蓮の足は早かった。夜の京都を出発して、早朝には宮崎に着いていた。(海とかは気にしない)
「この村に来るのも、ホント久しぶりだなぁ」
まるで50年間止まっていたかのように、村は全く変わっていなかった。
嬉しさのあまり、顔を緩ませながら村に入って行った。すると遊んでいた子供達とぶつかってしまった。
「!?」
驚愕だ。何故? その子供達がかつて自分が遊んでいた子供達だったからだ。親子というものじゃない。瓜二つ……いや、その本人達だった。
「あれ、あなた誰ー?」
ぶつかった少女が詩翠に話しかけた。まるで初めて会ったかのように。
「あ……私、は……」
訳がわからず、言葉が出てこない。皆いるのだ。あの日、この場所で一緒に遊んでいた子供達が。ただ違う点が一つだけある。
それは、元々詩翠がいた位置に見知らぬ少女がいることだった。
「角だ! 角がある! コイツ妖怪だ!」
その言葉は唐突に突き付けられた。絶対に言われたくない人物に……喜平だ。
刹那、詩翠の中で二つの感情が支配した。驚愕と、悲しみが。
喜平の声に呼応し、村人達がどんどん家から出てきた。その手に鍬や斧、鉈などを持って、だ。
詩翠は咄嗟に後ろを振り向き、蓮の方を見る。だが、いるはずの蓮が……いなかった。
「詩翠様! 詩翠様ー!!」
蓮は村の入口にいた。ドンドンと空気を叩きながら。まるで壁でもあるかのように……。
「くそ! これは間違いなく妖の仕業……早く詩翠様を助けないと」
「蓮!」
叫んでも、姿も見せないし返事も聞こえない。
「くっ!」
詩翠は走り出した。後ろから村人達が追って来る。
そして、かつて母と二人で住んでいた山の麓まで着いた時にやっと気付いた。
ドンッ!
まるで壁に激突するかの様に詩翠は歩みを止められた。
「!? ……なるほど。こんな悪質なことをする妖怪もいるんだね……ちょっと頭にきた」
追いかけてくる村人達に振り返り、こん棒を手に取った。
「ごめんなさい。おじさん、おばさん達」
一振り。力任せに横に振られたこん棒は強風を起こし、村人達を次々と吹っ飛ばしていった。
飛ばされた村人達は煙りの様に消え去った。他の村人達は詩翠の一振りに圧倒され、たじろいでいた。
だが二人、名乗り出るように詩翠の前に立った。
それは、先の知らない少女と……喜平だった。
「妖怪がこんなとこまで来るなよ! さっさと消えろ!」
例え幻影だと分かっていても胸に突き刺さる言葉に詩翠の表情は曇った。
その時、喜平の隣の少女が不気味に笑うのが見えた。それが、堪え難いほど腹立たしかった。
「お前か……この村を造ったのは?」
詩翠が少女を睨み据えて言う。その黄色い双眸は悲しみを超え、怒りで満ちていた。
「フフフ。だったらなんだって言うんだ? ここでは無限に村人が再生する。おまえはここに迷い込んだ時点で死んでるんだよ! さっさと俺に喰われろ!」
少女の姿がみるみる内に変わっていき、見るのもおぞましい異形の妖に姿を変えた。
「行けぁ! 村人共ぉ!」
その妖の声と同時に、村人は再び詩翠に襲い掛かった。
「母様は言っていた……私がここにいるのはこの村を、ここの村人を守っているからだって。母様は言っていた……詩翠、あなたは父に会って、それからどうしたいか決めなさいと……私は、間違ったのかなぁ……喜平」
瞳に涙を浮かべ、幻影の喜平に笑顔を向けた。そして、詩翠は大量の村人に押し潰された。
「ハァーハッハハハハハ!! 何か意味不明なこと言ってたけど所詮この程度かよ!? 呆気ねぇな!」
不愉快な笑い声を発しながらソイツは叫んでいた。
「これじゃあ俺が喰っちまう前に肉片も残らねぇんじゃ……?」
そこでソイツは気付いた。詩翠が目の前に立っていることを。村人達はまるで詩翠のことが見えていない様な様子で対象を探し歩いている状態だ。
「な、ななななな何だ!? 行け! 行けよ! クソ共!」
命令された村人達は詩翠の姿を探すが、見つけられないようだ。周りをうろちょろし、結果、歩き回るだけだった。すると、詩翠はゆっくりと歩み始め、ソイツに近づきはじめた。
「くそぉぉおお!」
余裕から焦燥に変わり、詩翠に自ら殴り掛かろうとしたが、そこでまた気付いた。自分の目の前には詩翠はもう……いないことに。
「な! 何なんだよ! お前は!?」
いくら攻撃しようと結果は同じ。もうソイツは完全に詩翠にのまれていた。
焦燥から恐怖に変わる。
「お前は、許さない」
詩翠はこん棒を振りかぶり、初めて妖に攻撃態勢をとった。
瞬間、ソイツの前に喜平が守るように立った。
「!?」
分かっている。幻影だと。しかし、思考とは裏腹に、体は主人(詩翠)を裏切り、攻撃を止めた。
それを見逃さなかった妖はすかさず詩翠に殴り掛かった。
「死ねやぁ!」
まただ。攻撃しようとすれば、詩翠を認識できなくなる。
「!?」
「油断などするものか。お前は、許されてはならない」
ソイツの真横に現れた詩翠がこん棒を振りかざしていた。
そして、こん棒が妖の横っ腹に直撃。しかし、それだけではその勢いは衰えない。そのまま振りぬき、あまりの打撃の強さに妖は爆散した。
妖が絶命すると同時に、村人や村が歪んでいき、元に戻ろうとしていた。
「詩翠」
懐かしくも、忘れられない優しい声がした。その声の主は目の前に……いた。
「喜……平?」
歪んで行く村で目の前にいる喜平が優しく詩翠に微笑みかけていた。
「あぁ。さっきはごめんな? 酷いこと言って……でも分かってほしい。あれは俺の意思じゃないってことを」
「うん……うん!」
「お前は帰ってくる前に俺が死ぬんじゃないかって心配してたけどさ……ほら。言った通り……じゃないけど、一応待ってただろ?」
「うん!」
こん棒を置き、喜平の幻影に抱き着く。実体はあるようで温もりが伝わってきた。
「私ね、帰ったら喜平に伝えたいことがあったの……私、喜平のこと……」
言葉を最後まで言えなかった。詩翠の口は、喜平の唇と重なったからだ。
数秒して、離れると次は喜平が話し出した。
「俺は、詩翠。お前が好きだ」
詩翠は喜平を見上げながら見ながら涙を流していた。その表情はもう悲しみではなく、嬉しさ、恥ずかしさが見てとれた。
「私……も。私も、喜平が好きだよぉ……」
体を預けるように喜平に縋り付く。それを喜平は受け止め、詩翠の頭をポンポンと撫でた。
「俺さ、もう分かってるんだ。このまま、お前とお別れだって。お前が出てってから一月もしない内にアイツはやっってきて、俺達を殺し、魂をこの地に縛り付けた。だから俺達はアイツの操り人形だったんだけどさ、今では感謝してるのかもな」
「なん……で?」
殺されて感謝するなど聞いたことがない。
「だって、普通に生きてたら俺今まで生きてたか分からねぇもん。アイツのお陰でさ、こうしてまた詩翠と会えたんだ。感謝せずにはいられねぇだろ」
「……ばか」
「ハハ……でもさ、やっぱ辛いな。もうお別れだなんて……あと、ごめん」
「なんで……謝るの?」
「だって、俺もう消えるのにお前の唇奪っちまったからな。俺としては良い冥土の土産になったけど、お前はこれからも生きていくんだから、俺が貰っちゃダメだったんじゃなかったのかなって」
「ううん。そんなことない。さっきも言ったけど、私も喜平が好きだから」
「……なんかこう、はっきり言われると恥ずかしいな。でも、俺に遠慮しないで俺じゃない誰かと幸せになれよな。これ、最後の俺からのお願い」
「うん。喜平のお願い、確かに聞いたよ」
「ありがとう。それじゃあな……」
そして、村は現実に戻され、喜平もまた、消えた。戻った村は荒れ果てた荒野となっており、家は潰され、田畑は荒れ、人も動物ももう住んではいなかった。
その村の中心で一人佇む詩翠を見つけた蓮はすぐに近づいた。
「詩翠様!」
声に反応し、蓮の方を見た詩翠は……泣いていた。
何があったのか分からない蓮はあたふたと慌てていたが、詩翠は気にせず蓮に近づき、その胸に顔を埋めた。
はじめはびっくりし、顔をゆでだこの様に赤くしていたが、詩翠の消え入る様な泣き声を耳に拾い、落ち着きを戻して詩翠が満足するまで、蓮は動かずに胸だけを貸していた……。
感想いただくとやはりやる気が出ますね。
もうしばし連投させていただきます。
前にも言いましたが、バックアップ分が無くなると更新速度は落ちますが、そこまで落ちないようにがんばりますので! でわでわ。