サイト君、がんばる   作:セントバーナード

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第27話 女王と副王と

 

 

 

 

 軽症ながらも足が凍傷を起こしていては、天下の英雄も颯爽と登場というわけにはいかず、リシュリューへは、フライで森に降り立った屈強なメイジ二人の肩を借りてという、ちょっとかっこ悪いものとなった。お召し艦のデッキには、女王のシャルロット以下司令部にいた高官が顔をそろえてサイトを迎え入れた。

 

 ガリアの軍、騎士団、政府の重鎮が一列に並ぶ。タバサはスタッフを手にその真ん中に立つ。頬は上気し、口角両端は少し上がっている。火事が消し止められたこと、そして何よりサイトに会えたことがうれしくてたまらないという感情は、親友のキュルケでなくてもすぐに分かるほど明々白々だった。

 

 消火における名誉の負傷でサイトは女王の前で片膝を着く礼を免除された。でも、女王の前に引き出されたからには、何かを言わねばならない。ならないが、気の利いた台詞は出てこない。

 で、思いついたのが「あー、火事が消えてよかったです」。

 

 「ありがとう。あなたはこの国を救ってくれた。ガリアを代表してお礼を言いたい」と女王陛下。「治療を受けるため艦の医務室に移動して」と述べられた。

 ガリア王によるサイトの引見はこれで終わり、サイトは医務室のベッドに運ばれた。

 

 

 水系統の軍医による凍傷治療がこれから始まる。下半身にヒーリングを受けるには当然ながら、靴はもちろん、靴下やズボンを脱がなければならない。 だが、この部屋にあって治療を邪魔する者がいた。タバサである。

 

 「気にしないで」

 

 「いや、気にするって。さすがに年頃の女の子が裸になる男の前にいちゃ、いかんだろ」

 そこまで言われては、タバサも渋々、部屋を出るしかなかった。その後、順調に治療は進み、リュティスに到着する頃には、ほぼ快癒していた。元がしもやけが少し重症化した程度で、何もしなくても数日中には治ったはずだが、この手の治療は地球を凌駕しているのがハルケギニアである。

 

 

 お召し艦専属の軍医も「もう大丈夫。シュバリエはお若いし、フネが着いたらいつも通りに過ごせるはずですよ」と笑顔で太鼓判を押してくれた。「丈夫なだけが取り柄なもんで。ありがとうございました」。とこちらも笑顔で応じるサイト。

 すでに陽はとっぷりと暮れて、短い夏の夜に移っていた。空気が乾燥しているだけに双月はより手前に見えた。

 

 

 

 

 

 艦内でシチューを食べるタバサの眉は少々つり上がっていた。ずっとサイトのそばにいたかったのに、医務室から追い出され、今はリシュリューの王室。お召し艦だけあって、艦長室より豪華な部屋には、狭いながらも寝室の他、応接室、書斎、ダイニングが完備されている。このダイニングでコックが腕によりをかけたシチューを味わう。味に文句はないが、量が足りない。皆、忙しいのは分かってるからここは我慢してパンでおなかを満たす。デザートのケーキを紅茶と味わいながら、今後のことに思いを巡らせていた。

 

 ここはガリア。独占欲でまみれた邪魔な桃色髪も、しつこく言い寄る黒髪メイドも、圧迫感を見る者に与える胸らしき何かをくっつけたハーフエルフも、そして色気だけはたっぷりの隣国女王もいない。このチャンスを生かさないようでは、ガリア王家の名に恥じることになる。

 

 

 

 リシュリューが王宮そばの停泊所に到着した。フネから地面までの階段に緋毛氈が敷かれ、タバサがゆっくりと降りてくる。出迎えの王都居残り組の面々の中から、従姉妹の副王が帰還を言祝ぐ簡単なあいさつの後、近づいてきて耳打ちした。

 

 「サイト卿は?」

 

 「凍傷で治療にフネの医務室。医官の話では、もう全快した」

 

 「ふーん、全快? そりゃ間違いだね。凍傷の根治には時間がかかると聞いてるよ。災厄から国を守った勇者には、完治までゆっくりと治療してもらわないと。もしぶりかえすようなことがあれば、それこそガリアの名折れだ。だ、か、ら、ね?」

 

 その意図に気づいたタバサは「うん」とうなづいた。

 見つめ合う二人は、申し合わせたようにニヤリと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

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