第六宇宙との対抗試合は、知り合いをたくさん呼んでの半ピクニック気分でのお出かけとなった。子供たちもみんなで出かけられるのが嬉しいからか、とても喜んでいる。
現在はバスガイドよろしく試合会場までの旅の案内をアナウンスしてくれているウイス様のもと、悟空とベジータが到着するのを待っている所だ。
「わーい! おっでかっけおっでかっけ! ピクニックぅ! 悟天くんちゃんとおやつもってきた? おやつは300ゼニーまでよ!」
「わかってるけど、エシャロットそれさぁ、絶対300ゼニー超えてるでしょ? 駄目だよ。自分で言いだしたことなんだから守らないと」
「ぶー! 手作りは買ったお金に含まれませーん! だって家にあった材料でお母さんと作ったんだもーん」
「あ、ずりぃぞエシャロット! 後で俺たちにもわけろよなー!」
「ふふ~ん、どうしよっかな~」
「わたし、エシャロットちゃんのお菓子好きー!」
「うん、マーロンには分けてあげるからね! クッキーもマフィンもブラウニーもスコーンもい~っぱいあるから! ……悟天とトランクスはねぇ……どうしよっかな~。そうだな~、買ってきたお菓子をちょっと分けてくれたら、交換してあげても……」
そう言ってお菓子が詰まったバスケットを背に隠し、フンふんと鼻歌交じりに悟天とトランクスをチラ見するエシャロット。そんなエシャロットに、いつものごとく呆れたような声をかけるのは龍成だ。
「エシャロット。お母さんがみんなで分けなさいって言ってただろ? 独り占めは、めっ」
「な、何よぉ、めって! 子ども扱いしないでよね!」
「ははっ。ま、とりあえずみんなで仲良くね。エシャロットも、本当はそんな意地悪言うつもりないんだろう?」
「あ、空龍」
「お、お兄ちゃん。むぅ、わかった……ごめんなさい」
う~ん、今日も子供たちは仲がいいなぁ。いいことだ。
そう思って私はブルマんちの庭の……隅の方から突き刺さってくる視線を無視することにした。現実逃避であることは重々承知だが、私にそちらをまともに見る勇気はない。
おっといけない! チチさん18号さんと、持ってきたお弁当について話さないと! チチさんが中華、18号さんがサンドイッチ、私がおにぎりの担当だったからな。広げる時にうまい具合に分散できるように今のうちに打ち合わせしておこう。紙コップやお皿、おしぼりの数も確認しておかないと。ここら辺はブルマが用意してくれたから大丈夫だと思うけど確認って大事だよね! あ、そうだ。ランチさんには飲み物頼んでたから、ソフトドリンクとお酒運ぶの手伝わないと! 重いし! あーそうそう、チチさんバーベキューセットも持ってきてくれたんだよね! 炭の準備は大丈夫かな!?
…………。しかし、好奇心というものはどうしても湧いてくるもので。
私は忙しいふりをしつつこっそりと、腕を組んでめっちゃ顔しかめてるフリーザ様をチラ見した。
「…………。何故私がこんなほのぼのとした、虫唾が走る平和そうな場所に居なければならないんです? あのお花畑の地獄を思いだして、反吐が出ますよ」
「ふ、フリーザ様。心中お察しいたします。そこで、どうでしょう! よければ新生ギニュー特戦隊のポーズをご覧になってください! 五十三パターンもあるんですよ!」
「そこでなんであなた達のポーズを五十三パターンも見なければならないんですか!! ギニューさん、ちょっと黙っていてくれます? もう一度部下にと申し出てくれた気持ちは嬉しいですが、ずいぶんと平和ボケした様子のあなたにかしずかれても、ねぇ」
すげぇギニュー隊長。気まずさもなんのそのでフリーザ様にグイグイ行ってる。隣のジースくん顔、赤い肌なのに顔真っ青になってるけど大丈夫か。ここ数日のフリーザ様のお世話完ッ全に任せっきりにしちゃったけど、本当に大丈夫だったんだろうか。ギニュー隊長は生き生きとしていたけど。
やっべ、ギニュー隊長見てると試合の後フリーザ様にご臨終頂くのちょっと申し訳ない。まあ思うだけなんだけど。
「へ、平和ボケしていた事は否定できませんが……! ですがこのギニュー! フリーザ様への忠誠心は未だ変わりません! なあジース!?」
「はい、もちろんです!」
「だったら何故ソルベさんが行動する前に、ずっと地球に居たあなた達が、私を生き返らせようと思わなかったんです? それも、私の復讐相手と仲良しこよしで暮らしながら。……その忠誠心も疑わしいものですね」
「それは……その……」
言い淀むギニュー隊長。ああ、それ私も前に一度聞いたことあるな……。絶対にフリーザ様本人には言えないだろうけど。
「はっきりと言えない理由でも?」
フリーザ様が赤い瞳でじろりと睨む。するとギニュー隊長は、こそっとジースくんに耳打ちをし始めた。
「…………ジース。どう言えばいいと思う? 俺達がカエルになって身動きできない間に、凄く強い相手ばかり出てきてフリーザ様を生き返らせても恥をかかせてしまうだけかと思っていたなんて……」
「い、言いにくいですねこれは……。まさかフリーザ様がもっとパワーアップできるなんて知らなかったし、我々がフリーザ様の強さを侮り余計な気遣いをしていたなんてとても言えな」
「聞こえてますよお馬鹿さん達!! ずいぶんとこのフリーザを舐めてくれたものですね!」
「「も、申し訳ございません!!」」
言っちゃったよ!! そりゃあ目の前で話してればこそこそ話そうが聞こえるわ!!
…………まあ、そうなんだよね。二人としてはセルだのブウだの出てきたのを目の当たりにして、それに対する悟空たちの成長も見ていたから、フリーザ様が復活したとしてもすぐに倒されて地獄に逆戻りなんて恥、かかせたくなかっただけなんだよなぁ……。
だってナメック星時点でのフリーザ様がセルとかブウとかそれ以前に、16号とか17号とか18号さんとかにも勝てるはずないっつーか……。……うん。実は最終形態はともかくナメック星の初期形体のフリーザ様だったら、当時測った戦闘力見る感じ人造人間編の時のクリリンくんとかヤムチャくんとか地球人サイドだけでも倒せるっつーか……改めて考えると短期間でのパワーインフレ酷い。実際ブウ編に混じったジャネンバ騒動の時は、フリーザ様なすすべ無く私に倒されちゃったわけだし。
いや、復活したフリーザ様のパワーアップ具合もえげつないけどな。
けど今までを振り返って考えると、彼らの気遣いは正しかったと思う。フリーザ様にしてみれば余計なお世話かもしれないけど。
…………いや、まあ、キレるお気持ちも分かりますけどね……。
「な、なあ。やっぱりフリーザを参加させるのはまずいんじゃないか?」
「同感だ。いつ何をしでかすかわからんぞ」
そう言ってこそっと私に話しかけてきたのは、ナメック星でフリーザ様に殺されたことがあるヤムチャくんと天津飯だ。餃子師範もその時の事を思い出したのか、フリーザ様を睨みながら頷いている。
「いや、多分試合中はその心配はない。ビルス様が居るから」
「でも、試合が終わった後はどうだ? ……子供たちも居るし、俺はそこら辺が心配だよ」
「気遣ってくれてありがとう、ヤムチャくん。……本当に何でヤムチャくんみたいないい人が独身なのか分からないわ……。あ、モテすぎて選べないパターンか」
「え!? そ、そう褒めるなって! 俺は当然のことを言っただけだぜ? ははっ」
そう言ってこそばゆそうに笑うヤムチャくんだけど、いや本当この人いい人だわ……。いい人過ぎて時々ナメック星でのことを思い出すと凄く申し訳なくなる。今度いい縁に巡り会えるように恋愛運占ってあげよう。
私がややしょっぱい気持ちになっていると、次に会話に入って来たのはラディッツだ。
「まあ、ヤムチャの懸念も最もだろう。けど心配するな。何かあったらフリーザと戦う前に、真っ先に子供たちや他の連中を瞬間移動で避難させろとカカロットに約束させた。だからもしそうなった時、瞬間移動がしやすいようにみんなを一か所に集めるのだけ頼めるか?」
「そういうことなら僕に任せて! 悟空みたいに宇宙中を移動できないけど、近距離のテレポートだったら一瞬でみんな集められるよ!」
「みんなを一瞬で!? さ、流石です師範……!」
「餃子は弟子が出来たこともあって、日々超能力の向上を頑張っているからな。これくらい容易いさ」
天津飯が自分の事のように誇らしげに言うと、餃子師範は照れたように頭をかいた。……私もまた餃子師範のとこ修行に行こうかな。
なんというか私って戦闘力だけは強くなったけど、餃子師範と占いババ様は一生尊敬し続けられる師匠だと思う。悟空やクリリンくんにとっての亀仙人様も、そんな存在なのかな。
とにかくそんなわけで、フリーザ様の事は全部試合が終わった後だ。
フリーザ様も頭のいい方だから、試合の間は破壊神の前で下手な動きはしないだろう。…………試合後に向けて布石を打つ可能性はあるが。
しかし出来るなら今のところフリーザ様を刺激したくないのが本音。試合が終わるまで大人しくしてくれているにしても、パワーと共に怒りも蓄積されたら後が怖い。
だってのによぉ!!
「やあ、フリーザ。改めてご挨拶させて頂こうか。私はセル。君にとって兄弟のような存在でもある」
「はじめましてフリーザちゃん! わたしの事はブウ子って呼んでねん♡ 本名? は魔人ブウっていうんだけど、あっちの太っちょの子も同じ名前なのよ。あ、呼び方はブウ子ちゃんでもいいわ~」
「いや話しかけてんじゃねーよ新旧ボス勢!!」
近寄らないようにしてたのに思わず近寄ったわ!! くっそ悟空とベジータが精神と時の部屋に修行行っててまだ帰ってこないせいで余計な交流時間が!! せっかくここ数日隔離してたのに!!
「兄弟? ふぅん……。奇妙な事をおっしゃいますねぇ。一応私にも兄は居ますが、あなたみたいな人に兄弟を名乗られる覚えはありません。それに魔人ブウですって? ホッホッホ。そんな弱そうな身で随分と大言壮語を口にしたものです。なかなか面白いジョークですよ? それに話に聞けば、魔人ブウは孫悟空に倒された、という事でしたが」
「いやん! 嘘じゃないわよぅ。今は弱体化してるけど、ホンモノよ本物! よければサインあげちゃうわ」
「結構です」
試合前で攻撃されないことをいいことに、フリーザ様にすり寄ったブウ子を無言で引きはがした。そしてブウ子の手元を見ればスマホを握っており、いつの間に撮影したのか「宇宙の帝王なう」とかインカメラで撮ったっぽい写真付きでチュイッターに上げてやがった。おいヤメロお前刺激すんなぶっ飛ばすぞ。
「私が兄弟だと言ったのは、私の体に君の細胞が使われているからだ。なにせこの体は、もとは科学技術によって生み出された人造人間でね。クックック、君の新形態、ゴールデンフリーザだったか。少々下品な色合いだが、あれはあれでなかなか派手でいい。これは私も究極神ゴールデンセルになって対抗すべきかな?」
「細胞を? ……気持ち悪い事を言ってくれますね。もしそれが本当なら、今ここで消し飛ばしてあげたいくらいですよ」
「本当だとも! そして試合後にフリーザ、君と戦うのは私だ。今から楽しみでしかたがない」
「あなたが? ホホッ、私が死んでいるうちに訳の分からない身の程知らずが増えたものです。そんなにお望みなら、ご希望通り戦ってさしあげますよ。その気持ち悪いにやけ面を恐怖に染めて粉々にしてあげま「っし!!」……しょう」
フリーザ様の台詞の途中でセルがガッツポーズした。おいどうしたお前。
「はーっはっは! 言質は取ったぞ! 試合後にフリーザと戦うのはこの私だ! 悟空にベジータめざまぁ見ろ、遅刻して来るからこうなるのだ馬鹿め! フフフ、楽しみにしているぞフリーザ! 本当に楽しみにしているからな!! 流石とある時空では私と一緒に必殺技を生み出す仲! わかっているじゃあないか。クックック……!」
うわセルの奴フリーザ様と約束取りつけやがった。普段の余裕ぶった態度が見る影もなく喜んでる。……よっぽど試合に出られないのが悔しかったんだな……。というかさらっとGTネタ出すなよ……お前どんだけ私の日記を読み込んだんだ……そして私もなんで肝心なことは書き残してないのにしょうもないネタじみた内容ばっか残してんだ……。
そんな風に思いつつ澱んだ目でセルを見ていた私だったが、次の瞬間身に打ち付けられた怒号に思わず飛び上がった。
「ハーベストさん。このお馬鹿さん達も、あなたのお仲間でしょう? さっさと私の前から消しなさい! 今すぐに!!」
「は! ただいま!」
額に血管浮き上がらせたフリーザ様の命を受けて、私はブウ子とセルの首根っこを掴んで急いでその場から離れた。
「馬鹿野郎フリーザ様刺激してんじゃねーぞこれ以上ややこしくすんな! ベジータが居ない今中間管理職的な役目が来るの私なんだからな!!」
「もう部下でもあるまいに、そんなホイホイ命令を聞いていいのか?」
「未だに様付けしてるのもちょっとどうかと思うわん」
「うっさいわ!!」
「あ、あのフリーザって奴、悪い人なんだよね? お母さんとどういう関係なの?」
「…………聞いてくれるな」
ちなみにちょっと遠い所で、空龍に質問されてラディッツが困っていた。
その数十分後にようやく悟空とベジータがやってきた。
そして私たちはようやく透明な箱のような乗り物に乗って、ビルス様の星を経由して試合会場である「何もない星」に向かうのだった。
キャラが多すぎてだべってるだけで一話終わってしまった罠