外を見たターブルの目の前に、自身の宇宙船などよりよほど巨大な宇宙船が行く手を遮るように現れた。

 

 

 

 

『俺はターレス。サイヤ人のターレスだ。……お前こそ、誰だ?』

 

 

 

 

 ひどく楽しげな声は、どこか凶悪な残忍さを含んでターブルの耳に染みた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、今日の仕事はここまでとするか」

 

 都会のど真ん中、高くそびえるビルの最上階にて。

 大手食品チェーン「ガーリックグループ」総帥、ガーリックJrは手に持っていたペンを置き、肩を鳴らして一息ついた。

 

 財も権力もある彼は最新の技術を思うままに使える立場にあるが、自らが使用する仕事道具は基本的にアナログを好む。品物は当然高級品であるが、手入れの行き届いた様子とその文字の流麗さからガーリックjrの品の良さが伺える。……とは、彼に密かに恋慕する秘書のアイユちゃん(二十二歳のピチピチギャル)の(げん)だ。彼女が言うにはスーツの上からでもわかる鍛え抜かれた肉体美、美しい青色の肌に眼光鋭く涼やかな目元、キュートなとんがり耳と口から覗く吸血鬼のような牙などがたまらなくセクシーでカッコイイらしい。

 

 ガーリックグループはレストランチェーン「スパイシーガーリック」が更に成長し、彼の部下達がそれぞれ別のレストラン、食品事業を始めたことで大きく発展した企業だ。傘下には「じんじゃーくっきんぐ」「料理屋とびきり山椒」「びっくりどっかんエビフライ」「かっつんのめちゃうま味噌カツ亭」「麺処パワフルきしちゃん」などがある。ちなみに彼の昔からの部下の中、約一名はキャラクター性を買われ、「ニキ子」という芸名で日夜企画を提案、自らガーリックグループの広告塔となり芸能活動をしつつ宣伝に努めている。どうやら天職だったようで、生き生きと活力豊かに今日も昼番組「ニキ子におまかせ」でお茶の間の奥様達を湧かせている。

 

 かつて神になろうと暗躍を企てていたガーリックJrは、今では一部の者に食品業界の神、と称されていた。

 

 それは単に彼が食品業界で成功を収めたからだけでなく、彼が資金援助、企業提供しているバイオ研究所で生み出された食品や作物が飢餓で苦しむ地域に貢献しているからである。

 ガーリックJrとしてはそんな気はさらさらなかったのだが、バイオ研究所に再就職したかつての同志、Drコーチンに「謎の宇宙人っぽい奴らとあの鬼女どもとの戦いで研究所が壊れたから再建に協力してくれ」と頼まれて手を貸した結果、どういうわけかそういう流れになった。

 

 企業の成績は右肩上がり。

 ……ガーリックJrが半ばやけっぱちではじめた仕事は、思った以上に大成功してしまったのである。

 

 

 起業したばかりの頃は体が小さかったガーリックJrも、今では総帥の名にふさわしい貫録を供えた肉体に成長している。以前も本気を出せばこの姿になれたが、今ではこの大きな肉体、スーパーガーリックJrこそがデフォルトだ。地球最強のスーパーな連中には手が届かなくとも、日々の健康のためにジム通いは怠らない。

 

「まあ、こんな魔族生も悪くはない……。くくっ、私も丸くなったものだ」

 

 そんな風にニヒルな笑いを浮かべるガーリックJr。秘書のアイユちゃん(B82W55H85、はにかむ笑顔が魅惑的、ちょっぴり童顔がコンプレックスなブロンド美女)はその姿にほうっと甘い吐息をつき、今日も総帥にメロメロだ。近々告白する予定なのは、彼女だけの秘密である。

 

 かつてついえた野望を時々夢想するも、それを上回る悪夢によってすぐに夢は覚める。

 あんな連中に挑むより、今の方がよほど幸せじゃないかと……。そう悟ってから、ガーリックJrは充実した日々を送る今を楽しんでいる。少々疲れることもあるが、その疲労が心地よくさえあるのだ。

 上の上の上の上……まで上司が居る地球の神なんかになるよりも、自らが作り上げた箱庭で遊んでいる方が全能感を味わえる。

 

 

 

 ガーリックJrは、今の生活に満足していた。

 

(もしまた妙な連中が現れても、どうせ孫悟空達が倒すだろうしな。気楽なものだ)

 

 ガーリックJrは油断していた。

 何事にも不測の事態というのは、いくらでも起こりうるのだ。

 

 

 

 

『大変じゃ!』

「ぬお!?」

 

 リラックスしていた所に急に大音量の声が響き渡り、おもわず椅子ごとひっくり返ったガーリックJr。すかさず秘書のアイユちゃん(少しM気質)がその背中と床の間に滑り込み、上司の転倒をふせぐ。「す、すまないなアイユくん。助かった」と褒められた事と、愛するガーリックJrに潰されたことにアイユちゃんは恍惚の笑みを浮かべた。ちなみにちょっぴりよだれも垂れている。

 

「なんだ、Drウィロー。急な連絡などして来て、どうしたというのだ。というかお前ボケてるんじゃなかったのか?」

 

 通信機器から響いた大音量の主は、こちらもかつての同志であるDrウィロー。通信画面いっぱいに脳みそが映し出される様子はなかなかにシュールだ。

 

『誰がボケ老人じゃ! もうわしはわしで割り切って隠居生活を楽しんでおるのだ。まあ一時期の記憶が曖昧ではあるが……』

「その時期にボケ……いや、なんでもない。その、元気であるなら、なによりだ」

 

 ボケた彼の今後について困り、財力にものを言わせて専用の介護施設を作ってやったあとは放置していたのだが……いつの間にかボケから復帰していたらしい。Drウィロー、再々リターンズである。

 そんな彼だが、脳みそだけのため表情は分からないがDrウィローの声は非常に焦っていた。その事に嫌な予感を抱くガーリックJr。彼の勘は正しい。

 

『どうもこうもない。あれに気づかないとは、これが神を目指した男とはお笑いじゃな』

 

 Drウィローの物言いにカチンときたガーリックJrだったが、とりあえず黙って続きを促す。これも上に立つ者としての余裕だ。

 

『つい先ほど隕石が落ちたというニュースを見なかったか?』

「隕石? いや……」

『……まあ、お前のいる場所からはちょうど地球の裏側じゃからな。まだ報道されとらんでも、仕方がないか。ならばとりあえず、これを見ろ』

「!? なんだ、その不気味な樹は」

 

 ピッという電子音と共に、脳みその映像から切り替わり映し出された景色。そこには天を貫かんばかりの、異常なほどに巨大な一本の樹が映し出されれていた。ふもとにある山との対比で、それがいかに巨大であるか画面越しにも分かる。

 

『反対側とはいえ、そろそろお前のところにも影響が出るはずだ』

「な……!」

 

 まさに、その時だ。突如聞こえてきた地鳴りのあと、突き上げるような衝撃と共にガーリックJrのビル全体にヒビが広がった。それを瞬時に察したガーリックJrは、とっさの判断でデッドゾーン……の改良版であるゴッドゾーンを発動する。

 この技は闇の空間に相手を葬る技であったデッドゾーンを、何か便利な使い方が出来ないかと模索した結果生まれた技だ。名前こそかつての野望の名残を残し神の区域などと名付けたが、その実態は無限にものを出し入れできる四次元ポ〇ット。普段はガーリックJrが趣味で収集した美術品の保管庫となっている。上に立つ者として、その趣味もまた高尚なのだ。

 ガーリックJrは、その技でビルに居る社員全員を異空間に隔離した。そばにいたアイユちゃん(趣味はお料理)は、自らの腕に抱える。そしてウィローと繋がる通信機を片手に、強く床を蹴り崩壊するビルから脱出した。

 

 空高く跳躍したガーリックJrの眼下に広がるのは、先ほどまで平和だった街が巨大な"根"によって蹂躙され、破壊される姿。それはまさに地獄絵図だった。

 

「これはどういうことだ、Drウィロー!」

『この樹の仕業じゃ。お前のところだけではない。世界中に影響が広がっている』

「何だと!?」

 

 急いで目を瞑り集中してみれば、なるほど世界はとんでもない事になっているようだ。どうもあの根っこは破壊の限りに飽き足らず、あろうことかこの星のエネルギーを吸い取っているらしい。

 

 そしておそらく、その中心点はあの不気味な樹だ。

 

 この時真っ先にガーリックJrが思った事。それは「孫悟空達は何をしているんだ!」だった。そしてそのあとすぐに、自分の情けなさに反吐を吐きつつも心は落ち着きを取り戻す。

 ピッコロ大魔王をはじめとした、幾度となく訪れた地球の危機を救ってきた戦士達。きっとこの異常事態も彼らが治め、地球もドラゴンボールで元に戻るだろう。……そう考えていたガーリックJrだったが、すぐに希望的観測は愚かだとDrウィローによって突き付けられた。

 

『今お前が考えている事など、手に取るようにわかる。だがな、これを見ろ!』

「……?」

 

 再び移り変わった画面。そこはなんてことない、ごく平和な一般家庭の玄関口だ。なにやら張り紙が貼られているほか、変わったところは見当たらない。

 

「これがどうした」

『そこが孫悟空の自宅であることを考慮したうえで、その文面を読んでみろ』

 

 ウィローに促され、ガーリックJrは目を細めて文字を読む。そしてその顔色は、もともと青い色にも関わらず傍目に見てもさらに青く変色していった。腕に抱かれたアイユちゃん(実はハードボイルドな映画が好き。いつか好きな人と観に行きたい)は、ぽうっと頬を染めながらも、オロオロと心配そうにガーリックJrを見上げていた。

 

「な、なん……なんだとぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 いくつか移り変わる画面。そこに映るのは今まで地球を守り戦ってきた、全ての戦士の自宅の玄関。最初こそ突然の事で気づかなかったが、そうと分かればかつて戦士らの様子を探ろうとさんざんスパイ衛星で盗撮していたガーリックJrが見間違えるはずもない。

 

 そこには一様に同じ文面が躍っていた。

 

 

 

 

『申し訳ございませんが、ただいま宇宙対抗文化祭『英知の大会』に出かけております。二時間ほど戻りません。ご用件の方は、天界、神の神殿まで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界を襲った巨大な樹……神精樹と呼ばれる星喰らいの全体を一望できる見晴らしの良い崖の上で、一人の男が満足そうな笑みを浮かべた。

 

「なかなかいい星じゃないか。……コソコソと惨めに活動するのは、これでもう終わりだ。この星で育った神精樹を喰らい、俺は神のごとき力を手に入れる。そのフィナーレを飾るには、この美しい地球こそ相応しい。……ククッ、そうは思わないか? ターブル王子サマ」

「そ、そんな事……出来るはずがない! この星には、お前などよりずっと強い人たちがいるんだ! ぐ!?」

 

 男の発言に異を発した青年は、控えていた男の部下に殴り飛ばされる。青年……ターブルの体は無数の打撲痕で覆われており、顔はむごたらしく腫れあがっていた。

 

「クックック。それは自慢のお兄さまに、お姉さまの事ですか? 王子サマ。な~に、同じサイヤ人の仲間です。殺しはしませんよ。我が同胞にはこのターレスと共に、自由な破壊や強奪、殺戮の快楽に酔いしれる権利がある。…………まあ、貴様のような軟弱者はお呼びでないがな!!」

 

 丁寧さを気取った慇懃無礼な口調を一転させ、残忍な声色と共に男、ターレスはターブルを蹴とばした。

 

「ごふ!?」

「ハハハハハ! 王族サマはよく跳ぶなぁ!」

「違いねぇ!」

「なっさけねぇなぁ! それでもエリート様かよ!」

「おいおい、可哀そうだろ? よしてやれ」

 

 ターレスの部下の哄笑に恥辱を味わいながらも、ターブルは辛うじて意識を保っていた。その意識の中で、己の無力さを痛感する。……またしても自分は、人を頼るしかないのかと。かつて受けた恩を、彼らの星を守ることによって返す事が出来ないのかと。

 

(こいつらは強い……! 下手をしたら、アボとカドよりも。まさかこんな強いサイヤ人が、兄さんたちの他にも生き残っていたなんて……!)

 

 しかも性格は、惑星ベジータと共に滅びたサイヤ人に多く見られた冷酷で残忍なもの。なにやら妙な植物を植えたようだが、察するにそれが強さの秘密なのだろう。

 

「睨みつけるだけの気力は、立派だと褒めてやろう。……まあ、もうどうでもいいが」

「ターレス様。こいつはいかがします?」

「捨て置け。もうそいつでは、どうにもできんだろうさ。せいぜいベジータ王子達が来た時の観客がいいところだ」

 

 言って、ターレスは興味を失ったのかターブルから視線をはずした。そして神精樹を見つめ……目の前に居ない怨敵を思い出し、冷酷な笑みを浮かべていた顔を憤怒へと変える。歯をむき出した獣のごとき表情は、ターレスと同じく神精樹を喰らい強くなったはずの部下達をも容易く怖気づかせた。

 

 

 

「今さら王族など眼中にない。……待っていろ、セル!! 俺の味わった屈辱、今度は貴様に味わわせてやる!」

 

 

 

 

 

 ターレスが口にした名は、かつて敗れた別の銀河の星の神の名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ち、地球に誰も残っていないわけじゃないんです。ええ。

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