とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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勇者セル

 南の銀河、コナッツ星。それが俺の故郷だ。

 

 ある時どこからか流れてきた魔導士の一派が、星中の邪気を吸い取ってくれていた魔神様の像に術をかけ魔人ヒルデガーンへと変えてしまった。美しかったコナッツ星はわずかな間に破壊しつくされ、人々は殺された。

 

 しかし魔神像にはもともと、吸い取る邪気が限界に達し邪神へと姿を変えた時、その邪神をコントロールするための神具が奉納されていたのだ。神より与えられた破魔の剣と、2つの笛……俺と弟のミノシアは笛によってヒルデガーンの動きを封じ、それを神官様が剣で切り裂き奴を上半身と下半身に分断した。コナッツ星には平和が戻り、俺たち兄弟は勇者として讃えられた。

 

 だが、それでもヒルデガーンを殺すまでには至らなかったのだ。

 

 俺の体にヒルデガーンの上半身、ミノシアの体に下半身を封印することになり、更にその俺たちを封じた封印のオルゴールは宇宙に流されることになった。別にこの事に関してそれを決定した神官様達を恨む気持ちは無い。弟のミノシアのことだけが気がかりだったが、コナッツ星の平和のためだ……むしろ平和の生贄として、魔神ごと俺たち兄弟を殺さなかった神官様たちの慈悲に感謝すべきである。

 

 

 

 だが、1000年という長き時を経て俺の封印は解かれてしまった。

 

 

 

 目覚めた場所はナメック星という、文化の発展はあまりしていないようだが緑が美しい星だった。目覚めてからまず目にしたのは忘れもしない……あの憎き魔術師の一派の一人である老人ホイ。そしてその傍らには俺のことを面白そうに観察する初めて見る種族の……形容しがたいが、あえて言うなら昆虫と人間をくっつけたような姿の人物が立っていた。

 俺の体の魔人を解き放とうとするホイを一時的にしりぞけ、俺は何故封印を解いたのかとそいつに詰め寄った。そいつは名を”セル”と名乗り、激高する俺をものともせずに「暇つぶしだ」と前置きしてから朗々と語り始めた。

 

「私はとある理由から強くなるために宇宙を旅していたのだが、目ぼしい強敵はだいたい倒してしまってね。しばらく適当にふらふらしていたのだが、それも飽きた。そんな時にあのジジイに「最強の戦士、勇者タピオンを復活させてほしい」と持ち掛けられたのだよ。なんでも私が宇宙船を作る時に集めたガラクタの中に君が封印されたオルゴールが混じっていたらしい……ククッ、地球からはるばる私を追いかけ、懇願する老人を無下にするのも可哀想だろう? それにこの私でさえ開けられないオルゴールと、勇者タピオンという存在に興味も湧いた。だからわざわざこのナメック星にまでやってきて、ドラゴンボールを使って封印を解いてやったのだ。ところで、君は本当に強いのか? たしかに内に秘められたパワーは凄いが、君本来の物でない気がするが」

 

 あまりにも気軽に語られた理由に、俺はしばし言葉を失った。

 ちなみにドラゴンボールというものだが、何でも願いを叶えてくれるという不思議な球らしい。にわかには信じられないが、事実……強固な封印はあっさりと破られ、空を見上げれば願いを叶えるという龍の神が未だ存在していた。なんでも叶えられる願いは3つだそうで、残り2つの願いを待っていたらしい。そのふもとに居たナメック星の原住民であるナメック星人は困惑した様子だったがセルが「もう願いはいい。あとは好きにしろ」と言うと何事かこの星の言語で神に話しかけた。すると龍の神は消え、ふもとにあったドラゴンボールは四方に飛び去った。

 

 俺は事態についていけず、再度「強いのか」と問うてきたセルに再び怒りをぶつけた。その怒りのままに「あなたはホイに騙されたのだ」と事の経緯を話すと、セルは嬉しそうにこう言ったのだ。「なるほど、君では無く君に封印された魔人が強いのだな。無駄足では無かったか」と。

 何を嬉しそうにしているのかと聞けば、なんとセルは自分がその魔人を倒すと言い始めた。初めは何を馬鹿なと一蹴し、とりあえずこの星の住民に被害を与えないため人気のない場所に移動して思い悩んでいた。俺が眠ればヒルデガーンの封印は解け、俺の体から解き放たれる。そうしたら、この星はコナッツ星の二の舞になってしまうのだ。なんとしてもそれは避けたかった。

 自殺も考えたが、俺が死んでも一緒にヒルデガーンまで死んでくれるという保証が無くそれは躊躇われた。逆に俺という封印の器が無くなれば、奴が解放されるだけかもしれない。今思えば神官様達が俺たち兄弟を殺さなかった理由にはこれもあるのだろう。

 

 苦悩する中、ホイがしつこく襲ってきた。魔人をコントロールする笛を破壊し、俺の中の上半身と奴の手中にある下半身を合体させるためだ。

 ミノシア……下半身が奴の手に落ちたということは、弟は殺されてしまったのだろう。すまない、何も出来ぬ兄ですまない……!幼いながら封印の苦行に耐えたお前をみすみす殺させてしまった……!

 俺に、ヒルデガーンを倒すだけの力があれば……。

 

 ホイに応戦しながらも、人間の構造上何日も眠らないというのは無理な話だった。食事もろくにとっていなかったため疲弊した俺は、ある日ついに気絶するように眠ってしまったのだ。そして魔人は俺から一時的に解き放たれた。しかもそれを狙っていたホイが上半身と下半身を合体させ、ヒルデガーンを完全に復活させてしまっていた!

 

 意識を取り戻した時は血の気が引いた。しかしそんな俺を更に驚かせたのは、ヒルデガーンに応戦するセルの姿だ。

 

 

 

 結局倒すまでに至らなかったが、セルは強かった。

 

 

 

「フフフっ、まさか未だに私の敵わぬ相手がいるとはな……クウラやボージャックもなかなか強かったが、ヒルデガーンとやらは別格だ。これは孫悟飯達と再戦する前の最高の前菜になりそうだ。こいつを倒せば、私はまた強くなる!」

 

 俺が笛の音色でヒルデガーンをすんでのところで封印しなければ殺されていただろうに、セルはどこか楽しそうだった。

 

 俺はその一件でセルに興味を持ち、ナメック星人達に彼の事を聞いて回った。

 なんでもかつてフリーザという強敵からナメック星を救った地球人と同じ故郷からやってきた彼は、この星で比較的歓迎されたらしい。その彼がドラゴンボールを使いたいから在処を教えろと言ったので、ナメック星の長老たちは力試しや謎かけで彼を試した。なんでもドラゴンボールとは長老たちに認められた勇者にのみ使うことを許され奇跡の球なのだという。

 セルは初め面倒そうにしていたものの「まあ、これも余興か。ただ体を鍛えるだけというのにも飽きたしな……いいだろう。パーフェクトな私に不可能なことは無い」と言ってそれを受けたようだ。薄々感じていたが、セルは随分と自信家なようだな。

 そして試練を全てクリアした彼はナメック星人達に勇者と讃えられ、ドラゴンボールを使用する権利をつかみ取り俺の封印を解いたのだ。

 

 俺はしばらく考えたが、このままではらちが明かないと覚悟を決め、俺はセルに協力を申し込んだ。あなたが負けそうになるたびにオレが何度でも封印する。だからどうかヒルデガーンを倒してくれ、と。

 正直完全体のヒルデガーンを封印するのは厳しかった。しかし何度やられても立ち向かうセルの姿が俺に勇気を与えてくれたのだ。

 

 

 

 勇者か……。

 勇者。勇気ある者。あるいは人に勇気を与える者。

 

 俺よりもよほど彼には似合いの称号だろう。

 

 

 

 そうしてセルはおよそ一か月に及びヒルデガーンに挑み続け、俺もセルがやられそうになるたびにヒルデガーンを封印することに耐えた。

 その立ち向かう姿に感銘をうけたナメック星人の不思議な力を借りて、負傷するたびに急激な回復を繰り返したセルはどんどん強くなっていった。彼が言うには「サイヤ人の細胞のおかげ」らしいが、俺にはよくわからない。だが、確実にセルがヒルデガーンを追いつめていることだけは分かった。

 そういえばホイだが、途中でセルが「目障りだ」と言って尻尾で吸収してしまった時は驚いた。本人は「魔術を使えるようになった」と喜んでいたが、彼の人格が無ければセルもよほどの化け物だな……いや、恩人に対して失礼だが。

 

 

 だが、セルが勝てるようになる前に俺の体にガタが来た。やはり気合いだけでどうにかなるほど甘くないらしい。

 

 

 すると、戦いを見守っていたナメック星人の最長老様が「ドラゴンボールを使ってどうにかできないか」と申し出てくれた。死人こそ出ていないものの、彼らも故郷の星を戦いで傷つけられて憤っているだろうに優しい人たちだ。いつか報いなければ。

 どうやら前回願いを2つ残したまま龍の神を帰したため、短期間での使用が可能になっていたらしい。ただし叶えられる願いは2つまでとのことだが、十分だ。龍の神の力を超える者に対して干渉するのは無理らしくヒルデガーンを直接倒すのは不可能だと事前に聞いていたが、ならば俺を封印に耐えられる体にしてもらえばいい。ヒルデガーンはきっとセルが倒してくれる。

 

 そう願おうとしたのだが、そこでなんとセルが別の願いを叶えてしまった!

 

 一つ目は、俺の笛と対になるもうひとつの笛の復元。

 二つ目は、なんと俺の弟ミノシアの蘇生!!

 

 蘇った懐かしい弟の顔を見た瞬間、俺は情けなくも泣き崩れた。救えなかった、死なせてしまった幼い弟……ミノシアが、かつてと変わらない笑顔で「兄さん」と俺を呼んでくれた奇跡に出てくる言葉が無かった。

 たしかにここ1か月、セルが自分の事を話さない分俺は自分の過去を語った。弟のことも話したが、まさかこんなこと……!

 

 セルは「1人で足りないならば2人で協力して封印すればいい。あと、そうだな。柄ではないが、私が強くなる手伝いをしてくれたお礼といったところかな?」といつもの余裕のある笑みで言っていたが、俺は彼に返しきれないほどの恩を受けた。俺が生涯をかけて彼に恩を返すと誓った瞬間である。

 

 

 こうして再びヒルデガーンを封印しながらセルが挑み続けるという日々が始まった。だが、今俺の隣には弟が居る。

 笛を吹きながら目配せする瞬間はいつも泣きそうになる。「兄さんってこんなに泣き虫だったっけ? しっかりしなよ! 僕たち勇者なんだから!」とミノシアが笑って時々からかってくるが、それすらも幸福だ。ああ、なんという奇跡だろうか。

 

 そしてついにセルの実力がヒルデガーンに追い付いた!

 

 俺がわたした勇者の剣を振りかざし、ヒルデガーンを縦に切り裂いたセルの姿は正しく勇者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、悪夢は再び訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやぁ? これはヒルデガーンじゃないか! 封印されたって聞いてたけどなんでこんな星に? なにはともあれラッキーだねぇ!」

「バビディ様、これは?」

「1000年くらい前にどっかの魔導士の寄せ集めが作った魔人さ。きっとブウには劣るだろうけど、でも寄せ集めが作ったにしては凄いよ! 欲しいね。ちょうど封印の器がそばにあるみたいだし、もらっていこうか。ふふふっ、休憩に寄った星で思わぬ収穫だよ」

 

 そんな声が聞こえたと思ったら、セルが完全にヒルデガーンを消滅させる前に俺とミノシアの体に再び魔人が封印された。この感覚、覚えがある……! 高度な封印の魔術だ!

 

「貴様、何者だ!」

「ボクかい? ボクはバビディ。宇宙一の魔導士さ!」

「おや、バビディ様、こやつなかなか素晴らしい邪心を持っていますぞ」

「そうなのかい? おっ、本当だ! ますますラッキーじゃない! どれ……」

「な!? く、ぐあぁぁああ!!」

 

 突如現れたしわくちゃの魔導士が何やらセルに術をかけたと思ったら、セルの額に何やら文様が刻まれた。するとセルは魔導士の前に跪きこう言ったのだ。

 

「バビディ様。私の名はセルと申します。以後、お見知りおきを」

「な、セル!?」

「お、お前!セルお兄ちゃんに何をしたんだ!」

 

 俺たち兄弟の問いかけにバビディと名乗った魔術師は面倒くさそうに答えた。

 

「ボクは悪い心を持った奴を操れるのさ。残念だけど、君たちは無理そうだね。……でも、痛い目見たくなかったら一緒に来てもらうよ。ボクの超素晴らしい魔術で君たちの体に魔人を封印したからね!」

「ふざけるな! セルを元に戻せ!」

 

 それで納得できるはずもなく俺はセルが取り落とした剣を拾って切りかかったが、腹部に強烈な蹴りをくらいふっ飛ばされた。バビディの隣にいた巨躯の男の仕業だ。しかも操られたセルまでもバビディの前に立ちふさがる。

 

「くそ、こんなことって……!」

 

 あと少し。あと少しだったんだ!! ヒルデガーンを倒し、弟と再び平和に暮らせると思ったのに……!

 

 

 

 

 

 それから俺たちは世話になったナメック星に迷惑をかけることも出来ず、大人しくバビディに従った。バビディの「宇宙一の魔導士」という名乗りは嘘でなかったのか、腹立たしい事にヒルデガーンの封印は完ぺきだった。そのため睡眠はとれたが、心境は最悪だ。

 

 バビディはかつて父ビビディが作り出し、しかし封印された魔人ブウを復活させるために地球に向かっているとのことだった。偶然にもセルの故郷だが……もともと俺が封印されたオルゴールも地球にあったというし、何かと厄を引き寄せる星である。

 俺とミノシアはなんとかセルの洗脳を解けないかと彼に話しかけ続けたが、性格は変わっておらず俺たち兄弟には気さくに話すもののバビディへの忠誠心だけは変わらなかった。

 

 

 

 そうして何もできないまま地球に到着し、俺たちはセルと現地で洗脳された人間と一緒に魔人ブウ復活のためのエネルギーを集める手伝いをさせられることになった。

 ちょうど天下一武道会という、この星の強者が集う大会が開催されていたためバビディはそれに目を付けた。スポポビッチとヤムーは大会に出場し選手の間から強いエネルギーを持つ者を探し直接吸収を狙い、俺たちは観客席から戦いの余波で発生するエネルギーを集める役だ。屈辱以外の何ものでもなかったが、今は大人しくしたがってどこかでバビディ達の隙を狙うしかない。

 

 

 

 …何が勇者タピオンだ。俺は、俺を救ってくれた友一人救えないじゃないか……!

 

 

 

 どうやらセルはこの星でも特殊な個体だったらしく、彼と同じ姿の種族は居なかった。そのため彼は「知っている人間の姿を借りたのだよ。カラーは趣味だがね」と言ってホイを吸収したことで使えるようになった魔術で地球人に擬態した。

 そうしてしばらく試合を見ていたのだが、スポポビッチの対戦相手が不思議な変身をすると凄まじい力を発揮し始めた!! そして予選落ちしたため観客席からそれを狙っていたヤムーが飛びかかったが、なんとそれを阻止しようとしたものが居た。可愛らしい女性だったが、彼女もすさまじい。ヤムーを守るために立ちふさがったセルと互角にやりあったのだ! セルは本気を出していなかっただろうが、それにしたって強い。

 

 

 エネルギーを吸収し終えるとスポポビッチ、ヤムー、セルは会場を飛び去り、俺たちもその後を追った。

 だがここへ来る前と違い、俺たちの胸には一つの希望が生まれていた。

 

「兄さん……この星の人、もしかして凄く強いんじゃない? もし協力してもらえたら……」

「ああ、俺も同じことを考えていた」

 

 ミノシアと頷きあい、前方を飛ぶ3人を見る。隙を覗ってどうにか地球人と接触できれば、あるいは……。

 

 

 

 

 我が友セルよ。きっと君を正気に戻してみせる。

 

 だから待っていてくれ……そして今度こそ、ともにヒルデガーンを倒そう。

 

 

 

「彼こそ真の勇者にふさわしい。絶対にあの魔導士から解放してやるぞミノシア!」

「うん! タピオン兄さん!」

 

 

 




ブロリー以外劇場版は完結後の番外編まで書かないと言ったな?あれは嘘だ(二度目
セルさんをうっかり宇宙に解き放ったら、武者修行の途中で劇場版を2つ3つぶっ潰してくれてました。



追記

バビディの一人称を変更しました。
最初「ボク」で書いていたんですが、コミックを読んでいたら「わし」と言っていて間違えた!?とビビって直して書いたら、続きを読んだら「ボク」になっていた……どういうことなんだぜ(困惑

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