好奇、嫉妬、羨み、そんな視線が、今俺に注がれている。
何でかって?簡単な事だ、今俺は姉さんと一緒に学園の廊下を歩いているからだ。
この学園にも、姉さんの狂信的ファンが、居るようでしかもそのファンが、アレな女性と言う事もあり、今にも殺しにきそうな視線が、俺に向けられているのだ。
「学校は、楽しんでる?」
「其れなりに。まぁでも、嫌いじゃ無いねISを学ぶこと以外」
「ふふ、そう言えば、夕紀は学園祭のクラスの出し物には出ないんでしょ?」
「あ、ああ、そうだけど」
そんな視線の元凶は、気にせず隣で笑いながら、並んであるていた。
そしたら、突然俺が、学園祭の出し物に出ない事を聞いてきた。何故だろうか、嫌な予感しかしない。
「私のライブの演奏してくれない?」
俺の時間が、数分止まった。
「はあぁぁぁ!!??」
まぁ、断ったけど。
「はぁ、諦めろよ姉さん」
「ふーんだ。夕紀は、私のお願い事を聞いてくれないなんて、悲しいんだもん」
「膨れんなよ、面倒くさい」
姉さんは、未だに俺が、やってくれない事に頬を膨らませながら、いじけている。
いい歳した(と言っても、22歳だけど)大人が、15の弟がお願いを聞いてくれないだけでいじけるとか、笑えないんだよ全く。
廊下を進んで行き、屋上に出た俺と姉さんは、柵にもたれながら話しをしていた。
「だって、夕紀の演奏なら、何時もより張り切れるのに」
「張り切らんでいい、その後の俺の事も考えろよ。多分姉さんが、居なくなったら襲い掛かって来るぜ?まぁ、来たとしても、丁重に受け流すけど」
「なら、いいじゃん」
「良くねーよ。其れに俺は、学園祭が終わったら、学園はやめるんだから、悪目立ちはこれ以上は、したく無いんだよ」
「……分かった、でも、偶にだったらやってもらっても良い?」
「まぁな、でも高校卒業したら、マルコスとか、ジョセフ達の指導を本格的にやるから、あんまり出来ないから」
「うん、大丈夫だよ!」
俺のまた今度だったら、やると言う返事に姉さんは、すっかり機嫌を良くしたのか、鼻歌を歌い始めた。
本当に、あの時見せた、尊敬出来る姉の姿は、何処にいったのやら、最近そんなの見てないなぁー。
「ねぇ、夕紀?」
「ん?何だよ姉さん」
「夕紀は、まだ文ちゃんの事を引きずってる?」
デジャブかよ、振り向いた姉さんの顔は、愚姉の姉の顔じゃなくて、あの時俺を慰めた時の顔をしていた。
「……信じないだろうけど。臨海学校の時、俺さ、文に会ったんだ」
「………そう」
普通ならありえない事でも、姉さんは何も言わずに、相槌を返す。
俺は、そのまま言葉を続ける。
「それで、あの時に伝えられ無かった事と、やり残した事をしてきたんだ」
「………それで?」
此処まで、来ても姉さんは何も言ってこない。
「文の事を、忘れた訳じゃ無いけど前よりかは前向きに考える事が、出来て来たんだ。引きずっているって言ったら、引きずっているけど今は前よりもずっと前に進める気がするんだ」
「………」
最後まで、言った後姉さんは何も言って来なかった。
でも、俺には、其れで良かった。今何か言われたり、されたりしたら多分自分を保て無くなる。
俺は、俺という人間が、脆い事は知っている。姉さんもこの事を知っているからこそ、この時は何もして来なかったのだろう。
「……ねぇ、夕紀?」
「……なんだよ」
「今は、楽しい?」
「前よりは、こっち来てから、何も嫌な事ばかりじゃなかったし、良かったって思える事が、少しだけ出来たから」
「そう」
日高達以外の面白い奴に会ったり、文に会えたり、多分今の俺には、何かしら影響を与えてくれたのだろう。
屋上には、清々しい風が吹き抜けていた。