とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 5

 見たこともない姿に変身したターレスを前に、ターブルは真っ先に人工の月を破壊することを選んだ。大猿化と同じく、月がトリガーであることは明白。このまま戦うのはあまりにも危険であると、本能が告げていた。

 しかしターレスは腕を組んだまま、それを悠々と見守った。それが何故なのか、すぐに理解することとなる。……ターブルの大猿化が解けた後もターレスの変身が解けることはなかったのだ。

 

「そ、そんな……!」

「残念だったなぁ。確かに変身にはきっかけとして月が必要だが、俺は神聖樹の実を食らい続けたおかげでこの変身を長時間維持することに成功している」

 

 ターレスはもったいぶったように手を広げると、赤い体毛で覆われた体を見せつける。

 

「ああ、そうそう。無知な王子様に親切にも教えてやろう。我々サイヤ人の変身には、月の反射する光からのみ発生する特殊な電磁波が関係していることくらいは知っているな? ……だが、俺のように自力でその電磁波を生み出す光球を作り出すことも可能だ。今でこそこうして一度体外にそれを出し光として身に受けなければ変身できんが、いずれ体内のみで全てが完結するようになる」

 

 ガーリックJrとラディッシュは何やら余裕で説明し始めたターレスを前にどこか隙は無いかと、吹き飛ばされた先からこっそりと伺う。だがまるで見えない鎧でも纏っているかのようなエネルギーの圧を感じ、たとえ隙が生じていても自分たちではどうにもならないことを悟った。唯一の希望はターブルだが、ターブルもターレスの威圧感に押されて動けないでいる。先ほど人工月を破壊するためにいち早く動けただけでも、快挙だったのだ。

 

 そんな彼らを前に、ターレスは背後にそびえる巨大樹を親指で指した。

 

「そのために役立ってくれるのが、この神聖樹の実ってわけだ。立派だろう? この星の命を吸収する樹の実を食らえば、信じられないほどのパワーが手に入る。……が、俺は随分強くなりすぎたようでな。部下に与えれば強くはなるが、今の俺が食べても栄養剤程度にしかならん。しかしその栄養こそが大事なのだ。星の生命力は俺のサイヤ人としての、種としてのパワーを高めた。……実感がある。何故だか実りが遅いようでまだ一つしか生っていなかったが、この星全ての命を吸い尽くした実を体内におさめれば、俺はいつでもどこでも、この姿に変身できる。無限に蓄えた星のエネルギーを使って、いつまでも……な」

 

 長い語りが終わると、ターレスは一瞬にしてターブルの前に現れた。そして振るわれた尻尾の一撃で地面に叩き落されたターブルは白目をむいて気絶する。

 

「なんだ、せっかく見せてやったのに他愛ない」

 

 つまらなさそうにつぶやくと、ターレスはこちらを伺うガーリックJrとラディッシュに目を向けた。

 

「!? な、なんだ! 次は私たちと戦おうというのか!? い、いいだろう。こ、来い!」

 

 虚勢を張りながらもガーリックJrは自分に視線をひきつけて、ラディッシュにターブルを回収するようにハンドサインを送る。承知したとばかりに位置を変え決死の覚悟でターブルを回収したラディッシュだったが……それも全ては見逃されてのことだった。

 

「何故俺がゴミ掃除にわざわざ動かねばならんのだ。それより、さっさと王子様を回復してさしあげたらどうだ? 邪魔はせんぞ。ハッハハハハハ!!」

「くッ、馬鹿にしおって……」

 

 全て見透かされていることに歯ぎしりしつつも、ガーリックJrはラディッシュがターブルを回復させるのを見守った。今、地球の命運はこのサイヤ人にかかっているのだ。悔しいが今は彼の可能性を信じるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に地球の命運をかけた絶望との戦いが行われている一方。時間はほんの少しだけさかのぼる。

 それはDrウィローがガーリックJrに通信をする前のこと。

 

『久しぶりだな、Drコーチンよ。いや、コーちゃんよ』

『アバター名で呼ぶのやめていただけませんか、ウィロー様……』

『水臭いではないか。私の事は☆うーりん☆と呼ぶがいい』

『ぐ……、くう……! う、嘘じゃぁぁぁぁ!! やっぱり信じとうない! 半年こんなおいぼれに付き合ってくれた愛の天使☆うーりん☆が同じジジイじゃったなんてぇぇぇぇ!! しかも昔の上司とは、ここが地獄か!!』

『初ボイチャした時のお前の嘆き声はなかなか愉快だったぞ』

『本当に、いつそんな遊びを覚えたんですかのぉ……』

『ドラポンクエスト7が面白くてな。流れでオンラインにも手を出したのだが、どうもこのジジイ口調とかつての姿を模したキャラメイキングでは誰も声をかけてこぬのじゃ。たまたま知り合った☆プリンセスぷーろんてぃー☆にもらったアドバイス通りにしたら、本当にアイテムごっそり貢がれてプレイが楽になったぞ。時代はネカマじゃ』

『あなたからネカマなんて言葉を聞きたくありませんでしたぞ……』

 

 電子空間でアバターを通して行われているボイスチャット。片方は伝説の装備で身を固めた若々しく凛々しく造形の整った男性キャラ。もう片方は天使の翼をつけた、これまた伝説の装備に身を包んだ麗しい美少女キャラ。

 これがかつて人類改造計画および世界征服を企てた悪の科学者たちの成れの果てだとは、誰も思うまい。

 

 ✝☦こーちゃん☦✝ことDrコーチンは、ボケて使い物にならなくなったと思い☆うーりん☆ことDrウィローの元を離れとある貴族のもとで大好きなバイオ工学の研究をしていたのだが、気晴らしに始めたオンラインゲームにのめりこんでしまっていた。そこでまさかという形でかつての上司と再会し、死にたくなったのは記憶に新しい。遅く来たDrコーチンの青い春はむごたらしい形で儚く散ったのである。

 

 とはいえ、かつては同じ志の元研究をした者同士。ゲームはゲームと割り切って、レアアイテムのためにネット婚までしたあともこうして時々友人として話をしている。

 ちなみにDrコーチンはガーリックグループにバイオ食材の提供もしているので、ウィローとは別にガーリックJrとの交流は結構あったりする。

 

『ところでウィロー様のことですから心配しとりませんが、そちらは大丈夫ですかのう? 隕石が降ってきた後、妙な樹の根が世界中に出現しているようですが……』

『わしの方は問題ない。お前の方はどうだ?』

『こちらも心配ありません。なにしろわしの可愛いバイオ戦士たちが守ってくれますからな。研究に口うるさかった周囲の連中を黙らせるいい機会ですから、恩を売るために各地に援軍として送る余裕もありますですじゃ』

『ほう……流石だな』

『これも最高の研究場所を提供してくださったジャガーバッタ男爵と、そこを破壊された後に資金援助してくれたガーリック殿のおかげですわい』

『そういえば平和なバイオ食品製造に留まらず、再びバイオ技術を戦士に転用し始めた理由はなんじゃ? まさかお前、わしの……』

『こういう時に身を守るために決まっとりますわい』

『それもそうじゃな』

 

 うっかり「わしのために最強の体を作ろうと……!?」などと、感動したようなセリフを言い切る前でよかった。そう思いながら、ふむと脳みその入った水槽をこぽこぽさせながらウィローは考え込む。

 

 

 

『なあ、Drコーチンよ。提案なのだが、再びわしと手を組んではみないか?』

 

 

 

 

 

 

 




このたび柴猫侍さんからgifで動く主人公を頂きました!
可愛い!すっごく可愛い!動いてる!ひゃっほー!動くのが可愛いのはもちろん、デフォルメ具合が醸し出す癒しオーラよ……!
柴猫侍さん、この度は素敵なイラストをありがとうございました!

【挿絵表示】

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