I will give you all my love.   作:iti

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*注意! 前回と直接的な繋がりはありません。


Epic of Mordred.
Artoria ni soltukuri na otokonoko.


 この数年は大変だった。まず貧困の極みにあったブリテンの食糧事情の改善。その対策としてアルトリアは主な手段として他国から食糧を買い上げ、それを民衆に配給する手段を取っていたが、それではやがて必ず限界が来るということは一目瞭然だった。彼女自身、その事は理解していたが、まずは侵略してくる異民族を制圧しなければ、政策を打とうにもどうにもできなかったのだ。

 

 私は考え、アルトリアに異民族の侵略には制圧するという手段でしか、解決できないのかということを告げた。異民族が略奪・侵略それ自体が目的ならどうしようもないが、大国に生きる場を追われ、自分たちの生きる場を確保するためにやむをえず侵略せざるをえない状況に陥っているのだとしたら……戦わずして場を収める手段があるのではないかと問うたのだ。

 

 それは前世において平和ボケした私の甘ったれた考えだったのかもしれない。しかしアルトリアは真剣な眼差しで私の言葉を聞いてくれて――そうして今、ブリテン島に侵略している異民族が海の向こうに広がる大陸に存在する大国――ローマ帝国の侵略に生きる場を追われ、押し出される形でこのブリテン島にやって来ていることが分かった。

 

 その事実を知っても、アルトリアは迷っていた。無理もない、私が提案した異民族の受け入れとはあまりにもリスクがあった。ただでさえ貧困した土地に住まう人が増えればさらに民衆に負担がかかる。文化の違い、そもそも言語の壁もある。一国を治める王として、軽い考えで決断していいことではなかったのだ。

 

 そんな迷う彼女の背中を押すべく私はアルトリアに言った。

 どちらの道を選ぶにせよ、一国を治める王が迷っていてはならないと。

 こうしている間にも、民衆は苦しんでいるのだと。

 

 そして。

 

 弱きを助け、強きをくじく――それが騎士の在り方ではないのかと――。

 

 その一言が決め手となったのかはわからない。とにかくアルトリアはそれから間もなくしてブリテン島全体で異民族の受け入れを行うことを決めた。

 無論、アルトリアの背中を押したのは私なので、私もできる限りの手助けはした。幼少期は親の過保護で中々外の世界に出たことがなかったが、それでもただ単に温室育ちでまったりしていたわけではないのだ。時間を見つけては城の書庫で勉学に励んでいた。おかげで異民族が話す言語の通訳くらいはできた。……もっとも、マーリンの魔術で言語の壁は呆気なく取り払われてしまったのだけど。

 

 そうしてアルトリアは異民族を率いる長との邂逅を果たし、話し合いの末に異民族側にも受け入れは了承してもらい、ひとまず戦火は避けられた。

 

 と同時に私も何もしていなかった訳ではないのだ。アルトリアが異民族の受け入れに関する事項を進める傍ら、同時進行で私はフランスに領を持つランスロット卿に協力してもらい、大陸で技術の進んだ農具や、荒んだ土地でも育つ作物の種の調査を行い、農業の改善と発達に務めた。

 その過程でランスロット卿とは色々と距離が縮み、まさかの告白されるというブリテン崩壊フラグが立つまさかの事態に陥るのだが、そこのところは何とか私が如何にアルトリアを愛しているのかということをこれでもかというほど捲し立て、「だからお気持ちは嬉しいのですが、この告白を受ける訳にはいかないのです」とか何とか言って、どうにか乗り越えた。「いつか貴方には私などよりはるかに素晴らしい意中の御方がきっとあらわれますよ」とも言ったかも知れない。あの時のことは慌てすぎてよく覚えてない。幸いにもランスロット卿は若干、残念な笑みを浮かべていたが「貴女が王の妃であってよかった」と最後には納得してくれた。私の知る物語では裏切りの騎士とか言いたい放題だったけど、実際のランスロットは本当に理想の騎士というか――とにかくいい人だった。

 

 そしてその告白の一幕をまさかのアルトリアに目撃されており、そこから恋心を自覚したアルトリアが若干病んで、一悶着あったのだが、その話を語るのはまた今度にしよう。

 

 とにかくこうした皆の努力もあり、国の事情は僅かずつではあるが、けれども確実に改善されていった。始めのうちは新たに加わった異民族たちとのいざこざもあったのだが、人手が増え、土地を耕す者が増えたことにより、結果的に衰退した土壌の回復も進むこととなった。その頃にはランスロット卿と共に調査したブリテンの土地に適応する作物の種の流入も終わっており、数年は貧困の時代が続いたが、耕した土地に撒いた種が芽吹き、作物が穫れるようになるにつれて食糧事情は改善された。

 

 

 

 

 そうして私とアルトリアが婚約して、数年の年月が経ったある日。国の事情もある程度安定し、想い人であるアルトリアとも本当の意味で結ばれていたその日のことだった。

 

 今までずっと兜で顔を隠していた円卓の騎士の一人が、ある時何を思ったのか、その兜を脱ぎ捨て、私の夫であるアルトリアに、告げたのだ。

 

 私は、貴方の息子だと――。

 

 「うぇ……?」

 「……」

 

 私は素っ頓狂な声をあげて、彼を見た。それは彼の言葉の内容に驚いたからという訳では――いや、無論それもある。

 ただ、私がもっとも驚いたのは、兜を脱ぎ捨てた彼の顔が、私の想い人にまるで瓜二つだったことであった。ち、ちょっと、アルトリアが二人いる!?

 

 その円卓の騎士は私の知る物語において、アーサー王や、あのガウェイン卿、ランスロット卿に並んで、重要な立ち位置にいる存在だった。

 アーサー王とその姉、モルガン・ル・フェイとの間に生まれたとされる不義の子。アーサー王が最後に出向いた戦場であるカムランの丘。その場所でアーサー王に最後に討たれる反逆の騎士—―モードレッド。……ちょっ、あれ、待って。今まで食糧事情の改善とか色々と忙しくて、うっかり忘れてたけど、物語の通りならアーサー王――アルトリアって浮気してたってことにならない? しかも実の姉と。あれ、でも年齢的にどう考えても私との婚約前に生まれてるだろうし、そう考えると浮気っていうよりは隠し子がいたって言うべきなのか? ……なんか訳わからなくなってきたぞ?

 

 「……あなた、浮気していたのですか?」

 「!?」

 

 無意識のうちに思わず漏れ出たその言葉にアルトリアが不意を突かれたように目を見開き、慌てたように弁解してくる。

 

 「し、してません! してませんから、ギネヴィア!」

 

 えー、でもモードレッドって物語ではあなたの息子だったし。現に今、目の前のこの娘――じゃなかったこの子もあなたの息子と名乗りを上げてるんですよ? 私、あなたの子供を生んだ覚え、ないんですけど。

 

 ジト目で私に睨まれるアルトリアを不憫に思ったのか、モードレッドがアルトリアを庇うようにおずおずと告げてきた。

 

 「あ、あの、たしかに私は息子ですが、自分は父上の血を使って母上(モルガン)が造り出した存在(ホムンクルス)……らしいので、実際に父上と母上(モルガン)が交わって生まれた訳ではないというか、なんというか……」 

 

 そう告げたモードレッドの眼差しはどこか寂しげで……悲しげであった。

 

 「母上(モルガン)はこの国を崩壊させる為に私を造り出したと……そう言っていました。けれど私は――そのような事を起こす気など毛頭ありません」

 

 そして、モードレッドはアルトリアに今度はおずおずと照れくさそうな……けれどもとてもキラキラした尊敬の念を込めた眼差しを向けた。

 

 「父上。自分はあなたの唯一の息子です。これからもあなたのために剣の腕を磨き、この国のために尽くします。だから……だから自分を……息子である自分を……あなたの後継者として……認めてくれませんか?」

 

 それはまるで純真無垢な子供のような……ただ父親に認められたいという純粋な想いが込められた言葉だった。不覚にも可愛いと思ってしまった。いや、本当にアルトリアにそっくりな顔でそんな顔するのは反則でしょ。……まぁ、一番、愛しているのはアルトリアであることに変わりはないんですけども。

 

 心の中で惚気る私を余所に、アルトリアは押し黙ったまま暫く言葉を発しなかった。いったいどうしたのだろうと、隣の玉座に腰掛ける彼女を見ると、ちょうどこちらを横目でさり気無く見つめるアルトリアと目があった。

 

 「……っ」

 

 私と目が合うとアルトリアはすぐに目を反らしてしまった。そして「……父上?」と首を傾けるモードレッドに向き直ると。

 

 「貴方の出自は理解した。……しかし、だからといって、私は貴方を息子と認めることはない」

 

 ――従って、貴方を私の後継者と認めることもない。

 

 そう告げたアルトリアの言葉は、寒気がするくらい感情が込められていなかった。

 

 「……え?」

 

 言われた言葉の意味がわからない。そういったようにぽかんと口を開けるモードレッド。その瞳は見開かれ、見ているだけで痛々しいほどだった。

 

 「ど……どうして……なんで……」

 

 やがて徐々に言葉の示すその意味を理解し始めたのか、ぽつりぽつりと掠れた声が漏れ出てくる。

 このままじゃ、ヤバい――。私の直感が、そう告げていた。

 

 ここで話を整理しよう。とりあえずこの少女――じゃなかった少年の名前はモードレッドで、私の知る原典の通りだとすると、ブリテン崩壊に一枚噛んでいる……言うところの反逆の騎士だ。

 

 モードレッドが反逆する理由としては様々な諸説があるが……たとえばアーサー王物語における話の中には、『5月1日に生まれた子供がこの国を滅ぼす』という予言を受けて、5月1日に生まれた子供は皆、海に流されたという話がある。この子供たちの中にモードレッドも含まれていて。命からがら生き延びたモードレッドが、自らを海に流したアーサー王に恨みを抱いたということも考えられるが……今、モードレッドは母上(モルガン)から造り出された、と言っていた。勿論、アルトリアが大勢の子供を島流しにしたという話も聞いていないので、十中八九その線はないだろう。

 

 とにかく、先ほど名乗りを上げた彼からはアルトリアに対する尊敬の念は感じられど、怒りや憎しみといった負の感情は感じられなかった。ただ父親に(実際は母親なのか……?)に認められたいという思いがひしひしと感じられた。とてもこんな純真な眼差しを向ける少年が、国を裏切る反逆の騎士になるなんて、私には考えられない。

 

 ()()()()()()と、モードレッドは言っていた。自分はブリテン崩壊のために、造り出された存在なのだと。

 その造り出される過程に母親からの愛情はない。そして今、モードレッドは拒絶された。憧れていた騎士王にも。認められたかった、父親にも。

 

 アルトリアにも認められない言い分があるのだろう。アルトリアの反応からして、モードレッドが自分の息子である事は今、知らされた事実であるのだろうし、今まで認識していなかった存在からいきなり息子と名乗られても、「じゃあ、認めよう」と二つ返事で了承することなどできないだろう。私が同じ立場だったらきっとうろたえ、取り乱し、まともに言葉を発することすらできないだろう。

 

 だけど……それでも――。

 

 「別にいいではないですか、あなた」

 「ギネヴィア!?」

 

 目の前で泣きそうになっている子供を見捨てられるほど、私は非情になれなかった。如何なる時もアルトリアの味方であり続けると、そう誓ったのに私は――。

 

 驚いたようにこちらを見つめるアルトリアに心の内側でごめんなさい、と謝ると、私は捨てられた子猫のような表情をしているモードレッドに優しく話しかけた。

 

 「モードレッド」

 「っ……はい……」

 

 ビクン、と身体を竦ませたモードレッドは、おそるおそるといったように私を見た。そんなに恐がらなくていいのに。そう思いながら、私は言葉を続ける。

 

 「あなたのことを認めます。あなたの剣はこの国に必要です。これからもその剣を、この国、そして救いを求める民草のために振るってくれると、私は嬉しいです」

 「ギネヴィア!? 勝手に何を言っているのです! この者は姉上が差し向けた刺客だ! この国の崩壊を招くかもしれない輩を……そんな簡単に信用していいものではない!」

 「あら、そうですか? 私にはこの者が国の崩壊を招くような輩にはどうしても思えないのですが」

 

 モードレッドはそんな私とアルトリアのやり取りを、ぽかん、と呆気にとられたように見つめていた。 

 

 自分たちの目の前で兜を脱ぎ去り、そして憧れに満ちた瞳でアルトリアを見据えたモードレッドの希望に満ち溢れた笑顔はしっかりと脳裏に焼きついている。

 そして、アルトリアのため、そしてこの国のために剣を振るうと、そう誓いの言葉を告げたのだ。自らの正体を全て、明らかにして。国を崩壊させる為に産み出された存在だということを、国を治める自らの父に告げて。

 

 それだけでは、信頼に値すると言えないのだろうか。いや、信じたい。信じるのだ。

 

 これまでだって、ずっと――異民族の受け入れを決めた時からずっと――この国(ブリテン)は、相手を信じる、そうして育んできた絆で築き上げられてきた国なのだから。

 

 「もう一度言います、モードレッド」

 「は゛い゛っ゛!」

 

 涙で気づけばぐじゃぐじゃになった顔で、モードレッドは私を見据え、私もまた彼を見据え、言った。

 

 「私はあなたのことを――認めます。……だからそんなに泣かないでください。せっかくの綺麗な顔が台無しですよ」

 「え゛っ、あ゛っ……」

 

 私はアルトリアの隣の玉座から立ち上がるとモードレッドの傍に歩み寄り、ハンカチ――は生憎持っていなかったので、仕方ないのでドレスの裾で涙と鼻水を拭ってやる。

 

 「……」

 

 この時、私は気づいていなかったのだ。

 私のこの言葉に、アルトリアがどれだけ傷ついていたかということを。

 

 否、傷ついているのはわかっていた。彼女が認めないといった存在を、私は認めると言ってしまったのだから。

 

 アルトリアが傷ついた原因はきっと、そうだと思っていた。

 だから後でいっぱい、いっぱい謝ろうと思っていた。

 

 そうして、いっぱい謝って。心優しいアルトリアは、その蒼い瞳に憂いを僅かに残しながらも「まったく、ギネヴィアは仕方がないですね」と笑って許してくれた。

 

 その笑顔で私は愚かな事にも、終わったのだと思ってしまったのだ。アルトリアは許してくれたのだと。

 

 時間を遡るなら今日この時。

 この時から私の後悔は始まっていたのだ――。




・何やら不穏な空気…。ランスロット編は後々、投稿したいと思います。時間軸どおりに書こうとして、無理だったです。理由はなく、ただ単に作者の力量不足です、申し訳ありません! 投稿遅れたのもただ単にひたすら順序通り書こうとしてウンウン唸ってたからです! アーサー王物語を一から順に追ってくのはほんとマジでキツいんです!
・とりあえず主人公の助言で異民族の受け入れの方向でいきました。現実はこんなにうまくいかないと思いますが、皆の努力の結果ということで。そこのところの詳しい経緯はランスロット編で明らかになるかと。ちなみにアルトリアが恋心を自覚するのもランスロット編です。
・ほんとなんで肝心な所書かずに最終章的なの投稿してんだよ俺。
・故にこのモードレッド編では既にギネヴィアとアルトリアが真の意味でゆりゆりになっているという前提で進んでいきます。
・モードレッドはまだ反逆してないので一人称は『私』、言葉遣いも丁寧です。
・主人公はどうやらモードレッドも男の娘と思ってるようですね。
・予想できる方もいるかもしれませんが、アルトリアがこうまでモードレッドを認めようとしなかったのも理由があります。原作の方向とは大分違う感じで。
・異民族に関してはドラマCD(Garden of Avalon)を参考にしてます。

・最後に投稿遅れて申し訳ありませんでした。
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