サイト君、がんばる   作:セントバーナード

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第16話 ティファニア

 

 

 

 ルイズがわくわく、どきどきしながら待っていた虚無の曜日が来た。

 昨夜は眠りにつく時、うれしくてうれしくて自然と笑みがこぼれてきた。顔がとろけていないか、空が白々としてきたときには鏡で確認したのは誰にも話せない、特にサイトには。

 サイトが私のことを好きで好きでしょうがないから、ちょっとだけ応えてあげる、というふうにしておかないと。どちらの立場が上か、結婚する前からしっかり教え込むことが重要なのだ。

 

 ちょっとだけおめかしもした。ほぼ二週間ぶりに会うのだ。サイトの前では常にきれいでいたい。

 (サイトが勘違いするかもしれないから、門前には出迎えに行ってやらない。部屋がノックされたら、さも忘れていたかのように「どなたかしら」と、おもむろに開けてやるの)

 

 

 

 

 

「コンコン」

 (来たわね)

 

「コンコン」

 (まだ早いわ)

 

「ゴンゴン」

 (もう一回)

 

「ガンガン」

 (そろそろ頃合いかしらね)

 

 

 

 ルイズが「どなたかしら」とすました顔でドアを開けると、そこにいたのは待ち望んでいた使い魔ではなかった。生まれた時から知っていて、そして今も頭が上がらない存在が怖い顔をして立っていた。

 

 

 「おちび、どれだけ待たせれば気が済むのかしら?」

 

 

 「えっ、えっ、えっ、なんでエレ姉さまが」

 

 「なんでって、あんたが呼びつけたんでしょうが。ゼロ戦を引き取りに夜のうちに馬車でサイト君とオルニエールを出てきたのよ。おかげでよく眠れなかったわ」

 

 「サイト君?」「ゼロ戦?」「オルニエール?」

 姉の話はまったく意味がわからなかった。しかし、今はそれ以上に大事なことがある。

 

 

 「エレ姉さま、サイトは今どこにいるんです?」

 

 「迷惑をかけたお詫びと修理のお礼、今後の点検のことを含めて、ミスタコルベールにあいさつに行っているわ」

 

 ルイズは、サイトが学院に来たら、まずは自分の部屋に来るものとばかり考えていた。そのため、コルベールには今回の件で話を通していない。

 

 さらに、ルイズを焦せらせることをエレオノールは口にした。

 「学院に着いたら、あの黒髪のメイドがサイト君を見つけて『荷物をお持ちします』『朝食はまだでしょう?』『コルベール先生の所へ? ハイ、お供します』と張り付いてきて大変だったんだから」

 

 

 (まずい、まずい、まずい)

 「エレ姉さま、また、後で!」との言葉を残して、ルイズは全速力でコルベールの元へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 学院には、ルイズと同じようにこの二週間を悶々として過ごした乙女もいた。

 あの人とルイズさんの間に分け入る勇気はないし、それをしていいとも思っていない。

 でも、「そばにいたい」という感情を押し殺すことはできなかった。

 

 

 ティファニア・ウエストウッドである。

 

 

 サイトさんは私の耳を見ても怖がらず、最初から普通の女の子として接してくれた。そして、しばらく一緒に暮らしたアルビオンの森から外の世界に連れ出してくれた。この学院でも私を守ってくれた。ほかの男の子たちは私の胸ばかりを変なもののように見るけれど、サイトさんはそうしない(そばにルイズさんがいるときに限るけれど)。

 

 そういうことを言えば、アルビオンで停止したサイトの心臓を動かすため、ただ一回しか使えない指輪の魔法で生き返らせたのがティファニアだ。見も知らぬ人間のために母の遺品を使ったのに、彼女がそのことで恩義背がましくするようなことは一度もなかった。

 

 

 

 心根が優しいティファニアだけに「サイトが倒れた。すぐに王都へ」と呼ばれたときは動転して泣いてしまった。

 このとき「私は心の底からサイトさんが好きだったんだ」と気が付いた。気が付いたが、サイトが目を覚ました後の展開にはついて行けなかった。周りの強烈な女の子に気後れしてしまったのだ。

 

 

 

 ルイズさん→サイトさんを最初に呼び出して、いつも一緒にいて。相思相愛(のように見える)で桃色の髪が美しい美少女

 

 アンリエッタさま→サイトさんを使い魔にした三番目の女性。すごくきれいなトリステインの女王陛下

 

 タバサさん→サイトさんが何度も闘ったり救ったりしたかわいい青髪の女の子。今は大国ガリアの女王陛下。

 

 シェスタさん→ひいおじいさんがサイトさんと同じ国の黒髪美人。ルイズさんの妨害をものともせず、サイトさんに尽くしている。

 

 

 

 ティファニアはこれらの女性に伍して立てるだけの器量よしなのだが、本人はそれに気が付いていない。さらには、微熱のキュルケをもひるませるグラマラスな体は、これらのライバルを圧しているのだが、それを武器にすることも思い及ばない。根本的に争いに不向きな性格なのだ。

 

 

 

 「でも、サイトさんのそばにいたい」と部屋で物思いに沈んでいた。

 

 そのとき。 

 

 聞こえた、「サイトさぁーん」というシェスタのうれしそうな声が。

 

 窓から身を乗り出すと、確かに、あのサイトがいた。横には、スレンダーな金髪の女性が付いている。が、そんなことはどうでも良かった。

 

 「近くに」「そばに」「ふれあいたい」という感情がアドレナリンを分泌させ、思うより先に体を動かしていた。

 

 

 

 廊下を走り、階段を駆け下りて行くうちに、金髪の女性はいなくなっていた。学院の中庭にいるサイトの右腕はシェスタが両腕で胸に挟み込んでいた。

 

 近づいたティファニアはもう躊躇せず、残ったサイトの左腕を自らの胸に抱え込んだ。

 

 

 

 

 

 ルイズがサイトを捜索、発見時は、こんな状況だった。

 

 

 

 

 使い魔の鼻の下は、これまで見た中で一番延び切っていた。

 

 

 

 

 

 

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