「うーん。今日は休みか」
土曜日。紛れもなく休みである。
とはいっても、デッキ調整くらいしかすることはないが。
軽く身支度をすると、一階に降りた。
そこには、遊世の父親である宮襟光一郎が新聞を読んでいる。
「遊世か」
「父さん帰ってたんだ」
光一郎は現在プロデュエリストである。
見た目が20歳後半という、女性が羨ましく思うほどのアンチエイジングである。
デュエルリーグチーム『シルバリオラスター』の切り札的存在であり、スペクトルモンスター至上主義というか、実の息子である遊世にもあまりいい印象はない。
遊世本人に実力はあるので強く何かをいってくることはないが。
どちらかというと妹の方が父さんにとっては印象がいいらしい。
困ったものだが、まあそれは今始まったことでは無論ないので仕方がないのだが。
というか、父さんを相手にしたときの遊世の勝率は八割である。
「まだスペクトルモンスターを手に入れていないのか」
「ああ、まだだな」
「そうか」
それきり何も言わずに、また新聞に目を通し始める。
遊世はそこにいるのが嫌になったので、デッキがポケットにあることを確認したあと、家の外に出る。
すぐ横の建物に入ると、白い塗装のDホイールがあった。
どうでもいいがモーメントエンジンである。
ヘルメットをかぶってシートにまたがると、発進させた。
「とはいっても、特にすることもないしな」
どこにいこうかと考えていたときである。
急に後ろから二人ほどDホイールに乗ってこちらに走ってきている。
モニターで確認するが、この塗装、『シルバリオラスター』のものだ。
「一体なんだ?いや、なんか黒い塗装が混じっている。これはいったい……」
完全に銀色で統一されるチームだ。他の色が混じることは今までにはなかったはずである。
「ん?」
Dホイールから黒い光が遊世のDホイールに向かってくる。
しかも、ものすごく早い。
だが、それは遊世を捉えられる理由にはならない。
「うおおおおお!」
遊世は、揶揄的な表現ではなく、文字通り消えた。
そして、かなり遠くの方で再度出現する。
「はぁ、はぁ、デュエル以外でこれをすることになるとはな」
「さすが遊世君だね」
「ん?」
ふと見ると、赤い塗装のDホイールが遊世の横を走っていた。
このDホイールは……氷菓のものだ。
遊世、氷菓、あと鉄也も、Dホイールのライセンスを持っている。
だが、氷菓の家の近くには一通り店が揃っている立地なので、氷菓自身もかなり乗る機会は少なかったはずである。
Dホイールに乗ることが不自然なのではなく、Dホイールを使うような距離に、氷菓が使用する施設がないのである。
「氷菓か……ん?」
氷菓の赤いDホイール。黒いラインがあった。
「洞察力は高いね。遊世君」
「氷菓もか」
氷菓のDホイールから黒い光が来るが、あまりにも気が動転していてあれが使えなかった。
「こ、これは……」
その時、デッキがオートシャッフルされ、カードが上から五枚排出され、LPが4000に表示された。
「それと、相手は私だけじゃないよ」
げ、さっきの二人が追い付いてきてる。
「さあ、デュエルだよ」
「ったく、めんどくさいことになったぜ。本当に」
「「「「デュエル!」」」」
遊世 LP4000
氷菓 LP4000
レイ LP4000
美鈴 LP4000
「私の先行。私は手札から、『隕石獣エルオゼブラ』を召喚」
隕石獣エルオゼブラ ATK1600 ☆4
隕石が降ってきて、それがシマウマに変わる。
氷菓の先行をもっていかれるとは。
……ん?モニターになにか表示が……。
【ターン順序
氷菓→レイ→美鈴→遊世(バトルフェイズ可能)】
いやあの、これって勝手に決められているよね絶対。
「私はフィールド上に同名モンスターがいることで、手札から、エルオゼブラを特殊召喚する」
隕石獣エルオゼブラ ATK1600 ☆4
レイゴイーグルと同じ条件か。こちらの方がレベルも攻撃力も高い。
「さらに私は『PO メテオライノ』を発動し、さらに、エルオゼブラ二体とメテオライノを除外して、スリットチェンジ。降り注ぎ、燃えることなく突き抜けろ。スペクトル召喚!レベル7。『隕石獣ウルガーナ』」
隕石獣ウルガーナ ATK2400 ☆7
来たか。氷菓のエースモンスター。
「さらに私は、永続魔法『PO ダークマター』を発動」
「だ、ダークマターだと、そんなカード聞いたことないぜ」
「遊世君。これが私が手に入れた新しい力だよ」
いや、その力は、恐らく氷菓が意図したものではない。
確信はないが、あのPO。あのカードになにか意思が宿っているのを感じるのだ。
「いくよ遊世君。私はウルガーナとダークマターを除外して、スリットチェンジ」
ウルガーナが光の線に変わっていき、そして、出現した黒いプリズムを貫通した。
「スペクトル召喚。レベル7。『
黒隕石獣ウルガニア ATK2400
真っ黒のウルガーナだった。
攻撃力やレベルは変わっていない。
だがあれは……なにかが変だ。
「ウルガニアの効果を発動。自分の除外されている隕石獣モンスターをすべてデッキに戻して、その数一体につき300ポイントアップする」
このタイミングで発動すると言うことは……攻撃力上昇は永続的なものか。
「私はエルオゼブラ二体とウルガーナをデッキに戻して、攻撃力を900ポイントアップする」
黒隕石獣ウルガニア ATK2400→3300
「攻撃力3300か」
「ふふ、私はこれでターンエンドだよ」
手札残り一枚はモンスターカードなのか、それとも魔法カードなのか……ただ、いつもの氷菓ならいきなりスペクトル召喚をするスタイルではないのだ。
ほぼ確実に、あのカード、ダークマターだったか、あれが関係している。
というより、あのウルガニアというモンスターを出すことを優先させている。
「私のターン。ドロー」
今まで気づかなかったが……ひょっとして全員女?やることは変わらないけど。
「私は『アルドレッド』を召喚」
アルドレッド ATK1400 ☆4
赤いモジャモジャした何かが出現。
カテゴリーに属するモンスターではなかったはずである。
シルバリオラスターは、
安定性も、いざというときの火力もそこそこ高く、少々値段は高いが、プロデュエリストでは使っているものをよく見かけ……いや、シルバリオラスターの人数が多いだけか。
「アルドレッドの効果を発動。手札からレベル4以下のモンスター一体を守備表示で特殊召喚し、さらにこのカードを守備表示にする。私は『デリルフーモ』を守備表示で特殊召喚。そして、アルドレッドを守備表示に変更する」
デリルフーモ DFE1000 ☆3
アルドレッド DFE800 ☆4
「私は手札から『PO ダークマター』を発動。そして、ダークマター、アルドレッド、デリルフーモを除外して、スリットチェンジ。スペクトル召喚!レベル6。『ダークフェイル』」
ダークフェイル ATK2300 ☆6
ちょっと黒くて目の色がヤバい狼が出てきた。
ダークマターはスペクトルモンスターを変化させるカードだと思っていたが、それは違うようだ。
アルドレッド、デリルフーモ、この二体はレベル、種族、属性がすべて異なるモンスターだ。この二体でスペクトル召喚の素材を満たすことができるスペクトルモンスターはいなかったはずである。
あのダークフェイルというモンスターは、POをダークマターに限定するが、比較的楽に出すことができるモンスターなのだ。
「私はこれでターンエンド」
ダークフェイルの効果は分からないが、あの姿からすると……攻撃するときに発生するもののようだな。
「私のターン。ドロー。私は手札から魔法カード『ダークバランス』を発動。フィールド上にいる、『PO ダークマター』をPOとして特殊召喚されたスペクトルモンスター一体につき一枚、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚できる」
あ、専用のサポートカード、あるんだ。
「私は手札から『アークダイノ』と『カミュレウム』を特殊召喚」
アークダイノ ATK1500 ☆4
カミュレウム ATK1600 ☆4
あの二体、確か、スペクトル召喚の際の素材になったときに、除外されて効果を発動するモンスターだ。
「私は『PO ダークマター』を発動し、ダークマター、アークダイノ、カミュレウムを除外して、スリットチェンジ。スペクトル召喚!レベル6。『ダークフェイル』」
ダークフェイル ATK2300 ☆6
「さらに、アークダイノの効果により、攻撃力は400ポイントアップ、カミュレウムの効果で、貫通能力を得る」
ダークフェイル ATK2300→2700
二枚合わせて『ビッグバン・シュート』だな。
「私はこれでターンエンド」
うむ、やはり、ダークマターを経由するモンスターを狙って出しているように見える。
「さて、俺のターン。ドロー!」
さて、Dホイールに乗っているわけだし、あれやるか。
「まずは手札から魔法カード『カセドラルコール』を発動。手札の『聖堂剣』をコストにして自分のデッキから、聖堂軍の通常モンスター一体を特殊召喚する。俺は『聖堂剣レルーム』をコストにして、『聖堂軍ワイズ』を特殊召喚する」
聖堂軍ワイズ ATK2400 ☆7
「さらに俺は、墓地の『聖堂剣レルーム』を除外して、『カセドラーム』を特殊召喚する」
カセドラーム ATK500 ☆1(チューナー)
「レベル7の聖堂軍ワイズに、レベル1のカセドラームをチューニング、シンクロ召喚!レベル8、『聖堂軍ダルクオーム』!」
聖堂軍ダルクオーム ATK2500 ☆8
「ダルクオームの効果を発動。このモンスターが特殊召喚されたモンスターのみでこのモンスターのシンクロ召喚に成功したとき、聖堂剣をコストにして、デッキと墓地から、レベル1のモンスターを一体ずつ特殊召喚する。俺は『聖堂剣ホライゾン』をコストにして、墓地から『カセドラーム』、デッキから『聖堂軍キザキ』を特殊召喚する」
カセドラーム ATK500 ☆1(チューナー)
聖堂軍キザキ ATK200 ☆1
「俺はレベル1の聖堂軍キザキに、レベル1のカセドラームをチューニング。シンクロ召喚!レベル2、シンクロチューナー、『聖堂軍レイス』」
聖堂軍レイス ATK800 ☆2(チューナー)
「シンクロチューナー、来るのね」
「その前に仕込みだ、俺はレイスの効果を発動、手札から『聖堂剣ツナミ』を開示することで、デッキから、『聖堂剣』を一枚墓地に送る、俺は『聖堂剣ホライゾン』を墓地に送る」
さあ、準備完了だ。
「俺は、レベル8、シンクロモンスター『聖堂軍ダルクオーム』に、レベル2、シンクロチューナー『聖堂軍レイス』をチューニング!」
思考がハッキリと、そして、身体中が風になっていくのを感じる。
……行ける!
「アクセルシンクロオオオオオ!」
遊世は消えた。
そして、氷菓の横から、ハイスピードで駆け抜ける。
新たなモンスターと共に。
「現れろ、レベル10。アクセルシンクロモンスター、『聖堂軍スターゲイザー』!」
聖堂軍スターゲイザー ATK3500 ☆10
多くの聖堂軍のモンスターの剣は鉄でできた色をしているが、スターゲイザーの剣はプラチナであった。
そして、剣の刀身に、三つの丸い穴が開いている。
「これが、アクセルシンクロ……」
「そうだ。俺はスターゲイザーの効果を発動、このモンスターのシンクロ召喚に成功したとき、自分の墓地、または除外されている『聖堂剣』を合計3枚選択し、このモンスターに装備する。俺は、除外されている『聖堂剣レルーム』と、墓地の『聖堂剣ホライゾン』二枚を選択し、スターゲイザーに装備する」
「そんな……」
墓地と、そして除外されていた三本の聖堂剣が出現すると、突如発光し宝石になって、スターゲイザーの剣に嵌め込まれる。
「ホライゾンの効果は、装備モンスターの元々の守備力分、攻撃力がアップする。そして、聖堂剣レルームは、装備モンスターは、装備している聖堂剣一枚につき、相手のスペクトルモンスターに攻撃できる。スターゲイザーの守備力は2000。よって、攻撃力は4000ポイントアップし、スペクトルモンスターにだけだが、三回の攻撃が出来る!」
聖堂軍スターゲイザー ATK3500→7500
「攻撃力……7500!?」
「行くぞ!俺は『聖堂軍スターゲイザー』で、『黒隕石獣ウルガニア』と『ダークフェイル』二体に攻撃!『アブソリュートライジング』!」
スターゲイザーが三体のモンスターを一刀両断にする。
氷菓 LP4000→0
レイ LP4000→0
美鈴 LP4000→0
ワンターンサンキル達成!
三人のDホイールが急減速したあと、Dホイールから黒い部分が消滅した。
遊世はDホイールを止めておりたあと、氷菓のDホイールのところに行った。
氷菓はデュエルの影響なのか気絶している。
試しにデッキを見たが、『PO ダークマター』は入っておらず、エクストラデッキにも『黒隕石獣ウルガニア』は存在しなかった。おそらく、他の二人も似たようなものだろう。
遊世はデッキを戻した。
丁度、氷菓が目覚めた。
「あ、遊世君」
「氷菓。大丈夫か」
「え、あ、うん。遊世君が勝ったからかな。嫌なものが全部抜けていったんだよ」
やはりそういうものなのか……。
「今日はもう休むといい、一緒にいくか」
「うん」
氷菓はいつも通りのいい笑顔だった。
シルバリオラスターの二人は、実はこのとき目覚めていたのだが、なんとなく話しかけにくかったのだそうだ。
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「おい、計画はどうなっている」
とあるビルの屋上、一人の男性が、黒い何かに話しかけている。
「私が行っている範囲では、失態はない。ダークマターの所有者は、順調に増えている」
「そうか、全ては『ラフェル』様の為だ。失態は許されんぞ」
「分かっている。ラフェル様の完全復活のためには、多くの生け贄が必要、その為には、ダークマターを所持させる必要がある」
「その通りだ。我々『DSOU』の栄光のためだ」
その時、男のポケットからバイブ着信があった。
「どうした」
『マスター。実はチームメンバーのうち二人から連絡があり、ダークマター化を解除されたと』
「なんだと!鈴川、どういうことだ!」
『ダークマターモンスターを持ってしても倒せないデュエリストがいたと言うことでしょう。しかも、三人で戦っても勝てなかったとのことです』
「ダークマター化による洗脳が解かれているようだな。と言うことは、スペクトルモンスターは使われていなかったのか?」
『はい、確か、『聖堂軍』と呼ばれるモンスターを扱う、シンクロ使いだと』
「と言うことは……」
『ええ、宮襟遊世、彼によるものでしょう』
「くそ……」
男は通信を切った。
「彼に邪魔されたのですか?」
「ああ、その様だ」
「妙な偶然ですね。今あなたが乗っ取っている体の、本人の息子さんでしょう」
「ああ、まだスペクトルモンスターを手にいれていないがな」
「そうですか。まあ、彼一人が出来る範囲にも限界はあります。深く考える必要はありませんよ」
「だといいがな」
「ふふ、それではわたしはこれで」
「ああ」
黒い何かは消えていった。
「くそっ、不確定な部分が昔から多いとは思っていたが、まさかここまでとはな」
月の光が男を照らした。
その顔は、黒い何かが言ったように、宮襟光一郎のものだった。
スターゲイザーはまだいいだろう。効果耐性は皆無なのだから。
だが、ダルクオームは鬼畜である。