東方萃儀伝   作:こまるん

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少女さとり。悪意には慣れど…

コンコンとドアがノックされる音によってまどろみから引き起こされる。

うたた寝していたようだ。

 

「お兄さーん!ご飯だよー!」

 

 お燐の元気な声に急かされるかのように身を起こし、ベッドから降りる。

 

 部屋の入口まで行き、ドアを開けると、人型となったお燐が笑顔でこちらを見上げていた。

 

「出てきたね!今から晩御飯だけど、直ぐにいけるかい?」

 

 頷くことで答えを返す。

 

「おっけー。じゃあ行こうか!」

 

 お燐の先導で廊下を歩き、階段を降りる。

 階段を降り切ったあたりで、ふと思い出したかのようにお燐が話し出す。

 

「ここには、あたいのほかにもう一人、人型になれるペットがいるって話は聞いたよね?」

 

「ああ、お空さんだっけ?」

 

 なんとなく、敬称はいらないっていわれるんだろうなぁと思いながらも、一応さんをつけておく。

 

「そうそう。でも、お空にもあたい同様に『さん』はいらないよ?

 あたいたちペットは、そういう敬称は寧ろ嫌なのさ。」

 

「そういうものなのか。わかったよ。」

 

 そう返答すると、お燐は満足げに頷き、話を続ける。

 

「それで、そのお空のことなんだけど、食事の時に顔合わせできると思う。

 ただ、悪い子でないことは保証するんだけど、ちょーっとばかり馬鹿だから、その辺り予め分かっといてもらえると嬉しいかな。」

 

「馬鹿って、それはどういう……。」

 

 一言に馬鹿と言ってもいろいろとあるだろう。

 能力がないという意味だったり、愚かであるという意味であったり…。

 

 俺の言わんとするところは伝わったらしく、お燐は少し考える。

 

「うーん。鳥頭って言うじゃん?まんまそれだよ。」

 

 鳥頭…つまり、

 

「物覚えが悪いってこと?」

 

「うん、まぁ、直ぐに忘れちゃうって感じかな。お兄さんのことも中々覚えないかも…いや、この言い方は少し違うかな?覚えるけど、直ぐに忘れちゃう。

 うーん。何て言ったらいいかわかんないや。

 あとは、思い込みも激しいかな。

 お空のフォローはいつもあたいとさとり様がやる羽目になるんだよね…。」

 

「はははっ!大変だな。」

 

 疲労感たっぷりという感じのお燐の様子がどこかおかしくて、思わず笑ってしまった。

 

 とはいえ、本気で嫌そうというわけでは無いし、お空って子も愛されてるんだろう。

 

「もうっ!本当に大変なんだからね?」

 

 頬を膨らませるお燐。

 さとりさんの言い方から察するにかなり強力な妖怪なんだろうけど、どこか仕草が子供っぽいんだよなぁ。

 

「悪い悪い。やり方さえ教えてくれれば、できそうな仕事は俺も手伝うからさ。」

 

「本当かい?それはかなり助かるよ!

 正直言って、今のウチの戦力は、あたいとさとり様くらいだからねぇ…。」

 

 不満げな表情から一転、嬉しそうに足を弾ませて歩くお燐の後ろに追従する。

 

 少し歩くと、少し大きめの扉が二つみえてきた。

 

「ここが居間だよ。もう一つの扉は、食堂に繋がってるんだけど、食堂はほとんどつかっていないかな~。」

 

「ん?食堂があるのに使っていないのか?」

 

 聞くと、お燐は苦笑する。

 

「ここって広いでしょ?

 だから、その広さに合わせてなのか、食堂もかなり広いんだよね。机も長いし。

 一緒に席についてご飯食べるのは精々三、四人だから。長い机使っても寂しいだけなのさ。

 だから、普段は居間で丸机を皆で囲んでるよ。」

 

 成程ね…。確かに、大食堂を少人数で使っても寂しいだけかな。

 

「ついでに、居間からも調理場に繋がってるんだよ。だからなおさら誰も食堂を使わないってわけ。」

 

 そう説明を受けながら居間の扉を開け、中に入る。

 部屋は、綺麗なシャンデリアが目立つ以外は至ってシンプルで、中央に大き目の丸机が見える。

 

「それじゃ、あたいはお空呼んでくるから!」

 

 俺が部屋に入ったのを確認すると、お燐はそういって走り去っていった。

 

 それにしても、全体的に綺麗な部屋だが、少し違和感が。

 何だろう。部屋が狭いってわけじゃないんだけど、どうもドアが大きかった割には、部屋が小さいような?

 

「そうですね。あまり部屋が広すぎても落ち着かないので、普段は仕切って小さくしています。」

 

 俺の疑問に答えながら、俺たちが入ってきたのとは別の方向から部屋に入ってくるさとりさん。

 その手には食器を乗せたお盆が。丁度配膳の途中だったのだろう。

 

「ええ。直ぐに終わらせますので座ってお待ちください。」

 

 持ってきた食器を並べ終わると、そういってパタパタと走り去っていく。

 お燐の話と、今のさとりさんの行動から察するに、そっちが調理場なんだろう。

 

 俺も何か手伝えることないかな?

 

 さとりさんの後を追い、調理場に入ると、美味しそうなにおいが一気に流れ込んできた。

 

「良い匂いですね~。何か手伝いますよ。」

 

 調理場では、さとりさんが忙しそうにお盆に食器を乗せていたが、俺に気付くと動きを止めて、

 

「萃儀さん!?座っていて頂いて大丈夫ですのに。」

 

 さとりさんはそう言うが、実際手持無沙汰なんだし、俺もできることは手伝ったほうが良いだろう。

 それに、いくら強力な妖怪とはいえ、自分より小さい女の子に働かせて自分は座って待てるほど肝は太くないんだよね。

 

「…もう。どうしてあなたはそう唐突に……いえ、言っても意味なさそうですね。

 それでは、このお盆の配膳お願いできますか?」

 

 若干顔を赤らめたさとりさんが下を向きながらお盆を指し示す。

 何だろう。すごくか……いや、さとりさんには読まれるんだった。こんなこと思ってるって知られたら怒られるかもしれないし、気をつけないと。

 

「それじゃ、これ運んできますね。」

 

「ええ。お願いします。

 あとは飲み物運ぶだけなんで、それ並べ終わったら本当に座って待っていて大丈夫ですよ。」

 

 念押しするように言ってくるさとりさん。

 

「はは。わかりました。」

 

 

 

 

 

 

 お盆を持って調理場から立ち去る萃儀の姿を眺めていた少女は、はぁとため息をつき、呟く。

 

「…萃儀さん、私は少しでも想ったことは全て読み取れちゃうんですよ…。」

 

 地霊殿の主、少女さとり。悪意を向けられることには慣れど、純粋な好意を向けられることにはまだまだ慣れそうにないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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