東方萃儀伝   作:こまるん

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今回は、やっとこいしちゃんの登場です。
いつもの通り、気軽な気持ちでお読みいただければなと思います。



古明地こいし

 

 

 

「それでは、今日はこの分担でお願いしますね。」

 

 今朝も、さとりの書斎に全員集合し、それぞれの仕事を確認する。

 

 地霊殿に男手が増えてから、色々なことに手を回す余裕が出来たため、毎日仕事の内容は変わる。

 そのため、毎朝さとりの書斎に集まって相談するのが日課となっていた。

 

 了承の意を返し、元気よく退出するお燐とお空を見送り、さとりに声をかける。

 

「……さとり。」

 

 さとりを呼び捨てで呼ぶようになってから結構な日数が経った。

 だが、未だに呼ぶ際は妙な気恥ずかしさを感じてしまう。

 

「はい?」

 

「今日も、行ってきます。」

 

「ええ…。頑張ってください。」

 

 最近、俺とさとりは、このような会話をすることが多い。

 とくに用事が無くとも、どちらともなく声をかけ、一言二言何かを話す。

 

 理由はわからないのだが、心が満たされるような感じがするので、俺はこの会話がかなり好きだ。

 さとりも、いつも話すと笑顔になってくれるので、好んでいてくれているのかもしれない…というのは流石に虫が良すぎるだろうか。

 

 部屋を後にしようとして後ろを向くと、ちょうど部屋に誰かが入ってきた。

 

 特徴的な丸い帽子から、緑がかった銀髪がはみ出している。

 服は、色こそ黄と緑を基調としているものの、どこかさとりと似ている。

 そして極めつけは、胸元にあるもう一つの目。

 

――この子が、さとりの妹の…

 

 彼女は、俺に気付くと、きょとんとした顔を向ける。

 

「…あれ?貴方、人間だよね?どうしてこんなところに?」

 

 その問いの答えは、俺ではなく、立ち上がったさとりが答える。

 

「お帰りなさい、こいし。少しくらいここでゆっくりしても良いのよ?

 …それで、この方だけど、最近、地底に迷い込んできたのよ。

 記憶を失っているというのもあって、ここで保護しているわ。」

 

 …そういえば、住む場所がないという理由でここに受け入れてもらっているんだっけ。

 

 さとりの説明を聞きながら、ふとそんなことを考える。

 

 …もし、住む場所が他に見つかったら。もし、俺の記憶が戻ったら。

 

 そんな時でも、さとりは俺をここに住まわせてくれるのだろうか。

 どうするか選んでよいと言われたら、俺は出ていくのか。

 

 …無理だろうな。

 

 選べるのなら、俺は他に住む場所が見つかっても、ここに住みたい。さとりと離れたくない。

 

 いつの間にか思考の中心にさとりがいることに気づき、苦笑する。

 

 もっとさとりといたい。

 もっとさとりと触れ合いたい。

 

 自分でも良くわからない想いが、胸の内に渦巻くのを感じる。

 

 この思いは一体――

 

「…萃儀さん?」

 

「え、あ、何でしょう。」

 

 さとりから呼びかけられ、意識を現実に引き戻す。

 

「…もう、話を聞いていませんでしたね?」

 

 頬を膨らませるさとりだが、そんな仕草をしても可愛いだけだということにさとりは気付いているのだろうか。

 緩みそうになる顔をなんとかして引き締める。

 

「すみません、少しぼーっとしていたみたいです。」

 

 頬をかき謝罪すると、彼女はやれやれというように首を振る。

 

「全く…もう一度言いますね?

 折角このタイミングで合った訳ですし、今日の仕事はこいしとやってみてはどうですか?」

 

 …こいしちゃんと?

 

「こいしちゃんと、ですか?

 確かに、今日は一人増えるだけでもかなり楽になるんで有難いですが…。」

 

 こいしちゃんとしてはどうなのだろうか。

 確認しようとして彼女の方をみると、笑顔でピースサインを返してきた。

 

「私は良いよ!お兄ちゃん、一緒にお仕事しよー!」

 

 こいしちゃんも問題ないのなら、今日は二人で仕事をしようか。打ち解けるチャンスにできそうだ。

 

「それでは、今日はこいしちゃんと行ってきますね。」

 

「ええ。お願いします。」

 

「お兄ちゃん、行こ!」

 

 こいしちゃんに手を引かれ、さとりの書斎を後にする。

 小さな手、体なのに、その力は油断すれば引きずられそうになるほどに強かった。

 

 

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 今日の仕事は、補修工事用の木材運び。

 いつも相当な量を運ぶので、夜までかかることが多い。

 そのため、普段は休み休み行うのだが…。

 

「お兄ちゃん、はやくー!」

 

 と、こいしちゃんが急かすので、休憩無しでやる羽目に。

 …とはいえ、いつもより大変だったという訳でもない。

 

 見た目に反して物凄くパワフルだったこいしちゃん。

 俺の二倍の量を笑顔で軽々と運ぶその姿は、男として自信を無くしそうになるほどだった。

 

 

――そして、仕事が終わって。

 

 仕事が終わると、ふらっと姿を消してしまったこいしちゃん。

 

 彼女は、中庭でぽつんと佇んでいた。

 

「こんなところにいたのか。探したよ。」

 

 そう声をかけてみるものの、彼女は反応を返さない。

 

「こいしちゃん?」

 

 一歩、一歩と彼女に近づきながら、そう呼びかける。

 それでも反応がないので、彼女の肩に触れようと手をのばして――

 

「――お兄ちゃんは。」

 

 小さく、しかし、はっきりと呟いた。

 

 俺が動きを止めていると、こいしちゃんはくるりと振り返り、俺を見る。

 

 彼女は、決意、戸惑い、そして悲しみが全て入り混じったかのような表情で言った。

 

 

「お兄ちゃんは、サトリが怖くないの――?」

 

 

 

 

 

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