(ごめんなさい。遅くなりました。投稿日の21時に活動報告掲載致しました。宜しければそちらに目を通して頂けますと幸いでございます。)
――お前はただ、逃げているだけ――
自室に戻った後も、その言葉が鋭く突き刺さる。
…確かに、そうなのかもしれない。
ベッドにこしかけて、物思いに沈む。
――許される想いではない。
――さとりには迷惑だ。
――だから、この思いは伝えるべきではない。
そう、考えてきた。
――逃げているだけ――
…その通り、かも。
俺の想いを知ったさとりにどう想われるのか――
それが怖かっただけ。
そう言われてしまうと、反論の糸口が見えてこない。
なんにせよ、この想いは伝えてこなかったし、伝えるつもりもなかった。
――それで本当に良いのか?――
魔理沙の言葉は、俺の胸中に大きな石を投じていた。
生じた波は、意識すればするほど大きくなっていく。
…言うべきか、言わざるべきか。
答えのでないまま、時ばかりが過ぎていく。
――お前はどうなんだ?――
そう、問われたような気がした。
――お前は、どうしたいんだ?――
再度、その問いかけが浮かび上がる。
俺が、どうしたいか。
…このまま何も伝えないまま、もう会えなくなるかもしれない道を進むのか。
…それとも、そうなる前に、一度だけでもぶつけてしまうのか。
「…答えなんて、初めからわかりきってたんだな…。」
そう呟き、天井を仰ぐ。
…そう。『逃げていただけ』そのことに気付いたのなら、『逃げなければ良い』
つまり――
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――コンコン
不意に、部屋の扉がノックされた。
「……はい?」
「……私、です。」
少しの間をおいて、聞きなれた声が返ってきた。
…え、今? このタイミングで?
咄嗟に深呼吸をし、心を落ちつける。
「…………どうぞ。」
カチャリ、と音を立ててドアノブが回され、小さく音を立てて扉が開く。
「…失礼、します…。」
おずおずと部屋に入ってくるさとり。
彼女は、ベッドにこしかけている俺を認めると、無言で歩み寄る。
そして、流れるような動作で、隣に座った。
「…さとり?」
ん。 と小さく返し、俺にもたれかかってくる。
ふわりと香る髪。華奢な身体。接触部から伝わってくる温もり。
それらすべてが、俺に愛しい存在を意識させる。
自然と、俺の腕が動き、さとりを抱き寄せる。
一瞬ピクリと反応した彼女だったが、すぐに身を預けてきた。
「……。」
互いに言葉を発しないまま、時間を共有する。
不意に、脳裏に是までのことが浮かび上がってきた。
『ようこそ、地霊殿へ。 何か御用ですか?』
…これが、初めて聞いた貴女の声だった。
『萃儀さんが望む限り、ここ地霊殿で受け入れますよ。』
…この時は、本当に安心した。さとりの優しさには今でも感謝が絶えない。
『折角ですし、完成させた型を一つ、萃儀さんに撃ってみますね。』
…初めて弾幕を見せて貰った時だったかな。
『俺も、貴女の支えに。』
…さとりは本当に周りに慕われているんですよね。
『もしかして、ずっとそばにいてくださっていたのですか…?』
…少し寝てしまっていたけどね。
『私には、心を閉ざしてしまった妹がいるんです…。』
…あの子も、少しは心を開いてくれたみたいで本当に良かった。
『俺はさとりさんの支えになろうと決めたんですから。』
…あの時宣言しました。…俺は、貴女の支えになれていますか?
『…だから、俺はサトリを恐れない。』
…ああ。俺がサトリを恐れる訳がない。
さとりの、こいしちゃんの、優しさを知っているから。
それに、なによりも――――
二人で過ごしたこの数か月が次々と想起されていく中、自然と、俺の口は開いていた。
「…さとり。」
「…ん、なんです?」
小さく返すその声に、期待が含まれているように思えてしまったのは、流石に自惚れというものか。
初めから、特別な覚悟なんて必要なかった。
特別な前置きも必要ない。
…ただ、一言。
「――――好きだ。」
ピクリ、と彼女が身を震わせる。
さとりは、もたれかかっていた身体を起こすと、こちらをまっすぐに見据える。
「……わたし、も…貴方が大好き。」
泣きそうな、しかし、それでいて嬉しそうな。
そんな表情を浮かべる、さとりの肩を抱く。
拒まれるかもしれないとは考えなかった。
無言でさとりの身体を寄せ――――
――かけがえのない想いを確かめ合うように、二人の影が重なった……
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「…行ってしまうんですね。」
見送りに出てきたさとりが、伏し目がちに言う。
「…ええ。いつまでもさとりに甘えていられませんから。
…それに、俺は世界を知る必要がある。なんとなく、そんな気がするんです。」
「…いつでも、戻ってきて構いませんからね?」
「…そんなことを言われてしまっては、案外すぐに戻ってきちゃうかもしれませんね。」
そう言って、笑いあう二人の間には、悲壮感はない。焦りもない。
確かに存在するのは、想いが通じ合ったことから生まれた、確かな絆。
地上と地底。多少距離が離れたくらいでは、それが揺るぐことは有りえない。
だからこそ、さとりは笑顔で彼を送りだし、萃儀は笑顔で出立する。
「…では、そろそろ。」
「…ええ。」
ゆっくりと浮かび上がり、先導する魔理沙に並んで飛んでいく萃儀。
愛する人と結ばれ、焦りが消えた彼には、新たに目的が掲げられていた。
それは、自分自身を探すこと。
突然、地底に記憶を失って放り出された自分。
その脳内に刻み込まれていた、正体不明の戦闘術。
…そして、あの謎の力。
それらのヒントが、地上で見つかるかもしれない。
真の意味でさとりと一緒になるのは、それらが片付いてから…。
彼はそう決めていた。
鬼に拾われ、覚りを愛した青年は、地上で何を見、何を想うのか。
彼という因子が入り込むことで、世界はどう変わって行くのか。
そもそも、彼の正体は一体なんなのか。
その答えを知る者は、未だどこにもいない――