とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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VSナッパ!敵か味方か?ラディッツ死す!

俺が現れると、その場の視線は当然のように集まった。そして第一声を放ったのはナッパの野郎だ。

 

「おいおい、弱虫ラディッツじゃねぇか。やっぱり生きてたみてーだが、1年ものうのうと何してやがったんだ?」

「お前、本気でそれを言っているのか。ここにはあの女がいるんだぞ」

 

 それを言うと、ナッパはさっき空梨とベジータが飛び去った方向を思わずといったように見た。ここ1年で奴と一緒に修業したため身についた「気」とやらを探る技術によって、そちらで激しい気のぶつかり合いが行われていることが嫌でもわかる。それが無くても先ほどからここまで何やら破壊音が響いているのだ。ここにいる全員がそれを気にしないように努めているのが窺えるが、まあ気は散るだろうな。俺は近づきたくもないし気にしたくもない。あの中へ入ったら暴力にすりつぶされるのが目に見えている。

 

「へっへ……そりゃあ、まあ悪かったよ。俺もあの2人がガキの頃苦労した口だ。1年も王女のお相手なんてご苦労だったな」

「まったくだぜ、あの我儘女」

「王女はこの星が気に入っているらしいな。あれか? 自分に都合のいい星を荒らされたくないからあの雑魚どもについてるってとこか? 戦闘力だけはあるくせに昔から我儘で自己中と、姉弟そろってまったくよぉ……たちが悪いったらありゃしねぇ。まあ、ベジータがなんとかするさ。あいつの戦闘力はすでに20000を超えてるし、首根っこつかんで帰ってくるだろうさ。そしたら地球の野郎共をぶち殺してこの星をフリーザ様への手土産にでもしてやろうぜ。まあドラゴンボールってやつは俺たちで頂くけどな。だっはっは!」

「ベラベラと煩い野郎だな」

「あん?」

 

 ナッパは俺がそんな口を利いたのが不満だったのか、わずかに凄んでくる。しかし、今の俺は以前の俺とは違うのだ。

 

「ベラベラ煩い野郎だと言ったんだ! 口が臭くて反吐が出るぜ!」

「おいおいおい、ずいぶんと生意気な口を利くようになったじゃねぇか。どれどれ?」

 

 そう言って奴はスカウターをいじる。

 

「戦闘力2500……なるほどなぁ! 一応サイヤ人の面目が立つくれぇには強くなったじゃねえか。王女サマに鍛えてもらったのか? だがよぉ、調子に乗るにはちーとばかし少ねェなあ!」

 

 ナッパは心底おかしいというように笑っている。ちッ、耳障りな野郎だ。

 

 

 

 

 忌々しいことにここ1年、俺ラディッツはハーベスト王女もとい空梨のもとでこき使われながら過ごしていた。

 

 時に畑で泥にまみれ、時に空梨のサンドバッグにされ、時に居酒屋で必要な時以外は動かない置物になった。

 何故かナメック星人の攻撃から生還した俺は急激に戦闘力を増し「ついに俺の才能が開花したのか!」と歓喜した。が、それをあの女の一撃で粉々に砕かれてからのこの日々である。プライドはとうの昔にズタボロに……いや、これはよそう。前についぼやいたら「え、命乞いしたくせにまだそんなものあると思ってたんだー」とつっこまれて心に深い傷を受けたんだ……。あの女、せんべいを貪りながら何気ない感じで言いやがって! 甘くないからセーフだとか、そんなこと言ってるからサイヤ人のくせに太るんだ馬鹿が!!

 ともかく、ここ1年最悪だったぜ。

 まあカカロットの妻の飯は美味かったし、バイト先の奴らも初めほど俺を馬鹿にしなくなったが……。

 

 今日は空梨とカカロットの一家が世話する畑で菜っ葉を収穫していた。

 その野菜を見て奇しくもそれと同じ名前のサイヤ人の事を思い出していた俺は、やがてこの地球に来るであろう2人と会ったらどうするかを考えていた。

 

 惑星ベジータを破壊したのはフリーザ様、いやフリーザがサイヤ人を危険視したかららしい。しかもそれに唯一気づいて抗おうとしたのは、俺の親父であるバーダックだったという。あのフリーザにたった一人で正面から立ち向かうなど正気の沙汰ではないが、あの人ならやるだろうという確信があった。弱かった俺にあまり関心を示さなかった親父はこちらを向くことは少なかったが、逆にその背中を幼い俺は見続けていた。だからこそ、あの人ならたった一人でもやってしまうという信頼に似た確信だ。今思えば憧れていたんだろう。下級戦士という枠から逸脱し、周囲に認められていた親父に。

 そのためハーベスト王女に話を聞いたとき、自分でも驚くほどすぐに信じてしまったのだ。我ながら単純すぎて反吐が出る。だが長年部下として過ごしてきたこともありフリーザならそれくらいやるだろうとも思うし、いくらサイヤ人としての誇りをもたない王女でも母星の消滅に関してまで嘘はつくまい。一緒に暮らし始めてから色々とイメージは悪い方向に壊れたが、当時は思慮深い姫として名を馳せていたのだ。フリーザのたくらみに気づいたところで不思議はない。

 今さらベジータとナッパのもとに戻ったとしても、フリーザの下で働くのはもうごめんだ。

 

 なら、俺はどうする? どうしたい?

 それを考えていると地球に近づく大きな気に気づいた。これはあいつらだ。そう確信すると、俺は麦わら帽子と首に巻いていたタオルを放り出し、空へ舞い上がっていた。

 ごちゃごちゃ考える前にやりたいことをやれ。この1年、あの我儘馬鹿女と過ごして唯一得た教訓だ。

 

 たまには俺にも好きにさせてもらうぞ! 弱虫と言われ続けた今までの人生を返上だ!!

 

 

 

 

 

 

 

「な、なあ。たしかあいつ、悟空の姉ちゃんが犬の魂を入れてしつけてるって言ってたよな? 普通に話してるけど」

「やはり嘘だったか。元から信じちゃあいなかったが、この場面で現れやがるとは最悪だぜ……。あの女の手綱が無い今、寝返る可能性のが高い」

「げげっ! 嘘だろ!? これ以上戦力差がついたら俺たち……」

 

 こちらを見ているハゲチビとナメック星人がごちゃごちゃ何か言っているな。

 まあ、安心するがいい。今回俺がここに来たのはお前らにとっては結果的に悪い話じゃない。

 

「ベジータは空梨……ハーベストの相手をしてるんだろう。雑魚相手に暇してるなら、俺と戦わんか?」

「ああ?」

「なっ!」

「あ、あいつ……。自分の味方を裏切るってのか? いや、俺たちにとっては都合がいいが……」

 

 俺の発言に驚く周囲というのも、新鮮で小気味いいな。

 ナッパは先ほどまで冗談ととらえていた俺の暴言を今のセリフによって本気だと悟ったのか、額に青筋を浮かべてドスのきいた声で恫喝してきた。

 

「自分が言っていることの意味をわかってんのか? 弱虫ラディッツよぉ! 少しは強くなったと思って甘く見てやってりゃあずいぶんと調子にのってんじゃねぇか。なんだ? 馬鹿女とか言いながら、ハーベストにほだされたか!」

「フン! 俺はな、前から飽き飽きしてたんだよ! 弱虫と言われて、下向いて生きてる自分の人生にな! ほだされたわけじゃないが、あの女は自分の好きなことして生きてるぜ。せっかく強くなったんだ。俺も少し、それに倣ってみようって思ったわけだ! 笑いたきゃ笑え! すぐに笑えなくしてやるがな!」

 

 惑星を征服し、脆弱な他種族を屠る時戦闘によって高揚感を覚えていた。だが、その後にどうしても残る虚無感は弱いもの相手にしか強がれない情けなさだ。傍にいる2人には絶対に敵わない劣等感だ。そんなものに苛まれてこれから生きていくくらいなら、どうせあの馬鹿に握られていた命。ここで景気よく使って自分の限界を試してやる! 

 

 そうして、俺とナッパとの戦いは始まった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、俺の考えは甘かったのだろう。

 

「おらおらおら! さっきまでの威勢はどうした!?」

「ぐっ! くあッ」

 

 空梨との修業で戦闘力の変化を身に着けていた俺の限界値は、3845まで上昇する。ナッパは確か戦闘力4000前後だったはずだ。そこまで差を縮めたのなら、勝負にはなるだろう、工夫によっては勝てるだろうと思っていた。だが、ナッパの野郎のタフさを舐めていた結果がこれだ。それと俺が格上との戦闘に慣れていなかったことも原因だろう。馬鹿王女の奴は、戦闘力をむやみに振り回すのは得意だが絶望的に実戦経験が少ないのでノーカンだ。むしろ組手に慣れるために俺を使っていた節がある。

 

「ぐはぁ!」

 

 ナッパのタックルに吹き飛ばされ、崖に体が埋まった。そこにナッパの奴が悠々と近づいてくる。

 

「お前みたいな弱虫は、やっぱりサイヤ人にはいらないな。俺とベジータが不老不死になれば宇宙中にサイヤ人の名をとどろかせてやる。だからお前は安心して死んでいいぞラディッツ」

 

 そう言って、奴の口がカパッと開く。そこに光球が集まっていくのを見て、俺はここまでかと目を閉じた。しかし俺にナッパの攻撃が当たることは無かった。

 

「気功砲!!」

「魔貫光殺砲!」

 

「んな!」

 

 俺たちの戦いに割って入ることは死を意味する。そう感じて近づいてこなかっただろうカカロットの仲間どもが、攻撃してきやがった! しかもその2つの気功波の威力は相当なものだろうと推測できるうえに、一つはオレを一度殺しかけた貫通技!

 

「ぐあぁぁぁあああああ!!」

 

 すぐにナッパは俺に放とうとしていたエネルギー波をそれらに方向転換して放ったが、両方がぶつかっておきた爆風がナッパを巻き込んだ。俺も巻き込まれそうになったが、何故か気づけば俺はナッパが爆風に飲まれる様を遠くから見ていた。

 

「! お前は!」

 

 気づけば俺は目立たなかった顔の白いチビガキに支えられて空に居た。一瞬で移動したように感じたが、どんな技を使った!?

 

「何故俺を助けた!?」

「ラディッツは、よく戦った。空梨の同居人だし、弟子の家族を助けるのは師範として当然だから!」

 

 ……そういえば、昨日家に来ていたな。空梨が「しはん、しはん」と慕っていたが、まさかそういう名前じゃなくて「師範」だったのか?

 どう反応すればよいか戸惑っていたが、爆風の中からエネルギー波が飛び出してきたのを見て逆にそいつを抱えてそれを避けた。

 

「あ、ありがとう」

「ナッパめ、まだ生きてやがるのか……!」

 

 爆炎が晴れると、そこには完全にブチ切れたナッパがいた。

 

「貴様らぁ……! 許さんぞぉぉぉ……ッ!」

「「かめはめ波ぁー!!」」

 

 すぐに気功波を放った2人、三つ目の男とナメック星人にとびかかろうとしたナッパだったがそこに追撃がきた。ハゲチビと頬に傷のある男が、左右から挟み込むようにさらに気功波を打ち込んだのだ。

 

「悟飯、止めだ!」

「ま、魔閃光ー!!」

 

 そこに、カカロットのガキが強力なエネルギー波を放つ。何て奴だ! もとの戦闘力からは考えられない威力だぞ!?

 

「やったか……!?」

 

 思わずつぶやいた。あれだけの連撃だ。倒せていなくとも、重傷くらい負っているはず……。

 

「……皆殺しだ」

「な、んだと……!? がぁッ」

 

 そこからは蹂躙劇だった。顔を赤黒く染めたナッパの野郎に、まず三つ目がやられた。白チビが俺の腕から抜け出そうともがいていたが、無駄死にが目に見えている。押さえている間に、次は傷の男だ。仲間のハゲチビをかばってエネルギー波にぶっとばされて動かなくなった。それに激高したハゲチビとカカロットのガキがしかけるが、ハゲチビは片手ではじかれガキは正面から腹に拳を受ける。ぶっ飛ばされたガキにナッパは力の放出量が凄まじくスパークしているエネルギー波を打ち出した。そしてそれを、今度はナメック星人がかばって死んだ。

 ここまで先ほどのダメージで動けなかった俺の前で、あっという間にハゲチビとガキ、白チビ以外が死んだのだ。

 

「わーっははは! 雑魚が俺様に傷をつけるからだ馬鹿め! さあ、残りは貴様らだけだ」

「くそぉ……! ヤムチャさん、天津飯、ピッコロまで。ひ、ひでぇ……悪夢だよ。次々にみんな、死んじゃうなんて」

「ピッコロさん、ピッコロさーん!!」

「安心しな、すぐに仲間入りさせてやるよぉ!」

 

「……。離れてろ」

「え?」

 

 俺は白チビを放すと、静かに地上へ降り立った。

 

「なんだ、ついに諦めて自分から身を差し出してきたか? それとも無様に命乞いでもするか?」

「……」

 

 答えないまま、俺は横目でカカロットのガキを見る。ナッパの野郎はさっきの爆発でスカウターを飛ばされ気づいていないが、あのガキの戦闘力がどんどんと上昇している。

 

「この俺が、こんな役回りで最期とはな」

「何を言って、!?」

 

 最後の力を振り絞り、俺はナッパの背後にまわり羽交い絞めにした。奇しくもそれは俺がカカロットにされた時と同じ構図だ。

 

「ラディッツ、お前何を……!」

「カカロット、いや、孫悟空のガキ!!」

 

 ナッパを無視してガキに呼びかける。

 

「俺ごとこの単細胞の馬鹿を撃て!」

「「!?」」

「なんだと!? て、テメェ! やめろ!」

「くくく、どうした? 命乞いでもするか? 流石に、タフなお前でももう限界だろう。焦ってるなぁナッパさんよぉ!!」

「クソッ、放せ! やめろぉ!」

「いざ命の危機となったら無様なもんだな! この、弱虫が!!」

 

 言ってやったぜ。はん、ベジータに一矢報いることは出来なかったが俺にしては上出来か。あの世の親父にちょっとは認めてもらえるか? いや、無理か。自分まで一緒に死んで止めは甥っ子に頼むなんてみっともない最期じゃあな。

 

「あ…ぼ、僕……!」

「早く撃てーー!!」

 

「う、うわぁぁーーーーー!! 魔閃光ーーーーーー!!!」

 

「ぐっ」

「がぁぁああああああ!!!!」

 

 次の瞬間、俺とナッパの胸は打ち抜かれていた。完璧、だな。ばっちり穴が開いてやがる……。

 

「ぐ、この、野郎」

「ち……、この、化け物、め」

 

 しかしなおもナッパは動き、最後のあがきか虫の息の俺を踏みつぶそうとしてくる。

 

「気円斬!!」

 

 しかし、その前にひらべったい気の塊がナッパの首を飛ばした。なんだ、そんな技があるなら……早く……使えばいいものを……。

 もう意識がもうろうとしている。ああ、畜生。1年生き延びただけで、結局これが俺の最期か。

 

「ラディッツおじさん……!」

 

 

 

 カカロットのガキの声が聞こえるが、もう目が見えない。カカロットよ、せいぜい、恩に着ろよ。お前の息子を助けてやったんだから……な……。

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 こときれたラディッツの躯を前に、クリリンは悟飯の肩に手をかける。

 

「悪いやつだったかもしれないけど、お前のおじさんは最期は俺たちを助けてくれたな」

「はい……」

 

 1年前は恐ろしい敵でしかなかった。だというのに、クリリンと悟飯の心には失った仲間の命とともに彼の生き様がしかと刻まれていた。

 しかし悪夢は終わらない。

 

「なんだ、ナッパの奴め。こんな雑魚どもに負けたのか?」

「あ、……な!? お前は」

「空梨おばさん!」

 

 ざりっと地面をこする音が聞こえた先には、血だらけで気を失う空梨の髪をつかんで引きずるベジータが居た。

 すでに立ち上がる体力も無い2人はそれを絶望で染まる表情で見ていた。

 

 しかし、希望はまだ繋がっていたのだ。

 

 

 

 

「連れて、来た!!」

 

 ベジータと悟飯、クリリンの間にいつの間にかどこかに消えていた餃子が現れる。

 そして彼の横には、切望してやまなかった人物が立っていた。

 

 

「悟空!」

 

 

 

 山吹色の胴着をまとった地球最強の男が、そこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※この小説は「とある姉サイヤ人の日記」です。





~こういうのも考えましたが没になりました。~

 こちらを見ているハゲチビとナメック星人がごちゃごちゃ何か言っているな。
 まあ、安心するがいい。今回俺がここに来たのh「ラディッツ! ラディッツじゃないか!?」!?

「な、ヤムチャなぜお前がここに!」
「「「「「!?」」」」」
「それはこっちのセリフだ! たしかに居酒屋の店員にしちゃ強い気を持ってると思ってたけど、まさかお前が例のラディッツだったのか!?」

 俺がナッパにここに来た理由を突き付けてやろうとしたところで、思わぬ介入が入る。そして下を見ると、そこにはあの女のバイト先である居酒屋にたまに来るヤムチャという男がいた。といっても、だいたい奴のシフトに俺が代わりに入っている時来るだけだから面識はないだろうが。まさかこいつらの仲間だったとは。

 ヤムチャとラディッツの面識がないのをいいことに思いついたのですが、唐突だし続かなかったので没に。

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