虚の英雄 作:秋刀魚39
「どうも。先程はあなたたちを助けたハニーです。こちらは相棒のチュチュです。よろしくお願いしまっす」
「棒読みね」
「気にしないの」
「えーと、トウヤっす」
「トウコです。トウヤの双子の妹です」
「君らか。この地方の英雄は」
「「は?」」
「え、違うの?」
「「いやいや、この地方に今は英雄いないから」」
「じゃあ、君達が英雄だね」
「「だから違うっての」」
「お黙り」
「「「はい」」」
ブルーの一喝で3人が黙った。
此処はヒウンシティのホテルの一室。先程の出来事で追っかけが始まったハニーと、新たな英雄ではと噂されているトウツインズの為に、ブルーがとった部屋だ。
「ま、マイクのやったことは、ブルーが音声と映像で記録してジュンサーさんに提出してきたから大丈夫。安心していいよ」
「はい。……あの、SPIRIT進化について教えて頂けませんか?」
「……いいけど。なんで?」
「ポケモンに関する知識を深めたいんです」
「トウコは熱心ねぇ」
「トウヤは熱心じゃないねぇ」
「俺も興味はあるから!」
「よろしい。おーい、チュチュ! 進化して!」
「……軽くないっすか?」
「なーに言ってんの。出来るわけないでしょ、切羽詰まってないのに」
「確かに」
元に戻ったチュチュがハニーの膝に乗った。
「これは、切羽詰まった場面か追い込まれた場面、或いはバトル中にしか出来ないの。今のところ、だけどね」
「今のところなんですか?」
「うん。出来るようになってから日が浅いから」
「どうして出来るようになったんですか?」
「フーパっていうポケモンに会って、カロス地方に飛ばされて、伝説VS伝説で死に掛けて、色々あったの」
「そこを詳しく」
トウコがノートに細かい字を書き込みながら先を促す。
「んーと。確か、パルキアに空間を飛ばされて、破れた世界に入っちゃったんだよね。その不法侵入に怒ったギラティナに襲われたんだけど、不運なことに手持ちは伝説VS伝説に混じってたから置いてきちゃってて。で、アルセウスの声が降りてきて、なんだっけ、『お前達の絆を認めよう。大昔に私が創った心の進化、あれは時代が過ぎるうちに無くなってしまったが、再び蘇ることは出来る。お互いを信じ、限界を超えよ』って言ってきたから、……詳しく話したほうがいい?」
「お願いします」
「限界を超えるって意味がわからなかったから、チュチュと動作を重ねてシンクロしてみたの。そしたら、チュチュが純白に光り始めて、私も同じ光に包まれて、SPIRIT進化したの」
「で、ギラティナには勝てたんすか?」
「うん。ギラちゃんは、呼べばいつでも来てくれるよ」
「凄いですね」
「凄いでしょ」
「どうやって勝ったんすか?」
「ん? ギラちゃんを破れた世界から放り出して弱体化させた」
「……どうやって?」
「アイアンテールで」
「……」
「だから、SPIRIT進化は伝説のポケモンにも匹敵する力が出せるんだって。全てのポケモンには伝説のポケモンと同じくらいのポテンシャルが秘められていて、メガシンカやBREAK進化によってその一部を、SPIRIT進化によってそのほとんどを解き放てるってトレーナーズスクールで習わなかった?」
「へ?」
「あれ、習ってない?」
「習ってるわけないじゃないですか、研究者はあなたをサンプルに出来ないんですから」
「……そうだった……!」
「オーキド博士に研究は頼んでいるけど、彼はそっちの専門じゃないものね。つまり、SPIRIT進化はあなただけの奥義なのよ」
「なんかスケールが大きいね」
「ハニーも英雄なのよ?」
「おっしゃる通りです」
「よって、未来の英雄ツインズに英雄について講義しなきゃならないわね」
「ん?」
「名付けて、ハニーのポケモン講座よ」
「んん??」
「ホワイトボードを持ってくるように指示してあるから、すぐに始めましょう」
「んんん???」
「それでは、ハニーのポケモン講座の始まり始まり〜♪」
「ピッカ!」
ホワイトボードの前に立ち、ハニーは目の前に座る2人の生徒達を見た。
「まずは、あなたたちの実力を見ないとね。よって、バトルしよう」
「「はぁ!?」」
場所は移ってホテルのバトルコートに。
ハニー対トウツインズになっている。
「ハニー対トウツインズのバトルよ。トウツインズが、イッシュ地方の英雄であるゼクロムとレシラムに出会ったときを想定した、2対6のバトル。チュチュがゼクロム、メガリザードンXのコバルトがレシラムだと考えてちょうだい。なお、チュチュは早めの段階でSPIRIT進化して伝説級になるから気をつけて」
ブルーがフィールドの真ん中に立ち、トウツインズが頷くのを見る。
「トウヤ、トウコ、絶対に油断も慢心もしないで。あの2匹、ハニーと一番古くの付き合いで、普通に奥義をぶっ放してくるから。じゃ、最初のポケモンを出してちょうだい。私が合図を出したら、バトルはノンストップで続くから」
奥義をぶっ放してくる、と聞いて、トウツインズはエンブオーとジャローダを繰り出した。
ブルーは合図を出し、素早くフィールドの外に出る。
「エンブオー! ほのおのちかいだ!」
「ジャローダ、くさのちかいよ!」
「チュチュ、クロスサンダー! コバルトはクロスフレイム!」
四つの攻撃が重なり合い、爆発する。煙が晴れたところでは、エンブオーは膝をつき、ジャローダは苦しげに息をしていた。対照的に、チュチュとコバルトはけろっとしている。
「チュチュ、行くよ!」
一瞬、チュチュとハニーの姿がぶれてシンクロし、2人が純白の光に包まれた。
「来るぞ、トウコ。SPIRIT進化だ」
「わかってるわよ……。エンブオーはブラストバーン使える?」
「無理に決まってんだろ。ハードプラントは?」
「まだ早いって怒られたわ。とにかく、なんとかしないと。専用技のはずのクロスサンダー、クロスフレイムを使ってきたんだから———」
「———らいげき、あおいほのおが使えないわけないってことか。厄介な相手だな」
「とりあえず、エンブオーが受けに回ってジャローダが攻撃。エンブオーはコバルトに攻撃しても、あんまり効果はないでしょ?」
「ああ。ジャローダも考えものだが、何らかの処置を受けててもらいびだったりしたら困るからな。まずはそれでやってみよう」
2人の小声の相談を、余裕の笑顔で見守るハニー。相談内容を聞いてかは知らないが、素早く指示を出す。
「1on1で片付けて。チュチュはエンブオーよ」
「させるか! エンブオー、ジャローダから離れるな!」
「ジャローダ、チュチュにマジカルリーフ!」
「風圧を使って!」
尻尾をフィールドに打ち付け、その風圧でマジカルリーフを吹き飛ばす。風圧でジャローダはよろめきながらも、トウコの指示を待たずにたつまきを放つ。
「ちょ! ジャローダ、何やってるの!」
「エンブオー、かえんほうしゃ!」
トウコが慌てるそばで、竜巻にかえんほうしゃが当てられ、炎の竜巻となる。
「トウコ、ジャローダを信じろ。エンブオー、ばかぢからでコバルトをぶっ飛ばせ!」
「エアロブラスト!」
「おい! レシラム役なんじゃないのか?」
「レシラムなんだから、使えるかもしれないでしょ! チュチュ! ガリョウテンセイで吹き飛ばして!」
「マジかよ」
竜巻ごと全てが吹き飛んだ。
トウツインズが恐る恐る目を開けてみると、チュチュ以外の3体が倒れていた。
「……飛行タイプの技をなんでチュチュが……?」
「SPIRIT進化してるから、尻尾使えば結構な風圧が出せるの。それに、ガリョウテンセイの概念を乗っけてやるだけよ」
「つまり?」
「ただの真似事。下位互換よ」
「なるほど。じゃ、クロスサンダーもそうなんすね?」
「ん? それは電気技だから使えるよ?」
「つまり?」
「本物でーす!」
「マジっすか」
「マジっす」
ハニーは、ペットボトルの水を一気飲みしてから言った。
「部屋に戻ろうか。反省会をしよう」