とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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★残り物なんて言わせない!地球まるごと超決戦! 6(完)

「がはッ!!」

 

 もう何度瀕死と回復を繰り返したか分からない。しかしターブルは諦めず、何度も何度もターレスに立ち向かった。その身は黄金に輝き、腰まで伸びた頭髪は雷光に似た気をまといながら逆立っている。さらには優し気な面立ちをしていたターブルの顔はずいぶんな強面に変化していた。スーパーサイヤ人、スーパーサイヤ人2を超えた先にある高み……スーパーサイヤ人3にこの二時間に満たない間に上り詰めたのは奇跡と言ってよいだろう。

 

 

 だが、それでも届かない。

 

 

(グレと生まれてくる赤ちゃんのためにも、ここで死ぬわけにいかない……!)

 

 もうすぐ父親となるターブルの精神を強固につなぎとめていたのは家族への愛だったが、それだけではターレスが達した領域まではひどく遠かった。

 

 どこかの、別の時間軸の世界線。……この世界では数名を除き知らないことであるが、そこではターレスが達した変身はスーパーサイヤ人4と呼ばれていた。

 現在彼らが住まう世界線でのスーパーサイヤ人の最たる高みはサイヤ人の神の名を冠したスーパーサイヤ人ゴッド、そしてスーパーサイヤ人ブルーである。しかしそれは力の性質が違う方向へ向かっただけであり、個体差による違いはあれどスーパーサイヤ人4はけしてゴッドに劣らない。もしこの場に孫悟空やベジータなどがいれば嬉々として戦いを挑んだことだろうが、今のターブルでは戦いを楽しむ余裕などあろうはずもない。ラディッシュの仙豆の力を借り、死なないだけで精いっぱいだ。それも相手の情けで見逃されたうえで。

 ガーリックJrがタイミングを見計らって異空間へ敵を閉じ込める技を放とうと試みてはいたが、それはすでに破られている。ターレスは「面白い技だ」と、閉じ込めたはずの異界の空間を捻じ曲げて出てきたのだ。……次元が違う。

 

(せめて、せめて兄さんたちが来るまでの時間稼ぎくらい……!)

「いい加減あきらめて、俺の仲間になったらどうだ? 軟弱と言ったのは謝るぜ。なかなか、いい根性してるじゃねぇか」

「誰が!!」

「ハハハ! いいねぇ、強情なところも気に入った! ますます屈服させたくなる!」

「!?」

 

 頭を掴まれ地に押し付けられ、地面をえぐりながら数十メートル進む。そのままボーリングの球のように投げられ、ターブルは神聖樹の幹に衝突した。その衝撃で幹にクレーター状のくぼみが生じる。

 

「おっといけねぇ。可愛い樹に傷がついちまった」

 

 ターレスは頬を指でかき、ばつの悪そうな顔をする。が、次いでいいことを思いついたとばかりに膝を打った。

 

「そうだ、ここまで粘った褒美にお前にもひとつ実をくれてやろう! 実りは遅いが、そろそろもう一つくらい実っただろうさ」

 

 ターレスのその言葉に、戦況を見守るしかなく歯ぎしりしていたガーリックJrの心に光明が差す。

 

「馬鹿め、強者の余裕が生む油断こそ致命傷となりうるのだ! これであいつが更に覚醒すれば、あるいは……」

「キキー……(でも、大丈夫かな……。あの実は食べてはいけないものだって感じる)」

「緊急時なのだ、かまうまい。結果的に地球を守ることになれば地球も許してくれるだろう(なぜ私はいつのまにかこいつの言葉を理解できるようになっているのだろう……)」

 

 共闘する間に心と心で繋がってしまったサイバイマンとの絆に少々複雑な思いを抱きながら、ガーリックJrはターレスがターブルに神聖樹の実を与えようとするのを見守った。

 

 

 

 

 

 だが。

 

 

 

 

 

「なんて、な。期待したか? お前は強くしてみたいが、あいにくこの実は俺専用なんだ。まだ部下になっていないお前にはやれんな」

 

 がぶりと、ターレスはターブルに実を与えることなく目の前で赤く熟れた神聖樹の実を食らった。それを見て呆然とするガーリックJr。

 

「な、な、なん……。なんて性格の悪い奴だ!! 期待させておってからに!! …………さ、最悪だ。ただでさえ勝てない相手のわずかな消耗までこれでなくなってしまう。私のデッドゾーンもやぶれた。……お、終わりだ。今度こそ……」

 

 憤ってはみたものの、もうこの状態を覆せる奇策は思いつかない。かすかな希望をこめて腕時計を確認するが、孫悟空らが戻ってくるまではまだ一時間もある。すでに数時間どころか数日もの時間が過ぎていた感覚だったガーリックJrは、あまりにも長い二時間を思って天を仰いだ。……その天に居る神に啖呵を切ってここまで来たというのに、なんてざまだと自嘲に変な笑いが漏れる。

 

「ふん、しけた面をしおって。そのでかい図体は飾りか?」

「!?」

 

 力の抜けた体を後ろから杖でつつかれたガーリックJrは前につんのめる。

 

「だ、誰だ!?」

「わしじゃよ。先日の取り引き以来じゃの」

 

 振り返った先にいたのは、ガーリックグループが提携するバイオ研究所の所長であるDrコーチン。思いがけぬ人物の登場ではあるが、まったくこの場では役に立たないであろう人材だったことにガーリックJrの肩がしょぼくれたように落ちる。そのガーリックJrの頭部を再び杖が襲った。

 

「なんじゃその反応は! 失礼な!」

「ええい鬱陶しい! なぜこの場に来た! お前など吹けば飛んで死ぬだけだ。死ぬまでの時間が変わるだけだろうが、さっさと逃げておけ!!」

「フン、その必要はないわい。もう決着はついた」

「…………なに?」

 

 不可解な発言をするDrコーチンに、ガーリックJrとラディッシュは訝しむ。

 

「決着はついた、と言ったんじゃ。時間稼ぎご苦労じゃったな。いやはや……それにしても、ウィロー様もジジイ使いが荒いもんじゃ」

 

 やれやれとため息をついたDrコーチンは、杖を持つ方とは反対の手に何やら注射器を持っていた。それに目ざとく気付いたガーリックJrは目を見開く。

 

「お前、何をした……」

 

 Drコーチンはにやりと笑う。

 

 

 

 

 

 

「時代に遅れをとった残り物に甘んじているほど、ウィロー様は甘くなかったということじゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……うッ! な、なんだ……! これは……!」

「……?」

 

 急に頭と喉を抑えて苦しみだしたターレスを朦朧とした意識で眺めていたターブルは、すぐに「チャンスだ」と思い立ち幹にのめり込んでいた手足を引き出した。神聖樹の木片が散り、黄金の輝きに照らし出される。

 

「はあああああああああああああああああああああああ!!」

「ぐ!?」

 

 気合一線。

 一直線に突き出したスーパーサイヤ人3ターブルの拳は、初めてターレスにダメージを与えた。それに対しすぐ忌々しそうに反撃を繰り出そうとするターレスだったが、体が硬直し動かない。まるで自分の体ではないかのよう(・・・・・・・・・・・・)だ。

 

「くそっ、なんなのだ、これはァ!!」

 

 苛立ちに咆哮するターレスの頬を、ターブルの拳が打ち抜く。そこからは息もつかせぬ連撃である。

 

「だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだッ、でやぁッ!!」

「ぐおおぉぉ!?」

 

 散々連撃を受けた後に、仕上げとばかりの両の拳をあわせたものが頭上から振り下ろされターレスを地面に突き落とす。ターブルの攻めはそこで終わらず、クレーターを作り地面にあおむけで転がったターレスの腹に膝蹴りが叩き込まれた。ターレスの胃液が吐き出される。

 

「ごふっ。ぐ、貴様……!」

「とどめだ! はぁぁぁああああああああああああああ! ギャリック砲--------!!」

「あ、あの馬鹿! ええい、デッドゾーン!」

 

 上空に飛び上がったターブルの両の手から発せられた光の本流がターレスとその背後の地球に迫る。そのまま直撃しては地球もタダではすまないと察したガーリックJrが、すかさずデッドゾーンを器用にもターレスの背後に生み出した。

 

「がああああああああああああああ!!!!!」

 

 絶叫と共にターブルのギャリック砲に押されたターレスがデッドゾーンの奈落に落ちてゆく。

 完全にエネルギーが異空間に飲まれたことを確認したガーリックJrは、デッドゾーンの穴を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 あたりに静寂がおとずれた。

 

 

 

 

 

 

 

「勝った……のか? 僕が……?」

 

 変身が解かれ、もとの優しい顔立ちに戻ったターブルが自分の両手を見ながら信じられないとばかりにつぶやく。

 その背を力強く叩く者がいた。

 

「勝ったのだ! お前の勝利だ。お前が、地球を救った!」

「キキキーキキー!(すごいよ! ありがとう! 君のおかげだ!)」

 

 ガーリックJrとラディッシュの言葉にようやく実感がわいてきたのかターブルの表情がゆるむ。

 

 しかしその時だ。

 

 何もない空間に亀裂が入り、砕ける。その現象は先ほど目にしたばかりであり、喜びに笑みを浮かべていた三人の顔に緊張が走る。

 

「ば、馬鹿な。あれでも駄目だというのか……? あんな攻撃を受けては、さすがに異空間から帰ってこられるようなパワーは……」

「ああ、焦ったぞ。まったく、おにゅーの体を手に入れたと思ったら異空間とはたまげたわい。まあ体の試運転と思えば悪くはない。体の使い方を知らなくとも、この程度は容易にこなせる高いスペックをもった体だと分かったからな」

「…………ん?」

 

 現れたのはやはりというかターレスであり、緊張感をはらみ身構えたターレスを横目にガーリックJrはその口調に凄まじい違和感を覚えた。そのターレスはといえば、妙に年寄り臭い所作で「どっこいしょ」と岩に腰かける。

 

「なんじゃ、どうした?」

 

 にやにやと意地悪くこちらを見るターレス。だがあくどい笑みながら、雰囲気は先ほどまでと決定的に異なっていた。残忍非道だったさきほどに比べ、まるで性根の悪い糞ジジイのような……。

 

 その時、先ほどのDrコーチンとの会話と、直前に交わしたDrウィローとの通信が繋がりガーリックJrの頭脳にひとつの答えがはじき出された。

 

 

「はめおったな! こんのクソジジィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

「ふん、はめたなどと人聞きの悪い。わしはなにもお前に直接行けなどと言っておらんかったじゃろう? さっきまで優しくも特攻した馬鹿の冥福を祈ってやっていたわい。せいぜいガーリックグループのつてで、程よく時間稼ぎできそうな人材に声をかけてもらおうと思っとっただけじゃ」

「え、え、あの……? これはどういう……?」

 

 ターレス(仮)に掴みかかるガーリックJrと、妙にじじ臭い喋り方のターレス(仮)。それを見て混乱したターブルが隣にいたサイバイマン、ラディッシュに問えば仙サイバイマンとなったラディッシュは首を傾げながらも推測を告げる。

 

「キキーキキッ、キーキキー(どうやらあの人、中身が別人になっちゃったみたいだね。魂の色が違うよ)」

「えっと?」

 

 しかしターブルにはラディッシュの言葉は分からないので、ますます首をかしげるのだった。そこに現れた助け舟は一人のジジイ、Drコーチンである。

 

「あのサイヤ人の脳は、すでにウィロー様の脳みそに入れ替わっておるのじゃ。もう戦う必要はないぞ」

「脳が!? それっていったい、どういうことですか!」

「ふっふっふ、聞きたいか? では功労者をねぎらって、特別に教えてやろう。な~に、天才科学者二人にかかればどうという事もない。わしのバイオ技術とウィロー様の天才的発想を融合させ、まずは意識と命を保ったままウィロー様の脳をコンパクトに液体細胞化する。それをあの神聖樹の実とやらに注入し、あとは馬鹿者が実を食うのを待てばよいというわけじゃよ。体内に取り込まれたウィロー様の脳細胞が頭脳へと到達すれば、相手の脳を溶かし成り代わるのじゃ」

 

 なにかとても怖いことを言っている気がする。ターブルは一歩Drコーチンから引いた。

 

「そう怖がるでないわい。今さら世界征服する気力もありゃせんし、これを使うのは今回限りじゃよ。研究の詳細もすでに破棄してある」

「そういう事じゃ。いい加減脳みそだけというのも不便でな。自己防衛も兼ねられる、強い体が欲しかったのだ。孫悟空らがいればすぐに倒されるか阻止されていたかもしれんし、まったくよいタイミングで来てくれたわい。悪人なわけじゃし、体をもらったところで問題ないであろう? こうして科学の力で圧倒的強者を上回るという事実も手に入れたわけだしな……くくっ。おっと怖がるでないぞ? よほどのことがない限り、自衛以外では使わんよ」

 

 ターレス(仮)もとい、サイヤ人ターレスの体をまんまと手に入れたDrウィローは、若い体を満足そうに見回してはポーズをとる。それを少しうらやましそうに眺めていたDrコーチンは、閃いた! とばかりにぱあっと表情を明るくさせた。頭上で光る電球が見えるかのようだ。

 

「あ、そういえば今回限りというのは嘘じゃった。もう一回使う。わしもつかう! バイオ技術で✝☦こーちゃん☦✝そっくりの体を作り、脳を入れ替えて若さとリアル嫁を手に入れるんじゃー!」

「お前は何を言っているんだ」

 

 ガーリックJrは酷い頭痛を覚えたが、まあなにはともあれ解決でいいんじゃないかな? と思うことにした。考えるのはもう疲れた。帰りたい。

 

「僕の戦った意味って……」

「いや、誇るがいい。正直体内に入ったまではよかったのだが、ある程度のダメージを奴が負わなければサイヤ人の生命力にわしの細胞は押し負けて消滅していた。隙が生じたとはいえ、お前がこのサイヤ人を追い詰めたのは事実じゃよ」

 

 まあ脳のコピーは取ってあるのだがな、とは言わないウィロー。抜け目のないジジイである。

 

「さて、あとはこの神聖樹とやらか。ガーリックJrよ、さっさとデッドゾーンで吸い込んでしまえ」

「私のデッドゾーンはゴミ処理場ではないぞ! 根もずいぶん広がっているし、単純に吸い込むだけでは難しい。それこそ、地球の修復と共にドラゴンボールに……」

「先人として今の神に見栄は張りたくないのか? あれだけ先輩風吹かせておいて」

「ぐ!?」

「あの小僧が地球もろとも破壊してしまう危機を回避した功績に加えて、ドラゴンボールの力なしに樹を除去できたら尊敬されるかもしれんぞ?」

「ぬぬ……!」

 

 悩むこと数十秒。

 

「し、しかたがない。ここは私が引き受けよう」

「流石じゃぞガーリックJr。それでこそガーリックグループ総帥じゃ」

「そこはせめて元神候補と言え!」

 

 

 こうしてガーリックJrにより神聖樹の樹は取り除かれ、その他の地球の損傷や死者などの被害に関してはドラゴンボールが使われた。

 結果的に地球のドラゴンボールが現在叶えることが出来る願いが二つだったため、神聖樹が先に取り除かれていたことで願いは「地球をもとに戻す」と「今回の被害で死んだ悪人を除いた命をよみがえらせる」のみですんだのである。神聖樹のような特殊で力の強い植物に関しては、地球を元に戻すの中に含まれなかった可能性もあり独立した願いが必要だったらしく、ガーリックJrは神デンデにいたく感謝されたとか。

 

 

 

 

 

 その後無事に帰還したガーリックJrが秘書のアイユちゃんから逆プロポーズを受けて結婚して地球史上初の魔族と人間のハーフの子供をもうけたり、スーパーサイヤ人4になれるサイヤ人の体を手に入れたDrウィローがどこからか聞きつけて修行に巻き込もうとするサイヤ人二名から逃げて宇宙に飛び出したり、無事バイオ技術で若くかっこいい体を手に入れたDrコーチンが婚活に乗り出すも連敗に次ぐ連敗に婚活戦士になったり、ガーリックJrの心労具合を見て精神的疲労に効果のある仙豆の栽培にカリン塔に帰ったラディッシュが乗り出してみたり、やっと帰ってきた兄弟にスーパーサイヤ人3になれたことを言う前に子供が生まれることを真っ先に報告してやんややんやと祝われるターブルの姿があったりしたのだが…………。

 

 

 

 

 

 それはまた、別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ。とてつもなく面白い戦いを逃した気がする」

 

 某自称究極神がそうぼやいたとかぼやかなかったりしたというのも、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り物なんて言わせない! 地球丸ごと超決戦 完!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お粗末様でした!前後編詐欺してしまい誠に申し訳ありません。全6話になりました(震え
でも平成中にギリギリ終わらせられてほっとしております。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!



最後におまけ。
【挿絵表示】
16号さんはハっちゃんに感謝されながら「また遊びに来てね」と言われ村を後にし、のちのち17号のいる島にたどり着いて会話に花を咲かせるといいなという妄想。心優しい16号さんは動物にモテモテであってほしい。

2020.12.30追記



【挿絵表示】

この度(╹◡╹)さんから主人公の空梨のイラストを頂きました!どやっとした笑顔やポーズが主人公らしくて可愛い……!
(╹◡╹)さん、この度は素敵なイラストをありがとうございました!

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