とある姉サイヤ人の日記 《本編完結》   作:丸焼きどらごん

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魔人の暴走

「変な人間も居たもんだね」

 

 ビルス様のつぶやきにおやっと思う。暇つぶしかと思えば、この方が人間に興味を持たれるなど珍しい。

 

「ゴッドになったわけでもないし、勝てる保証もない。だっていうのに、楽しそうだ」

「たしかにとっても楽しそうですねぇ」

 

 私たちの前で行われる孫悟空さんと魔人ブウさんの試合は、見事というほかありませんでした。もちろんビルス様や私の視点からしたらまだまだ粗削りで無駄も多い、パワーも足りず無い無い尽くし。けど、ビルス様が興味を持たれる気持ちも分かるのです。

 なんていうんですかねぇ……。あんまりにも孫悟空さんが楽しそうに戦うもんだから、見ているこちらまで楽しくなってきてしまうんですよね。対する魔人ブウさんはそれが気に食わないのか、負けじと戦うものですから戦いは激化し、そしてお互いに動きを最適化していってるのでどんどん内容は洗練されていく。

 かと思えば思いがけない手段で攻撃したりするもんですから、気づけば笑ってしまっているからおかしなものです。ふふっ、まさか嚙みつくとは。おや、ブウさんは足を地面を通過させて不意をつきましたね。

 

 

 私もビルス様も魔人ブウの中にハーベストさんが捕らえられている事を知っています。それを含めて孫悟空さんがどう戦うのか興味があったのですが……まさか正真正銘、正々堂々真正面からとは。

 

「馬鹿な奴だねぇ」

「ですが、どうやら考え無しってわけでも無さそうですよ?」

「そうかい?」

 

 孫悟空さんと魔人ブウさん、戦いながらも何やら話している様子。

 

 

 

「なあ、魔人ブウよぉ! 楽しくねえか!?」

「楽しくない!」

「そうか? でも、やっぱおめぇ凄ぇよ! オラ、こんな楽しい全力の戦い久しぶりだ!」

「おだてたって空梨ちゃんは返さないわよ! あなた、ちょっと虫が良すぎるんじゃない!?」

「たはは……めぇったな。でもよ、悟飯たちを失っても強ぇままのおめぇなら、姉ちゃん出しちまっても平気なんじゃねぇか?」

「馬鹿言うんじゃないわよ! こっちはね、デブを半分以上失ってから理性を保つのに必死だってのに! 空梨ちゃんまで失ったら……ッ!」

「そっか。おめぇ、自分を無くすんが怖いんか」

「黙れ!」

 

 お二人とも、よく戦いながら言葉をかわせますねぇ。周りの皆さんは戦いの余波から身を守るのに必死だというのに。あ、でもベジータさんたちが頑張ってバリアを張ってますね。

 

「なあ、おめぇさえ受け入れるんなら神龍に頼んでおめぇの意識が無くならないようにって出来ねぇのかな?」

「はあ!? 何言ってるのよ!」

「だってさ、もったいねぇよ!」

「何が!」

「そうイライラすんなって。あそこにビルス様っていんだろ? あの人、宇宙一強いんだと! でさ、きっと前に見たスーパーサイヤ人ゴッドと同じかそれ以上だと思うんだ! でも、オラまだまだあの域にゃあ達してねぇ! だからもっともっと強くなりてぇんだ! だからよ、おめぇも暴れるのなんてやめて一緒に強くならねぇか?」

「馬鹿じゃないの!? 何が悲しくて戦闘馬鹿のサイヤ人の猿と仲良くしなきゃいけないのよ! わたしはね、魔人ブウよ! わかってるの!?」

「でもおめぇ、悪い事いっぱいやったけどチチたちは殺さなかったじゃねぇか」

「…………!」

「オラ、途中であの世から弾かれてから老界王神様の水晶玉で色々見てたんだぜ? 時期が来るまで動くなー、なんて言われて。だからおめぇのことずっと見てたんだ」

「だから何よ! わたしは無暗に殺すのはやめたけど、それは全部わたしのためよ! 地球の奴ら全員、わたしのおもちゃなの! すぐに壊しちゃもったいないだけ! だ、誰も殺してないわけじゃないしね! 見てたなら知ってるでしょ? お菓子にして食べちゃったもん!」

「えっと……まあそうなんだけどさ。でも、ようはおめぇ寂しいだけだろ?」

「ッ、な、何を……!」

 

 動揺した魔人ブウが動きを止めると、孫悟空さんもいったん動きを止める。

 

「ははっ、おめぇさ、性格悪ぃけどなんか姉ちゃんそっくりなんだよな。んで、姉ちゃんってあれでけっこう寂しがりなんだ。あと子供っぽい」

「か、関係無いわ……」

「そうか? オラにはおめぇが、寂しくて我儘言ってる子供にしか見えねぇんだけどな」

「だ、黙れ黙れ黙れ! うるさいうるさいうるさあああああい!!!!」

「おっと」

 

 おや、魔人ブウさんの動きに乱れが出てきましたね。動揺しているみたいです。

 

「寂しいならさ、オラ達と一緒に居ればいいだろ? で、もっともっと戦おうぜ! おめぇだってもっと強くなれんだぞ!」

「知らない! 興味ない! ほだそうなんて、とんだお馬鹿さんで甘ちゃんよ! わたしは魔人ブウ! 悪い奴なの!」

「でもさー! 前にすっげぇ悪い奴だったベジータや、セルまで今一緒にいるんだぜ? ピッコロ大魔王だったピッコロも、今じゃ頼れる奴だしな! あと、おめぇが悪い奴になったのって魔導士の奴がそう作っちまったからだろ? でも今のブウは自分の意志で動いてんじゃねぇか。今さら悪い奴って自分を縛ることもねぇと思うけどな!」

「だから、わたしもって? ふ、ふふふふふふふふふふ。教えてあげましょうか? わたしは、あんたみたいに色々持ってて上からモノ言ってくる奴、大っ嫌いよ……!」

 

 そう言うと、魔人ブウさんはこちらをちらりと見ました。その瞳に揺れる感情の色に、思わず眉根を寄せる。

 

「まずいですね。あれは、もうどうにでもな~れ! と思ってしまっているお顔ですよ」

「ふぅん、つまり僕の存在なんてもう関係ないって?」

「ええ。あけすけに言うと、やけっぱちになっていますね」

 

 

 いくら頑丈に出来ているとはいえ、界王神界が無事に済めばいいのですが。

 まあ、いざとなったら時間を巻き戻して再生くらいしてさしあげましょうか。あまりにも不憫ですし。

 

 

「理性なんて、もう邪魔よ。ふふふふふ、あはははははははは!! 孫悟空、貴様を殺せたら、もうそれで構わん! 色々考えるのは、もう面倒だ!! ははははは! 苦しめ! もうわたしは惑わされない! 姉もろとも殺すがいい!」

「! ブウ、おめぇ何を……!」

 

 

 ブウさんは金切り声をあげると、口の中をもごもごと動かして何かを吐き出した。おや、あれは太った魔人ブウさんの一部ですね。

 すると女性型の魔人ブウさんの体は一回り小さくなり、同時にその瞳から理性の光は消える。

 

 

「ビルス様、どうなさいます?」

「うん? どうもしないねぇ。ここでブウを破壊するのは簡単だけど、どうせだ。このままあいつらがどうするのか、見物しようじゃないか」

「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 さて、これでブウさんを説得してハーベストさんを取り戻す手段は消えてしまいました。

 

 どうしますか? 孫悟空さんに、地球の皆さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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