「餃子師範! 皆とドラゴンボールを!!」
そう聞こえた時には、すでに今まで見ていた景色とは別の物を見ていた。
「な!? こ、これは」
「ボクがみんなを移動させた! 空梨が逃げてって言ったから……!」
そう言ったのは、超能力を操るという地球人の一行の一人である少年だった。たしか餃子だったか。
周りを見れば私のほかに最長老様、デンデ、地球人の女性(名はたしかブルマ)、悟飯、クリリンが居た。そして願い玉7つ全ても。
「まさか、あの少女はたった一人で囮になったとでもいうのか……!?」
「いや、俺たちの仲間の悟空ってやつがさっき合流した。そいつがここにいないって事は、きっと一人じゃないだろうけど……」
仲間とは、彼らに近い姿をした2人のうちのどちらかだろう。一人は邪悪な力を感じたので、もう一人の方か。
「こ、これからどうすんのよ!? 敵み~んなに見つかっちゃったじゃない!」
「ボク、戻ります! おばさんとお父さんだけで戦わせられない!」
「待って! 戻る前にボクの話を聞いて!」
場が混乱しそうになる中、餃子が声をあげた。
「きっと、空梨は自分たちが時間稼ぎをしている間にドラゴンボールでみんなを蘇らせてって言うつもりだったんだと思う! そしたら、戦える仲間が増える!」
「! そっか! なんか色々ヤバいやつらが集まって来てたけど、戦力が増えれば……!」
「そ、そうね! 最長老様に潜在能力を引き出してもらえば、きっとみんなもっと強くなれるし……あ!? でも、駄目だわ! ヤムチャたちの遺体は地球にあるんだもの! 生き返ってもここに来るまでに6日かかっちゃうわ!」
「それなら『地球で死んだサイヤ人に殺された人をナメック星に蘇らせて!』って願えばいい!」
「な、なるほど。餃子ったら潜在能力を引き出されたあたしより冴えてるじゃない……。でも、賭けね。願い事を節約しようっていう、ちょっとズルいお願いを聞いてくれるかはかなりグレーゾーンだわ。それにその願いだと他に殺された人がいたら巻き込んじゃう」
『ならば、俺だけでもその星に送れ!!』
ブルマが考え込むと、どこからともなく何者かの声が聞こえた。これは我々が念話で話すときの感覚に似ているが、根本的に違う……もっと高位の者による力であると瞬時に悟った。遥か彼方、高みから聞こえる声だ。
「この声は!?」
『俺だ、ピッコロだ!』
「ピッコロさん!?」
『界王を通してお前らの心に直接話しかけている!!』 『呼び捨てにするなよな……界王さまといえ……』
力強い声とは別にぼやくような声が聞こえたが、それに対して反応したのは最長老様だ。
「界王様ですと!?」
「最長老様、ご存じなのですか」
「え、ええ。この銀河を統べるお方です……。私どもの考えなど及ばぬ遥か高みにおられる至高のお方であると伝え聞いております」
『ほ、ほっほ~う。ナメック星にはちゃんとわしの凄さが伝わって『俺が生き返れば神も生き返る! そうなれば地球のドラゴンボールも復活して他の連中も蘇ることが出来るはずだ!!』
聞くに至高のお方であるらしい界王様の声を無遠慮に遮る声だったが、今度はその内容に「まさかこの者がカタッツの子供か?」と最長老様は一言つぶやいて考え込んでしまった。
そして私は彼らの話が進む中、凄まじい力の集まりからひとつはなれてこちらに向かってくる強大な力の持ち主に気づいて上着を脱ぎ棄てた。
「話しているところ悪いが、どうやら見つかったようだ。このとびきりに邪悪な力はあのフリーザという者だろう。私が引きつける。お前たちは最長老様とデンデを連れて逃げろ。そして願い玉を使うんだ」
「ネイルさん、でも、それなら餃子さんの移動能力で一緒に逃げ続ければ……!」
「デンデ、それではいずれ消耗して捕まる。君も無限にあの能力を使えるわけではあるまい?」
問いかければ、先ほどより顔色がこころもち悪い餃子は悔しそうに唇をかんだ。どうやら図星のようだな。潜在能力を引き出してもらった事で多少ましになったかもしれないが、我々全員を移動させるにはかなり力を使うのだろう。
『俺は戦いたいんだ! 生まれ故郷で、お、俺と同じ仲間だという連中を殺したフリーザって奴とな……! 俺はここではるかに力を増した! 必ずそいつを倒してみせる! その星に俺を呼ぶんだ!!』
「……どうやら、いまだ見えぬ同胞も頼もしいやつのようだしな。早く呼んでやってくれ」
念話で聞こえるピッコロという名の者の言葉に、思わず笑みがこぼれる。なんだ、なかなか言うじゃないか。言ったからには期待するぞ?
「わ、わかりました。どうかネイルさん、死なないで!」
「ああ」
「そ、それなら僕たちも……! ドラゴンボールの願いはブルマさんとデンデに頼んで、僕たちも一緒に行って戦います!」
「そうだぜ! たしかに恐ろしいけど、あんた一人に背負わせるわけにはいかねーよ!」
「ありがたいが、それでは私がおもいきり戦えん。行くなら君たちの仲間を助けに行ってやりなさい」
この2人、特に悟飯という子供はたしかに凄い力を秘めている。しかしあの空梨という者に聞けばフリーザという奴の力は53万。基準が分からないが、桁外れということだけは伝わった。ならば、私に出来るのはせいぜい足止めくらいだろう。それに子供を巻き込むこともあるまい。
「では、行ってまいります最長老様」
「ネイルよ……。止めても、行くのでしょうね」
「…………。今までお世話になりました。ご無事をお祈りしています」
私は深く頭を下げると、近づいてくる邪悪な力めがけて飛び出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ナメック星の神龍が叶えてくれる願いは3つ。ただし複数の者を蘇らせることは出来ない。
その条件下だったが、餃子が提案した『地球で死んだ○○をナメック星に蘇らせろ』という願いは蘇りとワープという2つの願いに分けられることなく叶えられた。どうやら俺の故郷の神龍は寛大らしいな。
俺は今蘇ったばかりだが、すぐにヤムチャと天津飯の野郎もあとを追って生き返るだろう。だが待っていてやる義理は無い。降り立った故郷(奇妙な感覚だ)はどこか懐かしいが、周りには人っ子一人いやしねぇ。蘇る場所までは指定できなかったか。
すぐに気を探って飛び立とうとしたが、その前に俺の前に白い顔のガキが現れた。
「! 餃子か!」
「ピッコロ、迎えに来た!」
いうや否や、景色は一変した。俺の目の前には俺に似た姿の子供と、どちらかというと神の野郎を思い出す巨体の老人がいた。こいつが最長老か。
周りを見ればたった今蘇ったのか女に抱き着かれているヤムチャと餃子に泣きつかれている天津飯が居やがる。そして遠くには嫌でも感じるでかい気が複数。悟飯とクリリンは悟空たちの加勢に行ったようだな。
「出迎えご苦労だったな。だが、先に行かせてもらうぜ」
「ま、待ちなさいよ! ほら、この方があんたの故郷の一番偉い人、最長老様よ! この人にかかれば、あんたたちもっとも~っと強くなれるんだから!」
ヤムチャに抱き着いていた女がわめくが、もっと強くなれるだと? そんな力を持っているのか……。神の野郎も小賢しい術をいくつか使えるが、ナメック星人とは不思議な力に特化した種族らしいな。その最たるものがドラゴンボールってわけか。つくづく奇妙な気分だぜ。
「あなたが地球で生き延びたというナメック星人なのですね……? あなたは、片割れの方ですか」
「ああ。俺は2人に分かれたナメック星人の"悪"の方だがな。悪いな、善である神でなくて」
「いいえ、あなたからは邪悪な力も感じないことも無いですが、たしかな善性を感じますよ」
「な!? ふ、フン。冗談はほどほどにしてもらおう。たしか俺たちを強くできるのだったな? やるなら早くしてくれ」
正直不思議な力で強くしてもらおうなどと気に食わんが、遠くで感じるバカでかい気のぶつかり合いを考えれば今の俺では明らかに力不足だ。悔しいが、今は頼るほかあるまい。
最長老は、頷くと先にヤムチャと天津飯の力を引き出したようだ。
「す、凄い……! 界王星の修業で強くなったと思ったけど、なんだろうなこの感覚。限界の天井が取り除かれたような、例えるならそんな気分だぜ」
「あ、ああ。まさかこんな気分を味わえるとは」
「正直生き返っても悟空たちの役にどこまで立てるか心配だったが、これならいけそうだ!」
「そうだな! 餃子、今まで大変だっただろう。よく頑張ってくれたな」
「て、天さん……! 本当に、本当によかった……ぐすっ」
くっ、たしかに一気にヤムチャと天津飯の気が跳ね上がりやがった。これほどとは。
「……最後は俺か。早くしてくれ」
「……少し、よろしいですか」
「何だ?」
何かを話したそうな雰囲気だが、こっちは急いでるんだ。悪いが早くしてほしい。
しかし力を引き出してくれる相手にそうも言えず、もどかしく思いながらも話の続きに耳を傾けた。
「あなたの親であるカタッツは、わたしと同じく同胞を生める数少ない存在でした。おそらく、生きていればわたしの代わりに最長老になっていてもおかしくないほどの才を秘めていた……そしてその才は、子供にも引き継がれたようです。あなたの元の姿であるナメック星人は、素晴らしい才能をもった天才児でした」
「………………」
「寂しい思いをさせてしまいましたね。遠く離れた星で、たった一人別の種族の中で生きるのはさぞや辛かったことでしょう」
「感傷に浸る気は無い。そんな話だけなら、もう終わりにしてくれ」
「そう、ですね……。これ以上長引かせては、先に行ったネイルが死んでしまう。では単刀直入に言いましょう。ピッコロさん、わたしを吸収しなさい」
「な!?」
「最長老様!?」
その発言には俺だけでなく、近くに居たナメック星人の子供も驚いていた。
「正確には同化と言いますが、人格は全てあなたに委ねます。わたしはあなたと分かたれたもう一人の代わりとまではいきませんが、きっかけにはなれるでしょう。潜在能力を引き出すよりも、こちらの方がはるかに力を増せる」
「し、しかし……!」
「ためらう必要はありません。わたしは、せめてもの罪滅ぼしをしたいのです。仲間であるカタッツを守れず、あなたを一人孤独にしてしまった罪滅ぼしが……。それにわたしの寿命ももう長くありません。願い玉も使い終えたことですし、いずれ尽きる命。どうか使っていただけませんか」
最長老の言葉に、俺の中で葛藤が渦巻く。だがそれも一瞬だ。
「本当に、いいんだな? 俺は神ではない。悪のピッコロだぞ」
「ふふっ、悪にこだわっていますね。ですが正義や悪などその場、その時代で移り行くもの。あなたが何をもって悪とするのか分かりませんが、今ここで故郷のために戦ってくれようとしているあなたは、わたし達にとっては紛れもなく正義なのです。……どうか、デンデとネイルをよろしくお願いします」
最長老の言葉が終わると、俺は差し出された手に無言で手を合わせた。
「最長老様……お元気で」
同化に元気も何もあるかわからんが、デンデという子供の声は妙に耳に残った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ぐあぁッ!!」
「おや、腕がもげてしまいましたねぇ。失礼しました。お返ししましょう」
引きちぎった私の腕をフリーザはゴミのように放ってよこす。
足止めのためにフリーザと対峙したはいいが、私はていのいい憂さ晴らしに使われているらしい。すぐに殺せるだろうに、先ほどから執拗にいたぶってくる。
「ホッホッホ、もっと遊んであげたいのはやまやまですが、そろそろ終わりにしましょうか。そういえば先ほど空が暗くなったのは何だったのです? ナメック星特有の気象現象ですか?」
「……貴様に教える必要はない」
「おやおや、そうですか……。なら、死になさい」
奴の指先が光るのを見て、ここまでなのだと悟る。
しかし、少しでも足止めになったのならば良い。あとは頼んだぞ……地球人に、いまだ姿も知らないナメック星人よ。
「ずあっ!!」
「!?」
死を悟った次の瞬間、私の前で爆風が巻き起こった。まるでエネルギー同士がぶつかり合ったような……。
「何者ですか?」
爆風で巻き上がった土煙が晴れる中、フリーザの誰何の声が聞こえる。そしてそれは、私の目の前に立つ白いマントをたなびかせた存在に向けられていた。
「宇宙の帝王だかなんだか知らんが、ずいぶんと調子に乗っているようだな」
「何者かと聞いているのですよ!!」
苛立たし気なフリーザの声に、その者は答えた。
「俺は貴様を倒す者。ピッコロ大魔王だ!!」